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液体を入れて大分重くなったジャグを持ってグラウンドに戻ると、ちょうど模擬試合を終えた選手たちが向かい合って「ぁざっしたァー」と適当に礼をしたところだった。
「ぁ、それそこ置いて」
佐藤に言われたとおりに仮設テントの下に設置されている小さな机にジャグを置くと、まだ荒い息をしている選手たちがワラワラと集まってきた。
「使うコップは皆それぞれ決まってるから、汲んで適当に机に置いていったらムグ」
給水のシステムについて説明してくれていた佐藤は、後ろから突然のびてきた手に口を塞がれ、言葉を途中できらざるをえなかった。
「チッチッチ………それは違うなぁ、佐藤クン」
そう言ったのは佐藤の口をふさいだ笑顔の掛井先輩だ。
「マネージャーはコップに水を汲んだあと、“お疲れさまです!”って言いながら手渡しで皆に配っていくんだよ」
偉そうにそう宣言した瞬間、集まっていた先輩たちが『おぉ――ッ』『グッジョブ朔!!』と一気に盛り上がる。
「先輩………?」
掛井先輩の手から逃れた佐藤は怪訝な顔で先輩の顔を見上げたが、
「あぁ佐藤、お前は別にグラウンド10周してきてもいいんだぞ☆」
「すいません、そうでした俺が間違ってました」
その言葉を聞いた瞬間すぐさま前言撤回した。確かにこの広さのグラウンドを10周するのは、キツいどころの話じゃない。
でも、もうちょっとかばってくれたって………と少し佐藤を恨んでしまった。
なんで僕が男達にそんなに愛想を振りまかなければならないのか。しかもこの様子だと、笑顔全開でやらなければ文句を言われそうだ。うぅー、それ、嫌だなぁ……

「あ、そうだマネージャー」
あれから何とか給水の時間をしのぐと後の時間は早いもので、7時になると全員でグラウンドに礼をして、今日の練習は終了した。
結局今日は顧問の先生来なかったなぁ……と思いながら、自分も荷物を取って帰ろうと思い用具庫に向かうと、掛井先輩に後ろから声をかけられた。
「はい?何ですか?」
「悪いけど最後にもう一つ仕事があるから、後で更衣室の方に来てくれる?」
「あ、はいわかりました。じゃぁ……20分くらいに行きますね」
わざわざ更衣室に呼ぶくらいだから、部員たちが着替えた後に掃除とかしなければならないんだろうか?あー、それめんどくさい……
気付かれないように、振り返ってから小さくため息をついた。

「掛井先輩?朝川です、入りますよー」
コンコン、とノックをしてから更衣室の扉を開ける。
経験上分かっていたが扉を開けた瞬間、ムワッとむさ苦しい臭いが漂ってくる。ぅーここ掃除するとかイヤだなぁ。前の学校のマネージャーもこんなことやってくれてたのかな……
「お、来たか蒼翡ちゃん」
『蒼翡ちゃん』というのが一瞬自分の事を呼ぶ名だとわからなかった。
そうか、今はもう部活の時間じゃないから呼び方区別してくれてるのか……でも“ちゃん”は………それを自分の名前につけて呼ばれると、なんだか背筋がゾォッとする。
「あ、悪い、扉は閉めてくれる?」
「はい……えっと、それで最後の仕事ってなんなんですか?」
言われるがままに扉を閉めてから振り返ると、目の前に掛井先輩が立っていた。
うわぁ、改めて近くで見るとやっぱり美形だなぁ、この人。それに副部長してるだけあってやっぱサッカー上手いし、僕が本当に女なら惚れてたかも……
「ぁー最後の仕事?んー……なんて説明すればいいのかなぁ………つまり」
そう言いながらもう一歩近寄って僕の髪(そこはカツラだけど)に触る。
なんだろ、癖なのかな?顔近いし、僕でもちょっとドキッとするんだから本物の女の子ならイチコロだろうなぁ……ぁーいいな、得な顔!
「部員の疲れを癒す――ってゅーか?まぁ、部員って言っても俺限定だけどね♪」
そう言って掛井先輩は僕の口をふさいだ。


  * Hope Love *