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「ぁ、マネージャーちょっと」
ギプスをたたんでいると、掛井先輩にちょいちょい、と手招きされた。
「あ……すいません、掃除まだ終わってないんですけど」
「いいよ別にー。だってマネージャー、わざわざボール磨いてくれてんだろ?ありがとな」
ぅわー見てくれてたんだ。
僕が勝手にやって時間取ってるだけなのに、お礼を言ってもらえると嬉しい。
「実は6時に一回休憩するんだけどさ、今その時に飲む水を取って来てほしいんだ」
チラッと時計を見ると5時45分。もうそんなに時間たってたのか……
「今までは1年の仕事だったからねー……おい佐藤!ちょっと来い」
掛井先輩がリフティング練習をしていた1年の一人に声をかける。
「はいっ!」
威勢よく返事をしてこっちに走って来た人には見覚えがある。確か同じクラスのヤツだ。
「マネージャーにジャグの場所教えてくんない?ぁ、2人きりだからって変なことすんなよ~?」
「しませんよぉ、先輩じゃあるまいし~w」
「なにっお前、生意気な~!帰ってきたらグラウンド走らせてやるから覚悟しとけよ!」
「本当の事じゃないっすかぁ」
ちゃかし気味に言う佐藤を見て、そんな事先輩に言うなんて勇気あるな~と思っていたら掛井先輩も先輩で、冗談まじりに殴るポーズを取って笑いとばしている。
うわ、こんな先輩と後輩のやり取りも珍しいよなぁ。今まで僕がいたチームなら、先輩に対して到底そんな口聞いたりできないのに………
でも、これは掛井先輩の人柄もあるんだろうな。さっきのVサインといい……そんな感じの人っぽいし。
そして「ぁー怖い怖い」なんて言いながらさっさとグラウンドの出口に向かって走り出した佐藤に遅れないように、僕も走り出した。

ややあってついたのは、本館の一階の隅にある給湯室だった。
「ここでジャグとコップを取って、職員室にある冷蔵庫のスポーツドリンクを入れて持って行くんですよ」
へぇ~、水じゃなくてスポーツドリンクで、しかも職員室で冷やしてくれてるんだ。
さすが強豪サッカー部、待遇いいなぁ。
「ぁ、敬語は使わなくていいよぉ。だってほら、同級生だしっ」
そう言って笑いかけると、佐藤は驚いた顔をした。
「朝川って“高嶺の花”ってカンジで話しかけにくい印象あったけど、そんなことないんだな。勝手に勘違いしてゴメン……俺は佐藤 貴洋(さとう たかひろ)。これからよろしくな、マネージャー」
「うん、よろしく。………あ、そうだ、うちのクラスって貴洋君の他にも誰かサッカー部の人いるの?」
クラスの人とは早く打ち解けたいし、なんとなくそう聞いてみる。
「あぁ、いるけど……うちのクラスは3人だけだな。あと田中と荒垣ってやつがいる」
「田中君と荒垣君か……う~、早く名前覚えなきゃダメだなぁ~」
2個あるジャグを取り出して何も言わずに2個とも持ってくれようとしたので、慌てて一つ奪い取る。
「ぁ………そうだ」
「ん?どしたの?」
それから特に他愛もない話をしながら職員室に向かっていると、急に佐藤がキョロキョロと周りを見回してから、小声で耳打ちしてきた。
「タッさんの事もあるし、言っとくけど………掛井先輩には気をつけた方がいいよ」
「ぇ……どういうこと?」
タッさんって、あのクラスの中心にいた愛沢って生徒の事だよね。でも、掛井先輩に気をつけろって一体………?
「いや、朝川……真面目にカワイイし。あの人ヤバいくらい手早いから、お前は危ない」
そんな……真剣な顔で忠告されても、僕男なんだけど。
カワイイとか言われても全然嬉しくないし。なんだ……もっと重要な事かと思った。
「ぁー………ありがとう。でも大丈夫だよ、私は」
だって男だから。
タッさんとの関連性はやっぱりよく分からなかったけど、僕の身を案じて言ってくれたんだし、一応お礼を言っておいた。
すると佐藤は
「とりあえず俺、今日家帰ったらクラスの奴に朝川にお礼言われたって自慢するよ」
ほくほくとした顔(しかも真顔)でそう呟いたので、この人大丈夫かなと思った。


  * Hope Love *