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フォルテの私的空間」(2009/02/22 (日) 20:58:01) の最新版変更点

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そして あれは結局夢だったのか。 もしくは現実か。 今となっては分からないけど、しかし―― +++ 「オレ様の部屋に勝手にあがるとは、いい度胸しやがって」 その人は、 黒いワイシャツとズボンに赤いベスト、そしてシルクハットとステッキを仕上げに・・・・。 そんな成り立ちで――何故か椅子に縛り付けられた僕の前で、開口一番にそう言った。 「随分と余裕の表情してやがんな、小僧」 「・・・・もし僕が余裕だったら、大口開けて笑ってますよ、おじさん」 僕の言葉に、その人は眉を顰めると、右手に持つステッキをクルッと回し、僕の額に向かって――突いた。痛かった。泣くほどじゃないけど。 「何するんですか、ひどいですよ」 「ひどいのはてめぇだぜ? 小僧。オレ様のプライベートルームに無断入室した上、嘘をつくとはな・・・・外道のやることだろうぜ」 いささか大袈裟ではないですか。 と、僕は言おうとしたけど、幸いにも学習能力が備わっているので、口には出さなかった。 「だけどおじさん。なんで嘘だと分かったんです」 「ああ? なんとなくに決まってるだろ、あんなのは勘だ、勘。オレ様は天才の中でも郡を抜く天才だが、さすがに人の心までは読めねぇよ。あとな、小僧、おじさんじゃねぇ、フォルテだ」 「なら僕も小僧なんかじゃありません。ちゃんとシーモという名前があります」 お返しとばかりに言ってみると「ああ、そうかい」と、興味なさげにフォルテさんは言って、スタスタと薄暗い部屋の奥へと歩いていく。 ――そして、彼の姿は闇に紛れて、見えなくなった。 「・・・・・・・・」 ひとりぼっち。すごく不安だ。 自分の呼吸するヒューヒューという音が、四割増し大きく聞こえる・・・・気がした。 「おい、シーモ。よぉおおく聴いとけ」 闇から――否、フォルテさんから唐突に、そう呼びかけられた。 そして ポロン、と。 澄んだ音。 「これは・・・・ピアノ?」 「ご名答、まったくもってそのとおり。二重丸だよシーモちゃん」 続いて、ケラケラとからかうように笑うと、フォルテさんはキザっぽく言った。 「せっかくだ、この部屋から蹴りだされる前に土産でもプレゼントしてやる―― ――オレ様の音楽に酔いしれろ」 +++ その後のことはよく覚えていない。 音楽のことはもったいないなとも思ったけど、よくよく考えればいきなりあんな状況はありえなかった。 フォルテと名乗る男のプライベートルームだって? 今まで自宅の庭で昼寝をしていた僕が、何のひょうしでそんなおじさんの私的空間に。 もし、僕がフェアリーストーリーに出てくるキャラクターだったら、ありうることかも知れない――けど。 けど、もしも。 今、僕の額がズキズキと痛んでいるのが、庭にあるものが原因でないとしたならば。 「オレ様の音楽に酔いしれろ」 僕は思わず微笑んで、彼のそんな言葉を思い出していた。

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