保管庫

星垣多美 850 K2IZ7X3f0

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850 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/10(火) 14:02:28.96 K2IZ7X3f0

「おーい、のぶひこーぅ」

中学最後の朝、いつもとは違った緊張感の中で登校していた俺の後ろから、聞き慣れた声がした。

足を止めて振り返ると、渉がダッシュで追いついてきた。

「おはようさーん」
「おぅ、おはよう渉」
「いよいよ最終日だな」
「そうだな」
「これであの小うるさい数学の高橋ともおさらばかあ」
「へへ、それもそうだな…」

渉はいつもの調子で軽口を叩いてる。
けど、俺はちょっと感傷にひたりながら、今日が最後になる通学路の様子を目に焼き付けていたんだ。

「あゆみ!」

渉が突然声を上げた。

見ると、向こうのコンビニの角には一人の女子が立っている。



851 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/10(火) 14:04:12.22 K2IZ7X3f0

渉の彼女、歩美だ。

「朝から同伴ですか渉君。やるねえ。」

と冷やかしてみた。

「うっせい。伸彦も彼女くらい作らないと、マジやばいぞ?」
「う…」

返す言葉に詰まってしまった。
そうなのだ、男子はそろそろ相手がいないと大変なことになる…らしい。
『16才の誕生日』というのが、男子共通のメルクマールになっている。
つまり、この日までに童貞を捨てないと、女になってしまう、というんだ。

保健体育の授業でも習ったことだが、こうやって中学卒業の日になると、いよいよ待ったなしの重圧がのしかかってくる。
今放たれた渉のひと言が、頭の中で堂々巡りを始めた。


85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/11(水) 03:37:33.08 1w2cjdhy0

前スレ851

続きを投下

『次は、卒業証書授与です』

制服の左胸に赤いリボンを付け、卒業式は粛々と進んでいく。

コンビニから学校までの道、渉のひと言のせいで俺の心は揺れに揺れていた。
押し黙ったまま、前を歩く2人の後をついて校門をくぐり、どこからどう行ったのか記憶がないまま、今卒業生席に座っている。

『…石…哉』
『…沢…佳』
『林 伸彦』

「!」
「は、はいっ!」

隙を突かれた格好になって、返事の声が裏返る。



98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/11(水) 06:12:29.56 1w2cjdhy0

すまんパンヤやってた
85つづき

立ち上がるのが一瞬遅れた。
注目が集まったように感じる。
顔が真っ赤になる。
だが、次の瞬間、

『東 雅史』

名前の読み上げは淡々と続いていた。

ちょっと安堵しながら、しかし顔は真っ赤なまま、壇上に上がる。

「卒業おめでとう」

校長先生の声がかかった。

卒業証書を奪い去るように壇上から降りた。

===
遅々として進みません

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/11(水) 13:03:40.61 1w2cjdhy0

98忘れた頃に投下

「やーれやれ、やっと終わったあ」

式が終わって中庭に出ると、渉が話しかけてきた。

「やっと終わったなあ」

応える俺。

「これで本当に終わりだな」
「ああ、そうだな」

「色々いたずらしたよな」
「ああ、おまえほどじゃないけどな」
「おいおい、先陣切るのはいつも伸彦だろーが」
「あれっ?そうだっけ?」
「とぼけるなよおまえよー」

からからと笑う渉。
その様子を見てちょっと気が和んだ。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/12(木) 03:55:05.27 X6ti4ZhE0

前スレ>>164の続き

「まぁともかくも」

渉が続ける。

「高校に行ってもよろしく頼むぜ、伸彦ぉ」
「ああ、俺の方こそよろしく頼むわ、渉ぅ」

今度は2人で笑い合った。

「そういや彼女、歩美ちゃんはどの高校に行くんだ?」

と俺が聞く。

「ああ、同じさ。西高」
「そうか。じゃ、またみんな同じって事か」
「そういうことになるな」
「代わり映えがしないな」
「ほっとけ」

いつもの調子で喋っていると、向こうから渉を呼ぶ声がしてきた。

一度に投稿できる行数ってこんなに短かったんだ。と驚いてる俺ガイル。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/12(木) 04:53:33.88 X6ti4ZhE0

36続き

「おっと。伸彦、わるい、今日は母親と帰らないと、それじゃな」
「ああ、それじゃまた今度な」

時々こちらを見ては帰って行く渉を見送りながら、俺も母と一緒に学校を後にする。

もう、この校門をくぐることもないんだ。
そう思うとちょっと寂しい気持ちになった。

校門を出たところで感傷にふけっていると、母が口を開いた。

「伸彦、ちょっとお茶飲んでから帰ろうか」

少し考えてから

「あ、うん」

と返事をした。
こうして俺の中学生活はフィナーレを迎えたんだ。



42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/12(木) 05:55:50.94 X6ti4ZhE0

38続き

家に帰る道をちょっと外れて、俺と母はバス道路に面したファミレスに入った。

「伸彦、なににする?」
「あー、うーん、俺、コーラ」
「またそんなもの飲んで…」
「いーじゃんか、卒業式の日ぐらい」
「もう、しかたないわねぇ」

母がテーブルのボタンを押すと、ウエイターがやってきた。

ほどなくコーラがやってきた。
母の前には、ホットティー。
ストローを刺してコーラを一口吸ったところで、母が口を開いた。

「伸彦もとうとう高校生だねぇ」
「なにしみじみ語ってんのさ」
「やっぱり腹を痛めた母としてはねー、こういう節目になるとしみじみするの」
「俺には分からないな」
「伸彦も親になったら分かるわよ」
「そんなもんですかねえ」

おはよう


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/12(木) 06:08:46.30 X6ti4ZhE0

42今宵ラスト

それから、高校にどうやって通うのかとか、準備の買い物をどうしようかとか言う話をした。
そろそろ帰る時間か、と思われたとき、母が話を振ってきた。

「…そういや、隣だった拓己君と、まだ連絡取ってる?」

ぐ、っと詰まってしまった。
隣に住んでいた拓己、幼稚園から中学まで一緒だった幼なじみの星垣拓己。
彼が引っ越してから、もう2年半を超えた。
引っ越していった直後に1、2度連絡したが、自然に沙汰止みになっていた。

「…と、ってない」
「そう…」

拓己は隣の市に移り住んでいっただけで、遠く離れてしまった訳じゃなかった。
なのに連絡を取らなくなってしまったことを、誰かに知られるのが気まずかった。

「彼も卒業だから、もしかしたら高校で会うかも知れないわね」
「そ、そうだね…」

保守もつかれさまでしたー
早朝組よろしく


308 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/13(金) 06:25:54.90 mZEOdAT80

おはよう。
深夜保守おつかれさまでした。今朝は1つだけ。
44のつづき

母は、俺が連絡を取らなかったことには一切触れずに、話を続ける。

「もし、もしだよ、拓己君が同じ高校だったら、伸彦、彼を一回うちに連れてきなさい」
「ええ?」
「ほら、なんて言うのかな、お母さんも一回見てみたいのよ」
「なんなんだよそれ」
「単なる興味」
「ぶは」

趣味が悪いなと思いつつ、俺は母の申し出に同意した。

ファミレスからの帰り道、俺は昔のことを思い返していた。
すっかり忘れていた、小学生の日々を。

そういえばいつも隣りに拓己がいたっけ…

拓己…拓己?

思い出せなかった、拓己と遊んだ記憶はあったけど、俺は拓己の顔を思い出せなかったんだ。


581 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/14(土) 06:47:47.60 uf8e8moh0

308のつづき

卒業式から3日後。
4月になる一足先に、学校説明会があった。

4月から通う高校は、家からバスで15分の所にある。
通学の予行も兼ねて、バスに乗って学校へ向かった。
バスはわりあい平坦な道を快調に進んでいく。
これなら晴れた日は自転車でもいいかもな、そんなことを考えていると、高校の校舎が見えてきた。

バスを降りると、高校まではちょっとした上り坂だった。
道の両脇には桜並木が伸びている。
今年は暖かいせいか、もう咲き始めていた。

校門をくぐると、看板が出ていた。
『学校説明会は体育館です→』

指示されたとおりに進むと体育館があった。
入り口の前に受付がある。
受付に歩み寄ったところで、不意に声がかかった。

昨夜は投下ラッシュだったのだなぁ



582 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/14(土) 06:53:02.19 uf8e8moh0

頭いた…。なんか寝たはずなのに寝れてない感じ。
今朝は出かけるの早いから2度寝したくないんだが…悩ましい。

581つづき

「伸彦ぉ!」

驚いて声の方を向くと、渉がいた。歩美ちゃんも一緒だ。

「渉ぅ」
「元気だったか?」
「元気もなにも3日会わなかっただけだろーが、大げさだな」
「いや、ちゃんとここに来れるか心配でさあ」
「バスで一本だぞ、迷う訳ないだろが」
「いや、それはそうだが」
「それにしても、えらく早いじゃないか渉」
「いや、歩美がさぁ…」
「ちょっと、渉でしょお、遅刻しちゃ大変だからって、2時間も前から行こう行こうって」
「なんだそりゃぁ、ちょっと心配しすぎだって」
「う、うるせぇ、ちょっと時間間違えただけだ」
「はは、まぁお前らしいけどな」

わずか3日ぶりだったけど、旧友の声を聞けたら、ちょっと元気が出たような気がする。

「じゃ…ちょっと受付すませてくるわ、悪いな」
「お、おう、引き止めてごめんな」

今朝はここまで。


814 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/15(日) 04:36:01.64 PRzUrSta0

それでは投下
582つづき

受付に行き、合格通知を差し出す。

「林 伸彦…はい、確かに」

受付係の事務員が、慣れた手つきで名簿にチェックする。
俺はチラと名簿を一瞥したけど、星垣の名前はなかった…

渉たちと一緒に着席するまで、辺りを見回していたが、それらしい生徒の姿は見えなかった。
…といっても、拓己の顔は相変わらず思い出せていなかったんだ。

「伸彦、誰か捜してるのか?」
「あ、いや、初めての場所だからさ、ちょっと気になってな」
「そうか、それもそうだ」

中学時代に見知った顔が、ちらほらと見える。

ほぼ満席になったところで入口が閉じられ、いよいよ説明会が始まった。
長々と続く説明を、俺はひたすら聞いていた。
自分でも不思議なくらい集中して。
最後に校章や生徒手帳、その他諸々の物品配布があって、説明会がやっと終わった。



815 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/15(日) 05:03:14.21 PRzUrSta0

814のつづき

のんびりと投下。

「えらく集中して聞いてたな」

最初に口を開いたのは渉だ。

「え、ああ、まぁなんとなく集中してたな。聞き漏らしてあとで困るのもなんだしな」
「そうだな、しかしなかなか緊張するもんだ」
「まぁ最初は誰も似たようなもんだろ」

渉と話をしながら体育館を出ると、女子が2、3人固まっているのが見えた。

「あっ、サトーっ、りくーっ」

渉の横にいた歩美ちゃんが、一団の方へ走っていく。
どうやらうちの中学の女子だったらしい。
2言3言話していたかと思うと、歩美ちゃんはまたこちらに戻ってきた。

「ゴメン渉、友達と一緒に帰っちゃってもいいかな?」
「あー、うん、いいぜ」
「ありがとっ。それじゃ行くね、バイバイ」
「またな」



816 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/15(日) 05:30:15.57 PRzUrSta0

815のつづき

先は長いがマイペース
踵を返して去っていく歩美ちゃんを見送ると、あたりは人影もまばらになり始めていた。

「俺たちも帰るか、渉」
「ああ、そうだな伸彦」

坂を下ってバス停の前まで来た。
案の定、長い列ができていた。

「あちゃー、出遅れたか」
「こりゃー次の次くらいまでは乗れないぞ。どうする渉?」
「そうだな、確かこの近くにコンビニがあったはずだ。そこでヒマ潰すか」
「了解」

バスの時間を確認した俺たちは、道路を横断してコンビニに向かった。

「おおっと、そうだよヅャソプは今日発売じゃないか」
「そんな重要なことを忘れてしまうとは、伸彦にしては甘いな」
「ああ、うっかりしてた。どれ、今回のナインピースはっと」




817 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/15(日) 06:00:43.94 PRzUrSta0

816つづき

早朝組の人、まだかな…
しばらく2人で立ち読みしていたけど、店員の目線が痛くなってきたので止めた。
立ち読みしていた雑誌と、ペットのお茶を1本買ってコンビニを出る。

バス停の方へ2人でぶらぶらと歩き始めた。
そこで俺は、渉にこう切り出したんだ。

「なあ渉、星垣って、覚えてるか?」

「ほしがき?柿の実干したアレじゃないよな…。えーと?」
「中学1年の夏まで、俺らのクラスにいた男さ」
「えーと、ほしがき、ほしがき…。ああ、あいつか」
「思い出したか?」
「確か野球部だったよな」
「そうそう、それだ。やるな渉」
「で、その星垣が今更どうしたって言うんだ?」

「いや、うちの母さんがさ…」




818 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/15(日) 06:30:21.83 PRzUrSta0

817つづき

淡々と進行
俺は、渉に星垣がお隣さんで幼なじみだったこと、そして母が連れてこいと言っていたことを話した。

「で、そこで問題なんだが、その、星垣の顔を渉が覚えてないかってね」
「うーん…。いまいち記憶が定かじゃないなあ。坊主頭だったのは覚えちゃいるけども」

「…そもそも伸彦は幼なじみだったんだから、そう言うことは覚えてて良さそうだと思うんだが」
「それがどういう訳かすっぽり抜けてて思い出せないんだよ…」
「ふうむ…」

2人とも足を止めて悩んでしまっていた。

「…で、星垣はこの西高に入学してるのか?」
「…それが、分からないんだ」

渉がちょっとオーバーに天を仰ぐ

「おいおい、それじゃ意味ないじゃないか」
「すまん…」


822 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/15(日) 07:00:31.39 PRzUrSta0

818さらにつづき

さっき書き上げ済み文字数数えたら、すでに15k文字になってた。
ちょっと間があって、渉が何かに気づいた様子で言った。

「そうだ、あれだよ、小学校の時の卒業アルバムは見たのか?おまえ星垣と同じ小学校だろ?」
「!」

なぜそんな簡単なことに気がつかなかったのか。俺は自分を悔やんだ。

「その顔は、見てなかったな?」
「…すまん」
「まあいいさ、これで一件落着、だろ?」
「そ、そうだな。ありがとうな、変なこと聞いちゃって」
「いーやいや、親愛なる伸彦様のためですから」

俺たちは再び歩き始めた。バス停が見えてくる。

「今度なんかおごるわ」
「うほっ、いいねえー」
「あ、予算は150円までな」
「ちょっ、おいおい、それじゃペット茶1本しかねーじゃねー」
「俺も財政難なんだ、解れ」
「へいへい、まー期待はしないがよろー」

バス停にできていた行列は、今はすっかり消えていた。
俺たちは、ちょうどやってきたバスに乗って家路についたんだ。


826 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/10/15(日) 07:30:42.91 PRzUrSta0

822
今宵はこれで最後にしようか…

家に着いた俺は、ただいまもそこそこに自分の部屋に上がった。
本棚の片隅から、小学校の卒業アルバムを引っぱり出す。

「6年…3組…3組、と。あああった」

そこには懐かしい面々がいた。

「なんで星垣のだけ忘れちゃうんだよ…」

「ほしがき、星垣、あー」

集合写真の最前列に、スポーツ刈りのやんちゃそうな男の子が映っていた。
隣は、俺だった。

「こんなんでも忘れちゃうもんなんだな…」

「伸彦ー、ご飯だよー」

母の声がした。

「お、うおーい。今行くー」

アルバムを本棚にしまって、俺は夕食を食べに部屋を出た。


261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 本日のレス 投稿日:2006/10/17(火) 06:02:07.68 0cKw/RYw0

それでは保守がてらつづき
前スレ>>826から


ダイニングに入ると、すでに親父が座っていた。
俺が席に着くか着かないかのうちに、親父が口を開く。

「伸彦、今度の高校はどうだ?」

「…どうって、まだ説明会に行っただけだし、様子なんてわかんないよ」

「広い学校だろ?」

「ああ、パッと見そんな感じはしたね…って、なんで親父が知ってるんだよ」

「そりゃー、西高は俺の母校だし」
「は?」
「言ってなかったか」
「初耳だよそりゃー」
「そうだったか、まあ、覚えといてくれ」

親父がさらに続けた。

「さすがにもう先生は皆替わってるだろうなぁ」
「だから知らないって」


483 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 03:39:49.51 Cf8FlOej0

261のつづき。保守がてら投下。

いい加減話が長くなってきたので鳥付ます
終わる気配がないよorz
====
母が口を挟む。

「ふふ、お父さんと私の思い出の学校だもんねぇ。忘れるわけないのよねー」

「ええっ!?母さんそれどういうことだよ?」

驚いた俺は、危うくご飯茶碗を落としそうになりながら尋ねた。

「要するに、お父さんのひ・と・め・ぼ・れ、ってやつかな?」
「おーいおい、俺だけじゃないだろ。お前だってそれなりに…」

親父が慌てた様子で割って入った。

「アプローチはお父さんからだったじゃないですか。あのときのあれ、まだ取ってあるわよ?」
「げっ、ちょっ、本当か!」

冷静だった親父の口調がうわずって、顔はもうてっかてかに赤くなっている。
こういう親父を見るのは初めてかも知れない。

「後生だから伸彦には見せるなよ。頼むよ淑美ぃ」
「はいはい、わかってますよ」

いたずらな笑みを見せる母とは対照的に、まるで雨に打たれた子犬みたいな表情で親父が縮こまっている。
意外な2人の力関係に、俺はただその場を見守るしかなかった。



484 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 04:09:35.98 Cf8FlOej0

なんでこんなに前振りが長いんだろうか…書いてる本人もわけわからんです…

====
夕食を終えた俺は、再び自分の部屋へと上がった。
そういえば帰ってきてから着替えもまだだった。
ベッドの上に放り投げられていた制服の上着をハンガーに掛け、家着に着替える。

「そうだ、マンガマンガ」

コンビニで買ってきたマンガ雑誌を取り出し、ベッドの上にゴロンと横になった。
いつものように読み始めたつもりだったが、いつものようには面白くなかった。

これから通う学校のこと。
星垣のこと。
そして父と母のことがまぜこぜになって、俺の心の中で渦巻いていたんだ。







そして、なんとなく、ただなんとなくだけど、新しい学校でなにかが起こりそうな予感がした。



485 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 04:43:23.03 Cf8FlOej0

投下

====
いよいよ、入学式の朝が来た。
新しい制服に袖を通す。
新しいと言っても、似たような黒の学ランだからそんなに変わる訳じゃないけれど。
しかし前を留めるボタンは高校生らしく渋く光るボタンになった。
そして襟には校章が金色に光っていた。

「伸彦ー、用意できたー?」

母が呼んでいる。

「ああ、できた、今行く」

返事をしながら持ち物を最終点検。
今日は入学式とオリエンテーションだけだから学生鞄はいらない。
教科書が配られると聞いていたから、スポーツバッグだけ持ってリビングに下りた。

「ああ、新しい制服だとちょっぴり新学期って感じになるわね」
「サイズ合ってたから前ので良かったのに」
「だめだめ、こういう時くらいきちんと決めなきゃ」
「まぁ新品の方が嬉しいと言えば嬉しいけどさ」



486 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 05:09:33.53 Cf8FlOej0

やっと入学式まで来た。ようやく本題ですよ。
本題と言ってもクライマックスまでまだまだはるかな道のりな訳ですが。

====
入学式は10時から始まるが、朝9時には登校するように言われていた。
もう8時を過ぎている。

「急がないと、間に合わないわね」
「うん」

玄関の鍵を掛け、外に出た。
少し高さを増した朝の光が、今日も暑いぞと予告しているようだ。
母と2人、少し早足で歩く。
バス停に着くと、次のバスまで3分前だった。

「ぎりぎり間に合ったわね。これに乗れればいいわよね?」
「たぶん大丈夫でしょ」

息を整えていたら、バスがやってきた。
2人相次いで乗り込む。
ラッシュ時間帯を少し外したバスは、席に余裕があった。
母と二人並んで腰掛ける。



487 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 05:40:01.03 Cf8FlOej0

まぁそろそろ起きてるのも辛くなってくるわけですが。
早朝組まだかな(´・ω・`)
つか今自分一人なのかいな。

====
バスが走り出したところで、母が話しかけてきた。

「伸彦もいよいよ高校生かあ。ついこないだまでおむつ履いてたと思ったのに」
「一体いつの話だよそれ」
「だよねえ、高校入学ってことは、そっか、16か」
「まだまだ先だぜ?息子の誕生日くらい覚えてくれてるよな?」
「12月…」
「21日な。やっぱりちょっと忘れかかってるし」
「そんなことないわよ。一世一代の大仕事の日だからね、さすがに忘れない」
「大仕事って…」
「伸彦が生まれた日だからね」

母はにっこり笑って答えた。

「そうか、16才になっちゃうか…」

そう漏らした母の表情が一瞬だが、曇ったように見えた。
でも、すぐに元の顔つきになって、それ以上なにかを感じることはできなかったんだ。


490 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 本日のレス 投稿日:2006/10/18(水) 06:00:03.09 Cf8FlOej0

今宵はこれで最後。投下したら寝ます。
488ありがとうございます。

====
学校前のバス停で下りると、他の新入生の姿もちらほら見えた。
校門までの坂道を登っていく。
桜の花はすでに散り始め、葉が出かかっていた。

入学式の会場は、説明会の時と同じ体育館だが、新入生はまず各自の教室に入るらしい。
受付に行くと式次第と学校見取り図、そして簡単な入場券が渡された。
すでにクラス分けはされているらしく、入場券には『1-B 林伸彦』と書かれている。

「新入生の方は教室の方へお入りください。ご父兄の方は体育館の父兄席の方へ」

俺は母と別れ、一人教室へ向かった。

教室は西校舎の3階だった。
教室に入ると、すでに何人も生徒がいる。
一瞬注目を受けたが、すぐに皆元の方向を向き、話を続けた。

机には出席番号順に各自の名前シールが貼られていた。
俺は自分の名前を捜しだして座った。真ん中前よりの席だった。
見回してみたが、知っている顔はなかった。
渉は何組になったのだろうか。


728 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 本日のレス 投稿日:2006/10/19(木) 04:19:30.83 59RJvkwb0

さあ今宵も深夜保守です。誰も見てなさそうな作品投下しますよ。

490の続きから
やっとこさヒロイン登場した…時間掛かりすぎダヨorz
====
その後も次々に生徒が入ってくる。
どれも知らない顔だった。

9時になった。
相変わらずざわついた教室。
そろそろ先生が来る、と思われたその時。
一人の女生徒が入ってきた。

すでにほぼ満席だった教室の視線が、その女生徒一点に注がれる。
モデルでも通用しそうな整った顔立ちに、肩まである艶やかな黒髪。
そして少しおどおどとした仕草は男子生徒の興味を引くには充分すぎた。
いや、あまりの美しさに女生徒も目を引かれているようだ。

皆が、息を呑み、それまでの喧噪はウソのように静まりかえった。

その女生徒が、空いていた前入口近くの席に着くや、今度こそ先生が入ってきた。

皆の注目が女生徒から外れる。
だけど俺はその女生徒から目を離すことがしばらくできなかったんだ。


22 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 本日のレス 投稿日:2006/10/19(木) 10:25:12.72 59RJvkwb0

前スレ>>728の続きから投下。
前回投下後うかつにも寝てしまった。

====
先生は、男の人だった。
40前半だろうか、ちょうど俺の親父と似たような歳のようだ。

「えー、私が君たち1年B組のクラス担任をする、山下と言います。はじめまして」

そう言って、山下先生は黒板に自らの名前を書いた。

『山下和洋』

「やましたかずひろ、と読みます。今日から1年間、よろしく。それから、担当科目は英語です」

「それでは、クラス名簿を配ります。前から順番に回してください」

前から紙が回ってきた。
1枚取って、後ろに回す。
名簿を一瞥すると、そこには『星垣』の文字があった。
心臓が高鳴り、息苦しくなる。




29 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 本日のレス 投稿日:2006/10/19(木) 11:06:29.39 59RJvkwb0

22のつづき
27投下してイインダヨー

俺もぼちぼちだが投下続けてるし
====
なんということだろう、いないだろうと高をくくっていた。
だが、下の名前を見ると、『多美』と書かれていた…

女?
ということは、奴じゃないのか?。
しかし星垣なんて名字、そうそういるものじゃない。
親戚かなにかなのだろうか。

「よーし、回ったか?じゃ、窓際の方から簡単に自己紹介を頼む。あ、前から順番にな」

先生の声で我に返る。
そうか、自己紹介があるから誰が星垣さんなのかわかるな。

女だった、ということで、俺の心臓は落ち着きを取り戻しつつあった。

自己紹介と言っても、名前と出身校くらいのもので、1人1分と掛からずにさくさく進む。
あっという間に俺の番までやってきた。

「林 伸彦といいます。出身は山県中学です」

俺は起立してそれだけ言うと、さっさと着席した。
ま、こんなもんだよな、と心の中で納得した。



41 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 本日のレス 投稿日:2006/10/19(木) 13:57:49.91 59RJvkwb0

29のつづき

今日も人少ないな…
====
そして最終列の番になった。
先ほどの女生徒の番だ。
再び皆の注目が集まる。

女生徒はおどおどした様子で立ち上がると、うつむきかげんのまま後ろを向いた。
そして、消え入る声でしゃべり始めた。

「は、はじめまして…」

「すいません、もうちょっと大きい声でお願いします」

後ろの方から声が掛かる。

彼女は声のトーンを少し上げて続けた。

「ほ、星垣多美と言います…。出身校は、あの、県外で……静岡県です」

彼女はそれだけ言うと、すぐに席に着いた。
教室の後ろの方から女子のヒソヒソ声が聞こえる。

すぐに次の女子が自己紹介を始めた。

それから5分後には、全員の自己紹介が終わった。


149 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 03:00:05.55 XE+pu4K40

さて投下開始しますよ。
すでにいつが最後だったか判りませんが、以前からの続き。

====

「よーし、それじゃ時間も来たことだし、体育館へ移動します。名簿順に廊下で列を組むように」

山下先生がそう告げると、皆ぞろぞろと廊下に出た。

「それじゃ2列になる。番号1番から18番までは左の列。19番から35番までは右の列だ」

先生の手助けで順に並んでいく。
女子は男子の後ろに付く形だが、2列になるので俺の隣には女子が来た。
そして、なんと俺の隣には星垣さんが並ぶことになった。

彼女が俺の隣に立つ。
背は、俺とほとんど変わらないんじゃないか?
なのに大柄な感じがしないのは身体の線が細いからだろうか。

特に言葉を交わすこともなく、隊列は体育館に向かって進む。
体育館に入ると拍手で迎えられた。
父兄席の間を通って指定の席に座る。
周りを見ている余裕はほとんど無かった。

G組まで着席すると、いよいよ入学式が始まった。



153 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 03:16:34.58 XE+pu4K40

149のつづき。
投稿しようとしたら改行大杉ではねられたorz
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式の進行よりも、隣が星垣さんだってことに俺は気が気じゃなかった。
なるべく意識しないようにとは思うものの、やはり悲しい男の性でちらちらと見てしまう。

彼女は壇上を見つめているので、俺から見えるのは横顔だけだ。

しかし見れば見るほど「美しい」という形容がぴったり来る。
まずもって肌のきめ細かさに目が奪われそうになる。
『生まれたて』という形容がふさわしいのかも知れない。
シミ一つ無く透明感がすごいのが、こんな俺でもよく分かる。
赤ん坊の肌から赤みを抜いた感じだ。
袖口から少しだけ覗く手の肌も顔と同じ様で、まるで外に出たことがないように見える。

額から鼻を通り顎に至るシルエットが、心地よいバランスの曲線を持っている。
外国人モデルのような厳つさはない、日本人のラインだ。
唇は、口元が少し下がって不安感を表しているけど、きれいなピンク色。
艶の感じではリップは付けていないとわかる。

目は、アイラインを引いているわけではないのにクッキリとした目元だ。
まつげがすごく長い。

いつしか俺は魅入ってしまっていた。



156 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 03:30:32.41 XE+pu4K40

153続き
24行制限ってめちゃくちゃ厳しいんですけどorz
まぁ書き込みエディタで行数出るからなんとかなるかな。
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さすがに彼女も見られているのに気がついた。
目線でこちらを伺うと、顔を下げてしまった。

俺はあわてて姿勢を正す。

しまった、と心の中で舌打ちした。
今の時点から嫌われたくはなかった。

それからは彼女の方を見ないように努めた。
ただそのせいでひどく退屈したのは事実だ。
ただただ隣の星垣さんに嫌われまいと、責め苦にも似た時間をじっと堪えていた。

どれだけ堪えただろう。
永遠に続くかと思われたこの時間も、終わるときが近づいているようだ。
式は教職員紹介までたどり着いていた。

『それでは入学式を終わります』

その声が響いた瞬間、俺はため息と共に椅子の上でへたっていた。



162 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 03:45:08.14 XE+pu4K40

156の続き
15分ペースってのは自分としてはハイペースだったり
早く以前のまったり1時間ペースになって欲しい…
====
「だ、だいじょうぶ?」

女の子の声がする。

目を開けると、隣りに座っていた星垣さんが、俺の顔を下からすくい上げるような目線でのぞき込んでいた。

俺は一瞬で立ち直ると、

「あ、だ、大丈夫だから…」

そう答えるのが精一杯だった。

こうして俺と星垣さんは初めて会話をした。

式が無事終わり、新入生は退場していく。
この後、A組から順番に記念撮影をするらしい。
A組とB組は体育館の外で待機し、C組から後は教室へ入って先にオリエンテーションをする。
俺たちはB組だから待機することになった。



171 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 04:01:10.11 XE+pu4K40

162の続き
応援してくれる人がいるってのはこんなにも心強いものだったのだね…
これで25行…
====

待機している間、星垣さんの周りには当然他の生徒の影はなかった。
男子はもちろん女子からちょっと間を開けているし、その女子もまた、彼女からは間を開けているからだ。
その代わり、今度はその場にいたA組の生徒達の目にも彼女の姿が晒されることになる。
案の定、その場にいたほとんどの生徒の好奇の目が彼女一人に注がれることになった。

俺はその場でどうしようもなく立ちつくしながら、彼女をどうにかして守ってやりたいと思っていた。
できれば彼女を連れて、どこか人目のないところまで飛んでいってしまいたかった。

初対面だというのにこんなことを考えてしまった俺はそのとき、どうかしていたのかも知れない。

彼女は、やはり少しうつむき加減になりながら、所在なげに一人立っていた。

そして実際の俺は、ただどうすることもできずに、やはり彼女を見つめることしかできなかったんだ。




撮影の時も、教室に戻ってからも、彼女は他の生徒から距離感があった。
そして俺はあいかわらず、彼女から目をそらせないでいた。


636 名前:以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 04:59:52.31 4zUYir2e0

171星垣さんの続きですよ。
このスレは一応保守保険かけてます。
====
全ての日程が終わり、わずか半日の、しかしものすごく長く感じた入学式の日が終わった。
生徒達が、校門で待っていた父兄と共に三々五々家路につく。

俺は彼女を見失わない程度の距離について、昇降口を出る。

校門まで行くと、母が待っていた。

「おつかれ、伸彦」
「お待たせ、母さん」

母と言葉を交わすうちに、彼女は視界から消えていた。

「そういえばね、拓己君のお母さんらしい人を見たわ」
「え…?」

どういうことだろう。
やはり拓己は入学していたのか。
母が続ける。


643 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 05:32:15.63 4zUYir2e0

636つづき
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「でも、新入生の入場を見てたけど、拓己君らしい子はいなかったのよね」
「他人のそら似じゃないか?」
「うーん、そうなのかな…」
「まぁとりあえず、お昼に行きましょ、お昼に」
「ああ、そっかもうお昼だった」

緊張と彼女のことで、俺はその時まで空腹を全く感じていなかった。
母と会って緊張が解けたのか、一気に空腹感が出てきた。

「なんか急に腹が減ってきた」
「ははは、男の子よねー。よし、ちょっと駅まで出ようか」
「おー、俺なに食べようかな」

母とそんな会話をしながら、俺たちは坂を下りていった。









644 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 05:57:28.98 4zUYir2e0

643つづき
空が白んできた…今宵はここまでか
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俺と母は駅近くのデパートにいた。
時刻は既に午後1時を少し過ぎていたので、デパートのレストラン街も人が減ってきたところだ。

「伸彦、なに食べたい?」
「俺、ステーキがいいな」
「なに馬鹿言ってんの!昼からそんなもの食べれるわけないでしょ」
「ちえー」
「まったく高校生は食い意地が張ってて困るわー」
「へいへい。じゃ、トンカツでいいよ」
「トンカツね。たしかこの辺に良いお店があったはずね」

母が辺りを見回しながら歩く。

「ああ、あったあった」

母の指した方向にはトンカツ店があった。
が、まだ4、5人ほど待っている様子だ。

「まだ待ってる人がいるわね…」
「もう腹減って死にそうだから、歩きたくない」
「オーバーねえ。まぁもうピークは過ぎてるし、並んで待ちましょうか」



669 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 13:16:46.40 4zUYir2e0

ダレモイナイ?なら投下開始。
644の続きから
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列に並んで待っていると、次々人が出て行く。
母の予想通り、5分と待たずして店内に入ることができた。

「おれWロースカツ」
「食べるわねえー。私は『彩り膳』でお願いします」
「かしこまりました」

ウエイトレスさんが下がると、さっそく母が口を開いてきた。

「で、どうだった?初日のご感想を」
「どうって、緊張したさ。あ、それから一つ気になることがあった」
「なになに?」
「俺と同じクラスに、『星垣』っていう…」
「男の子?」
「いや、女の子がいた」
「…女の子、ねぇ」
「静岡出身だって、言ってたな」
「ふうん」

話が途切れた、と思った直後、母が何かに思い当たったようだった。

「ちょっと、裏がありそうね」


672 名前:850 ◆PqUOSvmR0w 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/26(佐賀県教育委員会) 13:46:14.65 4zUYir2e0

669続き
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「なにそれ?」

俺は分からずに聞き返す。

「これは私の推測だし、ちょっと込み入った話だから、続きは家で」
「なんだそれー」

俺の言葉を遮るように、トンカツがやってきた。

「Wロースのお客様ー」
「あ、おれおれ」

2つのお盆がテーブルいっぱいに広がる。

「それでは、ごゆっくりどうぞ。ご飯とキャベツはおかわり自由となっております」

ウエイトレスのお姉さんは軽く会釈をして引き下がった。

「おかわり自由かあー」
「食べ過ぎると、さすがのあんたでも太るよ?」
「へーきへーき、鍛えてるし」

俺は会話もそこそこに、カツにかぶりついた。
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