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「言ったでしょ?あんた達の出番は無いって」

どう?と無い胸を張る聖。
まさか本当に3タテしてしまうとは思わなかった。
あのジョニーも倒してしまうし……やっぱりあのジョニー使いも大したヤツじゃなかったのか?俺が弱いだけなのか?

(…また気分が…)

「ほら、次の試合始まるわよ。早く戻ろ」

控え室に戻ると次の組が既に揃っていた。
黒いショートカットの眼鏡が1人、ヴェノム並みの超絶ロングヘアーが1人、そしてツンツン頭の低身長が1人。
このいかにも優等生そうな眼鏡の奴は初めて見る顔だ。……いや、どこかで見たような気もするが…思い出せない。
でもリアルヴェノムの方は覚えている。インパクトのある容姿だからだろうか。
たしか名前は赤井 雹。これでヴェノム使いじゃなかったら詐欺だ。という事は眼鏡がミリア使いか。

「勝ったようだな」

蘇留が話しかけてくる。

「お前らが負けたら意味無いけどな」
「なんだ?そいつら蘇留の知り合いか?」

眼鏡が会話に入ってくる。ですます調かと思いきや、容姿に似合わないぶっきらぼうな口調だった。

「2回戦で当たる事になる」
「ふ~ん……」

舐め回すように俺から聖、聖から永園へと視線を滑らせる。鋭い目付きは少し永園に似ている。
パッと見は優等生に見えるが、良く見ると荒々しい目をしている。

「あ……アンタあの時のDQN!」

そう言って永園を指す。

「ん?知り合いか?」
「知らねェよこんなヤツ」

と言いながらも暫し睨み合う2人。どうやら知り合いらしい。
永園はあの性格だからな……揉め事なんか日常茶飯事なんだろう。

「続きましてG組対H組の試合を行います!」

火丸さんの声が体育館に響き渡る。

「首を洗って待ってろ」

親指を首に当て、横にズバッと斬るような動作をする。様になり過ぎてて怖い。
いまだに蘇留の奴には恐怖に似た感情を覚えることがあるが、そのたびに蘇留の背が低くてよかったと思う。
もし俺と同じくらいの身長だったら、マジでかなりの恐れを抱くのだろう。
あの冷血そうな声といい、静謐だが覇気の溢れた瞳といい……

「俺トイレ行ってくる……」
「ちょっとちょっと!ちびっ子の試合見なくていいの?」
「気分が悪いんだ」
「また?しっかりしてよ?」

吐き気が止まらない。それは緊張から来るものなのか、それとも恐怖から来るものなのか…。
一体それは何の恐怖だ?蘇留に対する恐怖なのか?それとも試合…ギルティそのもの?

・・・

「G組の先鋒は亜麗寺 美里、ミリア!対するH組の先鋒は御剣 彩子(みつるぎ さいこ)でザッパです!!」

ゆらりゆらりと長い髪を左右に揺らせて対戦相手がステージに上がってくる。

「ったくどいつもこいつもムカつくぜ…俺は"PSYCHO"なんかじゃねぇっつってんのによォ…」

ぶつぶつと文句を垂れる対戦相手。絹のような長い黒髪に端麗な顔立ち。
華奢な体に白い肌は少し不健康……というより、病的な印象を受ける。
まぁ美人なのは間違いないが、その口調は容姿とは不気味なほど合っていなかった。
立ち居振る舞いもなんだか異様だ。姿勢はかなりの猫背で、両手をポケットに突っ込んでいる。
とても女とは思えない。

「アッタマ痛ぇ…PSYCHOの糞が…」

(女のくせに『俺』かよ……なんか危ねーヤツだな)

何より、目つきが気味が悪い。不快感と威圧感を与えてくる嫌な目をしてやがる。

「オイお前、俺は植田 幽二(うえだ ゆうじ)だ。PSYCHOって呼ぶなよ?」

御剣 彩子はあたしの目を見てそう言った。

(なんだコイツ……マジで既知外?)

「みっさ~!気圧されないでね~っ!!」
「チッ、わぁってる!!」

くっくっく、と不気味な笑い声を立てる御剣。口から覗いた鋭い犬歯が目に留まった。

(…呑まれるな)

彩子だか幽二だか知らんが、こんな奴さっさと倒してやる。

『ヘヴンオアヘール! デュエルワン! レッツロック!!』
控え室で出番を待つ。マッセの野郎は便所に行ったきり帰ってこねぇ。
アイツは一体何やってんだ?なんだか朝から様子がおかしい。
江辻に聞いてみても「あたしもわかんないのよ」とか言われる始末。

「悪い遅くなった……次の相手は?」

なんて考えていると、力なくドアを開けてふらふらと控え室に入ってきた。

「ちびっ子チーム。悪運強いみたいね」
「どういう意味だ?」
「先鋒のザッパがミリアとちびっ子を倒して3タテと思いきや、大将のヴェノムが逆3タテ」

あの糞餓鬼、自信満々だったくせに負けやがった。だがあれは糞餓鬼の実力が劣っていたってワケじゃなさそうだ。
対戦相手のザッパ、犬を引き当てること連続7回。実況も「また犬ーっ!」と叫んでいたぐらいだ。
運も実力の内とは言うが…アレは異常だった。

「そういう事だから順番決めるわよ」
「次はオレが先鋒で出る」
「いや、ここは調子がいいあたしが先鋒で出るべきよ」

もうこの女に先鋒は譲らねェ。コイツのせいで1回戦は出番が無かった。
最悪、マッセを根回しにしてでも……。

「てめェはどうすんだ」
「俺は……大将でいい」

大将でいいだと?コイツまさか……

「……フン」
「な、なんだよ…」
「お前、ビビッてんじゃねェだろうな?」

一瞬、マッセが動きを止める。

「なに…?」
「お前みたいな奴に大将は任せらんねぇ。さっさと行って無様に負けて来い」
「なんだと…!!」

よほどオレの言葉がムカついたのか、鋭く睨んでくる。

「ちょ、ちょっとあんた達!こんな時になに喧嘩してんのよ!」
「てめェは黙ってろッ!」

一喝して江辻を黙らせる。
ちょうどいい機会だ。ここはこの糞野郎に一発文句を言ってやらないと気がすまねぇ。
さっきからウジウジしやがって。

「ふざけんじゃねェぞ?てめェはクラスの代表なんだろ?その他大勢を蹴落としてここまで来たんだろうが」

グイッと乱暴に胸倉を捕む。

「見苦しいんだよチキン野郎。さっさと負けてこい。その方が俺の出番が増えるってモンだ」
「野郎……ッ!」

手を振り払い、オレの目を直視してくる。怒気を纏った瞳。だがそこには怒り以外の感情も見え隠れしていた。
コイツが何を考えてるのかはオレにだってなんとなく分かる。
マッセはもう駄目だ。
これじゃオレの足を引っ張りに来ただけじゃねェか。面倒くせェ野郎だ……早々に退場してもらうか、或いは

「てめェなんかいなくてもオレが全員ぶっ殺してやるよ」

オレの言葉は通じたのだろうか。マッセは踵を返すとそのままステージへ登って行った。
奴は途中一度だけこっちを振り向いて言った。

「お前の出番は無い。俺が全員片付けてくる」
「出来んのかよ?」
「やってやるよ」

・・・

自分でも驚くほど永園の言葉に怒りを覚えたのは、恐らくそれが的を得ていたからだろう。
今更そんなことを考える。
自分の一番弱いところを的確に抉られた。
バンソウコウが剥がれ落ちて、黄色のリンパ液が、ピンク色のグロテスクなデキモノが露になった。
だから俺はそれを隠す為に感情的になってしまったのだろう。
今にして思えば永園の判断は良かった。
あの性格だ。永園はおそらく優勝の事しか考えていない。聖も。俺だって、そうだ。
永園は俺の心理状態を見抜いた。そして「使い物にならない」と踏んだ。
だから先鋒で出るように俺をけしかけたんだ。
早い段階で松瀬 緒土を正常な状態の戻す事が必要だと判断したんだ。
これは永園なりの荒療治だったのだろう。
永園は俺の弱い部分を抉った。バンソウコウを剥がし、そしてそのままデキモノまで無理矢理抉り取ってしまったんだ。
最も、多少の出血はあったが。

「先鋒は筐体へ!」

ステージを登って行く。反対側から出てきたのは眼鏡の女だった。

「さぁAブロック準決勝第2試合、最初のカードはヴェノム対ミリアのアサシン対決となりました!」

ミリアか…相手にとって不足は無い。
こんな所で負けるわけにはいかない。今まで培ってきた力を全てぶつけるんだ。

"てめェなんかいなくてもオレが全員ぶっ殺してやるよ"

言葉は刺々しかったけど、その瞳は穏やかだった。
そうだ。俺が負けても永園が、聖がいるんだ。俺は独りじゃない。俺には仲間がいる。

『へヴンオアへール! デュエルワン! レッツロック!!』

―――シャアッ!!

開幕、俺は2Sを繰り出した。対するミリアはそれをバクステで回避。
それは開幕から1秒にも満たないほんの一瞬の出来事。
しかしギルティギアというゲームはその一瞬が明暗を……否、生死を分ける。それが1フレームを争う者達の世界。
そして敵はその数フレームの隙を見逃しはしなかった。
奴はこちらの2Sの硬直に付け込み、即座に低空ダッシュで突っ込んで来た。
そして空中でミリアが一回転して放ったのは……最強最悪の飛び道具サイレントフォース、通称毛針だった。

『読めているぞ』

ガードしてしまう。

(接近されては不利…)

『ここよ』

着地して投げられる。
2P>P>P>HJK>JS>JP>JHS>近S>2HS>HJK>JS>JP>JHSの追撃をもらって画面端に到達。
ミリアに6Pは出来ない。高い機動力のせいでシューティングも効きにくい。
そして攻め込まれてしまえば見えない起き攻めのループ。さらにこちらの足払い暴れに滅法強い6K……。

(要らん事を…今は敵を倒す事だけを考えろ)

不利だ不利だと嘆いた所で状況は何も変わりはしない。
こちらがアドバンテージをとるには、何よりも先にあの厄介な毛針をなんとかしなければならない。
逆に言えば、毛針がミリアの手元にある以上はまともに立ち回ることすら出来ないという事。

(多少のリスクは犯してでも、毛針を奴の手から離す…!)

そんな事を考えている間にミリアが一回転してHSタンデムを設置した。
今はとにかく目の前の脅威、見えない起き攻めを捌き切らなければならない。
このまま立てずに殺されるなんて珍しい話じゃない。

―――バシュウッ!

低空ダッシュ。
ここからはもう1度低空ダッシュからのJS、着地下段、投げなどで揺さ振ってくるはずだ。

―――ガッ

『読めているぞ』

2Kをガード。だがまだ6Kと下段に注意しなければならない。
どちらも当たれば約3割+画面端ダウン。

―――ガッ

立ちKをガードする。ここから中段の6K、低空BM、下段の2S等。
ファジーガードも出来るが、恐らくディレイを掛けて来る。
やはり下段ガードを基本に、中段は反射神経で乗り切るしかない。

―――ガッ

「前Kガード!良く見ている!」

そこからさらに続けて出してきた6KをHJで避け、空中ダッシュで画面端を抜け出した。

(6Kを2連続…やはり足払い暴れは迂闊に出せないな…)

なんとか間合いを空けてシューティングを展開しなければ。
だがミリアの機動力はトップクラス……遠距離での生成も安全とは言えない。
それどころか間合いを離す事すらままならない。
やはりこちらからも遠S等を振って牽制していくしかないか……。

―――バシュウッ!バシュウッ!

だがミリアは低空ダッシュを連発したりして飛び込むタイミングを窺ってくる。
どうやら地上で刺し合う気は毛頭無いらしい。

(くそ…どう立ち回れば……?)

―――シャアッ!

(っ…!)

―――バシュウッ!

空中バックダッシュで毛針を避ける。
だがこんなことをしても状況は好転しない。すぐに毛針を回収され、また飛び込まれるだけだ。
牽制は刺せない、迎撃することも出来ない。どうすりゃいいんだ…どうすりゃ毛針を奴の手から離せるんだ…!

―――シャアッ!

『カウンタ!』
『くっ、この威力……!』

苦肉の策にぶっぱ生成を試みたが、しっかり毛針をカウンターで刺された。
また2HSからコンボ…起き攻め…

『隙だらけね…』
『ファールを犯したな!』

HJSにバーストを合わせて弾き飛ばす。
即座にP生成>K生成>ダッシュP弾き>P生成で素早く3WAYを張る。

―――バシュウッ!バシュウッ!

だが折角張った3WAYもHJ>空中ダッシュ×2で難なく回避されてしまう。

(死角が無い…)

そのままミリアが上から飛び込んでくる。

(6P……って、違うッ!!)

―――シャアッ!!

『カウンタ!』
『くっ、この威力……!』
『隙だらけね……隙だらけね……隙だらけね…』

―――ガガガガァン!

画面端まで運ばれて毛針>6HS>ガーデン。
もはや抵抗する事も出来なかった。見えない中段と下段の嵐。
怒涛の攻めでガードは呆気なく崩され、そのまま起き攻めループでヴェノムの体力は尽きた。
一回転べば死が見えるとは良く言ったもんだ。

『ザトー様ぁ!』

ぴくりとも動かないヴェノムとは対照的に、ミリアは余裕。
体力ゲージを見ると、ほぼ10割残っている。手も足も出なかった……こんなにも差があるのか…。

『退屈な闘い…』

1R目が終わったのと同時に、ワーッと観客の歓声が耳に入ってきた。
ちらっと目を横にやると、生徒達は盛大に沸いていた。喧しい声。

(何だよ…これ…)

みんな俺が負けたのを見て盛り上がってるのか?全員ミリア使いを応援してるのか?
結局今のラウンド、俺は何も出来なかった。パーフェクト負け同然の糞みたいな試合だった。
こんな大舞台に出て来たのがそもそも間違いだったのか。

(やっぱり俺には無理なのか…)

その時ステージの真正面に見知った人物が立っているのが目に入った。
大きな口を開けて何か叫んでいる。でもその声は耳には入らない。
たった1人の少女の声なんて、大歓声に飲まれて消えてしまう。
それでもあいつは必死に力を入れて叫んでいる。聞こえるわけ無いのに。
でも何故だろう。俺には声が聞こえた気がした。三綾が俺を呼ぶ声が。応援してくれる声が。

『デュエルツー!』

闘いに引き戻される。再び指先に全神経を集中し、レバーを握りなおす。

「緒土ー!リラックスリラックスー!!」
「気張れやマッセェェェーッ!!」

そうだ、負けるわけにはいかない。聖のためにも、永園のためにも、そして三綾の―――

(あ……)

『レッツロック!!』

(そうか…その手があったか…!)

『甘い』

開幕、両者バクステで距離を空ける。
この距離……ボール生成を潰す為にも低空ダッシュ毛針が安定か……。
ガードさせても攻め込めるし、避けられても特に問題はない。
このヴェノム使い、やはり大した事はないようだ。さっきと同じ様に上から攻めていけばいい。

―――バシュウッ!

低空ダッシュで一気に距離を詰める。だがヴェノムは動いていない。
6Pで迎え撃つつもりか?無駄な事を。それとも観念してガードでもするか?
……まぁどっちにしろ毛針安定。

―――シャアッ!

『見誤ったな』

(えっ…!?)

―――グシャアッ!

毛針を回避され、JHSで地面に叩き付けられる。

(なるほど瞬間移動か…一杯食わされたわね…)

『マッセ!』

Sカーカスを起き上がりに重ねられる。

「ようやく捕まえた!ここは逃がしたくない所ですが……」

そう、いくら有利な組み合わせとは言え起き攻めまで持っていかれては当然不利。
ミリアの切り返しは良くない。だが画面中央で相手のボールも無い。抜けるのはそう難しくはないハズだ。

『ゆくぞ…』
『それだけ?』

Sストをガードする。

『ゆくぞ…』

―――ドドドドッ!

連続で出されたスラストを食らってしまう。そして近S>Sカーカス>2K>近S

『デュービスカーブ!』

HSデュビからK生成。

(この陣は……F式か…)

『ゆくぞ…』

スラストで弾かれたボールをしゃがみガードする。

―――バシュウッ!

『それだけ?』

その後のJK撃ち>空中ダッシュJSもガード。
F式の…いや、ヴェノムの対策は頭に入っている。
こちとら"天才"赤井 雹と毎日闘ってんだ。そんじょそこらの野良ヴェノムなんかに負けるかっての。
1ラウンド目の動きを見る限り、この男は雑魚だ。雹の足元にも及ばない。当然あたしの足元にも。

(だがこの2ラウンド目は……動きが少し雹っぽい…?)

『マッセ!』

近S>カーカスからP生成>2S>P生成>2S…
ちまちま固めやがって…だがこの距離なら崩しに来れない。隙を見てジャンプで逃げるのが得策か。

『ハァッ!』

―――バシッ!

ジャンプで逃げようとした所を6HSで叩き落とされた。

『見誤ったな』

6HS>S生成>瞬間移動からの起き攻め。
このまま起き攻めされてはマズい……でもヴェノムは基本的にバーストに弱いからな…。
最悪でもバーストを使えば確実に切り返せる。確定ポイントでさっさと使って切り抜けよう。

『すまんな』

瞬間移動からボールを弾かず、そのまま着地して投げられる。

『ゆくぞ…』
『ツメが甘い』

投げからの近S>HSストにバーストを合わせて吹っ飛ばす。すぐにダッシュで追いかけて2Sを重ねる。

『甘い』

(チッ…)

リバサバクステで回避される。フレームはやや不利…こちらもバクステで一旦距離を置く。
なんとか画面端を抜け出す事に成功したが……迂闊だった。毛針は撃ってしまったんだ。
どうやって攻め込むべきか。ヴェノムの6Pは優秀…毛針の無い状態で空中から飛び込むのは無理だ。
なら地上から?

―――ヴン…

考えている間にボール生成を許してしまった。
…ボールがあっては地上も無理。今度はこっちが逃げ回る番ってわけか。

―――カッ、カッ

2WAYが飛んで来る。
ここからの立ち回りとしては、まず持ち前の機動力を生かして無駄撃ちさせる。
そして相手がシューティングをミスったら突撃すればいい。無駄なリスクは犯すべきではない。
一見こっちが防戦一方だが、相手は相当辛いはずだ。
ミリア自体を牽制するのはもちろん、毛針も回収させないようにシューティングしなくてはならない。
そう簡単にこなせるもんじゃない。ここはとにかく逃げて隙を窺うのが妥当。
チャンスがあれば毛針を回収するか、突撃してやる。


―――カッ、カッ、カッ

(野郎…隙を見せねーな…)

それどころか徐々に画面端へ後退させられている。端を背負うのは駄目だ。一度空中から距離を埋めるか…

『ハアッ!』

―――ギンッ!

(くッ…!)

ジャンプした所でJHSに弾かれたボールをガードしてしまった。長い硬直が生まれる。
それを見逃さずにヴェノムが突撃してくる。
糞……隙を見せないどころか、追い詰められてたっての…?

『マッセ!マッセ!』

そのまま画面端で固められる。
DAAでも使って切り返したい所だが、逃げ回っていたのが災いしてTGも全然溜まっていない。

―――キィィーン……

『覚悟を決めろ』

ガトリングからダークエンジェル。

(一気に勝負を決めるつもりか…)

こちらがダークで足止めを食らってる最中に、敵はK生成からジャンプをする。
ここからJKで弾いて2択。

(…見えるか?)

だがヴェノムはJKを出さず、そのまま飛び込んで来た。

(弾かない…?)

―――ガッ

反応できずにJSをガードしてしまう。

(なんで玉を使わねーんだ……?)

いや、そう言えばこの攻撃…見覚えがある。たしか雹がやってたヤツだ。
このJSからJCJKによるガードバグを応用した中段、それと足払いによる下段の2択。
見てからガード出来るレベルの話じゃない。読むしかねぇ。
ヴェノム側としては……ネタがばれているか否かを考える。バレていなければ中段が安定。
だがアタシはさっきF式をガードしきった。なら敵は手の内はバレていると考えるはず。

(なら下段…?)

―――バシッ!

中段のJKをくらった。

『マッセ!マッセ!デュービスカーブ!!』

JKからKボールが連続ヒットしてコンボを繋げられる。HSデュビで締められ、体力は残り1割。

『ゆくぞ…]』

(…またF式か…芸の無いヤツ)

『すまんな』

と思ったら低空のすかしストからのダッシュ投げだった。追撃を貰ってミリアの体力が尽きる。
なんだよこいつ……やるじゃん。1R目とは別人みてーだ。

『SLASH』
『ハァァァァァ………』

『デュエルスリー!レッツロック!』

開幕、バクステで距離を置く。
どうやらこいつの事を過小評価してたみたいね。なかなか……いや、かなりいい動きをする。
雹と闘わせてみたら面白い試合になりそうだ。

(だがそれは無い…てめぇはここで倒す。もう負けられないんだ)

―――ヴン……

(開幕ぶっぱ生成…!?)

こっちはバクステを選択していた。攻撃してこないと踏んでたのか……随分思い切ったことをする。

(どう狩る…)

毛針は瞬間移動で対処される。なら直にJSと毛針で2択をかけるか?
だがJSは6Pで落ちるから……つまり……読み合いが発生する事になる。
なら地上から?ボールがうざってぇが……前転投げなんかを決めれば一気に流れを引き寄せる事が出来る。

(慎重に行け美里。過小評価するな。ヤツは……強い)

―――バシュウッ!

・・・

(来た…!)

JSか毛針を撃ってくるはず。毛針は瞬間移動で回避できる。
JSだった場合は不利だが、ボールを配置しているからフォロー出来るはずだ。

『見誤ったな』

ミリアが頭上に迫ってきたところで瞬間移動し、先程と同様にJHSを繰り出す。
しかし予想に反してミリアはJSも毛針も出さなかった。その代わりに

―――バシュウッ!

空中バックダッシュで後退した。

(あ……)

―――ザシュッ!

『カウンタ!』

・・・

相手がJHSを振ろうとした所にJDをカウンターでブッ刺した。
ヴェノムが勢い良く画面端に吹っ飛び、壁バウンドして跳ね返ってくる。

(レイプショーの始まり始まり)

『隙だらけね…隙だらけね…』

近Sから拾ってコンボを叩き込み、画面端へ落とす。締めは当然毛針>6HS>ガーデン。

(もう立たせねぇ……このままブッ倒すッ!!)

―――ガガガガァン!

・・・

6K、2Sを振りまくってガードを崩し、起き攻めを2ループさせた。
1度目は6Kで崩し、2度目は6K>6Kで崩した。あっという間にヴェノムの体力が1割を切る。
これぞミリアの真髄。相手に抵抗する暇を与えず、中段と下段の奔流を浴びせる。
それは一方的な制圧。圧倒的な蹂躙。

―――ガガガガァン!

この起き攻めで終わりにしてやる。

―――ガッ

まずは6K。寸での所でヴェノムが立ち上がり、ガードされる。

(今の動き…見えてるのか…?)

6K……確かに、集中していれば見える時もまれにある。
だが"まれ"は2度も連続で起きねぇ。脅威の発生17Fは何度も見えるもんじゃない。もう一度6Kで…ッ!!

―――ガッ

『読めているぞ』

少し、不安を覚えた。

(6Kが2回、か…)

自分で言うのもなんだが、敵の心理を読むのは得意な方だと自負している。
何回か闘えば、その戦闘スタイルから相手の性格を判断する事も出来る。
もちろん100%正確にとはいかないが、そう遠くはない判定を下すことは出来る。
亜麗寺 美里とか言ったか…とにかく上から毛針ガンガン攻めてくる。強気なヤツだ。
かと言って無鉄砲ではなく冷静さも持ち合わせている。開幕は全部バクステだし、無理はせず状況を良く見て行動してくる。
そしてこちらの瞬間移動>JHSに対するJD……対応が早く、読みも的確。
しかしこういう頭のいい奴ほど心理は読みやすい。今ヤツの心境は恐らくこうだ。
"6Kが見えているのか?"
結論から言うと俺に6Kは見えない。ガードできたのは2回ともまぐれだ。
「中段、中段とくれば、次は下段が来るだろう」と思うのが普通の考え。
だが亜麗寺 美里……ヤツもかなりの曲者らしい。
6Kを5回連続で出している。最初の起き攻め、俺は6Kで崩された。2度目は6K2回で崩れた。
とくれば次は……

・・・

ガーデンが消える。最後の2択だ。
さっきの2回の起き攻め……こいつは2回とも6Kで崩れている。
つまり、ヤツの頭には"6Kの恐怖"がこびり付いているはず。6Kを恐れるはず。
故にヤツの最後の行動は……

(立ちガード…ッ!)

―――キンッ!

『読めているぞ』

(ちっ…だが…!)

『どこを見てるの?』

2Sから即座に前転で懐に入る。奴の心には起き攻めを防ぎ切ったという安堵があるはず。
その油断に付け込む前転からの投げ。捌けるもんなら捌いて見せろッ!!

『すまんな』

(げっ……返された!?)

『ゆくぞ……』

追撃をもらって画面端ダウン。今度はこっちが起き攻めを受ける番か……。

―――ヴン……

K生成…オーソドックスな2択か?それともさっきみたいに簡易F式を狙ってくる?

―――カッ

ダッシュJKでボールを弾いてくる。当然と言えば当然だ。
奴の体力は残り1割。この状況からの簡易F式なら、立ちPで割り込んで倒される。それを警戒したのだろう。
そう、あと一発何か当てれば倒せるんだ。しかもこちらの体力も十分に余裕があり、TGだって溜まっている。焦るな美里。

・・・

(ここで倒さなければ…)

奴の手元にはまだ毛針が存在し、さらにこちらの体力は尽きかけている。
状況は現在有利だが、今ここで逃がしてしまったら一気に勝ち目が薄くなってしまう。
F式への対処といい……こいつヴェノム戦を分かっている。と言うか、"慣れて"いる。

―――バシッ

JK打ちからの空中ダッシュJSを当てる。そのままカーカスループからPデュビまで繋いでダウンを奪う。
そしてK生成からダッシュJK。続く空中ダッシュJS>JHS>Sストもガードされる。

(セオリーは効かないか……なら……)

Sストから着地して立ちK>Sステを撃って―――

(来ない…?)

『SHOT!!』

レベル2まで溜めたSスティンガーをガードしてしまう。ガードゲージが白く光り始めた。
さらにK>HS>SステでPボールを一緒に弾く。一気にガードゲージが蓄積されていく。

(まずい…)

野郎、ゲージを溜めて一気にケリを付ける気だ。
ミリアの防御力は低い。いくらヴェノムの火力が低いとは言え、画面端でガードゲージを上げられては流石にヤバイ。
下手をすればここからワンコンボ>起き攻めでやられてしまう。是が非でも見切らなければ、負ける。
確かにあたしの後には雹がいる。蘇留もいる。だけどそんなことは関係ない。
闘劇優勝なんて興味ねぇ。でもアタシはたくさんの物を背負ってここにきたんだ。ここで負けたら、あいつが浮かばれない。
あんなに闘劇に出るのを楽しみにしてたのに…出れなくて…それなのにアタシなんかが出場して…。
そして1回戦、ザッパに無様にやられた。それでまたこんなヤツに負けるなんて…認められるか…!

『ゆくぞ…』

ヴェノムの崩しと言えばSストか下段の2択。
Sストなんて何千回と見てきた。そう簡単に当たらない。

『それだけ?』

落ち着け美里。当たらなければどうと言うことはない。ガードして隙を見て逃げる、それだけの事じゃないか。
距離さえ離してしまえば後はどうにでもなる。とにかく逃げろ。逃げればあたしの勝ちだ。

(だから今はとにかくガードを固めるんだ…!)

『すまんな』

・・・

(良し…!)

ガードゲージをめいいっぱい上げてからの投げ。これならいくら補正がかかるとは言え、大ダメージは必至。

『覚悟を決めろ……ダークエンジェル!!』

ダッシュ6HS>ダーク。ダークエンジェルがミリアを反対側の画面端へ運んでいく。
さらに間に6HS>HS生成を挟み、敵の体力は4割を切った。ここで画面端で2個起き攻めのチャンス。
……この起き攻めを当てれば勝機はある…!

―――ヴン…

K生成からF式の体勢に入る。

『ゆくぞ……』
『それだけ?』

Sストで弾いたボールを立ちガードさせる。これで条件は整った。中段か下段か、いくら対策を立てようとこれは見切れない。

(この2択で決着をつける…!)

―――バシッ!

中段のJKが命中した。
さらにKボールが連続ヒットする。ヴェノム本体はそのままJPにガトリングし、JHSを繰り出した。
             ・ ・ ・ ・ ・
(ふ……フフ………かかったッ!!)

ツメが甘いぜ松瀬 緒土とやら!            ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
なぜあたしがさっき投げを無視し、ガードしたままで投げられてやったか…理解出来るか?
お前にはただアタシがビビってガードしていただけに見えただろう。
ガードゲージを溜めてからの投げなら、確実にダークを当てて来ると読んでいた。
そして投げからのコンボはバーストが滅茶苦茶に溜まる。TGも溜まる。つまり、全てはこの攻撃のための布石。

『デュービス…』『ツメが甘い』『カウンタ!』

バーストをカウンターでぶち当ててダウンを奪う。そのままヴェノムに向かって一目散に走っていく。

(仕留める)

『ロマンティーック』

相手の起き上がりにダッシュHSタンデム青。そしてここからアイアンセイバー青。
それは人間の反応できる領域を超えた超高速の2択。見てからの反応は不可能。
回避するには運を天に任せるしかない。

『ロマンティーック』

(これで終わらせる…!!)

―――ガッ

「おーっと!JKガードしているーっ!!」

(バカな…ッ!?)

野郎なんて強運だ…!だがまだタンデムが残っている。次の2択でケリをつけるんだ。
投げか、下段か、中段か。どれでもいい。当てれば倒せる。
なら反撃を食らいにくいのは何だ?例えガードされてもその後の状況が有利なのは何だ?

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ミリアが縦に1回転して踵を振り上げた。
その次の瞬間―――本来ならミリアの蹴りがヴェノムの頭を捕らえているはずの場面―――ミリアは大きなボールに閉じ込められ

ていた。

(な、投げ返し…)

『SLASH』
『ハアァァァァ……』

すまん佐東……負けちまった。お前なら勝てたよな。負けなかったよな。こいつにも、あのザッパ使いにも。
あたしは弱い女だな、なぁ佐東……。