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UN FAIR BET






1 one day in the strange


ある晴れた7月の午後、遅れてやってきた梅雨前線とうだるような熱気が協合同盟のもとジェットストリームアタックを仕掛けてきたんじゃないのかと、妄想を膨らませるのにはいささか適しすぎていると思われる外気の状況下で、
俺はやはりうだっていた。
ああ…暑い…熱い……。
「ここはこの公式が出るからちゃんと覚えとけよ~」
数学の駿河がなにかを言っているが俺には関係ない。構ってやる事すらできない。
「おい池谷!妄想はやめろ!」
………池谷…やめろよ………。
「え!?俺ですか!?やってませんよ!?」
「なにが金髪姉ちゃんとハーレムだッ!お前には早すぎる!」
「なんでわかるんですか!?」
「後で職員室に来い!」
アホ池谷が…自白はないだろ……。
クラスの連中が妄想より頭の方で心配してるぜ…?
そんな事を華麗にスルーし、続くHRもスルーした俺は逃げる脱兎の如く巣穴と称するに相応しいであろう部室に向かう。
なぜこんな日に部室に行くかって?
簡単な話だ。
俺の家にはクーラーがないからな!
学校にいようが家にいようが同じなんだ!
どちらかと言うと楓さんがいる分学校の方がマシだな!
そして俺は吸い込まれるように部室に入る。ドアを開けるとかノックとかのプロセスは省略する。だって熱いんだもん☆
俺が部室に入って数分。程よく俺が壊れかけたころ、音咲が部室に入ってきた。
「こんにちは。これは…いい感じにへたばってますね」
うるせー。部室にはクーラーなるものがないからだ。
「つけましょうか?」
…そういえばお前んとこすごいんだったな…。
「冗談です」
音咲はそう言って部室を出る。扇風機でも持ってきてくれるとありがたいんだが。
俺?
長机に突っ伏して体力の消費を抑えてますがなにか?
SNN?
そんなもの使って体力を減らすなら、普通に耐えてたほうが…よし!使おう!
かちゃり
静かにドアが開く。そこに現れたはもちろん楓さん。俺の海馬を埋め尽くすほどの勢いで…冗談だ。
どういうわけか、楓さんは汗をかいていない。なのに何故か、上はワイシャツ一枚である。因みに、外目から見てだ。…制服はワイシャツなんて女子にはないんだがな。
…これで汗かいてたら透けて見えんのかな…。
「女性の前でそんな妄想をするのはよくありませんよ?」
口に出てましたか?
「カマをかけただけだったんですが…」
ごごご誤解しないで下さいよ!?
「わかってますよ。思春期の男子によくあることです」
うっ……七恵でも音咲でもいいから早く来てくれ…七恵だと一緒になって弄ってきそうだな…七恵はいいや。
ガンッ
ドアの蝶番が悲鳴を上げるような衝撃と共に能動的な女子生徒が現れる。まあ、七恵だが。
…気づかなかったが、後ろには麦茶を4人分用意してきた音咲がいた。なぜに麦茶?コップまであるし。
その日、七恵は楓さんとパジャマパーティーがどうとかぬかしていて、俺の家には帰らな…いや、こない。
まったく平和なことだ。楓さんと一夜を共にする七恵が羨ましいが、考えなきゃいい。
俺が羨ましがってる時に音咲が、
「僕達もやりませんか?」
とか妄言を吐いていたが放っておく。俺は野郎と夜を明かして喜ぶような特異な性質の持ち主ではない。

土曜日
珍しくも俺のところに指令が来た。6月は休暇だとか何とかだったので、かれこれ1ヶ月ぶりだろうか。できればやり
たくないんだが…その場合は俺より弱いやつがやらなきゃいけないんだろう。仮に強くても好き好んでやらせたくなるようなことじゃないしな。
指定された場所はあの日の海岸。初めてモンスターと戦った場所だ。俺的には、ここに縁があると思う。
珍しい事は重なるもので、指定された時間の指定された場所には集団がいた。どれも黒スーツを着ていた為、俺は指令を送っているところの人かと思っていた。黒スーツだけなら確信には至らなかった。だが、もしその集団が組
とかファミリーとか言うのであれば、俺は間違いなく絡まれるはずなのだが、時々こちらを見られるだけで何もしてこなかった。

指定された時間を3分過ぎたころ、モンスターが現れた。アルガエスのような人型のやつで、なぜだか色は漆黒で生気が感じられなかった。俺は今度も死闘を覚悟した。同時に、前よりは楽に倒せると思っていた。だってこんな数の味方がいるんだぜ?
…俺の予想は恐ろしく簡単に引き裂かれた。
モンスターが現れても微動だにしなかった黒スーツの集団は、あっという間に壊滅させられていた。そうだな。花火の輝きほどの時間だった。
俺はその間、それを傍観する事しかできなかった。
何故かって?

それはだ、

そのモンスターがいきなり分裂して、黒スーツの集団のコピーになったからだ。
事はそれだけでは終わらなかった。黒スーツの集団はコピーを攻撃した。多分、自分のコピーを一対一で倒しに行ったと思う。
そして、両集団が激突した時には既に、味方であると思われた集団は壊滅していた。
それからが酷かった。
壊滅させられて動けなくなっている集団を、コピーである集団が食べ始めたのだ。別にグロテスクな描写はない。

俺が見た光景は、よくアニメで『君の体を取り入れる』。そんな光景だった。
だから、食事にかかった時間もほんの数秒。俺が止めることを考える事すらさせなかった。
そしてそのコピーは、ドロドロに溶けたアイスのようになって一箇所に集まり、今度は俺の形になった。色は黒っぽい感じだ。
「よう」
俺の形をしたそいつは言った。正直、怖いね。
「返事位してくれてもいいんじゃないのか?」
そいつは訝しげな表情を見せる。俺にはよくわからないが、まさに俺だと思う。モンスターだが。
「さっきの事か?言っておくが、あいつらがモンスターだったんだぜ?」
あいつら…?最初からいた方か?
「当然だ。俺だってお前に死んでもらっちゃ困るからな」
そう言って、自称俺のそいつは闇に消えていくように姿を消した。
まだ印象に残っている事がある。そいつの目は、俺と違って紅かった。
不思議だ。まだ午前中なのに世界が黒い。天変地異の前触れか?驚天動地なことでも起こるのか?

それから程なくして、音咲から遊びの誘いが来たので、俺はその誘いに乗った。無論、遊ぶ気なんかさらさらない。俺には野郎と休日を遊んで過ごすような時間の浪費はしたくないからな。
ところかわって音咲マンションである。音咲のマンションではない。音咲の住んでいるマンションだ。勘違いはするなよ?してもらって困る事はないがな。
俺は音咲の家に半分押しかけ気味で中に入った後、音咲の案内によってリビングの座布団に座っている。相変わらず広い部屋だな…なんでこう、物が少ないかな…。
俺がしょうもないことを考えていると音咲が飲み物を持ってくる。見たところ、アイスコーヒーだろうか。7月にはちょうどいいものである。
「急に僕の家に来るなんて、どうしたんですか?」
いつものニヤケ面で音咲は聞いてくる。正直、凡百なルックスの俺にはウザクてたまらん。
「音咲、お前今日指令来なかったか?」
まずそれを聞く。もしかしたら音咲も俺と同じ事があったかもしれないしな。
「いえ、ありませんでしたよ?そういうあなたはあったんですね?」
もちろんだ。その時のことを話そうと思ってたときにお前から電話が着たからな。
「それは間がよかったのでしょう。どんな事があったのですか?」
音咲は興味津々、のような表情で俺に聞いてくる。が、その表情はいつものニヤケ面とさほど変わらないため、ウザイ。
俺は健気にもそんなウザさを耐えながら、先ほどの事を事細かに話した。
「信じますが…僕は何もできませんよ?」
………あ。そうだよ。まだあいつは何をするとも言ってなかったじゃねえか…。
「まあ、そんな事があった。それは覚えておきましょう」
その日、俺は野郎と街を練り歩く事となった。



4日後
俺は久しぶりに学校に行く事となった。なぜ4日後かと言うと、日曜から昨日までは風邪で体調を崩していたのだ。

ちょうど日曜の朝に気づいて七恵に言った為、七恵は昨日まで俺の家に帰ってきて…来なかった。
登校中、七恵を見つけたので隣に行く。
「よう七恵。久しぶり、か?」
俺がそう言うと七恵は走り去って行った。
いったいなんだ?チャックでも開いてたか?
否。じゃあなんだ?シャツが前後ろ逆?
いいや違うな。
じゃあなんなんだ!
その答えは放課後まで考えたが、まったく、欠片すらわからなかった。その間、七恵は一度も俺に話しかけてくることはなかった。
そんな事があっても帰巣本能というものは発動するもので、やはりというかなんというか俺は巣と呼ぶに相応しい、部室に足を運んでいた。実を言うと、帰巣本能だけではない。音咲や楓さんになら今の状況をわかりやすく教えてもらえる気がしただけだ。できれば、楓さんがいいが。
俺が部室のドアをノックする。今日は雨が降っていて気温も低いので、先日のようなプロセス排除は行わない。
「どうぞ」
部室から野郎の声が聞こえる。
俺はそれを了承の意と受け取ってドアを開け、部室に入る。
「よう音咲。久しぶりだな」
俺は朝七恵に言ったように言う。たった3日会わなかっただけで久しぶりといわせる部室が恐ろしい。どうせくるのだが。
「久しぶり、ですか?ふざけないで下さい」
音咲?
音咲はやけに真剣な口調で詰め寄ってくる。その顔は誰にも嫌悪感を覚えさせるようなものだった。俺も例外ではない。
「なんだ音咲?俺がなにか悪いことでもしたか?」
心当たりがないので聞いてみる。
「あなたは何を言ってるんですか?一昨日にやった事を忘れたとは言わせませんよ?」
は?一昨日?火曜日の事か?俺は普通に布団の中で病魔と闘ってたぞ?
「それこそふざけないで下さい。じゃあ僕達が火曜日に見たあなたは偽者…」
偽者?…それって俺がこの前話したあいつか?
「失礼しました。あなたが事前に教えてくださったのにそれを蔑ろにしてしまって」
「そうだ。本当に失礼な事をしてくれやがって」
一つ、余計な声が聞こえた。
その声の発信源は、俺の形をしたそいつだった。
ドアは閉めてあったしドアを開けるには俺が邪魔なはずだ。なのにそいつは部室にいた。
「…音咲?これで完璧に信じてくれるよな…?」
不安と恐怖を混ぜた声で音咲に聞く。
「これがなくとも信じてましたが…これでは否定すらできません」
そう言って俺達は身構える。
俺達が取った行動は、前に話した内容を考えると至極当然なものだった。
前に話した内容は、黒スーツの集団の人数には触れてなかったが、その人数は3桁ほどの数で、俺の前にいるそ

いつは集団をダース単位で吹き飛ばし、瞬滅したやつだ。
「おいおい身構えるなよ。いったい俺が何をしたって言うんだよ?何もしてないだろ?」
そいつは微笑を湛えながら言う。
正直、不快だ。自分の顔を見て不快だというのは自虐的かもしれんが、そいつの顔は完璧に悪だった。邪とかのレベルではない。性善説が出回っているこの世界では不謹慎だが、こいつは根本から悪でできていると思う。
「僕達の役目は人を守る事ですからね。なにもしてなくとも、その気があるあなたは敵であると判断しますッ!」
音咲は手に紅く光る光球を持ってそいつに接近する。その紅く光っていた光球は徐々に姿を変えて、ナイフのような形になった。
音咲がナイフで切りつける。
俺の形をしたそいつは避けなかった。
音咲のナイフがそいつの体を切りつけた瞬間、ナイフから爆発が起こった。俺は音咲の能力によって助けられた。音咲は自身の能力のためか、その爆風は効果がないようだ。
爆煙が収まったころ、そいつの体が徐々に見えてくる。
そいつは右腕が吹き飛んでいた。
それだけならよかった。そいつの右腕の傷口からは光さえ吸い込みそうな黒いオーラのようなものが出ていた。
「音咲。いてえじゃねえかよ」
そいつはそういうと、すぐに右腕を再生させた。自動修復でないのがわかったのは、そいつが指を鳴らした瞬間に再生したからだ。
「とりあえず、音咲。お前は今日のうちはリタイアしてろ」
そう言ったときのそいつは、凍りつくような顔をしていた。
俺はこのままでは音咲がヤバイと考え、音咲を俺の氷で覆った。
音咲が見えなくなった為か、そいつは俺に視線を向ける。
「今はお前には興味はないんだよ」
俺にそう言い放つと、俺の氷は砕け散り、中から音咲が氷漬けで出てきた。
「これで邪魔はなくなった。やっと一対一だ」
俺は十字架を小太刀に変形させる。この狭い部室では、このくらいの大きさがベストだろう。
「俺になんのようだ!見たところ音咲は死んじゃいないようだが、これ以上傷つけるなら手加減はしねえぞ!」
ありったけの強がりを言う。
わかってる。俺じゃこいつには勝てないこと。こいつがちょっと本気を出せばすぐに俺を殺せる事を。
「手加減なんてしてもしなくても結果は同じだろ?俺はお前に宣告をしに来ただけだ」
宣告?
「7月20日の日に、お前を殺して世界を奪う。それだけだ」
そいつはまた、闇に消えていった。部室の中は夕焼けに照らされて、闇はどこにもなかった。


それから翌日。氷が溶けた音咲と一緒に七恵と楓さんにこのことを話した。どういうわけか、著しく好感度が下がっていた俺だけでは到底信じてもらえないような話を音咲の存在でカバーした。
そしてその日の放課後部室会議での事だ。

「余命14日ですね」
楓さんの宣告。正確には俺の形をしたそいつのものだが。
楓さん?それ、かなり効きますからね?
「ごめんなさい。ですが空気が重いと感じたので緩和しただけですよ」
あんまり悪びれた感じは無い。まあ、何をやったか知らんが、とりあえず俺への復讐だろう。
ふと気になって七恵を見る。楓さんが仕掛けてきたってことは、七恵もあるだろうな。
「純情なる乙女達の心を弄んだ罪により―」
おい、純情なる乙女達?楓さんだけだから純情なる乙女だろ?
七恵のグーが飛んできたが気にしない。
「これから私が睦月の家に行く事を正当化してよね!」
は?正当化しなくてもくるだろう?それにお前は仲間だから家に来ても何も文句はないぞ?合鍵とか作るような事は許可なくはさせんが。
もちろん、心の中で言っただけだ。もし言ったら別の要求が来る事だろう。
「とりあえず、話をもとに戻しましょう」
音咲が90度ほど逸れた話を本線に戻す。
「色々要求をするよりも、とりあえずは堀崎睦月の偽者をどうするかです」
…言い方が悪いな。
「では…『もう一人のあなた』でいいですか?」
いや…その場に応じて考えてくれ。
「わかりました。ではまず、なぜ20日の日に指定したかという事です」
それは俺も気になってたんだ。
「推測の域を出ませんが、偽者の目的が本当に世界制服だったとします」
俺だったらそんな事微塵も思わないのにな。
「20日という日が、その目的達成にはちょうどいい日であることが考えられます」
例えば?
「簡単に言えば、『その日だけしか使えない』、そういうものがあるという考えです」
どっかの魔法使いみたいだな。
「この場合は20日を無事に乗り切れば問題はないでしょう」
それでも難しいがな。
「他には、あなたを強くするための期間かもしれません」
俺を強くする?そんな必要があるのか?
「偽者と初めてあった日に、偽者はモンスターを取り込みましたね?もしかしたら能力なども取り込んだかもしれません。その場合は、あなたが強ければ強いほどに効率は上がります」
じゃあどうするんだ?
「偽者を越えるまで強くなるしか助かる方法はありませんね。でも」
音咲は続ける。
「この案には希望があります」
どんな希望だよ。
「14日間以上の期間を与えてしまったらあなたが偽者を越える可能性があるということです」
その可能性は否めないな。
「失礼ですが、その場合も20日を乗り切るのは難しいんじゃないんですか?
楓さんが言う。至極もっともな事だ。
そういえば…なんで俺はこんな茨の道を歩まなきゃいけないんだ…?
「とりあえず、俺は強くならなきゃ助からないんだな?」
七恵を除く全員。つまりは音咲と楓さんが頷く。
なあ、俺なんか悪いことやったかな?

みんなの持論が一通りで終わった後で聞く。
「なあ、お前らは強くなれって言うが、どうやって強くなるんだよ?」
読者ならここでどう考える?どっかの山にこもって修行でもするか?
「う~ん…修行だよ!」
七恵が言う。こいつは何も考えてなさそうだな。
「俺が感じた偽者の強さは修行でどうにかなりそうなものじゃないぞ?」
あの時の事を覚えているだろうか?俺の偽者は一度だって拳で戦ったか?一度でも殴ってきたか?
「あ…そっか。肉体的に強くても意味ないんだ…」
七恵はなにかを悟ったようにへたりこんだ。なにかを悟ったらへたりこむのかは知らないが。
「それは僕も考えていましたが…生憎、そんな知り合いはいません」
いたらお前の家を疑うぞ。普通はいないんだ。
みんなが押し黙る。みんなはそれぞれなにかを考えているようだが、空気が重い。
…これってみんな俺のことを考えてくれてるんだよな。
これってかなり幸せなんじゃ…?
楓さんまでもが真摯に考えてくれるなんて!
「まあみんな落ち着いてくれ。俺にいい案があるんだ」
俺の声?
俺じゃないぞ?偽者でもないからな?
じゃあ誰だ?
俺だよ。
未来の。









「そうだ。俺は未来の堀崎睦月だ」
なんで俺が未来の俺だと確信したかって?
「なら―どうする?」
それは簡単。It`s so easy.
「ここで―殺すか?」
俺は過去に一度も未来に旅行なんてしたことがないし、
「新世界の神となる!」
とりあえず、音咲に黙らせろと命じる。
音咲はすぐさま俺(未来)をどっかに強制送還する。続けるぞ?
それに、俺(未来)を発見した時になんかが頭に流れ込んできた。これが俗に言う、『わかってしまうのですからしょうがないんですよ』か。
しばらく部室が静まり返り、誰かが外からノックをしたことで静寂が去った。誰がノックをしたかは予想してくれ。
「さっきは悪い。アレは既定事項だったんだ」
既定事項ってなんだ?新手の言い訳か?
「今から色々説明してやるから茶々はそれから入れてくれ」
俺(くどいようだが未来)は真剣な表情になる。さっきのアホな雰囲気が嘘のようだ。…自分のことをアホって言ったようなもんか。
「ここにいる、七恵と俺に関わる話だ。お前らは十字架の能力をどこまで把握している?」
…念じた事を反映する、武器になるとか。それくらいか?
七恵も俺と同じように答えた。それ以外に何があるんだ?
「俺だってまだ把握しきれてないが、それに加えて時間遡航もできるんだ」
「…えーっと、時間遡航ってなに?」
七恵が俺(未来)に聞く。俺だってわからない。
「時間を溯ったり未来に行ったりできる能力だ」
上の字を適当に拾ってできた熟語ってことか。
「そんなところだ。一応、その能力は簡単に使える。例えば…」
言いかけて俺は考えるポーズをとる。考えてから言ってくれ。
「頭の中に『今日の午後3時に行きたい』そう考える。そうすると移動できるんだ。簡単だろ?」
…OK。簡潔な説明ありがとう。用件を伝え終わったなら帰ってくれないか?
「伝えるだけじゃ終われないんだよ。俺はこれから一週間お前に修行をしてやらなくちゃいけないんだ」
修行?時代錯誤もいいとこだな。そんなに俺が愛しいか?
「もちろん。情けは人のためならず。他ならぬ自分のピンチだ。それに俺がそうしないとお前は多分殺されるだろうからな」
…拒否権は?
「ないぜ?俺も与えられなかった事を与えるはずがないだろう」
俺は助け舟を求めて音咲を見る。音咲が視線を返してくる。『僕ではどうしようもありません。頑張ってきてください』
音咲は諦めて楓さんを見る。結果は同上。
二人は諦めて七恵を見る。『頑張ってきてね!』
…アイコンタクトでここまで正確な会話ができるとはな…。資格が取れそうな勢いだ。
「言い忘れたが、七恵も同じように修行を受けてもらうからな?」
七恵は塩をかけられたほうれん草のように崩れ落ちた。やっぱ修行なんてやだよなあ……。


それから程なくして、音咲が手配した修行場についた。もちろん、交通機関の類も音咲の手配だ。また、修行期間

中の食事に関しては楓さんが用意した軍用携帯食だった。
色々言わせてもらうが、俺は今までに『魔法かなんかの力を使って怪物を倒すヒーローになりたい』って思った事はあった!確かにあった!けどそれは年端も行かぬ男の子の時の事だ!それにな!俺はヒーローになって世界を守りたいとは思えてもな、世界平和のために平和維持軍に入隊できるようなやつじゃないんだよ!
「…そろそろ諦めてくれ。気休めでしかないが、とりあえず死ぬような訓練はないからさ」
ホントに気休めだよな。
「とりあえず、修行は明日からにしてやるから、今日を精一杯楽しんでくれ」
そういうと、俺(未来)はどこかに消えた。ああ…神様…俺、悪いことしたか?
…そういえば俺…今すごい状況じゃん…。互いにそっくりさんが3人もいるんだよな…。ギネス…無理か…。
「睦月?大丈夫?」
なにがだ?
「さっきから考え事してたから、悩みでもあるのかなって」
…今の状況が悩みの種だな。
説明や描写が遅れたが、ここの情景を話そう。
この修行場は、元々レジャー用地だったのか、見晴らしはかなりいい。現に、ここは山頂でもないのに山下に見える街が2割り増しくらいで綺麗に見える。因みに、ここは音咲家所有の山だそうで、かなり自然が豊富だ。それにもかかわらず、ここは東京である。俺も一度しか聞いたことがないが、西東京にはこんな場所が幾つもあると聞いた。恐らく、社会の地理でのことだろう。
ここからは俺の勝手な予想だが、多分俺はここで偽者と戦う事になると思う。20日の日にわざわざ街に戻って行く
こともなければ、わざわざ人を危険にさらす必要もないからだ。危険にさらす必要があるのなら俺に言ってくれ。そんな必要の存在を消してやる。
くだらん情景描写を終えた俺は歩き出す。どこへと聞かれても答えることはできない。俺は地図すら持っていないのだから。…持っていても答えないだろうがな。
先ほどから追加説明が多いのはご愛嬌という事で勘弁してくれ。
因みに言っておく。東東京(ひがしとうきょう)から西東京の山につくまでにどれほどの時間がかかると思う?そして言うと、俺と七恵がここに向かったのが午後4時の事だ。よって今は真っ暗。今や俺を照らしているのは月明かりだけなのだ。
ここまで説明したらお分かりだろう?
俺は今、七恵と夜の散歩と興じているのさ。どことも知れぬ、寝床を探してな。
この年頃の男子としては、今の状況は『一度はこんなシチュエーションになりたい』のトップテンには入るであろうこの状況。相手がいくら七恵でも、一応七恵はルックスはかなりいい。つまりは美少女なのだ。悲しきかな男の性。俺は不覚にも今の状況を満喫していた。
まあ、七恵がこんな夜中に一人で山を歩けるようなやつじゃない事はわかってたがな。
…そういえば。俺ってもしかしたらどことも知れない山の中で死ぬ事になるかもしれないのか?
…勘弁してくれ。
「東京にもこんな所ってあったんだね…」
七恵が感慨深そうに言う。なぜだろう?かぁいいものや可愛いものや綺麗なものを見ている女なるものは、客観的に綺麗になっているという。どうやら七恵は女なるものだったらしい。
「ここは東京でも開発が進んでないからな…。無駄に開発するよりは全然マシだ」
社会の入江の言葉を代弁する。…そういえば入江はメイド萌えだったな…。メイドインヘブンとか言って暴走してたりしたな…。2回くらい女子にメイド服着せて校長に呼び出し食らってたけど…。
「あれって何座?」
七恵が指差す方向を見る。指差す方向にあるのは満天の星空。いったいどれを指しているか見等もつかない。
「どれだ?北斗七星は見えるから…どの辺にある?」
「北斗七星?」
ああ…説明しなきゃいけないかな…。
適当に説明を終えると、七恵が言っていた星の形がわかるようになってきた。
…色々結んでみたが、恐らく創作による星座だろう。
「そうなの?う~ん…じゃあ名前付けよ?」
例えば?
「長門…かな?」
いや、確かにでかい砲塔のような形をしてるがな?そりゃないと思うぞ?
「じゃあ…ヤマ「それもダメだ」
色々版権に関わりそうなので止める。別にそんな事になっても謝れば済むが…面倒だろう。
「そうだ!」
七恵が叫ぶ。今に始まった事ではないが、常識人なら驚くだろう。
「睦月「それはお前が言っていいことじゃない」
危うく変な方向に話が逸れそうになったところを俺が止める。いつものことだ。
「決めた!」
こういうときの七恵は真剣に言う。真剣って言うのは語弊があるが、一応変なことは言わない。
「十字架座!」
…似てなくもないが…まあ…いいだろ。
「それでいいかもな」
一応返事をする。その十字架座の中心の星は、シリウスだった。違うかもしれないが、それは俺が小さい時に親父と見たそれとまったく同じだった。
俺達は甘かった。野宿も修行の一環である事を察していなかった。
幸い、寝袋が一つ落ちていた。多分、俺(未来)からのプレゼントだろう。
どちらが寝袋を使うかで論争をしたが、途中から七恵が『二人で寝ればいいんだ!』とか言いやがったから俺が気絶させた。そして強制的にIN寝袋。完璧。明日の朝が怖いが。






「おい起きろ。朝だぞ。8時だぞ」
…俺(未来)か。わざわざ起こしに来てくれるなんて律儀なこった。
俺は体を起こそうとする。が、体は上手く動かない。
なぜ―
なぜ俺は寝袋に入ってる?
なぜ七恵が同じ寝袋にいる?
「お前は…少し考えてみろ。ちょっとやそっと気絶させただけで、朝まで起きないと思ってるのか?」
…ごもっとも。
俺は寝袋のチャックを探す。いち早く出たい。別に七恵がいやだってわけじゃないんだ。誰だってこんな状況なら開放されたいと願うさ。そうだな。鳥籠に飼われてるインコ並には出たくなるさ。
…これは七恵の計算だろうか?
なぜチャックが七恵の体の下に埋まってる?
よし、ここで出る選択肢は一つだ。
1 起こさずにそのままチャックを開けようとする
2 起こして安全にチャックを開ける
…おい。
「いや、すまん。ちょっとした出来心だ」
それで犯罪人が許されるとでも?
「まだ俺は前科を持ってないぜ?」
「七恵ー!未来の俺がお前に変なことをしようとしてるぞ!」
さあ、起きるか!?
案の定七恵は飛び起きた。そこまではよかった。
俺と七恵は今どんな状況だ?
寝袋に入って身動きがままならないんだ。
飛び上がったってことは…
つまりは地面との激突を受身が取れない状態で迎えるってことだ。
ガンッ
そんな音が聞こえたと思ったら、俺は意識が遠のいていた…否、ブラックアウトした。
「さっさと起きてくれないか?修行の時間が減るってことはお前の生存率が―」
「わかったから!ふざけないで修行受けるから!」
もう、自暴自棄だ。
七恵の作った朝食を手早く食べ、俺達は昨日来た見晴らしのいい所(正式名称は吾閲嶽というらしい)に連れて行かれた。…七恵の作ったものを食べるのは久しぶりだったと思う。
「君たちにはとりあえず、殺し合いをしてもらう」
よしわかった。帰るぞ七恵。こんな馬鹿放置しておこう。
「言い方が悪かったな。お前らには試合をしてもらう」
試合か。と安堵している俺に『本気で』と後付したのは嫌がらせだとしか思えない。
「ルールはここから出たら負け。そのほかは…倫理的にダメだと思う事はやめておけ」
なあ、お前は何もやらないのか?そう言った俺に返答が帰ってくる。『審判兼コーチ』
「始めろ!」
あまり聞かない掛け声と共に俺と七恵は武器を構える。この状況をすんなり受け入れている俺はなんだろうね?嫌なら抗議でも何でもしてやれるのにさ。やっぱり体を動かすのは楽しいからか?
俺は十字架を弓に変える。七恵との距離は大分広い。弓がベストだろう。
俺が弦を引こうとしたとき、七恵が動いた。
七恵はどっかの中国拳法の武術の構えのような姿勢をとっている。いったいなにが来るんだ?かめはめ波か?
俺は気にせずに矢を放つ。俺は油断していたと思う。
弓が七恵に当たるか否かのところで弓が消える。七恵は構えを解いていない。
なにが起こった?
とりあえず―
いつの間にか―俺の体は宙に浮いていた。宙に舞っている間、七恵を一瞬だけ見たが、そりゃもう怖い笑みを浮かべていた。
俺は悟った。怖いってのと恐怖は格が違うってことを。
地面に受身無しで激突した俺を俺(未来)が診る。体自体には外傷はないとのこと。
なあ…お前もこんな目にあったのか…?
「それは教えられないんだ。予備知識を持っていると正確に踊る事は出来なくなるんだ」
そりゃ悪いことを聞いたな。
その後サンドバックになったのはまた別の話だが。


タイムリミットまで11日
七恵のサンドバックになる事数日。ようやくその正体がつかめてきた。どうやら、七恵の攻撃は俗にレナパンと呼ばれるもので、別にそれらしい構えをしていなくても撃てること。そして射程が10mほどもあること。科学的な説明は恐らく無理だろう。SNNなんて持ってる俺が、吹っ飛んでる時に何発食らったかわかる程度にしか正体はつかめてないんだ。スピードチェッカーなんかやったら音速を超えてるかもしれない。それがわかったら俺は諦めると思う。
…そういえば、この試合の主旨が違う気がする…。

タイムリミットまで10日
昨日一日も無事にサンドバックになった俺。体の方は全然無事ではないが、やっと軌道が見えるようになった。多分、数日間のサンドバックとしての経験か、それとも俺の才能か、前者だと思うがそのおかげで数発なら避けられるようになった。また、一回の攻撃で何発飛んで来ているかもわかるようになった。答えは198回。OK無理だ。帰ろう。

タイムリミットまで8日
ようやくレナパンを見切ることに成功した。今なら5連発でレナパンをされても避けきる自身がある。それにレナパンを防ぐ方法も見つけた。答えは簡単。一回でも手を掴めばいいだけだ。

タイムリミットまで7日
「なあお前ら。本来の目的がなんなのかわかってるのか?」
俺(未来)が言う。
「目的?あ…」
七恵は忘れていたようだ…。俺もだが。
「そうやって互いの反射神経と動体視力を上げるのは構わないんだがな?いつまでもそんなことされてたら困るんだぜ?」
じゃあ何をするんだ?
「とりあえず、SNN自体を強化する。お前らが実践を離れていても異常なほどモチベーションが保持できるのはわかった。だからそれについていけるようにSNNを底上げするんだ」
…なあ、それって俺達だけがやる意味あるのか?
「あの二人はそれぞれで修行と同義のものを受けてるさ。なんで一緒にやらないかって聞かれると…ごめん。わからん」
そうかい。俺(未来)を心の中で罵倒している俺はなんなんだ…?
まあいい。
俺は背中に背負っている軍が使ってそうなリュックを背負いなおす。楓印の軍用リュック。特注品だ。
「お前らはSNNをどんなものだと思ってる?」
唐突な質問に絶句する。七恵もそれは同じようだ。
「簡潔に言おう。そんなものが現実にあるかと聞いているんだ」
あるに決まってんだろ?じゃなけりゃ俺はこんな厄介ごとに巻き込まれてなんかいない。
「SNNを発見した開祖のことを教えてやろう」
俺(未来)は地面に座る。それにあわせて俺と七恵も座る。
「開祖さんは、この世界で初めてモンスターを発見した人でもあるんだ」
ノーベル賞ものな人間だな。
「でもその開祖さんはSNNなんて知らなかった。まだそのときは存在してなかったんだ」
じゃあどうなったんだ?少なくとも俺は怪物による猟奇殺人の記事を見たことはないぞ?
「その開祖さんは考えたんだ『こんな怪物がいるならそれを倒す力はあるはずだ。ないはずはないんだ』と強く考えた。SNNはその結果生まれたんだ」
……思い込み?
「そうだ。お前らはそれを当たり前のように使っている。その意識を正せば」
その意識を正せば?
「お前らはもっと強くなれる」
強くなる意味は?
「死なないため、か?」
OK。俺は生きる。まだ俺は人生を楽しんでないんだ。死ぬのは人生をタンデムのようにゆっくり過ごした後だ。それにまだソウルブラザーのイリーと萌えを追求しなきゃいけないんだ。
「萌えってなに?」
…妄言だ。忘れてくれ。

「さて、説明が長くなったが、お前らは今SNNと十字架が使えなくなってるはずだ」
…マジだ。マジで使えなくなってる。
「これから俺がお前らを追う。要は鬼ごっこだ」
鬼…ごっこ?
「捕まえたら順次鬼隠しにしてやるから覚悟はしておけよ」
俺はその声が聞こえるよりも早く七恵を連れて森へと入った。
それからしばらく走って森の深くまで入った。
…捕まったら鬼隠しか…悟史と同じ目に…死にはしないんだが…
「睦月?これからどうするの?」
七恵の声で現実に引き戻される。
食糧は3日4日分はあるだろう。楓さんのメタルギア症候群には感謝だ。それに寝袋も…一つ?
「おい七恵。寝袋はどうした?お前持ってないのか?」
「睦月が持ってるなら別にいいでしょ?」
どうする?
危険を冒して寝袋を取りに行くか?
それとも毎夜毎夜危険を冒すか?
「七恵。寝袋奪取作戦の会議をするぞ」

それから話し合う事数分。作戦が決まった。
俺達は森の更に奥まで突き進む。そうしているうちに洞窟めいたものを見つける。無論、俺達はそこに入る。
作戦?
決まってる。
『命を大事に』だ。

七恵とこの洞窟に入って3時間が経とうとしていた。そのころにはもう周りがオレンジ色に照らされていて、歌舞伎役者ではないが『絶景かな、絶景かな』と言ってしまいそうだった。いや、俺が言うならこうだろうな。『Oh…It`s amazing spectacle…』
…嘘だ。
なぜ洞窟の中でそんなスペクタクルが拝めるのかと言うと、答えは簡単だった。
なぜなら
既に俺達は
鬼に見つかってしまったからだ!
そして俺は今!
七恵を連れて洞窟の外を走っている!
これが映画とかだったなら俺だって我慢する!
だが!
なんで鬼ごっこで必死にならなきゃならんのだ!
ちくしょう!
鬼隠しなんてなくなればいいんだ!
「前だけしか見てないと捕まるぜ?」
俺(未来)の声が聞こえる。木に反響している為、位置はわからないが前方にいるらしいということはわかった。
俺はすぐに左斜め後ろに進行方向を変える。右でもよかったんだが…勘だ。
皆さんは映画やアニメ、はたまたドラマでよくある光景を知っているだろうか?
こんな風に走っていると、突然開けた場所に出て、断崖絶壁と敵の挟み撃ちに遭う場面。
俺はそんな開けた場所に気づかないわけがない。
そんな風に思っていたが現実は甘くない。
出ちゃったよ。
開けた場所に。
「追い詰めたぞ?万策尽きたか?」
うるさい。お前だってこんな状況になっただろ?
「禁則事項だ」
俺は七恵を後ろに庇いながら距離をとる。
なぜそうするかって?
七恵が俺の背中を掴んで離さないからだ。
時々抓ってくる。痛い。
「俺はSNN使うからな?落ちないように気をつけろよ?」
そういうと俺(未来)は俺に手を翳す。恐らく、織口ビームだろう。
食らったら…死ぬよな。
「おい七恵!とりあえず離れろ!じゃなきゃお前も俺も助からん!」
そういうと七恵はすぐに離れる。そしてビームの矛先から俺と七恵は逃れる。
…こうなったら俺(未来)自身を行動不能にするしかないよな…。
俺は七恵にアイコンタクトをする。
七恵はすぐに頷いて了解の意を示してくれた。…わかったのか?
俺は俺(未来)に近づく。手の中には土を持っている。これで目晦ましにでもなればいいが…。
俺は射程範囲だと思った瞬間、手の土を俺(未来)に本気で投げる。
その土はちょうどいい軌跡を描いて俺(未来)の顔に向かう。なぜ見えるかって?
俺は今までレナパンの攻略をしてたんだぜ?これが見えないようならサンドバック決定だ。心配なら俺が保証書を書いてやる。
俺は完全に忘れていた。
俺が投げた相手もレナパンを攻略した経験があることを。
「止まって見えるぜ?」
そう言って俺の喉に十字架をつきたてる。俺をもうちょっといたわってくれてもいいんじゃないか?
「チェックメイトだぜ?」
俺の喉に十字架をつきたてたまま得意げに笑う。アホか。
「じゃあ次は七恵とい―ぐほっ!」
七恵渾身のレナフラッシュインパクト。それは見事に俺(未来)の右側頭部にヒットする。
…七恵は俺を殺す気か?
「早く逃げよっ!」
七恵は俺の手を取って走り出そうとする。俺はそれに合わせて立とうとする。
ぐらっ
俺がよろめく。それだけならよかったんだが…七恵同伴でよろめく。
このままだと後ろに倒れるので、俺は後ろに手を―
手を―?
つけない―?
Q先ほど俺達がいた場所はどこだ?
A断崖絶壁のある開けた土地だ

Qそんな場所で暴れたりしたらどうなる?
A場合によっては落ちるかもしれない

Q今の状況は最悪か?
A最悪ならマシだ

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」
「いやぁぁぁぁぁ!!!!!」
断崖絶壁を越えた俺達は地球の重力法則に乗っ取って下へ下へと落ちていく。
夢…じゃないな…。
このまま落ちたら…
下を見てみる。その底は計り知れない。
仮に俺が七恵を庇って下敷きになっても助からないだろう。
…SNN使えねえかな…守る為の力なんだろう…?
今使えなくていつ使うんだよ……
使えなくても使えばいいのか…

俺は羽をイメージする。冷たく、堅牢で、雄大な羽を。そして俺は羽ばたく。この絶壁の上に。

俺の意識はそこでブラックアウトした。


冷たい水が顔にかかる感触で俺は起きた。
「起きた?」
「寝覚めは最悪だがな」
「こんな美少女に起こしてもらっても?」
「その美少女は冷水をかけて人を起こすのか?」
「ここにいるよ?」
俺は不毛な会話を切り上げて辺りを見回す。七恵以外は誰もいない。どういうことだ?
俺は気絶する前の記憶を思い出そうとする。
…確か俺と七恵は崖から落ちたはずだ。
それで……氷の羽作って…崖の上まで行ったっけな…。
その後どうしたんだ?俺は地面に到着した覚えは無いぞ?
…七恵か?
「あの時大変だったんだよ?睦月が急に気絶しちゃって。それで私がSNN使って森まで行ったんだよ?」
お前…使えたのか?
「崖から落ちた時だけどね」
わるかった、謝るからそんな風に見ないでくれ。
「ホントにそう思ってる?私、死にかけたんだよ?」
思ってる。マジで悪かった。
「態度で示してもらいたいから…」
変な方向に行くなよ?
「命令を一個聞いてもらいます!」
ああ…寿命が早まったか…。
「いつにするかは私が決めるからね?」
もうどうにでもしてくれ…。

その後、俺(未来)がボロボロになって俺たちのところにきた。俺(未来)曰く『崖から落ちた』とのことだ。俺(未来)は

不死身か?
「お前ら…限度ってもんを知れ」
俺(未来)の修行期間中の最後の言葉だった。
それもそのはずあんな断崖絶壁から落ちて無事な奴はいないだろう。それに俺は元々がそこまで頑丈な体ではないはずだ。ソウルブラザーモードでもない人間が生き残れただけ奇跡だろう。因みに言おう。俺の知り合いの中に不死身人間は4人いる。その中でソウルブラザーであるやつは3人だ。萌えがどうとか言っていたが、その生命力だけは賞賛に値したので知り合いとなった。
補足が多いが、俺(未来)は最後の言葉を言った後、多分未来に帰った。生きてるかな?
…将来的には俺もああなるのか?
蛇足だが、タイムリミットまではあと6日だ。

あと5日
音咲による俺達のための音咲家の車が俺たちを迎えにきた。黒タクシーみたいな感じで、何故か防弾ガラスが素でついていた。用途不明の車だが、とりあえずは人間を運ぶ為にも作られているはずだ。
そのときの運転手はなぜだかしらないがメイドの服を着ていた。
これでどう思う?
肝心な所が抜けてるだろ?
そいつの性別はなんだ?
漢だった。
メイド服の隙間隙間からぴちぴちと筋肉がはみ出ている。程よく小麦色に焼けた肌はそのままボディビル大会にでも出れそうなハリと艶をしていた。
いや、本音を言おう。
マジで背筋がぞっとした。
メイド服はやめて欲しかった。せめてビキニなら我慢できるから。いや、運転手辞めろ。
七恵の反応が気になって七恵を見る。
「どうしたの?なんか変なものでもあるの?」
流石七恵。目の前の惨劇を感知しないとは。雛見沢にでも行って梨花ちゃまでも助けてきたらどうだ?ループを越えられるんじゃないのか?
俺は筋肉メイドを極力視界に入れないように努力しながら、七恵はぼんやりと努力をしている俺を不思議そうに眺
めながら、どことも知れない場所に向かった。行き先を知らない理由?筋肉メイドに話しかけろと?3時間ほどたっただろうか。最初に山を下り始めた頃は制限速度をすれすれで守って運転されていた車が、普通の一般道に出た瞬間TAXIさながらのスタントでデッドオアアライブな形容しがたい走行になっている。無論先ほどから警官車両のサイレンがやたらと聞こえるのは気のせいではないだろう。…あまり考えたくないが、もしこの車が警官に捕まったりしたら俺と七恵は前科持ちか?筋肉メイドに全責任を押し付けるか?
「とばすぴょん☆」
……七恵だよな?
俺が一縷の希望を望んで七恵の顔を見る。いつもの顔。…心なしか赤いような気もするがそれでもいつもの顔だろう。
OK。七恵、その能力を今すぐ俺によこせ。そして俺の苦痛を少しは味わってみろ。
「前の座席に掴まってぴょん☆」
野太い声が響く。それを七恵は音声と感知していないのかどうかは知らないが、平然と座席に掴まっている。
もちろん俺はその声に戦々恐々してびくびくしながら掴まっている。音咲。今度最高レートの麻雀でカモってやる!

…はい。音咲マンションに着きました。あの後、俺が座席に掴まりながら窓を見たら、『横浜』とか見えて、このまま

では目的地にすらつけないと直感した俺は音咲に電話をした。結果、上のようになっているわけだ。
「修行はどうでしたか?」
内容知ってるだろ?
「知らないから聞いているのですよ。それとも、プライバシーの侵害となってもよいのなら―」
「わかった。言うから止めてくれ」
音咲の口の火を鎮火する。表現的には爆発も有り得そうだが、今のところ爆発したことはない。
「修行って言っても…なんかこう、『新しい力を手に入れた』とか『睦月はレベルアップした!』とか出ないから自覚できないんだよな」
俺が言い終えると音咲はまるで用意してあったかのように、
「あなたは、なぜ生きようとするのですか?今この世界は色々な問題に囲まれて四面楚歌です。常識的に見れば、いつ誰が自殺してもおかしくはないのです。さて、なぜ生きようとするのですか?」
これまた俺は、用意もしてないのに用意をしておいたかのように言う。
「そんな腐りかけな世界の中のこの環境が一番気に入ってるからだ。確かに、全体的に見れば腐ってるような世界だ。でもその世界のこの環境の中に居たいから生きようとするんだ。それにだ。この環境を維持するには誰一人欠けちゃいけないんだ。それが俺自身でも、いや、俺自身だからこそ生きたいんだ」
途中から意を成さないような事になったが、気持ちは伝わったはずだ。そうでなきゃ困る。もう一度こんな小恥ず
かしいクサイセリフをいうのかと思うと…顔からプロミネンスが出そうだ。
因みに、ここにいるのは俺と七恵と音咲と楓さんの4人だ。今ここにいるメンバーは増えこそすれ減りはしないはずだ。もし人為的な力でこの現状を悪化させようという不届き千万なやつらがいたなら俺はもちろん再起不能にするだろうな。例えて言うなら…合衆国を相手にしてもだな。
「合格。でいいですね?」
楓さんが音咲に聞く。なんだ?試験官と受験生か?
「もちろん合格ですね。この年で明確に生きようとする意志があるのは稀ですから」
音咲?なぜに評論家みたいな口ぶりになってるんだ?無駄に似合うから止めてくれ。
「で、胡散臭い試験みたいなのは何の意味があるんだ?」
これで無意味だと言ったら最高レートにさらに上乗せで闇超レートに変えてやる。(一敗ごとに万単位で動く)
「自称『未来の堀崎睦月』から預かった伝言では、『自分を確立する事で自分を高める事ができるのだ』と言ってました。あなたではない事は明白ですが、信じてもよさそうですよ?」
…俺は聖闘士じゃないからコスモを高める事はできないぞ?
「…僕達と戦ってみますか?多分それでわかると思いますが」
僕達?三対一か?それは無理だと思うぞ?
「二対一ですよ。僕と楓さんを同時に相手してもらいます。原案は自称『未来の堀崎睦月』さんですけどね」
…どこでだ。もう夜も深いしこんな時間にドンパチやるのは気が引けるぞ?
「僕の能力。なんでしたか?」
あ、その手があったか。


俺は音咲謹製の音咲フィールドにいる。目的は下手なあらすじで述べたとおりだ。
「勝利条件はなんだ?」
最終確認をする。ここまで来て負けなんてしてたらたまったものではない。
「勝利条件ですか?それ以前にあなたは勘違いをしています」
珍しく音咲がきつめの口調で言う。一番最近は…『睦月、今度ここ行かない?』『わかった。みんなで行こうか』見たいな会話の後怒られたね。楓さんと音咲に。何が悪かったかは俺にもわからない。
「あなたは数日後には殺し合いをするのですよ?殺し合いの勝利条件なんてありましたか?」
……相手を殺す事か?
「ご名答。そして今は殺し合いをするわけではありませんが、それだけの気構えがないとあなたは僕たちには絶対に勝てませんよ」
そんな馬鹿なことがあるわけないだろ。徒競走のタイムが気構えで変わるか?
「やってみますか?」
俺が『わかった』と言った瞬間、俺は血に伏していた。

「どうです?わかりましたか?」
音咲が俺の上で幾分か優しく言ってくる。
が、俺の体に乗っている為優しさが微塵も感じられない。優しくいってきたと感じられたのは奇跡だろう。
「不意打ちは卑怯だろ」
俺がそれを行った途端、音咲は俺の体を降りて言う。
「じゃあ正々堂々とかかってあげましょう。それで文句はないですね?」
俺は構えを取ってから頷く。別に構える必要はないのだが、なんとなくやってしまう。
そして傷が治ってることに気づく。恐らく七恵だろう。
開始と同時に背後からナイフが飛んでくる。もちろん音咲の能力だ。当たったら致命傷になりかねないところばかり飛んでくる。マジで死ぬぞ?
俺は音咲めがけて突進する。もちろん十字架を剣のような形に変えてだ。実世界の物体が触れたら粉砕するほど冷たい剣だ。まず間違いなく俺が勝つだろう。
俺は音咲に剣を振り下ろす。このまま行けば音咲は能力で移動するだろう。

…しない?
おい…待てよ…!
避けろよ!
なんで避けないんだよ!?

俺は振り下ろすのを躊躇い、振りのスピードが少し遅くなった。

グシャ

嫌な音が自分から聞こえる。同時に激痛が走る。
俺は衝撃の方向を向く。
そこには日本刀を構えた楓さんがいた。いつか教えてもらったオーラというものが、楓さんのものは今とても鋭く見えた。俺はようやく理解した。


―――殺気だ―――


二人に有って俺に無いもの。それは間違いなく殺気だ。俺も幾つか死線を乗り越えてきたが、そのときは運がよかったのだろう。今まで俺は、モンスターを『退治』すると考えていた。ちゃんと考えればわかることだ。こっちに来たモ
ンスターを無傷で帰す?無理に決まってる。大体こっちから向こうに行く事ができないのにどうやって送り返すんだ。相手から帰ってくれるならありがたいが、それをしない場合。やっぱり俺はモンスターを殺してたんだ。俺はどこと
無くそれを『ヒーロー』のようなものだと思ってた。実際は勘違いも甚だしかった。二人に有って俺に無いもの。二つ目は死への責任感だろう。『俺がお前を殺したから俺も殺されて当然だろう』これは詭弁だ。なにかを殺した奴は、殺した奴の分も生きなきゃいけないんだ。そして生きるために殺す。そいつの為に生きる。繰り返しだ。
多分二人はそれを理解しているのだろう。それを俺にわからせるためにこんな事をしているのだろう。
「すまん。音咲、楓さん」
まず謝る。理解させる為とはいえ悪いことをした。色々終わったら楓さん9割。音咲1割で奉仕してやろう。
「やっとわかってくれましたね。もしあのままだったら刃で切ってましたよ」
………真剣?
「名前は無いんですけど、かなりの名刀だといわれました」
名前が無いのに名刀?
「自作の剣ですよ」
…マジか音咲。
「大マジです。この前楓さんが麻灘さんに弟子入りしましてね。それからはもう、僕以上に強いと思いますよ」
それは無いだろ。お前だってちゃんとした訓練を受けてきたんだろ?
「ゲリラに一人で立ち向かえるくらいには強いつもりですが、麻灘さんは強いじゃなくて…なんといいましょうか」
桁が違う事はわかった。だが楓さんは常人だろう?
「いえ、才能というかなんというか。麻灘さん曰く、『楓は筋細胞、骨格、センスのどの点においても優秀』だそうです。あまり詳しく説明できなくてすいません」
音咲が申し訳なさそうに言う。今日は厄日だ。変態筋肉メイドと同じ車に乗って社会生命の危機に陥ったり殺されかけたり音咲の百面相を見てしまったり、近々死ぬんじゃないのか?
「本気で凹みますよ?」
凹んでろ。

音咲を軽くへこませた後、各自自由時間となった。時刻は既に明日となっており、この時点で明日俺は殺し合いをする事になる。なんだか複雑な気分だ。
気づいたら屋上にいた。なんてことは物語の主人公には決定事項のようなものであるのだが、作者は相当ひねているために気づいたら屋上付近の階段にいた。
「不安ですか?」
気づかないうちに楓さんが隣に座っていた。
「なんだか、明日殺し合いをするって実感が湧かなくって」
紛れもない本音を言う。そういえば、楓さんとこうして二人っきりで話すのは初めてかもしれない。
「はい。仲間としてあなたとこうして話すのは初めてですね」
いつものように心を読まれる。今の状況は俺が望んできた状況なのだが…テンションがあがらない。ああ、偽者よ。こんな時にでてこなくてもいいだろうに。お前のせいだ。
「あなたが死んでしまったら、七恵が悲しみますよ?」
……明るい話題にしません?それにあなたは悲しんでくれないんですか?
「明るい話題はまた今度。あなたが生きて帰ってきたらにしましょう?」
…死亡フラグですよ?
「フラグごときなんですか。フラグは予兆でしかありません。そんなフラグ、叩き折ってしまえばいいんです」
その後に小さく、『あなたはいつもフラグを折っているというのに…』と聞こえたのは空耳だろう。
戻り際に、
「またこうして話しましょう。今度は明るい話題をね」
そう言った楓さんの顔は、見たことも無いヴィーナスを髣髴とさせるような至高の、最高の、美と優しさを極めた。そんな微笑だった。

「何ボーっとしてるの睦月?」
七恵が後ろから俺の肩を叩く。一瞬誰かと思ったが、こんな事をするのはこいつだけだと確信した。
「日本経済の低迷と外国株価の上昇について考えていた所だ」
無論本当のことは言えない。楓さんのあのヴィーナススマイルを見て呆けていたなんて七恵には言えない。
「嘘だね。鼻の下伸びてたもん」
……言わないぞ?
「別にいいよ?拷問するだけだから」
といって後ろにいた七恵は俺に抱きついてくる。いや、抱きついてきたわけじゃない。ウエストロックだ。正直痛いが、いつもほどではない。恐らく傍目から見ればホントに抱きついているようにしか見えないだろう。
「これが拷問か?」
「そうだよ。立派な拷問。睦月に対してじゃないよ?私に対してだよ?」
は?拷問ってのは知りたい情報があるから痛めつけるんだろ?お前に関してそこまで知りたいことは無いぞ?
「別に睦月が拷問をしてるわけじゃないの。でも、なんで私達なのかな…って。そう思うの」
さて、どう答える?七恵は真剣だし、真剣に答えを返すべきか?そうだろうな。
「俺達でよかったんじゃないか?」
俺の言葉に七恵が俺の背中に埋めていた顔を上げる。
「なんで?睦月はこんな事嫌じゃないの?」
少し泣き声になりかけている。こんな七恵は初めて見る。いや、見てないが。それでも初めてだ。
「確かに嫌だぜ?でもな、俺達以外のやつがこんな事になったらどうする?」
意図の不鮮明な質問をする。俺にはわかるが、聞かれてるほうはわからないだろう。
「えっとね…。気づいたら助けてあげるかな?」
もちろんそう答えることは予想していた。
「じゃあ気づかなかったらどうする?そいつは死ぬしかないんだぜ?」
多分そうだろう。俺には時間遡航やSNNができるが、仮にこの事件に巻き込まれるやつが能力者でも恐らく死ぬだろう。そんな反則級の能力を使える俺ですらわからないんだ。
「確かに睦月でよかったかもしれないけど! でも……こんな事起きないほうが良いに決まってるよ!!!」
七恵の声はもう、泣いていた。
七恵のウエストロックなんかとっくに解除され、俺の背中には冷たい滴を感じる。今すぐ振り返って慰めてやりたい衝動に駆られるが、理性がそれを拒否する。
今このときほど理性が邪魔だと思った事はなかった。
「どうしたら…こんな疫病神な俺を許してくれる?」
七恵は少し間を開けて、
「来週全日程で私に奉仕しなさい!それで許してあげる!」
泣きながら、いつもの口調で言う七恵。



…なぜだろう?
























…なんで俺は


















七恵にキスなんかしてしまったんだろう?
















…七恵は呆然としている。そりゃ確かに突然だった。俺自身動機は不明だ。今だって、少し後悔している。なにを後悔しているのかはやはり不鮮明だ。
とりあえず、このままじゃ非常に気まずいので俺が話を切り出す。
「えーと…なんだ。とりあえず、ごめんな」
なんで謝ったか知らない。そうしなければいけなかったような気がしたんだ。
……無反応?
…気絶してやがる。

こんな夏場でもとりあえず夜は寒いので、俺は七恵を抱えて音咲の部屋に向かった。途中で音咲に遭ったが、口を開く前に凍らせた。音咲は問答無用で有罪だろう。絶対あいつ見てた。絶対だ。
一人部屋なのに4組ある布団の謎は魔人探偵にでも任せるとして、俺は七恵を寝かせる。
一仕事終えた俺はどこで寝ようかと考える。いくらこの年で体力があるといってもこんなハードな一日を過ごして無事な奴はいないだろう。俺もその例に含まれており、かなり眠い。
…自分の家に帰ろうかと思うんだが…面倒だ。
仕方ないので音咲を解凍して泊まる事を伝える。布団は足りるだろう。上のプロセスを完全にすっとばして俺は居間に布団をひく。寝室であろう部屋には七恵が寝ているからな。いつもは同じ部屋で寝ているが、それは部屋が一つだからだ。ここみたいに部屋が多ければ分かれて寝るさ。
















なかなか寝付けず10分後
「ここで寝るんですか?」
その声に俺は飛び起きる。眠たいが、楓さんが喋りかけてくるんだ。無視はしちゃだめだ。
「そうですよ?まさか寝室で寝ろってことは言いませんよね?」
楓さんはにんまり笑って、
「そのまさかですよ」
俺はすぐに布団にもぐりこもうとする。が、楓さんに引っ張り出され、あえなく捕獲される。
「さ、籤を引いてください」
俺は仕方なく籤を引く。
…―A―
「私はDでしたよ?あと秀はCでした。わかりましたね?」



















ホントに疲れる一日だった。






Cheerfully performance. But the performance was saw into by his friends.



…夢のような一夜なのか夢であって欲しい一夜なのか曖昧な一夜が過ぎて6時間後の今は08:30。大分遅くまで起きていたことが小学1年生にもわかる頃、俺はレム睡眠とかノンレム睡眠とか言われている状態から覚醒する。どういうわけか、頭が若干痛いのが気になるが眠たい体を起こす。
…明日、か。七恵と楓さんの約束を守る為に、音咲をカモる為に、頑張りますか!
…明日だが。


それで今日は何をするかというと………特に何も無い。音咲の家からはもう帰ってきて自宅にいるし、何故か七恵も俺といるし、楓さんは音咲と多分一緒にいるし。やることねえ…。
よって俺達は今、絶賛惰眠中だ。体があまり疲れていない所為か、家の中でボー…っとしているだけになっている。間違いなく最悪の過ごし方だろう。
「睦月~…」
「なんだ……?」
「どっかいかない……?」
「……いいぞ」
……これ、デートじゃないか?


用意もすこぶる怠惰に時間をかけて行い、家を出る頃には1時になっていた。
「ちょっとあのお店よっていい?」
俺は言い切る前にOKをだし、七恵についていった。入った店はPORTERという店で、男物の洋服やら財布やらを売っている所だ。
「ここって…ここでいいのか?」
「睦月のものを買いに来たんだよ?」
「おいおい、俺は明日―…いや、選んでくれ」
七恵の言わんとすることがわかった俺は言葉を噤む。どうやら俺は鈍感ではないらしい。
七恵は俺より少し先に進むと、
「睦月もついてこなきゃ選べないよ?」
といって俺の手を引っ張ろうとする。俺はそれをかわし、手を広げ、
「繋ぐか?」
と聞いてみる。いや、普通は『冗談でしょ?』とか言ってくるだろうな。
「そうだね」
といって七恵は微笑みながら手を繋いだ。俺は忘れていたようだ。七恵が普通ではない事を。俺も普通じゃない事を。そしてここが衆人観衆の真っ只中である事を。そこで買ったものは財布だった。珍しくも七恵が自腹で買ってくれた財布は、綺麗な薄緑をしていた。これを選んだ理由は、
「PORTERの物って丈夫なんだよ?それに似合ってるよ?」
生まれてこの方同年代の女子にこんな事を言われた覚えのない俺は、
「そうか。ありがとよ。大事にするさ」
とありきたりな言葉しか吐けなかった。相手が七恵でも嬉しくなるんだな。
俺がリスク無しに喜べたのはそこまでだった。
そこからは俺も七恵もじゃんじゃん買い物をしてしまい、俺のほうは明日死ぬかもしれないという潜在意識からきたのか、いつものリミッターをハードルの如く飛び越えて貯金を使ってしまった。
……7月末には家賃を払わなきゃいけないんだがな。残金は2千8百円。生きることすら難しいな。


「今日は私がご飯作ってあげよっか?」
……正気…だよな。
「じゃあ頼む。また食べたくなるようなやつを頼む」
この日の俺は蝶・素直だったと思う。じゃなきゃこんなこといわないからな。
キッチンから香ばしい匂いが漂ってきた…。中華系か?だとしたら火力が足りないんじゃ…。
「あちっ。あちっ」
声だけ聞いたら可愛いと思えてしまう声が響く。ちょっと文がおかしいと感じたならそれは力量不足だろう。
それから20分位したところで七恵の『できたよ~』コールがし、七恵が料理を運んできたのだが、持ち前の属性によってなのかぶちまけそうになった。いや、危なかった。
料理は牛肉と豚肉の創作料理(七恵も俺も名前を知らない)をメインとした数々だった。見た目だけなら俺の料理を軽く凌駕しているだろう。これだけ上手いなら俺とローテーションしてくれ。
やはり見た目どおり料理は美味かった。ランクで言えば…Mymother並だ。なかなか高いレベルだ。俺より下だが。
「おいしかった?」
「美味かったぞ。なあ、飯当番を作らないか?」
「考えとくね」
俺の魂胆は一瞬で一蹴され、七恵は食器をキッチンに持っていった。ここで最後のチェックだ。
「洗うの手伝ってやろうか?」
「いいよ。料理は洗うまでが料理だからね。拭くのはやってもらうけどね」
……チェックしなきゃよかった。

その後、食器洗いを終えた俺達は朝の如くボー…っとしていた。
「明日帰ってきてね……」
「心くらい込めていってくれよ……」
冗談のつもりだったんだが…
「じゃあ…これでどう?」
うつぶせ状態の俺の背中に乗ってくる七恵。正直重い。そしてそのまま―
「痛い痛い痛い痛い!!」
海老反り。マジで効くってこれ。

ピピルピルピルピピルピ~

12時を告げる時計の電子音が室内に響く。刹那、体が宙に浮くような衝撃と無重力下に放り出されるような違和感が体を襲う。うん。これは吐けるな。
あまりの不快感に目を瞑っていたが、やがて不快感は消え去って目を開ける。
……どこだここ。
隣には七恵がいた。のはまあ普通の事だ。さっきも一緒にいたからな。
そしてまあ、どういうわけか楓さんと音咲がやっぱりすぐ近くにいたんだよな。予想できたがな。
それにしても偽者は非常識なやつだな。12時になった直後に殺し合いかよ。もしかしたら音咲の性質の悪い冗談かもしれないがな。
「さ、時間になった事だし…始めるぜ?」


DEATH MEAN



「ちょっとお前は止まっててくれ」
そう偽者が言った瞬間、俺の体は『ザ・ワールド』が発動したように硬直した。ただ違うのは、それが俺だけに影響している事だ。
「大丈夫ですか!?」
「睦月!?すごく硬くなってるよ!?」
「いったい…何をしましたか?」
3者3様の対応。視覚と聴覚しか感じ取れないので自身についてはよくわからないが、大変な事になっているらしい。因みに、楓さんが最後を言ったんだ。
「俺が……時を止めた…とでも言うべきかな?」
あくまでも馬鹿にした態度を崩さない偽者。ホントに嫌なやつだな。
「とりあえず…どうするつもりですか?」
一段と険しい顔で偽者に聞く楓さん。その体からは殺気が全開で放出されている。もしこれで俺の体が動かせていたならとっくのとうに逃げ出していただろう。
「とりあえず堀崎睦月には何もしない。まずお前らから殺させてもらう」
その言葉を言い終えるや否や、楓さんの姿が消えて偽者の背後に現れる。…楓さん?能力は火でしたよね?速過ぎやしませんか?
「楓さん。あなたじゃ俺には絶対勝てない。さっさと死んでくれ」
「それはこっちのセリフです。私があなたに負けることなどありえません」
そんな会話の中でも剣戟は続く。偽者の方はいつの間にか十字架を剣に変えていた。動きがまったく目に終えないし、俺自身そんな動きができるかも怪しい。
「ほら、チェックメイト。さようなら」
偽者が剣を振り下ろし、楓さんはそれを刀で受け止める。偽者の攻撃はそこでは終わらず、鬩ぎ合う自身の剣から閃光を発させた。この予想外の攻撃に対応できなかった楓さんは閃光に直撃。そして間髪いれずに楓さんに
剣が突き刺さ―
















らなかった。
「偽者って言うのは、本人とは大きく違うものですね。これで僕にも心置きなく戦える理由ができました」
音咲が珍しくも真剣に言う。その言葉は紛れもなく偽者に向けられており、その言葉には殺気がこもっていた。
「織口さん。彼を守ってあげてください。偽者は僕と楓さんで処分しますので」
そう言って音咲は楓さんの隣に空間移動する。今、両者と偽者の距離は約一間。楓さんの居合いの射程範囲だ。
「やってこいよ?居合い、当たるんだろ?」
偽者は挑発をする。そんな挑発には、この二人は絶対に引っかからないだろう。もし乗っても策の上でだろう。
「飛天御剣流―飛龍閃!」
楓さんの…飛龍閃が偽者に撃たれる。飛天御剣流が使える事に驚いたが、今はそれどころではないだろう。
「当たらなかったらお前が軌道修正ってか?つまらねえ策だな」
腐っても偽者。頭の回転も俺レベルのようだ。という事は二人の能力も熟知しているし、その弱点も把握できているという事だ。これは…かなりまずい。今すぐにでも俺が加勢しなければやばい。でもSNNはおろか十字架すら使えない。先ほどから七恵が十字架に念じたりとか色々やっているが効果は出ず、今は法華経題目を唱えている。
「それがどうしたというのですか?手は読めても方向は読めませんよ?」
といって偽者の後ろ斜め上から刀を繰り出す音咲。これは絶対致命傷になるだろう。
「それが読めるからつまんねえんだよ。とりあえず、死んでくれ」
偽者は刀を凍らせて弾き飛ばし、音咲を凍らせ、楓さんを背後から氷槍で突き刺した。それと同時に俺の制限が解ける。
今だと言わんばかりの速さで音咲に熱湯をぶち撒け、楓さんの傷を自身に移し変えた。かなり痛いが…二人が死ぬよりは全然マシだ。俺の傷なら水分調節でどうにか治せるからな。
「計画通り。こういうのか?」
仰向けに倒れている俺の遥か上空から剣を突き立てて落ちてくる偽者。ヤバイ。速すぎる。
マジでくたばる1秒前…1秒あるのか!?
「うおっ!」
マジで死を覚悟した俺の目にした光景は…偽者が何もない地面を突き刺している所だった。
「危なかったね…。しっかりしてよ?」
…七恵。助けるならもうちょっと早くしてくれよな?
って…あれ?
七恵がモノクロに…全部モノクロに見えるぞ?
とりあえず…偽者だ。
「お前ら…ホントに邪魔だな。いい加減邪魔すんのは止めてくれないかな?」
偽者が殺気を込めて言う。
でも誰も動じない。
今更こいつ一人の殺気に怯えちまうような臆病者は俺の仲間にはいないんだよ。
「あなたこそ止めてもらえませんか?僕達の仲間を傷つけると洒落では済ませませんよ?」
「そうです。私の有意義な生活を壊そうというのなら、全力で粛清させて頂きます。因みに言っておくと、あなたのような劣化品には私の有意義lifeに入る資格はありません」
「そうだよ!私の睦kッ…舌噛んだ…」
おい。七恵は今とてもやばい事を言おうとしてなかったか?
「さあ、かかってきたらどうです?」
楓さんが見たものを即死させそうな笑みで偽者に詰め寄る。俺だったら失禁してるかもしれないな。
「逃げるのはマナー違反ですよ?紳士らしく立ち向かいましょう」
音咲が後ろから偽者を取り押さえる。因みに、腕だけを偽者の近くに出している。
そして七恵が―
「七恵ビームッ!!!」
名前、変わったのな。
七恵ビームが偽者に直撃―
「調子に乗ってんじゃねえよカス共が!!!!!」

世界が変わった。
以前に俺がSNNバトルをやっていたときに使っていた、周囲を一気に凍らせるアレだ。そのアレを偽者が―
「威力は4倍増しくらいか?もし生きててもカップヌードルが出来上がる頃には死ぬだろうな」
音咲の手は空中に浮いたまま。楓さんは刀を振る動作のまま。七恵は七恵ビームを撃ったまま。みんな時が止まったように動かなくなった。俺が無事な理由は俺のSNNによるものだろう。
「さて、殺し合いだ。どこからでもこいよ」
俺は十字架をナイフに変える。ナイフくらいなら音咲に扱い方のイロハを教えてもらった事があるからな。
俺は合図無しで偽者に突進する。殺す覚悟なんてとっくにできてるからな。
「いきなりかよ。それはないんじゃないのか?」
数日前の俺と同じこと言ってるよ。まあ、こいつに教えることは何一つないけどな。
俺は無言のままナイフで襲い掛かる。襲い掛かりながらこいつをチェックメイトに嵌める手段を考える。俺のコピーなんだから身体能力は同じなんだろう。いくら山で鍛えられたからといっても、3分間逃げ切れるだけの体力は俺にもあった。体力切れは望めない。
じゃあSNNで手っ取り早くやっちまうか?それもダメだな。そんなことしたら、もし殺せてもあいつらを助ける事が出来なくなっちまう。
じゃあどうするんだ?
…同士討ち?
却下だな。
「お前、どうしたらみんなを助けられるか考えてるだろ?」
それを考えない堀崎睦月はありえないね。
「一つゲームをしないか?」
ゲームじゃないんだよ。遊びならさっさと尻尾巻いて帰ってくれ。
「お前には有利な提案だと思うぜ?今のままじゃお前しか助からないからな」
…言ってみろよ。
「今からコイントスをする。表が出たらお前の勝ち。何でも好きにするがいいさ」
「わかった。やってやる」
「いい心がけだ。俺だって仲間が死ぬ所は見たくないからな」
言いようのない怒りが込み上げてくるが、今は我慢だ。
「本当に…表が出たらやめてくれるんだな?」
緊迫した空気。今までにない緊張が俺を締め付ける。
「本当だ。裏が出たら…わかってるな?」
裏が出たら。それは事実上の敗北を意味する。だが、事はそれ以上に重要だ。
「ルールはあるのか?」
全ての状況を予測して言う。
「あるさ。勝負に勝つ為なら何でも有りだ」
要はコインを奪い取って自分の決めたいようにすればいいんだろ?
「そうだ。ここにいる俺とお前だけで決められるんだ。そこには誰の意思も介在しない」

そうして、クォーターは宙を舞う。

俺はすぐに硬貨に走り出す。自分の手に収めれば勝ったも同然だろう。だがそう考えるのは偽者も同じであり、同じ

ように硬貨に走り出す。
速度は同じ。力も同じ。
ならどっちが勝つ?
覚悟の大きい方に決まってる。
偽者は剣で突きを繰り出してくる。レナパンを見切れるようになった俺には軌道が丸わかりだ。それは相手も同じだ―?
剣の切っ先に黒い点がある。いったいなんだ?
『突け!』
…紛れもなく俺の声だ。
俺はナイフで切っ先を突こうとする。外したら…間違いなく俺が死ぬだろうな。リーチの差ってやつだ。
ガシャン
ガラスが割れるような音がしたと同時に、
「いったいどうなってんだ!?十字架がぶっ壊れるなんてことが!?」
偽者の剣もろとも十字架が、
「いったい何をしやがった!?俺にはこんな事できねえぞ!?」
粉々に砕け散った。
よく見ると偽者にも点がいくつかある。どれもガラス球くらいの黒い点だ。
『突け!突くんだ!』
やはり俺の声が聞こえる。ここは突くべきなのか?
まず足の点を突く。突くといっても、流石にナイフでやるのは無理だったので地面から氷槍を出してやった。
点を貫くと同時に足が粉々に崩れ落ちる偽者。
どういう原理かはまったくわからないが、とりあえずは点をどうにかすればいいのだろう。
「お前…ホントにオリジナルなのか!?」
偽者もご乱心の様子。俺も狂っちまいたいが、それをしたら本気で狂いたくなるようなことになるからな。今は狂えないさ。
「俺は堀崎睦月だぜ?それ以上でも以下でもない、今俺がやったことだって理解できてない」
「じゃあなんで―」
「とりあえず言えるのは、仲間を助けようとする俺に奇跡が起こったってことだ」
相当クサイ事を言ったが、別にいいだろう。奇跡ってのも本当だし、仲間を助けようとしているのも本当。でまかせじゃなきゃいいだろう。
「煩いッ!!俺はお前を殺して乗っ取るんだよッ!!!!」
そう言って偽者は俺に突進してくる。その速度は俺より速いんじゃないかと思わせるほどだ。
俺は点を探す。あった。地面に点が一つ。
俺は十字架を銃に変える。念じる事はもちろん忘れない。
「死ねッ!!!」
俺は声と同時に地面の点めがけて弾を撃つ。点を貫いた直後、偽者の周囲の地面が粉々に砕け散る。
「チクショウッ!!!!なにが起こったらこんな事になるんだよッ!!!!」
俺は間髪いれずに偽者の点を貫いていく。


「さよならだ」
最後に頭を貫く。
その時の偽者の表情は忘れられないだろう。
生きようとする貪欲な意志。俺を憎む邪悪な意思。その二つの欲求を完全に露にしたその顔は壮絶なものだった。
俺はふと辺りを見回す。
チャリン
足元で金属音がする。あの、落とした時にほぼ万人が音の方向を見る音だ。
「…表だったから奇跡が起きたのかね。もしそうなら感謝するよりないね」
誰も返答をしてくれる奴がいないことに気づく。
…まだ生きてるよな?
未だにモノクロビジョンのせいか、みんながいっこうに見つからない。このままだと本格的にヤバイ。
自分の影が気になって地面を見る。
……こりゃ驚いた。
まさか地面に巨大な点があるとは思わなかったよ。
これだけの巨大な点をどうやって貫く?
感嘆するくらい簡単だなだな。

俺は十字架で上空30mほどまで飛び上がり、地面に照準を着ける。
そして叫ぶは―
















「七恵ビームッ!!!」







…えーとだ。とりあえず言うなら…後日談だ。



あの後、大きな点を貫いたら氷が全部砕け散ってみんなが出てきた。それと同時にみんな俺の部屋に移動してきて、非常に大変だったという事だけ伝えておこう。
結局、偽者のやろうとしたことは未だに乗っ取りしか明確にはわかっていない。動機も不明だ。あいつがコピーだというならそれを作った創造主の存在が不可欠なのだが、創造主は今回はまったく接触してこなかっただろう。コピーとして作ったが、運悪く逃げられてしまった。そんなところだと思う。
動機の方は、俺の私論だが一応は考えた。多分そいつは俺の記憶を反芻して、うらやましくなったんだと思う。自分はいつも試験管やらの中で変わらない景色を見ているのに、自分の記憶の中にまったく知らないなにかが流れ込んできて、それが魅力的だったら?言うまでもなくそこに行きたくなるだろう。状況は違うかもしれないが、大まかな動機はそこだったんだと思う。でも手段が悪すぎた。もし確実に世間に出たいなら、音咲にでも頼めばよかったんだ。多分、どうにかしてくれたはずだ。今はもう遅いが。
あの時発現したモノクロビジョン。今は至って普通の健全な高校生の目になっている。いったいアレがなんだったのかは前述どおり、もう遅い。
「おら休憩時間終わりだ!さっさと持ち場付け!」
これ以上モノローグに力を入れると減給だな…。
何をしてるかって?
バイトだよ。バイト。
俺、一日前になにしたっけ?
買い物天国だったよな。
残金2000円台。
家賃払えないよな?
よってバイトだ。
「睦月、怒られちゃうから早く行こう?」
無論七恵も一緒だ。ノストラダムスを信じて財産を全額使った哀れな馬鹿を哀れむが如く運命を共にしてくれたよ。俺としては稼ぐ金額が減って嬉しい限りだが。
それでも一週間で5万か…。

死ねるぜ。






因みに、家賃を払えたら音咲家で大分遅れた誕生日会を行う予定だ。
もちろん七恵のだ。
あいつの名前はさっき教えてもらったが、7月7日に生まれたからつけられたらしい。いや、それ以外だったらどうなるんだって質問はよしてくれ。
無論俺はその会の料理準備係さ。音咲から前払いのギャラが出るしな。前払いの意味は…わかるな?