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気合入れて張り込んでいたわりにそれが報われる事はなく、彼女が現れたのは次の土曜日だった。
人のまばらな朝の図書館でその細い腕を本の大群に伸ばしている彼女の姿を見たときはもう震えたね。
心臓バクバク。胸の奥でボンゾがフルパワーでドラミングしてやがる、ってなとこだ。
熱帯魚が産後をくぐるように本棚の間を抜けていく幸香。その後をこっそりつけて、彼女の座ったソファーのすぐ右隣に陣取る。
彼女が訝しげにこちらを見た。当然だ。他の席がほとんど空いているのにわざわざ隣に来る必要はないからな。
疑問はもっともだマドモアゼル。
しばらくの間、半ば睨むように俺をみていた幸香だったが、やがて何事もなかったかのように読書を再開した。
大物というか、淡白というか、意外に細かい事は気にしないタチらしい。
俺も適当に持ってきた雑誌を開くが、ものの十分で飽きてしまった。ふと、彼女はどういう本を読んでいるのか気になって横から覗き込む。
…見事に字ばっかりだよ。よくこんなの読めるな。大学生の俺でもムリっぽいこれ。
俺の視線に気づいたか、彼女が本を庇うように左を向いてしまった。見せてくれたっていいじゃん、ケチ。
俺はめげずに体を左へ傾け、伸ばし、頭越しに本を見ようとする。
…本当に、女の子の髪っていい香りがするんだな。
いや、単にシャンプーの匂いなんだろうけどさ。最近の子は三日ぐらい風呂入らない子もいるらしいけど、
幸香はちゃんと入ってるんだな。えらいぞー。なでなでしたい。
そのままいまどきの女子児童の衛生状態をチェックしつつそのスウィートなフレイヴァーをエンジョイしていると、
不意に彼女が凄い勢いで本を閉じた。立ち上がってすたすたと歩き出す。一瞬唖然としたが、これはイカンとすぐに後を追いかけた。
ふっ、所詮は子供の足、追いつけぬものではないわ!
甘い香りのボブカットを追う。本の海を泳ぎ、潜り、すり抜けて――――――
そんなわけで図書館の端にある女子トイレにやってきたのだ

…ちょっと待てぇっ!



くっ、さすがの俺もピンクのタイルを平然とくぐるほどの度胸は持ち合わせていない。
仕方がない、恥を忍んで女子トイレの前で張り込むとするか。おい新入り、牛乳とアンパン買って来い!

10分経過。出てこない。もう幸香ちゃんったら大きいほうだったのね。おうちでして来なきゃダメよ?
…ごめん、いくらなんでもそこに萌えるのムリだわ。
それより先ほどから周囲の目が痛すぎる件について。
そりゃあ確かに、壁にもたれかかって時計と女子トイレを交互に見てる男なんざ碌なもんじゃないだろう。
どうみても変態です。本当にありがとうございました。
だんだんと俺のほうを横目も交えてみてくる人が増えていき、ついに視界の端で図書館員まで動いた。まずい、何とかしないと…
とっさに前かがみになって、右手を腹に置く。
「いてててて…さ、さすがにもう空いたよな…?」
あっけに取られる皆を尻目にいざ、隣の男子トイレにGO!
我ながら大根な演技だ。
一応用を足して少し時間をつぶした。さて、そろそろギャラリーも解散しているとこだろう。では張り込み再開。

Ten Minutes Later…
まだ出てこないよ!そんなに大変なのか!そして痛いよ!世間の目が!
…まさか、俺が中にいる間に出て行ってしまったとか!?
女子トイレに突撃しようとして、寸前で思いとどまる。
負けだ…ッ!ここで入ったら、死…ッ!社会的に。
くそっ、何故俺がこんな目に。トイレでの災難はポルナレフの役だ。
どうするか。もし既に外へ出て行ったとしたら。今から追っても間に合わない。
そして、これ以上ここに留まるのも困難だ。そろそろ国家権力来ちゃいそう。
やむをえん。本日はこれにて解散。ゆっくり寝て明日に備えてやる。


翌朝、日曜だというのに六時半に起きた俺は、朝の体操を済ませ、ホットケーキを家族の分まで焼き、
さらに時間が余ったのでゼミの予習なんぞをしてしまった。
これがロリパワーか。恐るべし。
キバとプリキュアが録画できた事を確認し、いざ出発。
新興住宅地らしい広い遊歩道を、今こそ図書館へと!
5分も歩かないうちに建物が見えてきた。図書館よ!私は帰ってきた!
開館したばっかりで、中に誰もいませんよ状態だ。
さて、じゃあターゲットが来るまでラノベでも読んで時間つぶしますかね。
すぐ後ろで、自動ドアの開く音がした。
もしかして、と振り返ると、やはりというかなんとというか、そこにいたのは三平幸香、その人だった。
彼女は俺の姿を見ると目を丸くしていたが、一瞬こっちを睨みつけた後に回れ右して出て行った。
なんだろう、と思っていると図書館の外からこっちをじっと見ている。そしてまた歩き出す。
付いて来いということか?俺も外に出てみる。
入り口横の駐輪場で、彼女が待っていた。



「あなた、なんなんですか?」