文章系@2009.4


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タイトルが無いものに関しては無題で。
とりあえずまとめてるだけなので、問題があるようであればお手数ですが作者さん修正お願いします。



無題

作:創る名無しに見る名無し
お題:「さくら」「出会い」

春の日の朝のことだった。上空を見上げると、空はよく澄みわたり目を地上に目を向けると、
桜の木々が香りたかい風にもてあそばれ、枝から華やか花びらを無機質なアスファルトに撒き散らしていた。
そんな中をヒトミは新しい出会いに胸いっぱいの期待をふくらませて自転車をこぎ、高校の入学式に向かっていた
先の事がどうなるかなんて誰にもわからない。そこには期待だけでなく、大きな不安もあってしかるべきであろう。
しかし、この子にはどうもそういったネガティブな思考回路はどこかで分断されているか、初めから持ち合わせないのか、
いずれにせよ、彼女には馬耳東風、いっかな思いつく暇もありゃしない。実にうらやましい性格だ。
ヒトミは生まれが八月なので、この時15歳、まだまだ幼い顔立ちではあるのに、目だけがやけに眩しい。興味しんしん、
周りを見渡している目は実に魅力的だ。たいして偏差値も高い高校ではないのだが、我々がすぐに思いつきそうな後ろ暗さとか、
「どうせバカだから」なんていうありきたりな諦念なんか全くない。頭の中は大いなる好奇心でいっぱいだ。
きっと将来、幸福になるのはこういったタイプの人間なんじゃないだろうか?
いよいよ校門が見えてきた。果たして十五の春、どんな出会いが待っているのか。それは誰にもわからない。

無題

作:創る名無しに見る名無し
お題:「嘘」「さくら」「出会い」「ウサギ」

「なぁ、俺ウサギ拾っちゃったんだけど・・」
さくら舞い散る学校への通り道、我が友人である浩史が唐突にそんな事を言った。
「は?」
犬猫ではなく、ウサギを? どんな状況だそれは。
ダンボール箱に『拾ってください』と書かれて入れられているウサギを想像して、そのシュールさに思わず噴出した。
「何笑ってるんだよ、楓。それでさ、コイツどうしよう」
「どうしようも何も――飼うか、保健所でしょ」
考えるまでもない。飼えるなら飼うのが一番だし、駄目なら保健所行きだ。
「保健所とか・・ひでぇ事言うなぁ。コイツ見ても同じ事が言えるか?」
そう言って差し出されるウサギ。白くてフワフワでちょっとプルプルしてて。もふもふパレードだ。
「うわぁ、わぁ・・」
思わず手をワキワキさせて、そのウサギに手を伸ばす。浩史はスィッとウサギを遠ざけた。
恨みがましく浩史を睨み付けると、
「な、コイツ俺らで飼わねぇ? 籠とか寝床とかは用意するから、お互いの家を行き来させる感じで」
「餌代を折半って事ね? んー。まぁ、良いわよ。この可愛さの前ではお小遣いとかどうでも良くなるわ」

そうして、そのウサギは私達が共同で買う事になった。
この出会いが私の人生を豊かにしてくれるのは、この暴力的な可愛さ的に間違いない。
あぁ、ウサギってこんなにも可愛かったのか――!!






「まぁ、拾ったってのは嘘なんだがな」
そう呟いた浩史の声は誰に聞かれる事もなく、風に溶けた。
浩史が、『楓との仲を進展させるアイテム』としてウサギを購入してきた事を知る者は居ない。


桜同盟

作:◆WXL4HPZ/HQ
お題:「さくら」

冷たい夜風が頬に当たり、後方へと吹き抜けていく。
僕は息を切らし、自転車をこいでいた。
前輪のライトのモーターがヴーンと唸り、道を照らしている。
それは暗い夜道に良く響いた。
「遅いよ」
公園に着いた僕を待っていたのは、白いワンピースの少女。
長くて綺麗な髪を、腰の辺りまで伸ばしていた。
「違うよ。桜が今年は遅かっただけだよ」
目を見合わせて、そして僕らは空を見上げた。
樹齢500年あるという巨大な木。
ごつごつとした幹の上から、ピンク色の何かが落ちてきた。
桜の花びらだ。
その桜は満開だった。
この公園のライトを合図に僕らは出会う。
一年に一度。
桜が咲きほこる季節に。
「今年はどんな一年だった?」
「相変わらずだよ。和明も美咲も修一も相変わらずだ」
彼女はただ、『そう』と言った。
君が転校してから、僕らはちょっとだけ寂しい日々を送っている。
それは言わずに心の中にだけそっと呟く。
それから僕らは色々な話をした。
僕の学校での生活のこと。
桜の学校での生活のこと。
気付けば、夜は白やんできた。
赤い朝日が昇る前の、一瞬の静寂の朝。
「じゃ、また来年ね」
そう言って、桜は公園のライトの電源を切った。
【桜同盟】
転校のときに彼女はそう言った。
また春になったら、ここで会おう。
僕は去っていく彼女に向かって手を振る。
「またね」

無題

作:創る名無しに見る名無し
お題:「嘘」「出会い」

 聞き飽きたチャイムの音が鳴り響いた。このチャイムは予鈴というやつで、五分後には五時限目の始まりを示す本鈴が鳴る。
「時間が経つのは早いわね」と佐藤麻実は呟く。
「全くだね」僕は頷いて、椅子から立ち上がる。
「今日はありがとう」彼女はいつもの笑顔を取り戻していた。
「どういたしまして」僕も笑顔を返す。
 ふと、なんだか出会った頃に戻ったみたいだな、と思った。しかし、一年という時間が生んだ壁はあまりに高くて厚い。僕はもう彼女に恋心を抱くことはないだろうし、たぶん彼女もそうだ。そもそも、僕が彼女の恋愛対象だったことなどなかったのかもしれない。
 僕達は人の波に乗って図書室をでる。喧騒に満ちた廊下の空気は、どこかすがすがしがった。それは図書室に篭っていたからか、彼女との話に夢中になっていたからか。たぶん両方だろう。
「それじゃ、またね」
「うん。またね」
 彼女は別れの言葉を言うと、僕を残してその場を去った。
 まったく、昔から上っ面だけはどこまでもお嬢様だ。きっと、次の授業に出るのだろう。あんな話をしたあとなのに――
 僕は授業に出る気分にはならなかった。そして「授業なんて、つまらない日々の繰り返し」なんて思っていた。きっと、彼女との会話のせいだ。

 國井先生を殺してやるのよ。
 図書館で彼女はそう言った。その後、「嘘よ」と言って笑ったけれど、彼女がそんな大胆な嘘を言うとは思えない。
 つまり彼女は本気なんだ。本気で國井先生を──

 いつ殺すんだろう。どうやって殺すんだろう。――そもそも、なんで殺すんだろう。
 彼女は殺意以外は何一つ語らなかった。
 ……いまさら問いただす気分にもなれない。自分で調べよう。そうすぐには殺さないだろうから。
 気付けば僕は廊下にぽつんと独り。廊下はさっきまでの喧騒が嘘のように静まり返っていた。 それから五秒と経たずに本鈴が鳴った。
 風邪で休んだことはあっても、サボったことはない。だから、僕はこういう時どこに行けばいいのかわからない。
 帰ってやろうか、とも思ったけれど、途中で誰かに呼び止められるのは嫌だった。
「…………はぁ」
 深いため息をついた後、僕の足は教室へ向かっていた。結局「つまらない日々の繰り返し」の中にしか僕の居場所はないのだ。
 まあ、いいや。どうせ、5時限目の内容など頭に入らない。だったら、彼女と彼女の殺意について考えを巡らしてやろう。

春の歌

作:◆KLShlXYtLo
お題:「さくら」「嘘」「出会い」「ウサギ」

♪あんだー・ざ・ちぇりー・つりー、
 うぃ・しんぐ・ざ・そんぐす・おぶ・すぷりんぐ、
 ざ・めろでぃー・らいく・あ・くりあ・ふろー、
 ごーず・おん・あらうんど・ゆー・あんど・みー・あんど・おん、
 うぃ・しんぐ・ざ・そんぐす・おぶ・すぷりんぐ、
 ざ・そんぐす・おぶ……


「へたくそな歌はやめなよ」
 しずかな声がそう言って、ぱたりと『へたくそな歌』はやんだ。
「あー、そーですか、そーですか。久しぶりに会ったと思ったらそれですか」と、代わり
に、むすっとした声。「でも、わたしの歌がへたなのは、わたしのせいじゃありません。
あなたのせいです」
「すごいことを言うんだね。でも、へたなのは認めるんだ?」
「あげ足をとらないっ。……わたし、英語は苦手なんです」
 少女はそう言って、少年の方に向き直る、
 ――桜の花びらが舞う中で、どこか楽しげな少年の顔。
 ついつい、すこしどきりとしてしまうのは、彼の女の子みたいに白くて整った顔立ち
のせい――だけではなくて、それが、その顔が、身体が、ひどくはかなげにみえたか
ら。
「この歌を教えてくれたの、あなたなんですよ」少女はすこしふてくされた声で言った。
「教えた覚えはないけどな」少年は応える。「きみが勝手にまねしただけで」
「あの……ずいぶんひどいことを平気な顔で言いますねー」
「きみだって、平気な顔で歌ってたじゃないか」
「それ、どういう意味です?」
「どういう意味だと思う?」
「…………」
 蒼い瞳に薄い笑みを浮かべる少年と、同じく笑みを浮かべながら、桜色の頬をひく
つかせる少女。ふたりはしばらくにらみあって……やがて少女の方が、ちいさくため
息をついて首を振る。
「……まったく、あいかわらずですね、ユリアン、あなたってひとは」
「きみの方もね、サクラ」

 きぃ、と小さな音がして、少年の乗る車いすが進む。彼がわずかに目を伏せ、その
感謝を示したことに、もちろん車いすを押す少女は気付かない。ただ、はじめて会った
ときから変わらない――あるいはもっと軽くなったような、彼の細い身体、その首筋を
見つめるだけ。
「ユリアン、身体の方はもう――」少女が口を開き、
「ウサギだ」彼は唐突に言う。
「……はい?」
「きみにはじめて会ったとき、そう思ったんだよ」
 少女はつと足を止めると、ずいと少年の前に回り込み、そうして、彼を見る――にら
むように、あるいは、にらんで――その黒い瞳で。
「あなたに言われたんじゃなければ、泣いているところですよ」
「それは残念だね。ぜひとも見てみたかった」彼は言って、なんのためらいもなくその
瞳で見返す。「実はウサギというのはね、みんな眼が赤いわけではなくて、あの種の
眼が赤いのは、アルビノという体質のせいで、眼の血管の色が透けて見えるからなん
だ。ふつうのウサギは、黒い眼をしてるんだよ」
 そのおだやかな視線を、少女は受け止めて、やがて目をそらす。「……わたしは、そ
んなんじゃありません」
「知っている。きみの場合、眼の血管が破裂して出血していたのだから、よけいにたち
が悪いだろう。サクラ」少女はその声音に、はっとしたように顔をあげる。「――身体の
方は、もうだいじょうぶ? ……手術はこわくなかったかい?」
 そのおだやかな言葉を、少女は受け止めて――やがて目をそらす。立ち上がり、彼の
背に立って、その細く白い首筋に、そっと手を伸ばす。
「こわかった……」彼女はちいさく言った。「こわかったに決まってるじゃないですか……
ずっと。もうこのまま、目が見えなくなってしまうんじゃないかって……実際、その可能
性もじゅうぶんにあったと聞きました。手術をしても、完全に治るかどうかは半々、もし
経過が悪ければ……って」
 もう片方の手で、自分の眼窩をおおう。かすかな暖かさ。それはそこに、皮膚の下に
流れる血の温度……。
「でも、わたしはがんばりました。怖かったけど……ほんとうに怖かったけれど、手術も
受けて……先生たちのおかげで、もうあんな分厚いめがねもつけなくてよくなったんで
す」
 少女は手をのけて――それを見る。桜の花を。かつて、ふたりが出会ったときからこ
こにあり、今も同じようにここにある、その花を……。
「そして、わたしががんばれたのは、あなたの――」
「サクラ」彼は言った。「ぼく、死ぬかもしれないんだ」

 ぎっ、と何かが鳴った。それが、車いすの取っ手をつよく強く握りしめたための音だと、
ふたりのうちどちらかは気付いた。
「実は、ぼくの脚は少しも悪くない。肉体としてはとてもすこやかだ。けれど、頭がそれ
を動かせない……神経系の治療は、今はひじょうに進歩しているけれど、残念ながら、
どんなことも多かれ少なかれそうであるように、確実とは言えない」彼は続ける。「確率
論はあまり意味が無いけれど、おおむね二割の確率らしい」
「……なにが、ですか」少女がしぼりだすような声で言った。
「生き残る確率だよ。正確には、健康な身体で生きられる確率だ。あとの八割は、両足
どころか全身が動かなくなるか、あるいは意識自体が――」
「嘘」少女はみじかく言った。「ユリアンがそんないっぱい話すときは、いっつも――」
「嘘だと思うなら、それでいい」少年は言った。「いずれにせよ、治療は一週間後になる。
その後は――いずれにせよ、もうぼくを押してくれる必要は無いよ、――!」
 唐突に、車いすが押された。それはどんどん速度を増して、風圧で少年の髪がなび
くほどになった。桜の花びらが揺れ、タイヤのきしむ音と、靴が地を蹴る音が響いた。
誰かのおどろいた顔にに出くわす前に、やがて速さはゆっくりになって、やがてまた、
止まった。
 ふたりの間に、春の陽射しと、そよ風の他に、小さな声が響いた。それは、しゃくりあ
げるような泣き声……。
「……ずるい、です」声は言った。「どうしていま、そんなことを……言うんですか。わた
しは……わたしは、あなたをはげましに来たつもりだったのに。あなたのおかげでがん
ばれたって、言うつもりだったのに」
 少女の暖かな手が、少年の首筋に触れる。
「こんなんじゃ、だめなのに……。……だめなんです、ユリアン、そんな……死ぬかも
しれないだなんて……そんなのは……」
 少年は前を向いたまま、片手を、その手に重ねた。暖かな手……それはそこに、皮膚
の、白い、桜の色をした皮膚の下に流れる、熱い血潮の暖かさ。
「わかってます……わたしだって、あなたが……元気になりたいって、歩きたいって、
そう思うって……それくらい……それくらいは……でも……」柔らかな手が、強く握られ
た。「でも、わたしは、あなたに……死んでほしくない!」
 なにか熱いものが、少年の手に落ちた。ざあ、と風が流れ、桜の花びらが、ふたりを
包むように舞った。抑え切れないあえぎが、少年の耳朶を打って、彼はほんの少し
目を伏せる。「サクラ」彼は言った。「顔を見せて」
 よろけるような足取りで、少女は少年の前に立つ……火照った顔に、涙の痕、いや涙
がいま流れて、うるんだ瞳が、赤らんだ眼が少年をにらむように見上げる。彼はそれを
――ちいさな気持ちを込めて見返す。
「サクラ、ぼくは――」
「だめです!」とつぜん、少年の視界を遮った――暖かい何かが。「そんなの、だめな
んです!……わたしは、わたしは――もういちど、ユリアンの歌を聞きたい! わたしが
がんばれたのは、あなたの歌のおかげなんです……あなたのおかげなんです、ユリ
アン!」
 少年は少女の胸の鼓動を感じた。それがひどく速いのは、さっき駆けたせいなのか、
あるいは……少年は自分の胸の鼓動も、おなじくらいに高鳴っていることを感じたが、
もちろんおくびにも出さなかった。
「ごめんね、サクラ」
「ユリアン……!」少女は叫んだ。
「だから、ごめん」少年は笑った。それは少女が久しぶりに見る――あるいは初めてか
もしれない、それはやさしい笑顔だった。「嘘なんだ。治療は八割方うまくいくんだよ。
考えてみなよ、先生たちが成功率二十パーセントなんて治療をすると思う? そもそも
ぼくが――」
「嘘」少女は呆然とした声で、言った。「……嘘、なんですよね……?」
「うん」少年はうなずき、笑う。「エイプリル・フール」
 ややあって――ぱちん、と高い音がして、少年はそのとき、久しぶりに――あるいは
生まれてはじめてかもしれない、誰かにそのほおを思い切り引っぱたかれたのだった。
……それでも彼は微笑んでいたし、少女は泣いていた……。



「サクラ」と彼は言った。「ごめん」
「それ、どういう意味です?」少女の、不機嫌きわまりない声。
「どういう意味だと思う?」
 車いすが止まり、少年は首筋に不穏な視線を感じる――「……嘘をついて心配させて
しまって、ごめんなさい」
「もう、許しません」少女は言葉とは裏腹の口調で、言った。「許しませんからね……
これでもし、ほんとに死んじゃったりなんかしたら」
「だいじょうぶだよ」少年は言葉通りの口調で返す。「きみがいるからね」
「……それ、どういう意味です?」
「ぼくはね、きみの泣いてる姿が見たかったんだよ」少年は変わらぬ調子で言う。「きみ
は、いつも笑ってて、怒ってて……でも、泣いてるときはなかったよね。だから、ぼくは
ね、もし万が一のときのために、きみの泣いてるところも見ておきたかったんだ」
 また車いすが止まり、少女がぽつりと言った。少年からはその表情は見えない。「…
…それだけ?」
「それは、どういう意味かな?」
「それだけのために……あんなこと言ったんですか」
「うん」
 少年がうなずくと、ややあって、少女はぼそりと言った。
「……最ッ低、です」――言葉とは、裏腹な口調で。
「英語は苦手なわりに、スペシャルな単語を知ってるね、きみ」
「…………」
 少女は黙って、つかつかと少年の前に回り込むと――しなだれかかるように、その
細い身体を少年のそれにあずけた。ふわりとした香りを、桜のそれに似た香りを少年
はおぼえる。つやのある黒い髪に、花びらが落ちる。
「……かならず」彼女の頭が、かすかに震えた。「かならず、戻ってきてください……
そうしたら、もっとスペシャルなこと、言ってあげます。だから、もしとか、万が一とか……
そんなことは、言わないで。……おねがい」
「ぼくは戻ってくるよ、サクラ」少年は変わらぬ表情で応えた。「実は、ぼくも治った後で
ひとこと言うつもりだった……けど、考えてみれば、今言った方がいいのかもしれない
な。だから、言うよ」少女が不思議そうに顔をあげると、彼は言った――「……もう泣か
せはしないよ、サクラ」
 少年は、少女の表情が、不思議から驚きに変わり、そして桜と同じ色に染まってゆく
のを、楽しげに見守っていた。それはほんとうに、ほんとうに楽しそうな――少年が、ほ
かの誰にも見せたことのない、とびきりの笑顔だった。


 春の空に歌声が響く。舞い散る桜、そのただなかで、寄り添うふたりの声が、少年の
透き通るような歌声が、少女のすこしたどたどしい歌声が、唱和する――

 Under the cherry tree                 桜の樹の下で
 We sing the songs of spring,              春の歌を唱おう
 The melody like a clear flow              歌声は清らかな流れのように
 Goes on ,around you and me, and on,        ふたりを包みこむ
 We sing the songs of spring,              春の歌を唱おう
 The songs of breeze, the songs of light,       そよ風の歌 光の歌を
 And we sing the songs for this wonderful world   歌おう このすばらしき世界に
 in unison...                         ふたりで……

 ――春の風に舞う花びらだけが、彼らを見守っていた。

無題

作:携帯 ◆4c4pP9RpKE
お題:

今朝は寒かった。
時計を見れば、朝6時きっかり。
漫画雑誌とゲームソフトの山を避けつつ窓に近寄れば、道路の黒を透けさせた灰色の雪が薄く敷き詰められていた。
最低の曇天がまばらに広がり、融けかけたかき氷みたいなベトベトのミゾレが降ったり止んだりの間断を繰り返している。
(めんどくさい……)
思いながら、僕はランドセルに教科書とノートを詰めた。
出し忘れたプリントが、ぐしゃ、と音を立て、ランドセルに教科書類が納まるのを妨害する。
めんどうなので無視。
やらなければならない宿題のプリントなら無くなってしまった方が好都合だし、
親に渡さなければならないプリントなら、後で親が慌てればいい。
もっと真面目な子供に育ててくれていれば親も僕ももう少し苦労せずに済んだだろうに、勿体ない話だ。
いつもなら、7時半までベッドでグズグズしてからゆったりと仕度を整え、
朝の会が終わった頃やんわりと教室に入る。
新学期早々の学級会に風邪を引いて欠席したりしなければ、飼育係なんて絶対に請け負わなかった。
欠席裁判のまま僕に遅刻をさせないよう議会は進み、僕は飼育係を割り当てられた。
イジメや疎外の対象にされないよう目立たないことだけを心掛けてきた僕が自然に議題に登るはずが無い。
先生の誘導で僕の飼育係が決まったのは想像に易いが、文句はいわない。
今後は先生にも目をつけられないように心掛けよう。
白のポロシャツ、長ズボン、紺のベスト、制服を着て、さらにダウンジャケットを着る。
ランドセルを背負い、頭にウールの帽子を載せ、首から口許までマフラーで巻く。
傘をさし、学校まで敷き詰められた融けかけたかき氷を、長靴で鳴らす。
学校までの最短距離で、なおかつ融雪装置の無い道を選ぶ。
雪の少ない日の融雪装置は下から降る雨と変わらない。

やがて裏門が見えてきた。
裏門から入れば飼育小屋のある中庭まで直通で行けるのだけど、
こんな時間はまだ、校門は開いていても中庭へ通じる扉が開かない。
中からつっかえ棒がはめてあるのだ。
裏門から入っても、結局正門に回らないと中庭へは行けないため、僕は裏門を素通りして正門へ向かった。
下駄箱で靴を履き替える。
校内で履くズックを“内履き”と言うのに、中庭へは内履きで出て良いことになっている。
しかし中庭は通路だけがコンクリート敷きで、コンクリートが敷いてあるところだって植え込みから土がこぼれ、
外履きで歩く屋外の道路よりも内履きで歩く中庭のほうが汚くなりやすかった。
内履きの内は、内外の内じゃなくて、校内の内なのかも知れない。
寒さを意識しないよう、余計なことばかり考えていた。
玄関のそばにある用務員さんの部屋の電気が点いている。
用務員さんが先生より早く学校に来ているなんてことは、飼育係を始めるまでは知らなかった。
3階の教室まで荷物を置きに行くのはめんどうなので、ランドセルを背負ったまま中庭へ続く廊下へ向かった。

そういう事があるのは知っていた。
だけどそれはドキュメンタリー番組を視聴して得た、いわば非日常の知識で、
実際にそれが身近に、それも、自分自身の日常に割り込んで来るとは思わなかった。
ウサギ小屋の中に、赤い塊が幾つも転がっていた。
一つ、二つ、三つ……計五つの、赤いもの。
ウサギの胎児だった。
いや、生まれているのだから、正確には、ウサギの赤ちゃんだった。
過去形の理由は、その全てが血を流して死んでいるから。
雄のウサギの口回りに、黒っぽい何か──血?が付いている。
『雄の兎は、番いの雌が産んだ子すら囓り殺すことがあります』
ドキュメンタリーが、頭の隅で再生される。
『囓り殺すことがあります』
『囓り殺すことがあります』
『囓り殺すことがあります』
「飼育係のせいだ!」
誰かが責める声。
「あんな遅刻魔に任せるべきじゃなかった!」
誰も居ないし、まだだれにも知られて居ないはずなのに、誰かが僕を責める。
僕が聞くであろう未来の罵声を、僕自身が予想して、自分に吐きかけていた。
「あんな奴死ねばいい!」
助けて……。
「お前が悪い!」
違う、僕のせいじゃない!
誰か、誰か助けて!
頭がぐるぐるした。
足がぐらぐらした。
ウサギ小屋を見た。
赤い、生きていたもの。点々。
視界の隅がキラキラして、視野が狭くなって行って、僕は水溜まりに倒れ込んだ。
どれほどそうしていたんだろう。
目を開けると、用務員さんが居た。
薄緑色の作業着を着た用務員さんは、ビニール傘を僕に差してくれた。
「大丈夫かい」
用務員さんの差し出してくれた手を取って、なんとか立ち上がる。
「こいつを見て、貧血を起こしたようだね」
用務員さんの視線はウサギ小屋を見ている。
僕はなんと言っていいかわからず、とりあえず頷くことしか出来なかった。
「確かにこれは、気持ち悪いね」
用務員さんは白髪混じりの短髪を撫で付けながら僕に傘を渡し、ウサギ小屋に入った。
ウサギの届かない高さに立て付けられた用具棚から、新聞紙を取り出す。
赤いものを丁寧にまとめて新聞紙に包んだ。

「君、内緒にできるか」
用務員さんは、新聞紙に包まれた五つを、シャベルで花壇に埋めながらぼそりと言った。
「何を、ですか?」
「そりゃあ決まっているだろう」
ウサギの事だよ、と言いたげに、視線を花壇に向けた。
用務員さんは立ち上がり、屈んで縮こまった腰を伸ばす。
「私は昔、先生をやっていたんだ。定年を迎えてから、用務員になった。だから──」
中腰になって、僕に目線を合わせる。
「──だから分かるんだ。ウサギが死んだ事が知れれば、君は酷くいじめられる」
僕はまた何も言えなくなって、黙って用務員さんの話をきいた。
「ほら、道徳の教科書で読んだことあるだろう。桜を折ってしまったワシントンの……
あれ?ケネディだっけ?」
用務員さんは冗談を言ったようだけど、ピンとこなくて、僕は黙ったまま居た。
用務員さんは恥ずかしさまぎれにか、真面目に続けた。
「正直者は報われる──そんなのは嘘さ。本当のことは、いつだってツラい。
君が正直者を気取れば君の居場所はなくなってしまう。だから、嘘をつこう」
用務員さんはウサギの子らを埋めたあたりに石を置いた。
あの雪と水と土のないまぜになった下に、“生きていたもの”が埋まっていると思うと、
僕は頭の芯がキリキリ痛んだ。
「こいつらはもう死んでる。死人に口なしってわけで、始めから居なかったことにしよう。
君は皆にいじめられないように、ウサギ達を犠牲にして嘘をつくんだ。
心が痛むかも知れないけど、決して言っちゃダメだ」
用務員さんは冷えて赤くなった手を、僕の肩に置いた。
「先生なら、命の尊さを教えたいとか言って、皆にウサギの赤ちゃんが死んだ事を言い触らすかもしれない。
でもそれは命の尊さじゃなくて、“君の弱み”として認識される。
きっと君のクラスメイトは命の尊さじゃなしに、人のいじめ方を学ぶチャンスを得る。
君はウサギを犠牲にしなければ、皆の学びを犠牲にしなければ、その餌食になる」
「う、うぇっ……ぐす」
僕はいつの間にか泣いていた。
「君は自覚しなくちゃならない。嘘の代償と、それが自分のためである事を。
無自覚な多数に受動的な学びの機会を与えるなんて糞くらえだ。
君一人に、自覚ある嘘を学ばせたほうが、幾らか明るい未来に繋がる……ような気がする」
用務員さんは、言うだけ言うと、「さ、鯉に餌やっておいで」と僕の背中を押した。
僕は泣きながら鯉に餌をやった。
年間4・5人は落水する池も、鯉の活性が低い今は、ただただ緑色にくすんでいた。

それから20年。
何の因果か、僕は弁護士なんてものを生業にしていた。
「裁判員制度って知ってますか?」
僕が面談室のアクリル板越しに聞くと、容疑者はこっくりと頷いた。
「じゃあ、これから裁判まで、僕の言うとおりにしてください。大丈夫、絶対に悪いようにはなりません」
僕は指折り数えて成すべき事を説明した。
「鏡に向かって、反省した顔を意識して作れる様に訓練する事。
黒髪に染め、清潔感ある短髪に整える事。
出廷には必ずスーツを着てくる事。
出廷するたびに目に見えて痩せる事。
反省文のテンプレートを暗記する事」
僕は身を乗り出して、容疑者の目を睨みながら言った。
「美人は刑が軽くなる傾向があります。逆に不細工は罪が重くなりがちです。
顔立ちが整った子供は再犯の可能性を低く見積もられます。不細工な子供は内心の反省を低く見積もられます。
人は善良であっても、無自覚に、不公平で狭量な判断を下しがちです。
そう、だから──」
大仰なタメをつくって囁いた。
「──嘘をつきましょう」



うそからでたまこと

作:◆KazZxBP5Rc

お題:「嘘」「さくら」「出会い」「ウサギ」
「ねえねえ知ってる?」
ある日のこと、女友達が話しかけてきた。
「桜の木の下には死体が埋まってるんだって。」
「ああ、よくある嘘だな。」
「え、そうなの!」
「結構有名だぞ。」
「じゃあこれは? 月にはウサギさんがいるの。」
子供かよ。いつまでそんなこと信じてるんだ。
いつもどおりの他愛もない話。それが、俺の覚えている中で一番新しい記憶。

なんだここは。暗い。それに少しじめじめしている。
どこかに閉じ込められているようだ。
何とか体をよじってもがいていると、突然視界がピンクに染まった。
桜……?
そこは桜並木の見知らぬ通りだった。
状況から察するに俺は土の中にいたらしい。
訳の分からぬまま通りを少し歩くと、ウサギがいた。
ウサギといってもそれは俺の知ってるウサギとは大きく違っていた。
まず身長が140cmほどあること。そして二足歩行していること。
俺は不思議の国にでも迷い込んだのだろうか。
「地球の花は良いですね。」
「へ?」
ウサギはどうやら俺に気付いたらしく、いきなり突飛なことを話しかけてきた。
「月ではなかなか観賞用の植物は栽培できなくて……」
「はあ……」
こういうとき、どういう顔をすればいいのか分かりません。
とりあえず一番の疑問を解こう。
「失礼なことをお伺いしますが、どうしてウサギさんが喋っておられるのですか?」
「歴史の教科書で習わなかったんですか? 2009年4月2日の放射線事故で地球の多くの生物に変異が起こったって。」
「ちょ、ちょっと待って。俺の一番新しい記憶は2009年4月1日だぞ!」
俺の必死さと対照的に、ウサギはくすくす笑っている。
「おかしな人ですね。今は2539年ですよ。」
にせんごひゃく……?
「もしかして、その事故の影響で今まで仮死状態だったんでしょうか。」
俺に聞かれても知らねえよ。
どうやらアリスじゃなくて浦島太郎だったようだ。
認めるしかないだろう。目の前にこんな生物がいるんだから。

少しの沈黙のあと、ウサギはまた口を開いた。
「私、あなたのこと知ってる気がします……」
その表情はまるで……。
「こんな時代にこんなこと言うと笑われそうですけど、前世? っていうんでしょうか。」
気付くと俺はウサギを思いっきり抱きしめていた。
「え? ちょっと……」
「ずっと言えなかった。友達に戻れなくなるのが怖くて。でもお前は、俺のこと覚えててくれた。」
2009年4月1日、あいつが俺にした話。こんな偶然がある訳ない。
「俺、お前のことが好きだ。」
だからこれは運命。そんなもの今まで信じてなかったけど、それ以外に表現のしようがない。
ウサギは、恥ずかしそうに少し顔をうつむけながら俺に身を寄せた。



おわり

桜の涙

作:◆FtC/MWKcXA
お題:「嘘」「さくら」「出会い」

SIDE:誠二


僕、佐倉誠二がこの街に来たのは14年前、まだ4歳の時だった。
あの頃とすっかり変わってしまった街を見下ろしながら、僕はいろいろなことを思い出す。
友達がなかなかできなかった子供時代。
イタズラして怒られて、泣きながら歩いた帰り道。
進路のことで親ともめて、家をとびだしたこと。

それらの話を嫌な顔一つせずに聞いてくれた、吉乃さんとの出会い。


──彼女はいつもあの丘にいた。
僕がそこへ行くと、黙って微笑んで迎えてくれた。
優しくて温かいあの場所が、僕は大好きだった。

小さかった頃、どんな言葉にも返事を返してくれていた彼女は、自分が成長するにつれ
途切れ途切れにしか声を出さなくなった。
あなたにはどう見えるかわからないけれど、もうおばあちゃんなのよ、私。
そう言った吉乃さんの声がふとよみがえる。
それでも。
それでも僕は構わなかった。
吉乃さんが僕の話を聞いてくれていることがわかっていたから。

僕は吉乃さんが大好きだった。
彼女と別れなければならないのがとても辛かった。
明日が来なければいいなどとさえ、今の僕には思えた。
明日になれば、僕はこの町を出て行くのだから。



SIDE:吉乃


私はずっと、この町に住んでいた。
たくさんの人と出会って、たくさんの人が旅立っていくのを見送ってきた。
だから、あの子──誠二に会った時も、いつものように見送るのを待つだけだと、そう思っていた。

初めて声をかけた日、彼は随分驚いていた。
本当は、声をかけるつもりは無かったのだ。
ただ、目の前で、あまりに大仰にすっ転ぶのを見たから、思わず声が出てしまったのだ。
涙をいっぱいに溜めたまま、小さな男の子は走って行った。
長い人生の、ほんの小さな出会いだとその時は思っていた。

それからというもの、彼はちょくちょく私のもとに来ては、いろんな話を聞かせてくれるようになった。
まるで自分の子供のように、──いや、孫のように愛しく思えた。
「私はあなたよりうんと年上で、もうおばあちゃんなのよ」
いつかそう話した時、彼は随分驚いた顔をして、何も言わずに帰って行った。
そしてその次の日、彼は私に一枚の絵を見せてくれた。
僕には吉乃さんはこう見えます、と。
それは本当に美しい絵だった。

あの絵をきっかけに、彼は自分の将来を決めた。
反対する両親をなんとか説得して、遠く離れた街に勉強に行くことになったのだと、
少し寂しそうな顔で彼は教えてくれた。

彼は明日の昼の列車で旅立つのだ。



「吉乃さん、今までいろいろありがとう」
真新しいスーツに身を包んだ誠二は、吉乃に声をかけた。
「夏はまだバタバタしてると思うし、冬もまだ忙くて帰れないかもしれないけど……
でも、来年の春には絶対に戻ってくるから。だからこの場所で待ってて、吉乃さん」
頑張ってね。
そう一言言いたいのに、吉乃の声は誠二には届かない。

「あのさ、吉乃さん」
他に誰も居ないのに、まるで誰かに聞かれたくないかのように声を潜めて誠二は続けた。
「こんなこと言ったら笑われるかもしんないけど……」
一つ大きく息を吐いて、吉乃に背を向け。
「僕の初恋って多分吉乃さんなんだよね」
ヘヘっ、と照れ笑いしながら誠二は吉乃の足元に腰を下ろす。
「今でも、大事な人には変わりないよ、吉乃さん。だから絶対に、僕が戻るまで待ってて」
「ありがとう、誠二。待っているから、頑張ってきなさい」
「吉乃さんの声、はっきり聞いたの久々かも。うん、頑張る。ありがとう、吉乃さん」

スーツに付いた砂を払いながら、誠二が立ち上がる。
「そろそろ行かなきゃ。じゃ、行って来るね、吉乃さん」
いってらっしゃい。
届かない言葉が桜の花びらと共に舞った。


この場所で誠二を見送るのはこれが最後だろう。
小さくなっていく誠二の背中を見送りながら、吉乃は思った。
この丘の再開発がもうすぐ始まる。
私の居場所は無くなるのだと、彼女は悟っていた。
それでも、誠二に余計な心配をかけたくなかった。

本当はもっと伝えたいことがたくさんあった。
誠二に出会って、老いていくだけの道に光が差した。
救われていたのは彼女のほうだったのかもしれない。
──けれどもう、伝えることは永遠に叶わないのだ。
このまま朽ちていくだけならば、せめて────


列車のベルが響く。
動き出した列車の窓から誠二は、今朝まで満開だった丘の上の桜が
一斉に列車に向かって舞い散るのを見た。





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