文章系@2008.11


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文章

猫からのラブレター

作:ID:YdsiiZZa

ねぇ知ってる? 私あなたのことが大好きなの。
甘えてるのは食べ物が欲しいからじゃないんだからね。
ああ、でももらえるものはもらっておくわ。

ねぇ知ってる? あなたの手、とても魅力的なのよ。
あなたの手でなでられるととても幸せな気分になるの。
でも、私の気分が乗らないときはほっておいて欲しいわ。

ねぇ知ってる? 私、猫じゃらしで遊ぶほどもう子供じゃないの。
でもせっかくあなたが遊んでくれるんだから手を出してあげるわ。
べ、べつに興味を引かれてるわけじゃないんだからね!

ねぇ知ってる? 私、この家の中にあなたが知らない隠れ家を持ってるのよ。
そこからいつもあなたを見てるのが私の楽しみ。
でも、たまにそこが掃除されてるのはなぜかしらね?

わかってるんでしょ? 私がこの家に来たときから私はあなたが好き。
でも、こっちから態度に出すのはプライドが許さないわ。
あなたが先にかまってちょうだい。そうしないと甘えられないの。

一時間

作:◆LV2BMtMVK6

 19:30。玄関先で激しく鳴く。どこか具合が悪いようだ。見ると、左足を引きずっている。
いつかも同じような症状が出たことがあった。トイレへ行くと黄色い尿をたくさん出した。
日頃から腎臓が悪いようだったが。病院に連れていくべきかもしれない。取りあえず座布団を敷いた椅子に寝かせる
腹部を触ると悲鳴のような声を上げる。痛ましさに目を背けてしまった。最近、殊に痩せてきている様子だった。
落ち着いたが、まだ具合が悪そうだ。いつものように甘えた、信頼しきった眼をしていない。苦しいのだろう。

 20:00。安静になった。

 20:10頃。落ちるように椅子から降りた。餌の皿の方へ行く。水を飲んだ。少し飲むとうずくまった。
膝の上に載せてやった。落ち着いたのかどうかはわからない。目を閉じている。

そのまま十分間くらいそうしていたが、不意にズボンに爪を立て、もがいた。支えていた手に咬みついた。
痛いのだろう。手をゆっくり顎から外す。歯の後から血の玉が膨らんだ。

20:25分頃。静かになった。それと信じられなかったが、動かなくなった


これが私の生きる道

作:◆7xBjmJnr4s

オマエ達はみんな俺の事を悪く言うけどさ、
ヒモのどこが悪いんだ!と自称モラリスト共に問いたい。
オマエ達は労働によって、俺は女に癒しを与えて正当な対価を得る。
根幹は同じで至極まっとうじゃないか。
フン…言い返せないだろう。
オマエ達は納得出来ないだろうが、俺もオマエ達一般的な労働者の主張には納得出来ない。
つまり議論の平行線とか、水かけ論ってやつだ。
よってこの話はここで終わりだ。俺は帰る。それじゃまたな。

「ごめん。待った?」
帰宅した俺から遅れること三時間、彼女が帰宅した。
いつもの事とはいえ待たされた俺の機嫌は、はなはだ悪い。
ジロリとにらみ不機嫌な気持ちをアピールする。
コイツの名前はチヒロ。俺と一緒に六年前からこのマンションで暮らしている。
俺はチヒロに食わしてもらっており世間でいうところのヒモの関係だ。
そんな俺の今の最大の問題は空腹が限界に近い事だ。
このままじゃおとなしい俺の心もすさんでくるってもんだ。
一刻も早く心の平穏を取り戻すべく夜食にありつきたい。
「遅れたおわびに今日はご馳走だよ~ 」
当然だ。これだけ遅れたのに残り物なんかじゃ許さない。
こんなもんで機嫌をとられるのもシャクだが、メシがうまいのは素直に嬉しい。
ありがたいことに普段より一品多いご馳走はすぐに出てきた。
待ってましたよ、チヒロさん!
ご馳走を食べてるうちに遅刻の件なぞ忘れてしまった。
我ながら便利な頭の構造だと思う。単純とも言うが……
黙々とかきこむ俺を見ながら、夜食を食べていたチヒロが口を開く。

「今日はね、会社の連中と飲みにいったんだ。そしたら課長がしつこくてね~ 」
また始まったよ……
「話長いし帰らせてくれないし、すぐ下ネタ振ってくるしマジ勘弁! 」
ったく……わかってて行ったんだろ?
自業自得じゃないか。まったくもってくだらん限りだ。
毎日毎日よくもまぁ飽きずに愚痴と文句が出てくるものだと感心する。
まぁ……チヒロは見た目かわいいからな。男共が色気立つのも仕方ないだろう。
そのおかげでタダ飯タダ酒飲める機会も多いんだからむしろ得してるとも思うが、
こいつはおごってもらった事なんぞすぐ忘れるらしい。本当に単純な女だ。
「んでさぁ、課長ってすぐ髪触ってくるんだよ?マジ最悪。死ねってーの」
いつもの事だがコイツは俺の話なんぞ聞こうとはしない。困ったもんだ。
最近わかったんだがチヒロだけじゃなく人間の女性というものは、
よく喋りよく食べよく考えるが一切他人の話は聞かない。そういう生き物らしい。
そんな時俺は聞き役に徹する。これが大人の対応でありヒモとして生きるコツだ。
チヒロはあいかわらずマシンガンのようにまくしたてている。
何を言っていたかはもちろん覚えてないし覚える必要も無い。
どうせくだらん話なので全く問題無い。
長くつらい時間はチヒロを見つめていればいつかは終わるのだ。

数十分もたっただろうか、俺はやっとチヒロから解放された。
ヒモも結構大変なんだぞと労働者共に言いたい気分だ。オマエ達にはこんな苦労は知らないだろってね。
一通りの愚痴を吐き終わったチヒロは風呂に入って上機嫌に鼻歌を歌っている。
レパートリーは少なくいつもAIKOばかり。
同じ所で音程が外れるのはお約束で、お世辞にもうまいとは言えない。
一緒にカラオケに行った男共はどう思っているのか?と知りたくもあるが叶わぬ望みなのは残念だ。
チヒロが風呂から上がるまでやる事も無いのでソファーで横になる。
ふかふかで柔らかいここは特等席。部屋がすべて見渡せ少し偉くなった気分になれる。
ポジションを決め落ち着くと、すぐ眠たくなりうつらうつらと船を漕ぐ。
俺は目を閉じ眠るか眠らないかというこの瞬間が一番好きだ。
しかしこの時間は突然終わってしまった。
風呂あがりのチヒロが、眠りかけてた俺にじゃれついてきたからだ。

「ほーれほーれ。よくのびーーーーる! 」
チヒロが俺の顔を縦に横に伸ばし始めた。
いててててて!このやろーはなせ!そこはひっぱるな!
俺様の至福の時間をぶち壊したばかりか、この乱暴沙汰は許せん!
腕を振り体をくねらせ、渾身の力で脱出を図り思いっきり抗議の声を上げる。
「ごめん、ごめーん。一日一回これやらないと気がすまないのよ~ 」
ふん、たまにはやられた方の気持ちになってみろってんだ。
「あーんもぅ、これで機嫌直してよ~ 」
チヒロはビニールボールを俺に転がしてきた。
こんな子供だましにひっかかると……
……
…………
仕方無い少し付き合ってやるか。少しだけだぞ!
これもヒモのつらさ、労働の一環と思えば腹もたたん。
でもたまにイガイガのボール投げるのは勘弁してくれ。あれ当たると結構痛いんだよ。
どうやら美容や健康に良い代物らしいが、俺には確実に効果が無い。むしろ悪化するわ。
しかしコイツも器用だ。俺とボールで遊びながら髪をとかしてドライヤーまでかけている。
更に携帯からメールを送り歯磨きまでこなす。まさに達人技だ。
とても俺には出来そうにない。まぁやろうとも思わんがな……

いつしか楽しい時間は過ぎ、チヒロは布団に入り目覚まし時計をセットしはじめる。
どうやら寝るようだ。
やれやれ、俺の仕事も終わりか。今日も一日ごくろうさん。
「ねぇ……一緒に寝よ」
チヒロは布団を持ち上げ手招きした。
俺は出来れば1人で寝たいんだがなぁ……チヒロは寝相悪いし。
「一緒に寝ると……気持ちイイよ? 」
ちょっと待て……いつも気持ちよくなるのはチヒロの方だろうと……
ただ、ここまで言われれば男として黙っている訳にはいかない。
俺がオマエの体も心も暖めてやるぜ!
布団に入り体を密着させてチヒロに視線を向ける。
チヒロはトロン蕩けた表情でずっと俺をみつめている。
吐息がかすかに聞こえ、彼女の冷たい手が俺の体を断続的になでてくる。
悪くない感触だ。特に首筋が気持ちいい。
「大好きだよ……」
「おやすみ……レオ……zzz 」

オワリ


(カメラの話)

作:ID:oCU5I1eI

工業大学でさ、機械システム専攻だったの。
で、ある動物番組で、猫の首輪に20秒おきにシャッターを自動で切るカメラを付けて行動を観察する、って企画があったの。
これ、俺でも作れるな、って。
デジカメは勿体ないから、前使ってた携帯をバラして、電子情報科の奴にプログラム作ってもらって。
番組のより小型で、10秒間隔で撮れるようにした。
家の猫に付けた。
3時間くらいして帰って来たとき、子猫咥えてた。
わけわかんないから、写真見た。
色んな餌場しってんなー、って感心してた。
なんか、草掻き分けてくの。
そしたら、死んだ猫。猫の死体。
脚折れて、腹破れて、中身出てた。
その猫の死体に、子猫が三匹まとわりついてるの。生きてる子猫。
たぶん餌取りに行った母猫が、交通事故に遭って、子猫のもとまで辿り着いて、死んだんだと思う。
血だらけの破れた腹の横で、必死に母猫のおっぱい吸ってた。
子猫、親の血で真っ赤。
家の猫は、しばらく遠巻きから観察してた。
1枚。2枚。3枚。4枚。5枚。視点が変わらないの。
6枚目、一匹の子猫、咥えてた。でも違った。噛み殺してた。
7枚目、もう一匹殺した。
その後しばらく、死んだ母猫の横に殺した子猫を寄せてた。
もう一匹は?と思ったら、最後の一匹が、家の猫を、威嚇してる写真。
小さいのに強そうだった。
家の猫、かなりでかいのに、しばらく揉み合ってる写真つづいた。
10秒の間に何があったのか、次の次の次くらいの写真で、家の猫、傷つけた子猫を、舐めてた。
そいつを咥えてた帰って来た。ってわけ。
どうせ生きられないなら、ってトドメ刺そうとしたのかな。
最後の奴だけ、必死に抵抗したから、認めたのかな。
飼い猫のくせに、なかなかジャクニクキョウショクのコトワリを弁えていやがりますね。
俺、ちょっと家の猫、見直した。




(母猫)

作:ID:RMQn155J

目覚めれば視界が霞んでいた。
よく眠った後のまどろみに似ている。
車ってのは本当に危ないね。
足が動かない。
鈍い痛み。
足が曲がっている。
ああ、痛い。
お腹から何かが溢れている。
なんとか納まらないものか。
無理だねぇ。

舐めても舐めても、錆色の味が広がる。

帰ろう。

あの子たちにミルクをあげなければ。


ただいま。


どうしたのきみたち。
何を怯えているの?
怪我が怖い?
ごめんね。
大丈夫、大丈夫。
きみたちを置いていったりしないよ。
しばらく静かにしていれば、すぐ良くなるよ。

だからほら、ミルクを飲みなさい。

私は少し疲れたから、眠らせてもらうよ。


大丈夫だよ。


ミケコの夜

作:◆TC02kfS2Q2

眠りを知らない電脳の街、東京・秋葉原。
わたしはこの街のネットカフェに入り浸りしている。ネカフェ難民か、そう言うやつらもいるだろう。
お年頃の女の子がこういうところに住み着くんじゃない、と知ったかぶりのお説教をするやつらもいるだろう。
でも、知るもんか。わたしは糧さえ得ればいい、そういう女なのだ。
そんなどうでもいいセリフを繰り返しながら、マウスのホイールを回しながら無機質な文字羅列に見入っていると、
携帯電話がわたしの時間に割り込んできた。ふう、お仕事ですから。

片手で携帯を取り出し、慣れた手つきで受信ボタンを押す。相手は見知らぬ番号の羅列。
でも、お仕事ですから。
「はい…。大丈夫ですよ、今の時間は」
「どうやって知ったの?…ふーん、ネットの書き込みね」
PCの画面に気を取られながら、電話の相手と約束。相手はわたしより少し年下の中学生男子。
難しいお年頃の子だ。わたしの居場所を教えると30分後に彼と会うことに。
電話を切ってふとPCの方へ目を向けると、どぎつい液晶画面には無慈悲な突っ込みの嵐の掲示板が映し出されていた。
無意識のうちにアクセスしたんだろう。慣れは怖い。

約束の時間の5分前。秋の風が寒くなってきた夜、街の灯に星空たちは掻き消されている。
しばらく寒さを耐え忍んでいると、ネットカフェの入り口で先程の少年と落ち合う。
学校帰りなのだろうか、こんな時間なのに、彼は制服を着たままだ。寄り道してきたのだろう。くんくんと匂いを嗅ぐ、まだまだ若い。
わたしはそんな少年とわざと目を合わせず、ボブショートの襟足を掻きあげお姉さん振る。

「いらっしゃい…。ミケコです、よろしくね」
「はい…」
気弱そうな少年はわたしの姿をじろじろと見る。わたしが人間だったら
彼とはいいお友達になれただろうか、とか考えている時間はない、少年の袖を引っ張り路地裏へ。
数少ない持ち物を入れたポーチが揺れる。

人気のない路地裏はわたしにとっちゃ気楽な場所。しかし、人間からすれば不安の風が吹き抜ける場所なんだろう。
その証拠に少年は、ニワトリのようにキョロキョロしている。
「では、早速始めますよ…いい?」
「ちょ、ちょっと待って」
「だめです。時間がないの」
少年の言葉を無視し、マイペースなわたしはポーチから短刀を取り出し、刃先を天に向けて両手でぎゅっと握る。
短刀を手鏡のごとくわたしの方にはわたし、少年の方には少年の顔を映す。冷ややかな刀身には恐ろしくなるぐらい、はっきりと顔が映る。
くらっと気を失いかける。月の光さえも入らない路地裏。少年は何かを話しかけてくるが無視無視。
完璧にわたしの目の前が真っ暗になった次の瞬間、わたしの目の前には少年のスニーカーが目に飛び込んだ。
わたしは尻尾を立てて、目の前の脚に擦り寄る。

「ほら…、抱き上げなさいよ。シノブ」
「ね、姉ちゃん?姉ちゃんの声がする」
「まったく、シノブは小さい頃から変わらない!」
「ホントだ…。姉ちゃん、来たんだ」
少年はわたしを抱き上げ、優しく抱っこをしてくれた。喉を丁寧に擦ってくれる。
空を舞うように高い位置から見えるのは…意識なく短刀を持ったまま倒れている『人間』の姿のわたし。

黒ネコの声で少年の目を見ながら何気ない会話を楽しむ。
「わたしが死んで、もう2年かあ。早いよね」
「姉ちゃん、ぼく…久しぶりに声を聞いたよ」
「そうね、ミケコさんのお陰だよね」
小さな黒ネコになったわたし。いや、今はシノブ少年の『姉』になったわたしは、ペロペロと自分の舌で毛繕い。

…おかしいだろうか、わたしの言っていることは。
わたしは一言も『人間』の姿でシノブの姉になっているとは言っていない。ただ、ネコの姿でシノブの姉の魂を借りているだけだ。
そのネコは、『人間』の姿のわたし・ミケコの中に居る。なぜなら、いつまでもネコの姿じゃ、商売あがったりだからだ。
普段は現世で動く際は、ネコの姿は差支えがあるが、いざお仕事の際ケモノの姿なら人間どもは油断するからやり易いのだ。
しかし、そんな理屈はどうでもいい。目に見える物は全て現実、PC画面の突っ込みの嵐のように。

「そろそろ、姉ちゃん…帰るよ」
「う、うん」
「シノブさ、言っとくけど…あんた優柔不断」
「分かてるって!」
最後に黒ネコになったわたしは、シノブの首筋を牙で甘噛みする。彼の首筋からは薄っすらと赤いものが。
ぴょんと少年の腕から跳び出したわたしは、すっと倒れている『人間』の姿のわたしに溶け込む…。

「ふう…どうだった?」
めまいがする中、起き上がると少年は恥ずかしげに俯いていた。
久方ぶりに聞いた姉の声のこと、そして命在りし頃の姉のように怒られたこと、たった今起こった短い出来事に感謝をしている少年。
彼との再会を約束し、ここでお別れ。わたしは再びネットカフェに向かう。
しかし、人間とういやつは哀れなものだ。こうでもしなければ、現世の者と黄泉の国の者と会話が出来ないなんて。
それにしても、あの少年…姉と会えて嬉しそうだった。不幸な事故で姉を亡くした彼は、
わたしの生まれた黄泉の国に立ち入ることが出来ず、黒ネコの姿を通して大好きな姉とお話ができたんだから、無理もないな。

わたしのようなやつは、ネコの姿で媒体となって黄泉の国で暮らす魂を呼び出す。
現世の者は、自らの命を削り報酬としてわたしに血を差し出す。
血は黄泉の国に携わるわたしたちの糧となる。わたしも人間も喜ぶ。
等価交換なんだから、資本主義に実に素直な方法。だれ一人とて損するもんか。
でも、もうすぐわたしに頼らなくても、あの少年は姉と思いっきりお話できる日が来るはずだ。
だって、わたしは死神だから。


おしまい。


フォルテシモの心音

作:ID:E19tLsmo

彼女はいつも眠そうにしている。
目をいっぱいに開くのが億劫だ、いつだったか彼女はそう言った。
朝、目覚まし時計を睨みつけ、夜、扉を開けると玄関に倒れこむ。そうして彼女は一日は始まり、終る。
俺は生まれて3ヶ月くらいは、家族と暮らしていた。母さんと、兄ちゃんと、妹と弟と弟。ややこしいな。
ある日、彼女がやって来て俺を連れて帰った。それ以来、家族とは会っていない。
最初は、ちょっと怨んだ。でもそのうち、彼女と暮らすのが当たり前になった。
彼女は俺を「フォルテシモ」と呼ぶ。長いから普段は「フォル」って呼ぶ。
彼女の名前は知らない。彼女は名乗らなかった。それから、俺以外に彼女を呼ぶ奴は今のところ見たことがない。
名前を呼んでみたくって、色んな彼女に似合いそうな名前を呼んでみた。でも全部ハズレだったらしくて、俺が呼んでも彼女は「お腹が空いたの?」としか言わない。
またハズレかぁ、って残念に思うけど貰えるもんは貰っとく。お陰で最近ちょっと太ったかも。
「おいしい?」
やっぱり眠そうな目で、彼女は俺を見詰める。そして首の後ろを指先でくすぐるように撫でる。どきどきする。
いつだったか、眠っている彼女の心音を聞いてみた。俺よりずっとゆっくりだった。
心臓が速く動くのは、短命の証なんだって。箱の中の人間が言ってた。
俺、短命なのか。彼女より早く死ぬのか。
すげぇ、悲しかった。心音が早いだけで彼女より早く死ぬなんて、そんなの耐えられそうになかった。
ずっとずっと彼女のそばにいたい。
考えてたら段々切なくなってきて、変な声が出てしまった。恥ずかしい。
「どうしたの?喉につまった?」
ああ、的外れな彼女の発言が今は、ありがたい。
小さな掌で俺の背中をさすってくれた。
いつも不思議なのだが、なんで彼女はこんなに毛が少ないんだろう。


ミミ子といっしょ

作:◆TC02kfS2Q2

だめだめだめだめだめええええ!!
ぜんっぜんアイディアが浮かんでこない。いや、半分まではプロットも出来て、ネームも出来ているんですよ。
なのに、後半が思い浮かばないなんて、わたしの才能がもう枯渇してるんじゃないかしら?
1年前、担当の牛乃坂さんに見据えられ、やっとの思いで連載に扱ぎ付けたわたしの意欲作『にゃんこ!』。
「このネコ獣人がかわいいねえ。毒舌っていうギャップがすんばらしい」って、
牛乃坂さんからお褒めの言葉を頂いた、わたしの渾身のキャラ・ミミ子に申し訳がつかない。
この後一体どうしていいやらてんで思いつかない。いっそどこかへ逃げ出してしまおうか、いやいや…ぽっと出の新人のわたしが
そんな大それたことをすれば、光り輝くコミック業界に今後一切居させて頂くことなんか出来ないだろう。
ネームの締め切りは明日のお昼十二時。前回は一時間遅れで許してくれた。前々回は十五分遅れだ。
今回はもうだめかも…。FMラジオからは落ち着いた声の俳優のナビゲートと共に、優しい洋楽が流れてきた。
空ではキラキラと星が見えるはずなんだが、冷たい都会はそんなこと容赦しない。

今頃、田舎に住む高校の同級生たちは何処かで遊んでいるんだろうな。
「ぜったい名を残す漫画家になる!」って大口叩いて、田舎から飛び出して来たわたし。
アシスタントを経て独立するも、都会の風に晒されて鳴かず飛ばず、臥薪嘗胆の日々を過ごし、やっとこさ連載を勝ち取ったのに、
「クビになりました、アハハ」ってボサボサの頭を掻き毟って都落ち。こんな筋書きばかりが思い浮かぶ。
すると、ヤツらは「鈴代ゆうかは、負け犬でしたー」ってせせら笑うんだろう。ま、今のわたしじゃ、同級生達に笑われても仕方がないね。
肝心な『にゃんこ!』のネームを考えず、悲惨なわたしのプロットばかりひょいひょい思い浮かぶのは何故だ。
いくら頭を絞っても、肝心のミミ子が思い通りに動いてくれない。お願い、わたしの言うことを聞いて。
ふう、頭が痛い。『原稿描きたくない病』か。
もう…寝てしまおう。締め切りなんか知らん、出版社なんか潰れてしまえ。
わたしは真っ白な原稿用紙を枕にして、仕事机の上で寝させて頂く。このほうが落ち着くし。

深夜…というより早朝、暁が昇り始める前の頃。目が覚めると、わたしの横に見慣れた顔があった。
何処かで会ったような、でも初めて会うような。よく見るとソイツは尖った耳にふさふさの毛、人間離れをした口元に長い尻尾…。
しかもまるでニンゲンのように二本足で立ち、わたし好みのワンピースに身をまとっていった。
眠気まなこのなか、その子が怒鳴り散らしているのがはっきりと見えた。

「おきろ!ボケナス!!」
「ネコが喋った!!」
「バカ!あんたがなかなか続きを書いてくれないから、こうして直談判してるんだよ」
「…うわあああ!わたしはどうかしてしまいましたあ!」
わたしが狂乱に取り付かれていると、そのネコはトントンとわたしが描きかけた原稿を叩いた。
その原稿にはわたしが描いたミミ子…が、描かれている筈なのに、はさみで切り取られたようにすっぽり開いている。
おかしい。昨日まで必死に描いた絵が消えている。しかもミミ子の部分だけ。この腱鞘炎になりかけの右手首に申し訳立たない。
「まったく…鈍いんだねえ。わたしを描いておいてさ」
「もしかして、ミミ子?」
「遅い!!」

紛れも無く、この子はミミ子だった。
何処かで見覚えのある服だと思ったら、何処かで見覚えのある髪型と思ったら、何処かで聞き覚えのある毒舌と思ったら。
何のことはない、わたしが描きあげたものだったのだ。それにしても、「わたしに直談判」とは何ぞや?
ミミ子は尻尾をぱしっぱしっと振りながら、わたしに向かって文句を垂れた。
「あんまりあんたの仕事がのろいので、こうしてわたしはサボることにしました」
「そんなあ…ミミ子!お願い!!ちゃんと動いて!!」
「あんたも一瞬サボろうって思ったくせに!」
それを言われると弱い。それで要求はなんざんしょ。

「…要求?そんなものありません!!」
「直談判って」
「わたくしミミ子は、この愚鈍な作者・鈴代ゆうかに玩ばれることがいやになりました。
それでこれからわたしは、何処かへ旅に出ることにしました。さようなら・鈴代大先生」
そう言うと、ミミ子はくるりとワンピースを揺らし部屋を出ようとした。
わたしは、咄嗟に彼女の尻尾を掴んだ。その行為は、わたしにしてはよい判断だったかもしれない。
「いててて!は、放せ!」
しかし、何故掴んだのかは分からない。きっと、ここでミミ子に逃げられると、何も描けなくなるとでも思ったのだろう。
まだ眠い中、ピーンと尻尾を掴む感覚が張り詰める。
「お願い!逃げないで!!ほら…ねこまんまをご馳走するから」
「ゴクリ…」
「おまけに秋刀魚の蒲焼も付けちゃう!」
「まことか?」
「お願い…」
わたしが掴む尻尾の手ごたえが緩んだ。

晩の残りのおみおつけを暖めなおし、貴重な秋刀魚の蒲焼の缶詰を開けてミミ子をおもてなし。
おみおつけが温まった頃に、不貞寝をしていたミミ子が文句を言う。
「ほほう。鈴代大先生は猫舌って言葉をよーくご存知で」
急いでコンロの火を止めた。すっかり忘れていた…ごめんね。
後ろで音がすると思ったら、ミミ子が勝手に冷蔵庫を物色していた。
「わたしだけがご馳走になるのは、やっぱりずるっこいよね」
そう言いながら、良く冷えたチューハイの缶を取り出すミミ子。彼女の行動をいぶかしみながら、
お盆に程よく冷えたねこまんまをのせて、四畳半の部屋に向かうとミミ子はごろんとおなかを向けて転がりながら、喉を鳴らせていた。
そして、わたしに気付いたのかミミ子は、音も立てずにすっと立ち上がり、チューハイの缶のふたを
ぷしゅっと開け、わたしの顔の前に甘い香りを放つチューハイを差し出す。
「ささ、一杯いかが?」
「でも…お仕事が」
「わたしのおかげでご飯を食べてゆけるんでしょ?」
「は、はい…」
完璧にミミ子のペース。ちょっとだけと思いながらチューハイを口にすると、牛乃坂さんの優しい顔が浮かんできた。
さらさらとねこまんまを掻き込み、ぺろっと秋刀魚の蒲焼を平らげたミミ子は、再びごろんと横になる。
「もー一杯いかが?」
どこで持ってきたのか、再びチューハイを勧めてきたミミ子。立て続けにアルコール8%の飲み物を飲むと、流石に思考が危うくなる。
ここでミミ子のご機嫌を損ねたら最後。一生、漫画が描けなくなるかもしれないというリスクを背負いながら、
わたしはぐるぐると回り続ける蛍光灯を見続けていた。

……外が明るい。月の変わりに太陽が昇っている。野犬の代わりにスズメが鳴いている。
FMラジオからは、能天気なパーソナリティの声。
「時計の針は午前11時47分を回りました…。ここからは…」
わたしの頭から背中にかけての血液が冷え切った。
仕事机の原稿用紙を見ても、未だネームは完成せず。ミミ子の部分だけ真っ白だ。
そうだ、ミミ子は?
いない。部屋にいない。台所にもいない。トイレにもいない。逃げられた。

空っぽになったお茶碗とお皿に、わたしの描きかけの原稿用紙を使った置き手紙が、わたしと似たような筆跡で残されていた。
「お腹がすいたら戻ってきてやる。バーカ   ミミ子より」
これを読んで、もうわたしはミミ子が描けないと感じた。作者が考えること以上のことをミミ子はやりやがる。

ふと気が抜けた瞬間、まったりした音楽に乗せてFMラジオからこんな声が。
「はい、それではメールの紹介をしましょう。ラジオネーム『みけねこ』さんからのメールです。
『ネコとイヌでは迷子になる確立はネコの方が多いいんだそうです』ほう、みなさ…」
ムカつく内容のラジオは消してしまえ。わたしはミミ子を待ってるぞ。
お昼の十二時を回る頃、わたしのケータイが叫び出す。発信主は牛乃坂さんだった。
よくみると、午前中だけで八件も牛乃坂さんから掛かってるではないか。ははは…。
ミミ子のいないわたしなんて、もう何の意味を成さない。
その前に、ミミ子のお茶碗片付けなきゃ。


おしまい。
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