Rag@Beat

ARMS04

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四話 『Terrorism』

 巨大アームズ退治から数ヶ月、何事もなかったかのように日常は平穏でありジャックもまた普通の任務を普通に成功し、普通の報酬を得る、という生活を送っていた。
 そして現在、ジャックはクリス二人、正装をしてとある会場を歩いている。

「はぁ~……各企業本気というか、熱気に溢れてるというか……」
 漆黒のスーツをネクタイを外しシャツの第一ボタンを外すという着崩しぶりのジャックは会場の人ごみや人々がもつ熱気などに気圧され気味である。
「そりゃそうですよ。ある意味一番のプロモーションの場なんですから」
 その隣に立つクリスはジャックとは対照的に第二の肌のように自然に濃灰のスラックスとジャケットを着こなし第一ボタンを外しているが美しい首元自体が装飾品のように輝いておりダテメガネと相まって仕事のできる女のような魅力を振り撒いている。
「……そうか、一年で一番の商戦所だもんな」
 自分の格好はもとより横を歩くクリスの僅かな、それでいて大幅な変貌振りにジャックは奇妙な違和感というか、落ち着かなさを感じているらしく先ほどからどこか呆けている。
「企業からすれば戦場ですからね、アームズ展示会は」

 アームズ展示会。

 東京ゲームショーのように企業公開日と一般公開日に別れており本日は企業公開日なのである。
 本来であれば企業専属のアームズ乗りと軍事企業の社員しか入場できない企業公開日であるがジャックは特別招待券をいつぞやのISRIから送られていた。
「しかし、ISRIからの招待ってことは……」
「ええ、おそらくSSAおよびIA搭載ジェネレーターのお披露目がなされるということでしょう」
「アレが巨大アームズに搭載していた理由も探らなきゃな」
「ソレは企業のご老体たちがなんとかするでしょう?」
 不満げにクリスはジャックの腕を取る。
「ム……。そうか、今日は一種のデートだったな」
「ロボットに目を輝かせる少年のように楽しんでください。面倒なことは忘れましょう」
「それよりも立食パーティーのほうが興味深いけどな」
 そう、この会場はど真ん中が立食パーティーとなっておりその外側をズラリと新型アームズや新作ブースターなどの宣伝ブースが取り囲んでいるのだ。
「とりあえず各企業の宣伝ブースのパンフレットを貰いましょう。冷やかすのも面白いですよ」
「……ずいぶんと手馴れているな」
「私、デキる女ですから」
 おそらくこういった展示会などに良く参加しているのだろう。
「たしかクリスは……携帯端末が好きなんだよな」
「ええ、よく携帯端末の展示会に参加してますよ。日常での必需品にして社会的心臓ですからね携帯端末は。オシャレなモデルとかチェックしたいじゃないですか」
 ジャックには理解しがたいことだがクリスの携帯端末は赤くて可愛らしい女性に人気のモデルであった。
 ジャックからしてみればシルバーや黒の無骨なモデルこそが携帯端末らしいと思うのだが最近ではジャックと同年代であろう男が街中でチャラチャラとした黄色い携帯端末を弄くっていたりするのである。
「……しかし、あいかわらずティーゲルは無骨なフォルムだよな」
「ティーゲル《虎》と言うだけはあってどこか獣のような部分がありますね」
「瞬発力、速度、持久力……何をとってもバランスは良いんだけど若干攻撃に傾倒してることと悪役顔なのが特徴だよな」
「バランスを重視しながら防御と遠距離攻撃に傾倒したムーラン・ルージュ《紅き風車》はヒロイックですからね。子供のロボットアニメなんかに引っ張りだこですよね、二社のフレームは」
 おかげさまで二社はそのロボットアニメのプラモデルによる収益がなかなかの金額だと言うのは有名な話であり、今日も新作フレームのプラモデルが先着百名に販売され開場五分で完売した。
「よう、愉しんでるかお前等」
 ジャックのようにスーツを着崩しながらジャックとは違いそれがワイルドな魅力に繋がっているアメリカンな男、ブースが立っていた。
「あれ、ブース先輩。なんでですか?」
「グラニオンから招待券が来てな。お得意さんだからって布石だろう」
「引き抜かれるんじゃないですかね。ご機嫌取りならもっと上客もいるはずですし」
「だろうな。その気があるフリしてプレゼントだけ頂いているがな」
「新聞勧誘をギリギリまで引きつけてもらえるものだけ貰って断わるみたいなことしてるんですね」
「奴さんが勝手にプレゼントをくれるだけだ。俺は何もしてないさ。悪いことも良いことも、な」
 ニヤリとシニカルな笑みを浮かべるブース。
「しかしまぁ……何時もと同じスーツなのにここまで見違えるか」
 心底感心した、とばかりに顎をなでながらシゲシゲとブースはクリスを観察する。
「眼鏡とネクタイしかつけていませんが、ね」
「そのネクタイがその開けた首筋に視線を誘導してるわけか……素肌から綺麗な女じゃないと出来ない芸当をよくまぁ……佳い女だな。そう思わないか、ジャック」
「え、あぁ……まぁ、確かにイイ女だとは思いますよ」
 そう口にするジャックは歯にものが詰まったように歯切れが悪い。
「不満げだな、何が文句あるんだ」
「むしろ、コイツの横に立つ俺に不満があるんですよ。俺には似合わないでしょ、こーゆーの」
 憮然とした表情で肩を竦めるジャックをブースは上から下までじっくりと観察して一言――“渋さがたりん”
「くたびれたロングコート、ボサボサの頭、無精ひげ、くわえタバコ……せいぜい三十代後半にならんと味が出ないタイプだな、お前さんは」
「男の魅力は三十代からですよ」
「慰めになってねぇ……」
「じゃぁこう考えろ。お前がチンチクリンだからクリスが引き立つ」
 集合写真で見栄えのしない子の横に立ちたがるチャラチャラした女みたいなことを口にするブース。
 ジャックはそのセリフに呆然とする。
「俺は装飾品かなんかですか……」
「自立型装飾品だな」
「先輩、お願いがあります」
「なんだ。聞いてやるぞ、聞くだけだが」
「クタバって下さい。三回ほど」
 二人のやりとりを横で聞いていたクリスは耐え切れずにプッと噴出す。
 毒舌の応酬をしていた二人は肩を震わせて笑っているクリスに視線を向けて毒舌合戦を一時中断した。
「……そういえば、アジアンブースにISRIが出展してたな。あの新ジェネレーターが展示してあったぜ」
「でしょうね。俺もその筋で招待されたわけですし」
「それはいいとして……クリスはどういった筋なんだ」
「私、デキる女ですから」
 えっへん、と胸を張るクリス。
「え、あぁ……そうか」
 深くツッコンではイケナイことだと悟りブースは口を噤む。
「便利な言葉だな……」 
「女の子は秘密が多いほうが魅力的なんです」
「女の……子、ねえ」
 意味ありげにジャックはチラリとクリスを盗み見る。
「何ですか、なにか不満そうですね」
 黒いオーラを纏いながらクリスがジャックに問い詰める。
「ナンデモアリマセンヨ、エエ」
「すばらしい棒読み具合ですが……まぁいいでしょう。私だって大人のデキる女です。女の子というのに無理があることは認めましょう」
「ソ、曹操……クリスは若い社長秘書みたいな魅力の持ち主なんだから『女の子』というより『女』のほうがシックリ来るって」
「でも……こうすれば、女の子に見えるでしょう?」
 そういってクリスは眼鏡とネクタイを外す。
 それはいつも通りのクリスのスタイルなのだが今までの眼鏡スタイルからの突然の変化、故にその落差《ギャップ》は衝撃。
「……う、上目遣いは反則だ」
 それはなによりも饒舌な答えであった。
「やれやれ、お熱いことで……」
 呆れながらブースは肩を竦める。
「ん、おいしいな……このローストビーフ」
 近くの机に並べてある皿に盛られた肉を素手で一枚掴んでブースは口に運んでいる。
「……先輩、お皿にちゃんと取ってから食べてください。不潔です」
「硬いこと言うなよ。一枚味見しただけじゃないか」
「あとローストビーフの汁のついた指を舐めるのはどうかと思いますよ」
「それよりメシ食おうぜ、メシ。すいてる今のうちに食っておけば質の良いもん食えるぜ。あとすいてきたころにブースにいけるぜ」
「先輩、空間《ブース》と先輩《ブース》がややこしいです」
「ニュアンスで理解してくれ」
「行間を読め、ということですね」
「空気を読む、でもありだがな」
 ニヤリ、と二人は笑みを浮かべる。
「ここで颯爽と私が空気を読まない言動をすればいいんですね?」
「空気読んだ上で空気読まない行動しなくていいから……。っていうかそういう確認しちゃダメだろ」
「そこはオフレコで」
「……いや、テープじゃないから編集できないよ?」
「ジャック、流石にアームズなんていう超兵器の時代にテープというのは古過ぎます。二千十年に電話を回す、というぐらい古いです」
 そんなことを言うクリスもたいがい……ハクシキだと思うのだが。
「流石に固定電話がなくなってきたころに黒電話は古いな……」
 まぁ、確かにもはやベータも使われずにUSBメモリへ録画するタイプのカメラですら使われない時代にテープというのは古過ぎたと言えるだろう。
「ム、俺のPDAにメールが……」
「「……PDA?」」
 パームトップ型パソコン、手の平PC――パームやザウルスにより少しは有名になったが携帯電話の躍進により駆逐された存在。
 古いだけでなくマニアックですらある機械……まぁ、携帯端末の位置づけやフォルムなどはPDAを彷彿とさせる……というかPDAをイメージすれば大まかなところ間違いはないのは確かだが……その、もはやPDAと言われてわかる人が残っている時代でもあるまいに。
「ん、なんだ、しらないのか? この携帯端末の前進のスマートフォンはセルフォンにPDA機能を追加したものなんだがなぁ……」

「しかし、今回の目玉はどうあっても新ジェネか」
「そりゃこの数ヶ月、SSAがあるおかげで通常兵器なんて怖くありませんでしたからね」
 Soft-System-Armor《ソフト・システム・アーマー》――通常兵器程度の攻撃はユラリと揺らめく虹色の防壁に阻まれ一切の攻撃が通用しないと言って良い。
 SSAを破れるのはアームズ専用兵器による攻撃のみである。
「マシンガンやショットガンはSSAを破る、というより剥がす、ですけどね」
「ん、どういうことなんだ?」
「SSAっていうのは……まあいえばブロック崩しみたいなものでしてね、百のダメージをうけたら百のSSAが壊れるんです。で、ジェネレーターが出力したエネルギーによって百のSSAが生産されてそこに投入される」
「つまり、ロケットペンシル式ってことか……?」
「ロケットペンシル……? なんです、それ」
「知らないのか。エンピツの芯をこう、引っこ抜いてケツに刺して次の芯を押し上げるタイプなんだが」
「トコロテン方式ってことですかね」
「そうか、知らないのか……。俺がガキのころは流行ったんだがなぁ、アレ……」
「まぁ、そんなわけでして、マシンガンやショットガンはジェネレーターの出力を上回る勢いでSSAを削り殺して行くんです」
「つまるところSSAってのは自動回復《リジェネ》と蘇生《ライズ》をかけた不死身の盾で、バズーカやミサイルはその腸をぶち抜いてお前に攻撃してくるところをマシンガンやショットガンはSSAを蜂の巣にしたあとでお前に攻撃してくるってことか?」
「ええ、短期決戦ならバズーカのほうが強いですが長期的にみると……一度SSAが削がれたら回復には時間がかかりますからね。一度剥がれたらそこからはSSAという強みはありません。最初の数十発はSSAで無傷に出来ますけど」
「つまり長期戦になると『継続的にダメージを軽減できる』SSA貫通武器のほうがSSAの効果が最大限利用できるワケか」
「ま、今後はSSA貫通とSSA強化のいたちごっこでしょうけどね」
「だな……」
 人類はいまだイタチゴッコの解決策というものを見出せずにいる。
 科学は進歩しても人類は一向に進歩しないのだからしかたのないことではあるが。
「ま、闘争は生物の本能だしなぁ……」
「……? 何か言いましたか、ジャック」
「いーや、なんでもない。軍事企業のご老人どもは命をかけてでも戦うだけのもんがあるのかね、と思っただけさ」
 恋敵を蹴落とし子を成し、子孫繁栄のために財を成す。
 それは生物総てに共通する本能である。

 だからこそ人類もまた軍事戦争と経済戦争を行うのだ。
 だがしかし、生物のソレは大将が陣頭にたって指揮し、時には先陣を切って突撃して行く。
 しかし翻ってみればどうか、企業首脳部はのうのうと安全な場所から指示を出し、それによって生じた利益を我が物顔で独占する。
 命を賭けて戦った部下には僅かばかりのはした金を与え自分はそれと比べ物にはならないだけの利益を手に入れる。己の命を賭けることもなく、だ。
 それはギャンブルで部下が稼いできた金をピンハネして僅かばかりの手間賃を給付するだけのヤクザのようなものだ。

 人類の戦争が救いがたいのはまさにこの一点にあると言えるかもしれない。
 戦争を支持するものが、扇動するものが、賛同するものが、戦場に赴かない――まさにこの一点こそが人類の戦争の最大にして最悪の汚点であろう。
「フランセス・アン・ケンブル『確かに“貴族が義務を負う(noblesse oblige)”のならば、王族はより多くの義務を負わねばならない』……近代以降の戦争においてノーブレス・オブリージュなど存在しませんからね」
「たしかにノーブレス・オブリージュは国にとっては危険な思想だろう、つまるところ国を運営しているお偉方ほど死ななければならない、ってことだからな。でもそれは戦争は下策の下である、という考えからすれば当然だ。戦争回避のために尽力するのが正しいありかたである以上戦争を回避できなくなったのならさっさと責任をとって偉いさんはさっさと退場し、国を破滅させなければならない」
「国敗れて山河あり……人間にだって寿命がある以上国もまた不滅ではない。そして意味の無い延命措置は資源と財源の無駄遣いである、ということですね」
「まぁ、そういうこと……ノーブレス・オブリージュという考えが広まれば戦争が下策の下だと気付いてくれるはずなんだが。近代以降の人類は戦争が上策ですらある、と勘違いしてる節があるからな」
「難しいことを考えても意味はないぜ。俺たちは所詮二束三文のはした賞金のために命をベットする親不孝者なんだ。勝手に戦って勝手にくたばるだけだ」
「ま、そうですね。そういうご大層な御託は偽善者と反動家に任せましょう」

 ◇◇◇

 轟音、悲鳴、ざわめく人ごみ、逃げ惑う人々、阿鼻叫喚。
 それは展示開場に乱入してきたアームズが振り撒いた最悪のプレゼントであった。
「ちっ、反動家どもめ……何も俺のいる時に襲ってこなくてもいいだろうに」
 企業公開日――それは企業のお偉方が多数来訪する日である。
 だからこそセキュリティーの問題上決められた人数しか招待されないうえ、あらゆる安全に関する厳重な注意が施されている。
「テロリストどもの数は……第二世代アームズ七体か」
「武装だけは第三世代のものを流用してますね」
「機動性は段違い……といいたいが開場でクイックブーストは使えんし……棒立ちとなれば装甲の差しかアドバンテージはないぞ」
「それも数の差で圧倒的に覆されますよ」
 そう言いながら二人は展示品のアームズに駆け寄り、その一歩後ろをクリスが追いかける。
「クリス、アームズで一般人の誘導をしろ! 俺が背中を守る。先輩、舞台は用意しますから一世代の差を見せ付けてやってください」
「アームズの搬入ように会場が大きくてよかったな。歩くには不便だがアームズサイズなら丁度良い」

 ◇◇◇

『はいはい皆さん退避退避、壁際に寄ってください。ほら、危険ですから。ほらほらこの机でバリ張って』
 テキパキと展示用アームズを奪い取った三人はアームズを起動させる。
 とはいえどクリスは情報統合制御体との接続プラグを埋め込んでいない。それ故に緊急時用のマニュアル操作でアームズを操作しているのだが。
『テメエら何やってやがる! 死にたくなかったらおとなしくしてろ!』
『ぉう、テロリスト諸君がお怒りモードだ。人道に基づいて避難誘導してるのに。諸君はアレか、非人道的なテロリストですか。人心を得ない反動家はイカンよ、死亡フラグだ』
『黙れ!」
 轟音とともにアサルトライフルが三度火を噴く。
『チッ、武器もたない一般人に発砲する銀行強盗みたいなヤツめ……』
 ジャックが悪態をついている間にブースが一体のアームズを背負い投げで地面に叩き付ける。
 だがしかし、その程度で会場は小揺るぎもしない。もとよりアームズの搬入作業などである程度の振動は想定されているのだ。
 とはいえど、その衝撃ともいえる轟音は一般客にとってはスタングレネードを投げ込まれたのと同様の効果をもたらした。
 視覚こそ遮られなかったものの、轟音は聴覚を狂わせ避難誘導の声も届かない。

 オープン回線を切ったジャックは一人コクピットで冷や汗を流しながら呟く。
「……クリスをアームズに乗せたのは正解だったかな……ある意味一番安全な場所、ではあるしな」
『ジャック、ある程度の避難誘導は完了しました。以降は自主的に避難してくれることかと思いますが……』
「わかった。一般人はアイツらにとっちゃ人質だ。一般人の安全を第一にしながらも先輩の手伝いをするぞ」
 ジャックとクリスは一般人を避難させたバリケードを背中にするようにジリジリと歩みを進める。
 そこに一体のアームズが銃撃を加えてくる。
 それでも二人は距離を詰めることが出来ない。
 二人に出来るのはこうしてブースから注意を反らすことのみである。
『ハッ、狼の狩場にノコノコと紛れ込んでくるとは、阿呆の極みだな』
 三体のアームズがジャックたちを半包囲し、銃撃を加えてくる。
「クッ――」
「――キャァッ」
 第三世代機である以上は第三世代アームズの武装は十分以上の有効打である。
 しかし、一般人の護衛という枷がなくともブースは現在三対一での格闘戦を強いられているのだ、二人が少しでも敵の注意を引くしか勝機はない。
「うーん……どうする。クリス……。敵の注意をひきつけるのはいいんだが、その分回避も出来ないから危険が飛躍的に上昇するんだよな……」
『呆気に取られれば注意は引けますが攻撃はされないかもしれません』
「呆然とさせろってか……いいけどそれ、キャスラックのお世話になりそうだ」
『……ジャック、それはアニマスピリチュアならびにその関係者の特権です』
「なんで五部作のうち二部作目を選んだの……」
『ジャックの趣味なら二部作目だろう、と思ったんですが……違いましたか?』
「むしろジャストミートすぎて困る」
『お前等な、戦場で楽しげにおしゃべりしてんじゃねぇ!』
「あ、先輩」
『“あ、先輩”じゃねぇ!』
 そんな和気藹々と通信をしている外では轟音とともに弾丸が三点バーストで次々とジャックとクリスのアームズに着弾している。
『それより展示品の武器を手に入れたから受け取れ!』
 そう言いながら投げ渡されたライフル二挺をジャックは受け取る。
「クリス、俺は突撃する。一般人の護衛は頼んだぞ!」
 言うが早いかジャックは通常ブーストを吹かし三対のアームズに突撃しながらライフルのトリガーを引く。
 速射制も取り回しのよさもアサルトライフルには劣るライフルだがその衝撃力の大きさは十分以上のアドバンテージといえる。
 そして第三世代アームズの武装を無理やり流用している以上第二世代アームズでは第三世代アームズの武装は活かしきれない。
 取り回しの良さでいえば勝っているアサルトライフルでもフレームの差によりその差は逆転しているといえる。
 今敵にあるのは数の優位、ソレのみだ。
 それももはやブースが武装を投げて寄越す余裕を回復した今では時間の問題といえる。
 ジャックはクイックブーストを効果的に利用して敵のアームズがジャックに照準を合わせた瞬間に視界外にクイックブーストで逃げ回っている。
「第二次世代アームズに第三世代の武装は重すぎるんだよ……!」
 たとえアサルトライフルといえど第二世代当時の武装に置き換えればスナイパーライフル級の重量なのだ、そんなものを近距離で振り回してまともな戦いができるはずもない。
 第二世代アームズの任務は警察の治安維持、アームズ同士の闘争は想定されて無い以上武装もまた同じ。
 そして装甲もまたせいぜい火器程度に対抗できればよかったのである。
『憐れな……だが俺は容赦せんよ。鉄火を持ち挑んでくる以上は互いに本気だ。それが戦場というものだろう?』
 オープン回線でジャックは冷酷とも言える宣告をする。
 それは威圧であり威嚇である。
 テロリストどもの降伏を促すためにこちらが圧倒的だと錯覚させるハッタリ、しかしそれは虚偽ではなく、少しだけ先の未来。
 このままジャックとブースがテロリストどもを制圧するのは疑いようの無い事実。
『あー、こいつはマジで容赦ないぞ。死にたくなかったら降伏したほうが無難だ。治安当局に捕まるほうが……安全だと思うぜ』
 流石に治安当局といえどテロリストに寛容とは行くまい。
 治安当局ですらもはや企業の子飼いという現状、テロリストは当局からしてみればご主人様に牙を剥いた敵でしかない。
 だがしかし、当局ならば司法取引というものが成立する。
 それ故にブースの言葉は紛れも無い事実である。
『クッ、ここまでか……』
 ブースを取り囲んでいた三機のアームズのうち、もっとも動きが良かった機体が動力を停止した。
 隊長機だったのだろう、それに相次いで次々とテロリストたちは投降し、総ては三人の活躍により終結した。

  ◇◇◇

 結局、治安当局が護送中に護送車ごと爆発炎上し事件の黒幕の正体はわからずじまいであり、治安当局は局員が爆発で数名殉職したとして大激怒というオチがついた。
 だがしかし事件に収拾をつけた三人はこれについて一切の興味関心を抱かず『ずいぶんと派手に証拠隠滅したもんだ』程度にしか思わなかった。
 三人にとってあの事件は偶然巻き込まれて偶然解決しただけの事件に過ぎなかったのだからそれも当然の反応なのかもしれない。







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