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変態年下×ツンデレ年上

老剣士、折口さんの居合刀はおっきい。
 普通の、たとえば俺の刀の倍くらい重い。厚くて太い。
 こしらえが無骨ですり切れてて、稽古の後は汗でじんわり湿っててムンムン湯気吹いてるのが見えるよう。
 稽古中は、努めて無心を心がける。その代わり、終わったら晴れて俺の幸せ妄想タイム!
 超高そうな山本師範の刀も、美麗でゴージャスな神田さんの刀も、可愛い少年剣士たちの刀もみんな良い。
 んだけど、 最近のお気に入りは断然折口さん! の刀!
 あの男臭い魅力にはまったらもうたまらん。
 折口さん、六十過ぎてるんだよ。師範代になってもいいんだろうけど、流派が違うからここの道場にはあくまでお客さんで通ってきてる。
 うちの師匠に師事してるわけじゃない、純粋に鍛えにきてる人。
 俺みたいなぺーぺー、口きいたことないよ。道場でだけ会うから、いうもキンキンに緊張感ある。
 だからなかなか気づかなかったんだよね、その魅力に。
 一度取り付かれると、俺の妄想は最高潮に達した。
 折口さんの刀萌え。まじイカす。握りしめたい。ふっといこしらえをはさみたい。
 もうね、神聖な居合道的に犯罪的に冒涜的。稽古中はなるべく我慢するけど、正直ガン見だし。
 神様ごめんなさい。師範ごめんなさい。俺はいけない変態の子です。

 と、気がつくと、道場にはもう誰もいなくて、折口さんだけが俺を見てた。
「……見ていたな」
「いやこれは! 決してその、本気じゃなくて」
「……」
「滅相もない! ややや、すみません本当に!」
 俺のうろたえを意にも介さず、折口さんは鋭いまなざしを外してくれない。
 妄想以上に、身が縮んだ。
 他流派の折口さんをじっと見ること、技を盗むような真似、それ自体が責められることだったのかもしれない。
 蛇に睨まれた蛙。達人に気で殺される。斬られる。そんな恐怖で俺は固まった。

「……ほら、持ってみろ」
 ──え? あれ?
 ぐいと突き出された折口さんの刀は、眩しいほどに清らかに見えた。
 カーッと血が頭に上る。
「重いぞ、気をつけて」
「あ、はい!」
 俺のいけない衝動は、綺麗に消えた。
 ずしりとした重みは噂どおりで、それは折口さんの年月の重みだった。
 真剣に道を究めんとするものの覚悟。
「……ありがとうございます」
 礼を言って返してからも、手に痺れたような感じが残った。
「あの……」
 何と言っていいかわからない。後ろめたくもあるが、俺の中の何かが昇華した感じだ。
「……勉強になりました」
 ようやくそれだけ言った。折口さんはにっこり笑った。
「なに」
 たった一言。

 去っていく後ろ姿に、やられた。
 刀はもちろん格好いい。男らしくてエロい。それは変わらないけど。
「格好いい……なんて格好いいんだ」
 折口さんが格好いい。
 年を経た体さばき。汗で後ろに流したロマンスグレー。
 すり切れて石けんの香りただよう道着。袴から見える素足のチラリズム。
 考えてみれば居合い始めたのも師範や師範代の演武に惚れたからで、そういや俺って。
「ジジ専ってやつ、なのか……?」
 でもまあ刀にハァハァ言うよりは健全かも。稽古に身も入りそうだし。
 結局変態には変わりないみたいで、どうしようもないけどね。