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「それでは、戻ります」」(2009/03/08 (日) 17:47:48) の最新版変更点

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---- ---- 「――どうして、退学なんかしたの?」 「その理由は・・・・お前なら分かるだろ」 「・・・・もう、抑えられないのね・・・・」 「オレだってもっとここに居たかった。けど、それよりも、好きな人を巻き込みたくは無い」 「なら! 私が、貴方の傍に死ぬまで居てあげるから――!!」 「無理なんだよ、もう」 「だけど、私は貴方の対極だから・・・・私なら貴方を――」 「駄目、なんだ。・・・・今、目の前にいる最愛のお前でさえを――」 「オレは壊したいと思っている」 ---- ---- 雷の音が、今まで快晴だった空を埋める。 地響きが、今まで平和だった地を染める。 希望が絶望に成っていく。 「・・・・アブソー、チェイン・・・・すいません」 「・・・・なんでお前が誤るんだよ・・・・クルー」 クルーは情けなく、ティーは泣きそうな声で言う。 [タイニーさえ、彼女さえ今、いてくれれば・・・・] マニが――タイニーの髪の中にいたマニが、ゆっくりと、ゆっくりと、そんな小さな文字を、コアの欠片を使って、床に彫る。 [僕がファントを倒せるのに] 「え・・・・」 ふと、床に視線を落としたアブソーが偶然、そんな意味深な文字を見る。 ファントを倒せる。 ファントを倒せる。 最強の絶望に、勝てる――! ――タイニーさんには、何か作戦があったんですね・・・・! と。 「へぇー。タイニーには、何か作戦があったんだねぇ・・・・」 この場にそぐわない、のんびりとした声が、すぐ横で聞こえた。 「――レンシー・・・・さん?」 その眼は、 もう、赤ではなく、澄んだ緑となっていた。 「・・・・ああ、僕がなんで正常な状態でいるかって? まぁ、推測なんだけど、多分もう用済みなんじゃないの?」 そして、自分の言ったことが可笑しかったのか、くつくつと抑えながら笑って、 「僕が君を過去に飛ばそう」 そう、言った。 「僕が行ってもいいんだけど――何せ、君は女神だから」 「・・・・・・・・」 「まず、自分の飛びたい時代に行くんだ、その後、儀式の間に入る直前まで飛ぶ」 「それだと、何も変わらないんじゃないですか?」 「だから、最初に行く時代の中で、だれかに聞くんだよ。色んな知識を持っただれかに」 ――ファントを倒す方法を。 「分かりました、タイニーさんに会いに行けばいいんですね?」 アブソーがそう言うと、レンシーは首を横に振った。 「折角だし。今となっては会えない人に会えば? もしかしたら、本当に世界が消えちゃうかもしれないんだし・・・・ふふ」 そうならないために、僕もがんばるけどねぇ、と。 レンシーは、言って。 アブソーの頭に、手を乗せる。 「多分、チャンスは一回だ。ここに――過去から戻ってきたとき、もしも失敗したら、今度こそファントに殺されちゃうかもしれないし」 「・・・・分かりました」 アブソーは、緊張した面持ちで、レンシーを見つめて、 「私が未来を変えて見せます」 凛と、言う。 「・・・・まいったなぁ。これだから美少女は・・・・」 「何か言いました?」 「ううん、何でもないよ。それじゃあ――」 「いってらっしゃい」 レンシーの手が、光り始める。 「ふふ・・・・なんだか、可笑しいねぇ・・・・」 世界の崩落が着々と進む中で、レンシーは一人呟く。 「『ディーバ』はきっと、『ディーバ』に会うんだろうね」 +++ 此処では、 常識なのか非常識なのかは判断がつかない。 現実なのか非現実なのかは明白がつかない。 そんな風に思うほどの、不可思議で不確定な空間だった。 「これ、が――」 時間。 それは例えば、黄金の小鳥、虹色の樹、鉛色の蜂。 奇妙奇天烈という言葉を実体にしたような光景。 「すごく・・・・綺麗です」 思わずそう呟いて、アブソーは何処かに歩く。 そうは言っても、実際は、歩いてなんかいないかもしれなかったが。 そして。 「――――あ」 ふと、見つけたそれは。 ある世界のある時間を刳り抜いた、空間。 時間の中で、一番キラキラと輝いていた、 思い出。 「・・・・・・・・」 じっくりと、それを眺めた後。 アブソーは、そこに、一歩、進んで―― +++ 季節は冬だった。 「珍しいお客さんだ」 老いぼれていながらも、真っ直ぐに伸びた背筋と、凛とした声は、確かに彼女だった。 「・・・・ノヴァ、叔母さん」 今。 泣きそうになる衝動を必死で抑えて、アブソーは言う。 「あの・・・・私、実は未来から――」 「ああ、待って」 そしてノヴァは、アブソーの額に手を乗せて、 「貴方の――ガディスの今まで体験したことを、今から読み取るからね」 直後。 しわだらけの手が、青く淡い、優しい光を発す。 アブソーは一瞬、頭の中が軽くなり、気付いた時には光は消えていた。 「あの・・・・ノヴァ叔母さん?」 「ガディス、いいえ――アブソー、そんなことがあったのね」 そして、ガディスは確かめるように、 「アブソーは、『ディーバ』と『ファント』について、どれくらい知っているのです?」 「えっと・・・・あ、ファントさんはとても強いことは知っています!」 少し声を張り上げて、どこか嬉しそうにいうアブソーを見て、ノヴァは軽く笑う。 「違うわ、そういうことじゃなくて、もっと根本的なもの」 「・・・・では、それは、何なのですか?」 そうね、と前置きをして、ノヴァは話し始めた。 「ディーバは『神が必要な時に創りだす希望』。そして、ファントは『時代を超えて受け継がれていく絶望』なの」 そこで、アブソーは疑問が浮かぶ。 「えっと・・・・・ファントというのは、ファントさんという、名前ではないのですか?」 「それは違うわ。そうね・・・・例えるなら、『役』かしら。私を例にするなら、クルー・ノヴァという名前の人が、ディーバという名前の役についたってことなの」 「じゃあ、ファントとディーバというのは、本当の名前ではなくて――力の、名前、なのですか?」 ノヴァは頷く。 「そういうことになるわ。そして、その力が自分の中に在ると気付くのは、生まれてすぐという訳じゃないの」 ノヴァは話を一旦そこで区切って、説明を続ける。 「もしも、自分がディーバだと気付いたら、周りから祝福の拍手を受ける。けど、それがファントの場合は、周りから嫌悪の視線を受けなければいけないの」 「じゃあ、今のファントさんも・・・・」 「ええ――元は優しい人だったのに」 と。 何処か淋しそうに言う、その言葉に、 アブソーは確かに何かを感じて。 「あの・・・・ノヴァ叔母さん・・・・」 「どうしたの?」 アブソーは、遠慮がちに言う。 「貴方は―― ――昔のファントさんのこと、知っているんですね」 すると、ノヴァは懐かしむように遠くを見て、 「そうね、私は彼をよく知っているし、想っていた」 アブソーが見たこともないような、少女の笑みを浮かべた。 「私は、彼のことをB【ビー】と呼んでいたわ」 そして。 ノヴァはアブソーの顔を見て、何処か優しく、温かく。 そして何より愛おしく、 「アブソー、Bはね―― ――私の恋人だったの」 ---- ---- 「・・・・ビー・・・・?」 「ノ・・・・ヴァ・・・・?!」 「何で・・・・髪も眼も、赤いの・・・・!?」 「全部・・・・分かってんだろ? ――もう、完全に『ファント』が・・・・目覚めたんだ。意識も飛びそうだ・・・・・・『理性』を、保っていられるのも、そろそろ・・・・限界、だ」 「そう、なのね・・・・やっぱり」 「ああ、だから・・・・お前はさっさとここから――」 「じゃあ、『理性』が廃るまで、そばにいるわ」 「なっ!」 「ビー、安心して」 「お、お前ちょっと待てよ、おい! 寄るな寄るな寄るな寄るな寄るなよ馬鹿野郎!! お前が近くにいたら、お前が真っ先に殺,され」 「抱きしめて、あげるから――私の愛を、最期くらい受け取ったら?」 「・・・・・・・・ははは、ノヴァ。お前は本当に馬鹿だ。けど」 「けど?」 「オレは、そんな馬鹿なお前を最高に愛してる」 「うん。私も、捻くれ者の貴方を愛してる」 ――――どうも。 ――――――それじゃあ。 ――――――――さよならだ、ノヴァ。 「そして、はじめまして―― ――私はファントと申します」 ---- ---- 「その時なの、私が、死の呪いを掛けられたのは」 「そう、だったんですね」 長いような、短いような昔話を、アブソーは黙って聞いていた。 それでもやはり、ファントの昔の姿――ビーのことなんて想像もつかなかったけれど。 アブソーは、ビーには何も罪がないことを、理解した。 「ああ、アブソー。そろそろ戻らないといけないかしらね?」 「そ、そうでした・・・・つい、話を聞きいってしまって。みんな、頑張っているのに」 反省するように、うつむくアブソーに、ノヴァは微笑んで、 「ねぇ、アブソー。ここ、今の貴方ならすごく見覚えがあるんじゃないのかしら」 「え・・・・」 その言葉を聞いたアブソーは、まるでスイッチを押したかのように頭を上げて、キョロキョロと辺りを見渡す。 そこはかつて、最期にガディスの時間を過ごした場所。 すなわち――生命の珠【いのちのみ】を食べた場所だった。 「ここは・・・・」 「思い出した? 私が死ぬ場所でもあって、物語が始まる場所。今そう考えると、なんだか不思議ね」 「どうして、不思議なんですか?」 アブソーが、訝しげに聞く。それにノヴァは、はっきりと答える。 「だって、貴方が今までした旅や、恋―― ――それはひとつの果実から始まったんですから」 と。 アブソーはあるひとつの単語に――赤面して、反応した。 「こ、こ、恋、です、か?」 「ええ、恋よ。・・・・もしかして、自覚してないの?」 あからさまに狼狽して、アブソーはどもりながら言う。 「じ、自覚もなにも、わ、私は恋なんて――」 「・・・・・・・・」 半ば呆れて顔で小さな女神を見て、ノヴァはひとつため息を吐く。 「これは本来、自分で気付くべきものだと思うんだけど。アブソー、貴方、あの金髪碧眼の子のこと――」 「わーわーわー違います違います!! チェインさんは友達です!!」 「そう、チェイン君って言うのね」 そして、ふふふと、どこか妖しく笑う。 「容姿端麗で心は真っ白。ふふ、彼も恋には奥手なのね・・・・。けど、口が悪いわね。まるでどこかの誰かさんみたい」 「あの・・・・ノヴァ叔母さん?」 表情がいきなり、若々しくなった自分を不審そうに見るアブソーに気付き、ノヴァはいつもどおりの、柔和な顔を浮かべた。 「無駄な話をして御免ね――じゃあ、これを持って行きなさい」 と、言って。 リンゴの木から、赤く熟したそれをもいで、アブソーに手渡した。 「・・・・あの。これ、普通のリンゴですよね?」 「いいえ、違うわアブソー。高度な魔法でしか育てられない、貴重なリンゴなの。それ故、その存在も作り方のレシピも一部の人しか知らないの」 「・・・・それで、これを、どうすればいいんですか?」 すると、ノヴァは即答で、「ただ持っていけばいいの」と言った。 「それで未来は――希望に近付くのですね」 アブソーが、少し声を張り上げて、そう言った。 と。 ノヴァは、唐突に真剣な顔になって。 「けどね、アブソー――最終的には、貴方がやらなきゃいけないの」 貴方の、みんなに希望を与えるという、ディーバとしての義務を。 そんな言葉に、言い知れないような重みを感じ取って、アブソーは答える。 「・・・・はい!」 +++ 「それでは、戻ります」 アブソーは、レンシーが彼女の体に蓄えさせておいた力を使い、空中に創った時間への穴に背を向けた状態で、ノヴァにそう言った。 渡されたリンゴは、ノヴァが持っていた大きめの布で包み、それをアブソーが手に持っていた。 「・・・・成長、したわね。それとも、大人びたと言うべきかしら」 ノヴァが唐突に、感心したように言う。 「これが――きっと私と貴方の本当の別れになるというのに。・・・・また明日会えるかのように、貴方は当たり前のように、普通に振舞っている。それはやっぱり、強くなったから?」 アブソーは黙って首を横に振り、 「ノヴァ叔母さん、分かりきっていることですよ。ノヴァ叔母さんは、私やクルーさんが覚えている限り――此処に、居ます」 言いながら、俯き、胸を押さえるアブソー。 そして、顔をあげた時。やはり目には涙は無く、 「ノヴァ叔母さん、私は貴方に――女神に誓います」 「世界と友達と、ビーさんを救うことを」 「・・・・そう」 その言葉に、ノヴァは微笑んで応えた。 「では、いってらっしゃい。ガディス」 「いってきます。ノヴァ叔母さん」 「「また会いましょう」」 決別の言葉は、交わさない。 +++ 「ほら、アブソー。これが儀式の間だよ」 聞いたことがある、言葉が聞こえる。 隣を見ると、レンシー――よく見ると、微かに目が赤い気がする――がいた。 ――ああ、そうでした。ファントさんが来る前に、戻ったんですね。 ふと、心配になって、リンゴがあるか確認。 しっかりと右手に握られていた。 ――・・・・とりあえず、何か『従来の未来と違う行動』をしないといけませんね。 思い立ったらひとまず行動。 アブソーは取り合えず、タイニーの元へ駆け寄った。 「・・・・・・・・」 そんなアブソーを、レンシーが不審な目で見ていたことには、誰も気付きはしなかった。 「・・・・あの、タイニーさん」 いきなり自分のところへ走り寄り、小さな声で声を掛けるアブソーを、タイニーは訝しげに一瞥して、 「一体どうしたんだい? アブソー。もう儀式が始まるのにさ」 「駄目なんです」 「ん? 何がかい?」 信じてもらえないかもしれませんけど、と前置きをして、アブソーは続ける。 「タイニーさんが企んでいる策戦を、今使わないと、世界が――」 「ああ、分かった。どうせ、レンシーに飛ばされてきたんだろ?」 アブソーは驚いて目を丸くし、タイニーを見つめる。 「何で分かったんですか?」 タイニーは、「僕が小人だってこと、忘れちゃったかい?」とおどけて言って、 「・・・・いや、推測すれば簡単に分かるよ。けど、そういうことなら、ともかく―― ――史上最高で前代未聞な楽しい楽しい悪戯を、始めようか」

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