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1 one day in the strange


ある晴れた7月の午後、遅れてやってきた梅雨前線とうだるような熱気が協合同盟のもとジェットストリームアタックを仕掛けてきたんじゃないのかと、妄想を膨らませるのにはいささか適しすぎていると思われる外気の状況下で、俺はやはりうだっていた。
ああ…暑い…熱い……
「ここはこの公式が出るからちゃんと覚えとけよ~」
数学の駿河がなにかを言っているが俺には関係ない。構ってやる事すらできない。
「おい池谷!妄想はやめろ!」
………池谷…やめろよ………
「え!?俺ですか!?やってませんよ!?」
「なにが金髪姉ちゃんとハーレムだッ!お前には早すぎる!」
「なんでわかるんですか!?」
「後で職員室に来い!」
アホ池谷が…自白はないだろ……
クラスの連中が妄想より頭の方で心配してるぜ…?
そんな事を華麗にスルーし、続くHRもスルーした俺は逃げる脱兎の如く巣穴と称するに相応しいであろう部室に向かう。
なぜこんな日に部室に行くかって?
簡単な話だ。
俺の家にはクーラーがないからな!
学校にいようが家にいようが同じなんだ!
どちらかと言うと楓さんがいる分学校の方がマシだな!
そして俺は吸い込まれるように部室に入る。ドアを開けるとかノックとかのプロセスは省略する。だって熱いんだもん☆
俺が部室に入って数分。程よく俺が壊れかけたころ、音咲が部室に入ってきた。
「こんにちは。これは…いい感じにへたばってますね」
うるせー。部室にはクーラーなるものがないからだ。
「つけましょうか?」
…そういえばお前んとこすごいんだったな…。
「冗談です」
音咲はそう言って部室を出る。扇風機でも持ってきてくれるとありがたいんだが。
俺?
長机に突っ伏して体力の消費を抑えてますがなにか?
SNN?
そんなもの使って体力を減らすなら、普通に耐えてたほうが…よし!使おう!
かちゃり
静かにドアが開く。そこに現れたはもちろん楓さん。俺の海馬を埋め尽くすほどの勢いで…冗談だ。
どういうわけか、楓さんは汗をかいていない。なのに何故か、上はワイシャツ一枚である。因みに、外目から見てだ。
…これで汗かいてたら透けて見えんのかな…
「女性の前でそんな妄想をするのはよくありませんよ?」
口に出てましたか?
「カマをかけただけだったんですが…」
ごごご誤解しないで下さいよ!?
「わかってますよ。思春期の男子によくあることです」
うっ……七恵でも音咲でもいいから早く来てくれ…七恵だと一緒になって弄ってきそうだな…七恵はいいや
ガンッ
ドアの蝶番が悲鳴を上げるような衝撃と共に能動的な女子生徒が現れる。まあ、七恵だが。
…気づかなかったが、後ろには麦茶を4人分用意してきた音咲がいた。なぜに麦茶?コップまであるし。
その日、七恵は楓さんとパジャマパーティーがどうとかぬかしていて、俺の家には帰らな…いや、こない。
まったく平和なことだ。楓さんと一夜を共にする七恵が羨ましいが、考えなきゃいい。
俺が羨ましがってる時に音咲が、
「僕達もやりませんか?」
とか妄言を吐いていたが放っておく。俺は野郎と夜を明かして喜ぶような特異な性質の持ち主ではない。

土曜日
珍しくも俺のところに指令が来た。6月は休暇だとか何とかだったので、かれこれ1ヶ月ぶりだろうか。できればやりたくないんだが…その場合は俺より弱いやつがやらなきゃいけないんだろう。仮に強くても好き好んでやらせたくなるようなことじゃないしな。
指定された場所はあの日の海岸。初めてモンスターと戦った場所だ。俺的には、ここに縁があると思う。
珍しい事は重なるもので、指定された時間の指定された場所には集団がいた。どれも黒スーツを着ていた為、俺は指令を送っているところの人かと思っていた。黒スーツだけなら確信には至らなかった。だが、もしその集団が組とかファミリーとか言うのであれば、俺は間違いなく絡まれるはずなのだが、時々こちらを見られるだけで何もしてこなかった。

指定された時間を3分過ぎたころ、モンスターが現れた。アルガエスのような人型のやつで、なぜだか色は漆黒で生気が感じられなかった。俺は今度も死闘を覚悟した。同時に、前よりは楽に倒せると思っていた。だってこんな数の味方がいるんだぜ?
…俺の予想は恐ろしく簡単に引き裂かれた。
モンスターが現れても微動だにしなかった黒スーツの集団は、あっという間に壊滅させられていた。そうだな。花火の輝きほどの時間だった。
俺はその間、それを傍観する事しかできなかった。
何故かって?

それはだ、

そのモンスターがいきなり分裂して、黒スーツの集団のコピーになったからだ。
事はそれだけでは終わらなかった。黒スーツの集団はコピーを攻撃した。多分、自分のコピーを一対一で倒しに行ったと思う。
そして、両集団が激突した時には既に、味方であると思われた集団は壊滅していた。
それからが酷かった。
壊滅させられて動けなくなっている集団を、コピーである集団が食べ始めたのだ。別にグロテスクな描写はない。俺が見た光景は、よくアニメで『君の体を取り入れる』。そんな光景だった。
だから、食事にかかった時間もほんの数秒。俺が止めることを考える事すらさせなかった。
そしてそのコピーは、ドロドロに溶けたアイスのようになって一箇所に集まり、今度は俺の形になった。色は黒っぽい感じだ。
「よう」
俺の形をしたそいつは言った。正直、怖いね。
「返事位してくれてもいいんじゃないのか?」
そいつは訝しげな表情を見せる。俺にはよくわからないが、まさに俺だと思う。モンスターだが。
「さっきの事か?言っておくが、あいつらがモンスターだったんだぜ?」
あいつら…?最初からいた方か?
「当然だ。俺だって、俺に死んでもらっちゃ困るからな」
そう言って、自称俺のそいつは闇に消えていくように姿を消した。
まだ印象に残っている事がある。そいつの目は、俺と違って紅かった。
不思議だ。まだ午前中なのに世界が黒い。天変地異の前触れか?驚天動地なことでも起こるのか?

それから程なくして、音咲から遊びの誘いが来たので、俺はその誘いに乗った。無論、遊ぶ気なんかさらさらない。俺には野郎と休日を遊んで過ごすような時間の浪費はしたくないからな。
ところかわって音咲マンションである。音咲のマンションではない。音咲の住んでいるマンションだ。勘違いはするなよ?してもらって困る事はないがな。
俺は音咲の家に半分押しかけ気味で中に入った後、音咲の案内によってリビングの座布団に座っている。相変わらず広い部屋だな…なんでこう、物が少ないかな…。
俺がしょうもないことを考えていると音咲が飲み物を持ってくる。見たところ、アイスコーヒーだろうか。7月にはちょうどいいものである。
「急に僕の家に来るなんて、どうしたんですか?」
いつものニヤケ面で音咲は聞いてくる。正直、凡百なルックスの俺にはウザクてたまらん。
「音咲、お前今日指令来なかったか?」
まずそれを聞く。もしかしたら音咲も俺と同じ事があったかもしれないしな。
「いえ、ありませんでしたよ?そういうあなたはあったんですね?」
もちろんだ。その時のことを話そうと思ってたときにお前から電話が着たからな。
「それは間がよかったですね。どんな事があったのですか?」
音咲は興味津々、のような表情で俺に聞いてくる。が、その表情はいつものニヤケ面とさほど変わらないため、ウザイ。
俺は健気にもそんなウザさを耐えながら、先ほどの事を事細かに話した。
「信じますが…僕は何もできませんよ?」
………あ。そうだよ。まだあいつは何をするとも言ってなかったじゃねえか…。
「まあ、そんな事があった。それは覚えておきましょう」
その日、俺は野郎と街を練り歩く事となった。



4日後
俺は久しぶりに学校に行く事となった。なぜ4日後かと言うと、日曜から昨日までは風邪で体調を崩していたのだ。ちょうど日曜の朝に気づいて七恵に言った為、七恵は昨日まで俺の家に帰ってきて…来なかった。
登校中、七恵を見つけたので隣に行く。
「よう七恵。久しぶり、か?」
俺がそう言うと七恵は走り去って行った。
いったいなんだ?チャックでも開いてたか?
否。じゃあなんだ?シャツが前後ろ逆?
いいや違うな。
じゃあなんなんだ!
その答えは放課後まで考えたが、まったく、欠片すらわからなかった。その間、七恵は一度も俺に話しかけてくることはなかった。
そんな事があっても帰巣本能というものは発動するもので、やはりというかなんというか俺は巣と呼ぶに相応しい、部室に足を運んでいた。実を言うと、帰巣本能だけではない。音咲や楓さんになら今の状況をわかりやすく教えてもらえる気がしただけだ。できれば、楓さんがいいが。
俺が部室のドアをノックする。今日は雨が降っていて気温も低いので、先日のようなプロセス排除は行わない。
「どうぞ」
部室から野郎の声が聞こえる。
俺はそれを了承の意と受け取ってドアを開け、部室に入る。
「よう音咲。久しぶりだな」
俺は朝七恵に言ったように言う。たった3日会わなかっただけで久しぶりといわせる部室が恐ろしい。どうせくるのだが。
「久しぶり、ですか?ふざけないで下さい」
音咲?
音咲はやけに真剣な口調で詰め寄ってくる。その顔は誰にも嫌悪感を覚えさせるようなものだった。俺も例外ではない。
「なんだ音咲?俺がなにか悪いことでもしたか?」
心当たりがないので聞いてみる。
「あなたは何を言ってるんですか?一昨日にやった事を忘れたとは言わせませんよ?」
は?一昨日?火曜日の事か?俺は普通に布団の中で病魔と闘ってたぞ?
「それこそふざけないで下さい。じゃあ僕達が火曜日に見たあなたは偽者…」
偽者?…それって俺がこの前話したあいつか?
「失礼しました。あなたが事前に教えてくださったのにそれを蔑ろにしてしまって」
「そうだ。本当に失礼な事をしてくれやがって」
一つ、余計な声が聞こえた。
その声の発信源は、俺の形をしたそいつだった。
ドアは閉めてあったしドアを開けるには俺達が邪魔なはずだ。なのにそいつは部室にいた。
「…音咲?これで完璧に信じてくれるよな…?」
不安と恐怖を混ぜた声で音咲に聞く。
「これがなくとも信じてましたが…これでは否定すらできません」
そう言って俺達は身構える。
俺達が取った行動は、前に話した内容を考えると至極当然なものだった。
前に話した内容は、黒スーツの集団の人数には触れてなかったが、その人数は3桁ほどの数で、俺の前にいるそいつは集団をダース単位で吹き飛ばし、瞬滅したやつだ。
「おいおい身構えるなよ。いったい俺が何をしたって言うんだよ?何もしてないだろ?」
そいつは微笑を湛えながら言う。
正直、不快だ。自分の顔を見て不快だというのは自虐的かもしれんが、そいつの顔は完璧に悪だった。邪とかのレベルではない。性善説が出回っているこの世界では不謹慎だが、こいつは根本から悪でできていると思う。
「僕達の役目は人を守る事ですからね。なにもしてなくとも、その気があるあなたは敵であると判断しますッ!」
音咲は手に紅く光る光球を持ってそいつに接近する。その紅く光っていた光球は徐々に姿を変えて、ナイフのような形になった。
音咲がナイフで切りつける。
俺の形をしたそいつは避けなかった。
音咲のナイフがそいつの体を切りつけた瞬間、ナイフから爆発が起こった。俺は音咲の能力によって助けられた。音咲は自身の能力のためか、その爆風は効果がないようだ。
爆煙が収まったころ、そいつの体が徐々に見えてくる。
そいつは右腕が吹き飛んでいた。
それだけならよかった。そいつの右腕の傷口からは光さえ吸い込みそうな黒いオーラのようなものが出ていた。
「音咲。いてえじゃねえかよ」
そいつはそういうと、すぐに右腕を再生させた。自動修復でないのがわかったのは、そいつが指を鳴らした瞬間に再生したからだ。
「とりあえず、音咲。お前は今日のうちはリタイアしてろ」
そう言ったときのそいつは、凍りつくような顔をしていた。
俺はこのままでは音咲がヤバイと考え、音咲を俺の氷で覆った。
音咲が見えなくなった為か、そいつは俺に視線を向ける。
「今はお前には興味はないんだよ」
俺にそう言い放つと、俺の氷は砕け散り、中から音咲が氷漬けで出てきた。
「これで邪魔はなくなった。やっと一対一だ」
俺は十字架を小太刀に変形させる。この狭い部室では、このくらいの大きさがベストだろう。
「俺になんのようだ!見たところ音咲は死んじゃいないようだが、これ以上傷つけるなら手加減はしねえぞ!」
ありったけの強がりを言う。
わかってる。俺じゃこいつには勝てないこと。こいつがちょっと本気を出せばすぐに俺を殺せる事を。
「手加減なんてしてもしなくても結果は同じだろ?俺はお前に宣告をしに来ただけだ」
宣告?
「7月20日の日に、お前を殺して世界を奪う。それだけだ」
そいつはまた、闇に消えていった。部室の中は夕焼けに照らされて、闇はどこにもなかった。


それから翌日。氷が溶けた音咲と一緒に七恵と楓さんにこのことを話した。どういうわけか、著しく高感度が下がっていた俺だけでは到底信じてもらえないような話を音咲の存在でカバーした。
そしてその日の放課後部室会議での事だ。

「余命14日ですね」
楓さんの宣告。正確には俺の形をしたそいつのものだが。
楓さん?それ、かなり効きますからね?
「ごめんなさい。ですが空気が重いと感じたので緩和しただけですよ」
あんまり悪びれた感じは無い。まあ、何をやったか知らんが、とりあえず俺への復讐だろう。
ふと気になって七恵を見る。楓さんが仕掛けてきたってことは、七恵もあるだろうな。
「純情なる乙女達の心を弄んだ罪により―」
おい、純情なる乙女達?楓さんだけだから純情なる乙女だろ?
七恵のグーが飛んできたが気にしない。
「これから私が睦月の家に行く事を正当化してよね!」
は?正当化しなくてもくるだろう?それにお前は仲間だから家に来ても何も文句はないぞ?合鍵とか作るような事は許可なくはさせんが。
もちろん、心の中で言っただけだ。もし言ったら別の要求が来る事だろう。
「とりあえず、話をもとに戻しましょう」
音咲が90度ほど逸れた話を本線に戻す。
「色々要求をするよりも、とりあえずは堀崎睦月の偽者をどうするかです」
…言い方が悪いな。
「では…『もう一人のあなた』でいいですか?」
いや…その場に応じて考えてくれ。
「わかりました。ではまず、なぜ20日の日に指定したかという事です」
それは俺も気になってたんだ。
「推測の域を出ませんが、偽者の目的が本当に世界制服だったとします」
俺だったらそんな事微塵も思わないのにな。
「20日という日が、その目的達成にはちょうどいい日であることが考えられます」
例えば?
「簡単に言えば、『その日だけしか使えない』、そういうものがあるという考えです」
どっかの魔法使いみたいだな。
「この場合は20日を無事に乗り切れば問題はないでしょう」
それでも難しいがな。
「他には、あなたを強くするための期間かもしれません」
俺を強くする?そんな必要があるのか?
「偽者と初めてあった日に、偽者はモンスターを取り込みましたね?もしかしたら能力なども取り込んだかもしれません。その場合は、あなたが強ければ強いほどに効率は上がります」
じゃあどうするんだ?
「偽者を越えるまで強くなるしか助かる方法はありませんね。でも」
音咲は続ける。
「この案には希望があります」
どんな希望だよ。
「14日間以上の期間を与えてしまったらあなたが偽者を越える可能性があるということです」
その可能性は否めないな。
「失礼ですが、その場合も20日を乗り切るのは難しいんじゃないんですか?
楓さんが言う。至極もっともな事だ。
そういえば…なんで俺はこんな茨の道を歩まなきゃいけないんだ…?
「とりあえず、俺は強くならなきゃ助からないんだな?」
七恵を除く全員。つまりは音咲と楓さんが頷く。
なあ、俺なんか悪いことやったかな?

みんなの持論が一通りで終わった後で聞く。
「なあ、お前らは強くなれって言うが、どうやって強くなるんだよ?」
読者ならここでどう考える?どっかの山にこもって修行でもするか?
「う~ん…修行だよ!」
七恵が言う。こいつは何も考えてなさそうだな。
「俺が感じた偽者の強さは修行でどうにかなりそうなものじゃないぞ?」
あの時の事を覚えているだろうか?俺の偽者は一度だって拳で戦ったか?一度でも殴ってきたか?
「あ…そっか。肉体的に強くても意味ないんだ…」
七恵はなにかを悟ったようにへたりこんだ。なにかを悟ったらへたりこむのかは知らないが。
「それは僕も考えていましたが…生憎、そんな知り合いはいません」
いたらお前の家を疑うぞ。普通はいないんだ。
みんなが押し黙る。みんなはそれぞれなにかを考えているようだが、空気が重い。
…これってみんな俺のことを考えてくれてるんだよな。
これってかなり幸せなんじゃ…?
楓さんまでもが真摯に考えてくれるなんて!
「まあみんな落ち着いてくれ。俺にいい案があるんだ」
俺の声?
俺じゃないぞ?偽者でもないからな?
じゃあ誰だ?
俺だよ。
未来の。