※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「また来たのかお前ら…」

紙野の家に入るまで俺たちは重要なことをすっかり忘れていた。紙野 蘇留の存在である。

「今日は僕の部屋でみんなとギルティやるから」
「ちょっと、お兄ちゃん!今日は私と対戦する約束だっただろ!」
「ごめん蘇留…またの機会ということに…」
「駄目だ。私にもテストがある。それとも妹が酷い点数とってもいいって言うのか?」
「そうは言ってないけど…」

紙野も大変だな…。しかしこの兄妹は全く似ていない。
性格もさることながら容姿も全然似てない。

「紙野さん、今日は私たち帰るよ」
「ちょっと俣奈、マジ?」
「だって蘇留ちゃん楽しみにしてたんでしょ?」
「別に楽しみになんかしてない。私はテストで悪い点を取りたくないだけだ。だから練習がしたい」
「だったら俺らと練習した方がいいんじゃないッスか?」と郁瀬。
「しかし…」

蘇留が聖を睨む。
っつーか何でこいつらこんなに仲が悪いんだ。お互いそんなに悪い事してないと思うが。
やはりソル使いとカイ使いの宿命なのだろうか。

「ま、あたしは別にいいわよ」

意外にも聖は承諾している。もしかして仲直り…?いや、仲"直り"って表現はおかしいか。

「あたしはこいつと違って大人だからね~。些細なことで喧嘩したりしないのよ」

よく言うぜ…

「わ、私も構わないぞ。ただ私に負けたらお前が可哀相だから言ってやったまでだ」
「このチビ…」
「やんのか?」

先が思いやられる…。


なんとか紙野が二人を説得し、無事に紙野の部屋まで来れた。
ここまで来れば大丈夫だろう。

「とりあえず、まずは紙野をなんとかしないとな」
「え!?何で僕なの!?」
「お前は俺たちとは試合に懸かってるものが違うんだよ。永園の呪縛を解くチャンスだ。
 あいつはプライドが高そうだからな。きっと試合に勝てば苛められなくなる」
「でも皆も成績が良くないと闘劇が…」
「いいんだって、テストは一回じゃないんだ。そんなの別の機会に挽回できる。それよりさっさと始めようぜ」
「じゃあ早速ですけど、この前も言った通り俺が相手になります。髭はサブで使えますから」
「良し、じゃあ始めてくれ」

郁瀬と紙野がスティックの前に座る。

「立ち回りに穴があったらどんどんダメ出ししていきますから」
「お、お手柔らかにね…郁瀬君…」
「ダメっスよ。本気でいきます。そうしないと上達しません」

『ヘヴンオアへール! デュエルワン! レッツロック!』


『シュッ!爆砕!!』『カウンタ!!』

『シッショーウ!!』
『この一服より時間がかからんとはね』

「最悪ッスね…」

うなだれる紙野。

「キャラ替えする気あります?」
「え…?」
「正直な話、チップじゃ髭はキツイんスよね。理想はエディですけど…あとはポチョとか。
 勝ちたいんっスよね?俺は替えるのを薦めますよ。
 チップに何か思い入れでもあるんなら、無理にとは言いませんが」

(キャラ替え…)

「いや、僕は今までチップとともに歩んできたんだ。今更替えられないよ。
 それに、勝ちたいからって強キャラを使うのはなんかね…」
「………そうっスか…」
「あ、ごめんね。なんか…」
「ああ、いいッスよ。キャラに思い入れがあるのは良いことですから」

そうは言っているが、郁瀬の表情は少し暗かった。

「じゃあ気合入れていきますよ!
 いいッスか!まず開幕ですけどね、とりあえず逃げてください!中途半端な牽制はパイルでCH貰います!
 さらに永園の性格上、開幕は90%以上の確率でパイル撃ってきますね。
 で、逃げた後ですけど基本的に地上戦は不利なので…」

紙野に立ち回りのいろはを次々と叩き込んでいく郁瀬。

「弓太の奴凄いわね…」
「そうだな…」

俺も聖も郁瀬に圧倒されていた。流石E組最強と言った所か…。

「三綾お前はどう思う…って、何やってんだあいつら…」

三綾は蘇留と楽しそうに遊んでいた。いや、正しくは三綾が蘇留で遊んでいた。

「だからツンツン頭はやめてさ、降ろした方がかわいいよ」

蘇留は観念してしまったのか、最早抵抗する気力もなくなってしまったようだった。

「……暇だな」
「そうね…」
「お前練習とかしたか?」
「ううん。あんたが休んでるのに練習したらフェアじゃないでしょ」
「さてはお前俺のこと弱いと思ってるな」
「ばれた?」

はっきり言う奴だ…。まぁ実際弱いんだから仕方ない。

『シッショーウ!!』

忍者が本日5度目の断末魔を発した。

「ああー!!そこで幻朧斬は無いッスよ!!
 っつーか幻朧斬は禁止です!!リスクリターンが全然合ってないんですから!!
 いいですか、近S固めからはダッシュ投げとか他にも…」

試合は全部郁瀬がストレートで勝利を収めていた。俺たちの番がくるまでまだ時間がかかりそうだ。

「蘇留ちゃんかわいい~」
「暑苦しいぞ…やめろ…」

俣奈は蘇留を後ろから抱きかかえるような形になっている。

「ほっぺたやわらかい…」

そして背後から蘇留の頬を摘んで伸ばしたりして遊んでいる。本当の姉妹みたいだ。
もちろん俣奈が妹だけど(性格的に)

「暇ね…」

欠伸の混じった声を出す。

「そうだな…」
「あたしたちも暇つぶしに遊ぼうか」
「なにをするんだ?」
「『ギルティギアしりとり』やろ。緒土からね。最初は『あ』」
「愛」
「イルカさん・縦」
「鉄斬扇」
「…………」

この男は真面目にやる気があるのだろうか。

「…次はあたしからやるわ」
「おう」
「アンジ」
「ジョーカートリック」
「空中投げ」
「幻朧斬」
「アンタやる気あんの!?」
「お前こそやる気あんのか!"ンジャメナ"があるだろうが!!」
「小学生かアンタは!しかもギルティと関係ないでしょ!」

『シッショーウ!!』

そのとき本日10回目の断末魔が部屋に響き渡った。

「次の人、もういいっスよ。終わりました」
「もういいのか?」
「俺は紙野に立ち回りとか教えますから、兄貴達はやっててください」
「じゃあやろうぜ聖」
「いいけど…俣奈はやらなくていいの?」
「あいつは蘇留に夢中だ。先にやっちまおうぜ」


カイにカーソルを合わせる。
ヴェノム…中距離を保った立ち回りを展開すれば十分倒せる相手。しかし離されれば状況は不利。
なかなか厳しい相手だ。だが、実はあたしはこの組み合わせが凄く好きだ。
遠距離は不利、カイの得意分野である中距離も楽じゃない。
でも中距離戦の…あの互いの読みと読みがぶつかり合う緊迫感。離されては不利な分、緊張感も大きい。
そこで読み勝ったときの快感…何物にも替え難い。
自分で言うのもなんだが、読みには自信がある。だから対ヴェノム戦は好きであり、得意だ。

ガコーン

Kカラーを選択した。

『始めるか…』
『いい試合にしましょう』
『ヘヴンオアへール!デュエルワン!レッツロック!!』

『カウンタ!!』
『はっ!』

ザァァー…ズシャアッ!

開幕2Sに2Pを合わせて遠S>ディッパーでダウンを取る。いい感じに読みが冴えている。
とりあえず開幕は読み勝った。一気に起き攻め。

ガッ、ガッ、ガッ

2Pを小刻みに当てる。

『失礼!……聖騎士団奥義!!』

2Pから当て投げ。すぐにチャージを作って再度択一を迫る。

『失礼!』

チャージから小技を挟まずにそのまま投げる。
緒土の戦いは数回しか見ていないが…思ったとおりだ。緒土には大きな弱点がある。



くっ…強ぇ…!これが江辻 聖…

『聖騎士団奥義!!』

また起き攻め…次は何だ?

『はっ!』

2Sか…良し。FDで距離を離す。

『ここだ!!』

ギィンッ!ギィンッ!

2Sと、続けて繰り出されたHSをFDで防御する。ここで逃げ…

『見切った!!ヴェイパースラスト!!』

ヤべェ!ジャンプに2HSが…!

『ハッ!見切った!!ヴェイパースラスト!!ハッ!見切った!!ヴェイパースラスト!!』

そのままVTループを2ループ貰う。体力が5割を切る。
このままじゃまずい。何とか切り返して流れをこっちに引き寄せないと…

『聖騎士団奥…油断しましたね』

(な!?ダスト!?)

チャージスタンとFRCのエフェクトも手伝ってカイのダストが鮮やかに決まった。

『はっ!見切った!!』

受身不能ダストからまたVTループ。残り2割。

『聖騎士団…』『ファールを犯したな!!』

カイをバーストで吹っ飛ばす。続けてP、Kボール生成。
危なかったがこれで何とか切り返せた。状況もこちらが有利。今度はこっちの番だ。
立ちPでボールを弾き、続けてP生成。一気に3WAYの弾幕を張る。
しかしカイもHJですぐに弾幕を避け、そのままヴェノムを目指して下降して来る。
良し、6Pで迎撃。

『スタンエッジ!!』『カウンタ!!』

「げっ!空中スタンかよ!」

思わず声も出る。そのままFRCからコンボをつなげられてSLASH。
その後は何回やっても結局勝てなかった。中距離まで来ると一気にセバーやらディッパーで斬り込んでくる。
各主牽制を置いて止めようとするが、そのほとんどが読まれてしまっていた。
読みがやたら鋭いし、当て投げは絶妙。どうしても投げで崩されてしまう。
バクステやら空中バックダッシュで距離を離そうとしても、しつこく喰らい付いて来て離れない。

「お前…当て投げが上手すぎるぞ」
「はぁ…」

溜息をつく聖。

「なんだよ?誉めてるんだぞ?」
「アンタ本気でそう思ってんの?」
「は?」
「あたしの投げが上手いんじゃなくて、緒土の投げ回避が下手なのよ。それも滅茶苦茶にね」
「ま、マジ?」
「アンタ暴れとか全然しないし…折角足払い暴れ持ってんのに使わなかったら意味ないわよ?」
「で、でもよ…暴れってなんか厨っぽくないか?あんまり好きじゃねぇんだよな…」
「アンタは本当に馬鹿ね。そんなの気にしてどうすんのよ。それに全然厨じゃないし。
 まぁ、ガード中に足払い連打とかするなら厨って言われても仕方ないけどさ。的確にやればいいのよ」

(暴れ…か…)

「いいわ。あたしがカイ対策教えてあげるからちょっと来て」
「お、おい!そんな敵に塩を送るような真似していいのかよ!」
「緒土が弱くて張り合い無いの。あんたはグダグダ言ってないであたしの親切心に感動してればいいのよ」

強引に腕を引っ張っていかれる。

「いい?中距離はセバーとディッパーを両方止められるカーカスを主軸に…」

まさかカイ使いからヴェノムの戦い方を教わるとは思わなかった…。

「良し、ようやく私の番だな。この中にエディ使いはいるか?」

蘇留が三綾の腕を振り解いて立ち上がる。

「ああ、俺使えますよ」
「ん?お前は髭使いじゃないのか?」
「髭はサブです。エディがメイン」
「良し、じゃあ相手を頼む」
「そ、蘇留…やめたほうがいいよ」
「なに?」
「郁瀬君凄く強いから蘇留じゃ相手にならないよ」
「そんなことはやってみなければ分からないだろ」
「そうだよ紙野さん…そんな言い方ないよ…」
「でもね三綾さん、蘇留は…」

紙野の言葉なんてどこ吹く風。蘇留は無視してスティックの前に座った。

「ほら、さっさとやるぞ」
「まぁ俺は構いませんけど…」

『俺は檻に生きるモノ…』
『どうなっても知らんぞ!!』
『ヘヴンオアへール!デュエルワン!レッツロック!!』

『バンデッリボルヴァー!!』

「 え ! ? 」

何をトチ狂ったのか蘇留は開幕ぶっぱBRという暴挙に出た。

『シャアァー!!』

流石の郁瀬も虚を付かれたのか、JKや6Pを使わずに直ガ>投げで対応する。

「開幕ぶっぱBRってどんなファンタジスタだよ…」
「松瀬君…実は蘇留は初心者なんだ…」
「マジで!?」

その後も蘇留は奇怪且つ大胆な行動を連発。
ライオットやダッシュVVをぶっぱなして画面を縦横無尽に飛び回る。
ちょっとコンボを貰うと「あ!」とか「うわっ!」とか声を出すあたりも初心者丸出しだった。
Dループなど全く出来ない。当然郁瀬にかなうはずも無く、ボロボロにやられていた。

「い、郁瀬と言ったか。お前なかなか強いじゃないか!」
「蘇留さんは弱いッスね」
「野郎…!」

しかし何度やっても結果は同じ。
郁瀬のパーフェクト勝利も珍しくなくなってきた所で蘇留はスティックから手を離した。

「今日はこれくらいで勘弁してやる」

(お前はお笑い芸人か…)

「俺でよければコンボとか教えましょうか?」
「私は他人の手なんか借りたくない」
「まぁまぁそう言わずに。俺たちのせいで蘇留さんの練習も短くなってしまいましたし、お礼ですよ」
「……好きにしろ」
「まずコンボからですね。
 基本的にはソルの最強コンボであるDループに如何に繋げていくかを念頭に置くわけなんですが…
 Dループは知ってますよね?」
「知らん」
「マジッすか…じゃあ俺が見せます」

『オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!オウアー!ネッテロー!!』

「なんか五月蝿いコンボだな…あんまり使いたくないな」
「はは…そこは我慢してください。じゃあとりあえずやってみて下さい」

『オウアー!オウ…』

「2発目のJDが出ないぞ」
「コツは一発目の昇りJDをなるべく低めに出して、硬直が切れたらすぐに2発目のJDを出すことです」

『オウアー!オウアー!』

「こうか?」
「そうそう!飲み込み早いッすね!今度はダッシュジャンプからさっきと同じ様に…」

それから30分ほど経って俺たちは紙野の家を後にした。


「今日は楽しかったね蘇留」
「…そうだな…」
「ん?どうしたの?元気ないね」
「あの…郁瀬って人いただろ…」
「うん。郁瀬君がどうかした?」

心なしか蘇留の頬が赤くなっている。

「惚れた」
「え!?」
「あいつは好きな女とかいるのか」

好きな女子はいない…と思う。でも好きな男子は―――

「ちょ、ちょっと僕には分からないなぁ…」
「そうか…直接聞くか」

そう呟いて蘇留は部屋を出て行った。

…止めた方がいいのかな?でも何て言って止めればいいんだろう?
『郁瀬君はホモなんだ松瀬君が好きなんだよ』
そんなこと言っても信じてもらえるわけがない。

(……どうしよう)

「これも俺のおかげだろ」
「ばかぁ!!松瀬が早く起きれば全部丸く収まるの!私もう朝走るの嫌だよ!」

もうこうして並木道を三綾と二人で走り抜けるのも慣れてきた。
入学当初はお互い息切れしながら走っていたのに、今ではかなり余裕を持って走れる。
三綾もこの通り、エクスクラメーションマークを一回の会話に4個も付けられるほどに成長した。
毎日のランニングのおかげで体力がついたんだ。
それを俺のおかげだと言ったらこのお叱りを受けたと言うわけだ。

「三綾、お前なんか欲しいものとか無いか」
「なに?急に。誤魔化そうとしたってダメだよ」
「違うって」

誤魔化そうという気も多少あったのは事実だが。

「この前俺が風邪引いたときに迷惑掛けちまっただろ?その礼だ。遠慮なく言ってくれ」
「何かくれるの?」
「俺の出来る範囲でな」
「いいよ。私そんなつもりでやったんじゃないし…」
「ダメだ俺の気が収まらねぇ。何が何でも受け取ってもらうからな」
「なんか脅迫されてるみたい」

そう言って三綾は笑った。

「う~ん…でも急に言われてもなぁ…」

三綾がうんうん唸ってる間に学校についてしまった。

「いつでもいいからじっくり考えてくれ」
「うん」

教室のドアをくぐる。そして今日も退屈な授業が始まる…と思ったのだが…。


「これから部活の見学をしてもらう」

雁田は教室に入ってきて、開口一番にそう発言した。

「この学校に部活なんてものがあるのか」
「私も初めて聞いたよ」

他の生徒達もざわめいている。

「お前ら知らんのか?この学校は強いんだぞ?
 健全な精神は健全な肉体に宿ると言うだろ。ギルティも然り。
 まぁそんな訳だから今日は部活見学だ。自分の入りたい部活を見て来い」

雁田から各部活の簡単な紹介が載っている冊子を配られる。
部活か…別に入りたくもないけど…。

「松瀬は部活入るの?」
「さぁな。多分入らないんじゃないか?お前はどうするんだ?」
「私も入る予定ないなぁ…でも折角だから見て回ろうよ。面白い部活もあるかもしれないよ」

どうせ暇だし…まぁいいか。

「よし、じゃあ皆で行こうぜ」

早速いつものメンバーを集めて廊下に出た。

「聖は部活入るのか?」
「どうしよっかなぁ。中学のころは剣道やってたけど…」

「鬼に金棒だな」なんてことを言ったらリアルバンカーを喰らいそうなのでここは黙っておこう。

「何段なんだ?」
「初段」
「それって高いのか?」
「一番下よ」
「大した事ねーな」
「年齢制限があんのよ。仕方ないでしょ。実力なら3段は固いわ」

よくわからんが適当に頷く。

「そうだ、蘇留ちゃんも呼ぼうよ。一緒に行ったら楽しいと思うよ」
「や、やめた方がいいよ!!」
「紙野さん…?」

紙野のやつどうしたんだ?聖が嫌がるなら分かるが、なんで紙野が?

「どうしたんだ?喧嘩でもしたのか?」
「いや、そんなことはないけど…」
「お~い!!」

その時廊下の先から聞き覚えのある清涼感溢れた声が響いてきた。

「あ、蘇留ちゃんだ」

紙野の顔から一気に血の気が引く。

(何か様子がおかしいな…?)

ま、まずい…最悪だ…。

「まだ見学に行ってなかったんだな。良かった。私も同行させてくれ」

高校1年生…青春ド真ん中の純情な少女の初恋。(僕の知る限りは)
その相手がホモだと知ったらどんなことになるのか想像がつかない。
ショックのあまり気絶してしまうんじゃないだろうか。いや、それならまだいい。
トラウマになって人間不信に陥ったり、2度と恋が出来なくなるかもしれない。
……いや、でも僕達が一緒に行動していれば蘇留も郁瀬君に「好きな人はいるのか」なんて聞けない。
僕が蘇留から目を離さなければ大丈夫だ。

(なんだ、心配することないや)

「じゃ、じゃあ皆で行こう」
「いいのか?紙野」
「もちろんだよ!」

(大変な見学になりそうだなぁ…何も起こら無いといいんだけど…)

「その前にちょっといいか」

歩き出した松瀬君を蘇留が止めた。

「どうした。見たい部活でもあるのか?」

しかし、そう言ったきり蘇留は黙り込んでしまった。
廊下が不気味に静まり返る。

(どうしたんだろう?)

「郁瀬 弓太」
「ん?なんすか?」
「お前が好きだ。私と付き合ってくれ」

(あ―――)

一瞬、世界の時が止まってしまったような感覚に襲われた。
いや違う。世界の時が止まったんじゃない。自分の時が止まってしまったのだ。
数秒。それはたった数秒の停止だったのに、何分にも何時間にも感じられた。

「お、俺が蘇留さんと…ですか…?」
「そうだ」

呆気にとられる郁瀬君。
当然だ。いきなり過ぎる告白。誰だって戸惑う。
三綾さんはまるで自分が告白されたかのように顔を真っ赤にしている。
江辻さんと松瀬君は口をあんぐりと開け、目を丸くして固まってしまっている。
多分僕もそんな顔になっているんだろう。
いくら蘇留と言えど、いきなり告白に踏み切るなんてことがあるわけが無い。
そう考えていた自分が甘かった。

「あの、その、何て言うか…気持ちは嬉しいんですが…」
「だ、ダメなのか…?私じゃダメなのか!?」
「俺には心に決めた人が…兄貴がいるから…」

そう言って郁瀬君は松瀬君を見た。

「"兄貴"…だと…?」

蘇留も松瀬君を睨む。

「緒土、貴様…貴様が弓太を誑かしたんだな!?何を吹き込んだ!!」
「ま、待て!誤解…」「御託は…いらねぇ!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!」

蘇留に"リアルぶっきらぼうに殴る"をくらってから10分後。

「要するに、現在相関図としては…」

蘇留はさっき教師に渡された冊子にどこかで見たことあるような図を書いた。

              lハ=◎=)
             川*д丿
               弓太
       _              _
       /|  /       \  |\
  キモイ/  /ウホッ    友達\   \愛
    /  |/             \|  \
  ,,,____    ̄     友達       ̄ ,._..
  //<◎>  ────────→  / === ヾ
  |リ |_l__|  ←────────  ヽ(゚- ゚ | l
 緒土          殺         私  レ

「こうなるわけだ。つまり弓太は緒土に惚れているものの相手にされていない。
 ここに私の入り込む余地がある。緒土を排除して弓太を振り向かせればいいわけだ。
 …しかし同性愛とは…理解に苦しむな…」

自分の好きな人と自分の恋敵が目の前にいるというのに、蘇留は淡々と凄い発言をする。
紙野 蘇留恐るべし。自分が想いを寄せていた人物が真性のホモだと知っても全く動揺しない。

「だが私は諦めないぞ。
 私が緒土より魅力的な人物になれば済む話だからな。難易度はともかく、単純な話だ」
「あ、あの…蘇留さん?この"殺"という字が激しく気になるんですが…」
「ああ、それはちょっとした冗談だ」

そう言って蘇留は柔和な笑顔を見せた。
そういえば蘇留の笑顔を見るのはこれが初めてだ。
こいつは基本的に無表情だからどんな顔で笑うんだろうと思っていたが…
それがまさかこんな形で見ることになるとは思わなかった。

「そんな訳だから、私は弓太と2人で部活を見て回る。弓太は借りていくぞ」
「え?あっ!兄貴ぃー!!助けてくださいー!!」

蘇留は郁瀬の腕を引っ張って何処かへ消えていった。
この奇妙な三角関係は一体どんなふうに展開していくのだろうか。
すくなくともそこに安息は無い。蘇留の書いた『殺』の字を見て、俺はそう感じていた。

「松瀬、これからどうするの?」
「知らん…俺はただ流れに身を委ねるしかない…」

(マジでどうすりゃいいんだ…)

「緒土は…その…好きな女の子とかいないの?」

出し抜けに聖が呟いた。

「何でそんなこと聞くんだ?」
「あんたが誰かと付き合ってれば弓太も諦めるんじゃないかと思ってさ」
「なるほどな…でもダメだ。好きな女なんていないからな」
「ふ~ん…そうなんだ…」

ここは蘇留に賭けるしかないな。あいつが頑張って郁瀬の彼女になるのを祈ろう。

「まぁなるようになるだろ。考えてもどうにかなる問題じゃない。
 俺たちもこんな所でじっとしてないで部活でも見に行こうぜ」
「…そうね。最初はどこ行く?」
「そうだな…」

冊子を開く。

「あ!はいはい!私行きたい所があるんだけど」

三綾が元気良く挙手する。

「ん?どこだ?」
「げんしけ…」「却下っ!」

3人の声が綺麗に重なった。

「なんで却下されるかなぁ」
「あそこに入部したら話が進まなくなっちまうだろ」
「なんの話?」
「こっちの話だ」
「うー、意味わかんないよ松瀬」
「分かんなくていいんだ。そもそもあそこがどういう所か解ってんのか?」
「ううん。わかんない。でも面白そうな名前だったから」

そんな訳のわからない会話をしながら4人で廊下を歩く。

「着いたわよ」
「ここが武道場か…」

それは体育館のすぐ隣にあった。とりあえず聖が中学時代にやっていたという事で剣道を見にきたのだ。

「竹刀の音がしないわね…」

扉の向こうからは勢い良い掛け声が聞こえてくるが、竹刀がぶつかり合ったりする音は無い。

「素振りでもやってるんだろ。とりあえず中に入ろうぜ」

「ここだ!!」
「斬ッ!!」

扉を開けるとそこは異様な空間だった。
広い武道場には面をつけた剣道着姿の人間など1人もいない。
いるのは奇妙な青い剣を構え、白い服を着た数名の男女。

「あれって封雷剣…?」
「こいつら何やってんの…?」

全員呆気に取られる。

「あの…入部希望者ですか?」

部員の1人が話し掛けてくる。
この服装…聖騎士団の…?まるでコスプレだな…。

「違うわ。見学してるだけよ」
「見学だけと言わずにちょっとやってみませんか?」
「聖、やってこいよ。経験者なんだから余裕だろ?」
「江辻さん頑張って」
「え!そんな急に…」
「団服も予備のがあったはずだから大丈夫ですよ」

部員にどうしてもと頼まれ、聖は渋々付いて行った。最近部員が来なくって困っているらしい。
それにしてもこんな服装で本当に剣道なんて出来るのか?打たられたら相当痛そうだ。

「江辻さん大丈夫かな?」
「さぁ…」

それから10分ほどして聖騎士団の服を身に纏い、封雷剣を携えた聖が姿を現した。

「こんな屈辱を受けたのは生まれて初めてよ…」

聖は恥ずかしさと腹立たしさが同居したような表情で言った。

「ははは!結構似合ってるぞ」
「うるさいわね!!」

でも実際似合ってた。まるでカイの女版だな。

「じゃあ早速試合してみましょう。経験者らしいから大丈夫ですよね」
「さっさとやって帰らせてもらうから」

あいつも大変だな…しかし、あんな細身で剣道なんてできるもんなのか。
…いらん心配か。あいつ何故か怪力だし。あの容姿に騙されると痛い目にあう。

そんなことを考えているうちに試合は始まろうとしていた。

剣道は肉体的な要素より精神的な要素の方が重要な位置を占めているとあたしは思う。
なんせ一撃で勝負がつくのだから。
刺すか刺されるか。一瞬でも気を抜けば斬られて終り。生死を賭けた究極の読み合いがそこにはある。

「始めッ!!」

この張り詰めた空気が好きだった。
張り詰めすぎて、今にもビリビリと音を立てて裂けてしまいそうな空気が。
2mの空間を開け、対峙した相手を見据える。
全神経を研ぎ澄ませて相手の動きを見る。敵の心理を読む。面か、胴か、篭手か、フェイントか。
萎縮しているならこちらから斬り込む。荒ぶっているなら攻撃を捌く。隙を逃さず捕まえる。
敵と己の動き、間合い、位置―――全てを瞬時に把握、処理して最適な行動をとる。
一歩踏み出しては一歩下がる。互いの読みと読みが鬩ぎあう。
そんな2人の気迫が空気にまで作用してこんなに息苦しくなる。

「スタンエッジ!!」

バチチチチチ!!

突如として炸裂した鋭い音と閃光が思考回路を一瞬にして占拠した。

(なっ―――!?)

相手の封雷剣が放電したのだ。

(スタンガン!?)

「ちょっと審判!!こんなのあり!?」
「微電流ですから。ピリッとするだけですよ」
「『ピリッ』てアンタ唐辛子じゃないんだから…」

普通の剣道ではないということはこの服装を見たときから解ってた。
だが、まさかこんなデタラメなモノだなんて…。
そう考えてすぐに頭を振る。
そうだ。ここはギル高。一般常識なんて物は存在しない。

「ここだ!!」

あたしに構わず敵は攻撃動作に移る。相手が上体を大きく後方に捻った。
律儀に突っ込みを入れてる場合じゃない。ショックで麻痺した脳を素早く再起動させる。

(予備動作が大きすぎる…素人が!)

咄嗟に身を屈める。頭の数センチ上を封雷剣が空気を切り裂いて通過した。
軽装が幸いした。胴衣をつけていたら咄嗟にこんな動きは出来ない。
すぐに体勢を立て直す。敵の右胴がガラ空きになっているのを目の端で捉えた。剣を握る手に力を込める。

「胴ーーーーーッ!!」
「ぐあ!!」

紫電一閃、封雷剣が綺麗に敵の脇腹にめり込む。鋭い放電の音と共に相手は膝から崩れ落ちた。

「DESTROYED!!」

審判がバッ!と旗を振り上げる。普通の剣道で言うところの『一本』という事なのだろう。

「何故なんだ…」

男が苦虫を噛み潰したような顔で見上げてきた。

「坊やだからさ」


それから聖は何回も戦ったが連戦連勝。みるみるうちに屍の山を積み上げていった。
ギャラリーからは黄色い声援も飛び出していた(何故か女の声が多かったが)
聖は部員にしつこく勧誘されていたがそれも頑なに断り、俺達は武道場を後にした。

「鬼に金棒だな」
「スタンエッジ!!」
「ピリッとキター―!?」

電流が俺の尻を駆け巡った。思わず甲高い悲鳴を発してしまう。

「へへ、記念に封雷剣貰ってきた」

『ひじり の ツッコミりょく が 100 あがった !』
賑やかなファンファーレと共にそんな文章が脳裏をよぎった。ちなみに非武装時100。2倍だ。
さらに一般高校生の平均は20であり、50以上は殺傷力を伴うため危険である。

「聖ちゃん凄いね。なんで辞めちゃったの?」
「あ~それ辞めた時によく聞かれたなぁ…」
「なんで辞めたのかって?」
「うん」
「で、その理由は?」

聖は笑ってこう言った。

「ギルティの方が面白かったから」