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父さん母さん、許してくださいとは言いません。謝って許される事ではないと解っているからです。
僕は今日学校をサボりました。せっかく高い学費を払ってもらっているというのに。
でも、せめて言い訳をさせてください。僕は自分の意志でサボって訳ではありません。これは陰謀です。
その証拠に僕は今まで皆勤を貫いてきました。サボろうなどとは微塵も思った事はありません。
全て彼の陰謀なのです。

「ったく……空いてねェじゃねェか」

永園くんが筐体を睨みつける。僕達はゲーセンに来ていた。
彼曰く「授業なんて出る意味ねェよ。それより実戦だ」という事らしい。
そう言うや否や、彼は授業をサボって僕をゲーセンまで強制連行したのだ。
永園くんも最終選抜テストに向けてはりきっているんだろう。
以前一度だけ勝てたけど…松瀬くん曰く「永園はあれから猛練習して反則紛いの強さになった」らしい。
今度はあの時のようにはいかないだろう。

「しゃあねェな……並ぶか。お前は向こう側に並べ」

永園くんは随分大人になっていた。これが数ヶ月前の永園くんだったら対戦中の人に向かって
「今すぐ退くか、殴られてから退くか、選べ」とかエディも真っ青の理不尽な2択を迫るだろう。
でも今は大人しく後ろから観戦している。僕も画面に目をやる。
ミリアとヴェノムのアサシン対決だった。
2人は白熱した戦いを繰り広げ、最終的には芸術とも呼べるような美しいシューティングでヴェノムが勝利を収めた。

『ユウハンハベジタボー!!』

乱入を知らせる音声と共に聞こえてきたのは永園くんの怒声だった。

「あ!?てめェ!なに連コしてんだよ!!」

やっちゃった……。いくら大人しくなったとは言え、彼は紛れもなく永園 翼なのだ。

「うっせーな!ちょっとくらい我慢できねーのか!!」
「このアマ……!!」

意外にも筐体の向こうに座っているのは女性らしい。しかも、あろう事か永園くんに怯えていない。

「ちょっとみっさー!やめた方がいいって!」

僕の前に座っていた女の子が立ち上がって2人を止めに入った。

「ンだてめェ!!2対1か!?上等だオラァッ!!」

勘違いしてるし…。

「永園くん!やめてよ!」

僕も2人を止めに入り、その場は何とか落ち着いた。

・・・

「ほんとにごめんね~。ほら~みっさーも謝る」

たしかに連コしたのは悪いと思った。しかしあんな乱暴な声を掛けられたらこちらとしても気分が悪い。

「誰がこんなDQNに謝るか!」
「ぶっ殺す……!」

黒髪のDQN("ナガソノ"とか呼ばれてたっけ)がわなわなと拳を握る。

「女の子に手を上げんの?糞野郎が」
「ハッ、オレは男女差別とかしねェんだよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ2人とも~~…みっさーが喧嘩したらぼくまで迷惑掛かるじゃん」
「う……」

雹にまで迷惑を掛けるわけにはいかない。それに、もし喧嘩でもして学校に連絡されたらマズい。
授業をサボったのがばれてしまう。(と言ってもサボったのは雹で、私は強制連行されたのだが)

「ならギル校生らしくギルティで勝負したら?」

"ナガソノ"の連れが提案した。

「いいわよ」「上等だ」

『君はザトーの……残念だったな……』
『余計な気遣いよ』

『ヘヴンオアへール! デュエルワン! レッツロック!!』

敵の実力は未知数。先ほどの言動や態度から見て判断すると―――恐らく底辺のDQN。
さっさと転ばしてレイプしてやる。

―――バシュウッ!

空中バックダッシュで距離を離す。足払いでも当ててやろうか?
いや、流石に安直過ぎる……地上戦は不利だし―――やっぱ空中から攻めるに限る。
どうせこんなDQNならすぐにボロを出すに決まってる。

ピョンピョン飛んで飛び込む隙を窺う。対する髭はジリジリと歩いて間合いを詰めて来る。
―――とりあえず、ランサー。

―――シャアッ!

『かわすまでもないな』

ほざけ。ガードしたことを後悔させてやる。

―――バシュウッ!

低空ダッシュJSで飛び込んだ。

―――コカッ、ブシュウ!!

(無敵吸血―――!?)

『シュッ、爆砕!!』

約4割。画面端ダウン。起き攻め。気絶値増。敵TG増。誰だ、こんなバカなコマ投げを作った奴は。
それより……まさか無敵吸血をしてくるは思わなかった。ただのDQNじゃないのか?
いや、無敵吸血なんてちょっと練習すれば誰にでも出来る……過大評価は良くない。

『それだけ?』

6Kをガード。続けて繰り出された近S>遠Sもきっちりガードする。
とりあえず近距離で髭に敵う筈も無いので距離を空けたい。

『いかがかね?』

しくじった。Jで逃げようとしたところに6HSが刺さる。

―――って……これやばくね……?

『シュッ、爆砕! ロマンティーック いかがかね? シュッ、爆砕!』
『甘かった……』

(う、うっそ……)

画面上部の時間を見る。20秒も経っていなかった。たった2コンボで死ぬなんて…どんな火力だよ。

『この一服より時間がかからんとはね』

『デュエルツー! レッツロック!!』

この私があんなDQNに負けた?
糞っ!……落ち着け美里。今のはただスレイヤーの糞な部分を押し付けられただけじゃないか。
無敵吸血なんてまぐれに決まってる。私がDQNより劣ってることにはならない。
使い手がDQNだろうが初心者だろうが、スレイヤーはいつもスレイヤーだ。
一瞬の気の緩みが命取り。不用意に飛び込んだのが悪かったんだ。

―――バシュウッ!

先程と同様に間合いを離す。相手はスレイヤー……ローリスクな立ち回りで堅実に攻めるべきだ。
しかし相手もなかなか隙を見せない。1R目同様に悠々と歩いてくる。
"逃げ"と"待ち"はシステム的に不利。TGが溜まりにくくなってしまう。
逆に追いかける側はTGがじわじわ増加していく。
もしもこのまま逃げ続けて髭のTGが溜まってしまえば、いよいよ手が付けられなくなる。
かと言ってこちらが先制攻撃を仕掛けるには分が悪い。
ならどうする?
相手に仕掛けさせる。
どうやって?

―――こうやって

『かわいい人ね』

スレイヤーが立ち止まった。暫し時が止まる。DQNにとってみれば敬意も挑発も大した差は無いだろう。

『シュッ!』

KDステ。大きく後退するスレイヤー。

『爆砕!』『それだけ?』

よしよし。流石はDQN。単純な思考回路だ。遠慮なくコンボを決めてやろう。

『一押しが足りんよ』『カウンタ!』

HJSにバーストを合わせられる。ヤバイな……起き攻め直行か……。

『それだけ?』

6Kをガード。直後の吸血をJで避けてワンコンボ入れる。
さぁ、今度こそ地獄の起き攻めだ。一気にぶっ倒してやる。

・・・

(…この糞アマ…敬意なんてふざけた真似しやがって…!ぶっ殺す!!)

『ここよ』

(チッ……)

投げからワンコンボを貰って端に到達。

―――ガガガガァン

ランサー>6HS>ガーデンまで入れられる。……気合でガード、だな。

『はっ』

6Kの後の2Sに当たる。補正無しコンボを決められ、再び起き攻め。
結局その後も既知外じみた起き攻めをループされ、殺された。
ミリア……ムカツク。一旦起き攻めに移行されてしまえばただレイプされるだけで全然面白くねェ。

『デュエルスリー! レッツロック!!』
『もっとココを使いたまえ』

さっきの……敬意ってのが気に入らねェ。男なら挑発1択。敬意なんて糞くらえ。

『馬鹿な人ね』

ミリアも負けじと挑発を返してくる。

『幕を下ろそう』
『来なさい』
『もっとココを使いたまえ』
『来なさい』
『幕を下ろそう』
『馬鹿な人ね』

・・・

膠着状態が続く。互いに一歩も譲らない挑発の応酬。
このDQNが。ふざけやがって。もういい。突っ込む。

―――バシュウッ!

JDをぶっ刺してやる!!

・・・

――――――もらったァァァァァァァ!!!!!


『お別れだ!!』『カウンタ!』

バックファイアをカウンターで当てた。ミリアが気絶する。たった一撃で勝敗は決した。

・・・

その後、永園くんに負けたミリア使いは「覚えとけよ!!」と咆哮し、肩を怒らせて帰って行った。
まるで女版、永園 翼と言った感じの人だった。
もう一方のヴェノム使いもやれやれと言った様子でミリア使いを追って帰って行った。
なんだかデコボコなコンビだった。

「良し。さっさとやるぞ毅」

(……って僕も人の事言えないか…)

"凸凹"って漢字で書けばガッチリ組み合わさるし、意外と全然違う者同士の方が相性はいいのかもしれない。

それから僕達はしばらく対戦をした。
なんと言うか―――僕は絶望に似たものを感じていた。
永園 翼は強すぎた。
2勝8敗。単純に考えれば勝率20%、師匠率80%だ。僕は本当に闘劇に出られるのだろうか?

最終選抜テストまであと1週間を切った日の事だった。

「はぁ~……まだ寝てるし……」

部屋に入ると気持ちよさそうに布団に包まっている松瀬がいた。
枕元にはノートが1冊置いてある。

「なんだろう…これ…?」

どうやらキャラ対策などを纏めたノートのようだ。
最近のページには全て三綾 俣奈―――私への対策が書かれていた。ちゃんと人対策もしてるんだ…。

「ちょっと見てみよ」

『三綾はトロそうな顔しているが、やたら動体視力が良い。
 生半可な2択は効かないので起き攻めはF式安定か。
 それより立ち回りが柔軟なのでこちらもアドリブで対応するしか無さそうだ。
 プレッシャーに弱いみたいだから……』

(なんかいきなり失礼なこと書いてるし……)

ノートを元に戻して松瀬の寝顔を覗く。気持ち良さそうに寝息を立てている。
…それにしても、いい加減疲れてきた。松瀬を寝坊させないようにするにはどうしたらいいんだろう。
一度このままスルーして学校に行ってしまおうか。……駄目。良心が許さない。
松瀬のことだから絶対に遅刻する。下手をしたらそのままサボることも考えられる。

『見誤ったな!!』

あれこれ考えているうちに目覚まし時計が鳴り出した。
う~ん……そっか……こんな目覚し時計だから起きられないんだ。

「変えとこ」

PS2を起動させ、時計の録音ボタンを押す。

『フォォォォアアアアアアアアアアア!!!!』

ヴェノムが一撃準備する時の声を録音する。松瀬ならこの音声を聞けば間違い無く起きるだろう。
郁瀬さんの生声なら一層効果的なんだろうけど…。

「これで良しっと……」

PS2の電源を切り、再びベッドの横に立つ。大きく腕を振りかぶる。

―――パァンッ!

平手打ちをして松瀬を文字通り叩き起こした。

・・・

「ふぁあぁ~~ねみぃ……」

大きな欠伸をしてテーブルにつく松瀬。髪の毛はボサボサ。寝癖が凄い。頬も腫れている。

「はい、コーヒーだよ。ミルクと砂糖どっち入れる?」
「ブラック……」
「朝からブラックって……胃に悪くない?」
「あ~…コーヒー飲むと胃潰瘍になるって奴?それ嘘らしいから……」
「そうなんだ」
「それよりお前も飲むか?」
「うん」

松瀬からコーヒーを受け取る。最近は外が寒くなってきたので結構助かる。もうすぐ冬だ。

「砂糖なんか入れんのかよ…お子様だな」
「うるさいなぁ…」

日常的すぎる日常。こうしていると敵同士って事も忘れてしまう。
松瀬は敵。絶対に倒さなければならない敵。こんなことをしていていいのだろうか。

「あちっ!舌火傷したー!!」

……まぁ、敵だからって別にいがみ合う必要も無いよね。

「んじゃあそろそろ行くか」
「うん」

私たちはいつも通りに家を出てギル校に向かって歩き出した。

「であるからしてアクセルのタイムスリップの原理は……」

闘劇予選に出られなくなり、死んだ魚のような目をしていた生徒達もようやく回復してきた。
1週間前には、呪ってやると言わんばかりの恨めしそうな目で俺を見てくる者もいた。
闘劇とはギル校生徒にとってそれほど大きい事なのだ。
テストまで後3日。そんなこんなで授業にサッパリ身が入らない。一分一秒でも多く練習がしたい。
三綾さえいなければサボってやるのに……。

「では今日はこれまで」

気付いたら授業も終ってしまっていた。永園はここ3日間ほど無断欠席している。
多分練習しているんだろう。俺も早く帰って練習しよう。幸い明日は休みだし、1日中練習できる。

「ちょっと」
「ん?」

席を立つと同時に聖に声を掛けられた。

「ねぇ…明日さ、あたしの家に来てくれない?」

なっ―――!?

「はぁ!?」
「ちょっと!声がでかい!」
「むー!?」

手の平で口を押さえられる。

「あたしが弓太と戦うの知ってるでしょ?
 あんたサブでエディ使えるみたいだし、練習しとこうと思ったの」

聖の顔がすぐ目の前まで来る。

「い、郁瀬と練習すりゃいいだろ!」

聖の手をどける。

「アイツ駄目なのよ。あのチビとの練習で忙しいらしくて」
「チビって……ああ、蘇留の事か」
「ゲーセンじゃお金も掛かるし、他の人もいるから連コしまくるわけにもいかないでしょ。
 だからあたしの家で」

・・・

そのまま強引に話を展開されてしまい、俺は聖の家に行くことになってしまった。
どうしよう。女の家なんて行った事ない。しかも聖。
なんでよりによって……三綾辺りなら気が楽なんだけどなぁ……。
聖と2人きりでギルティするってのか。

「あああああ~~~~……」

頭を抱えて無意味に声を出してみる。なんか居ても立ってもいられない。
考えただけで緊張してくる。

(落ち着け。どうせギルティの練習するだけなんだ……)

自分に言い聞かせてみてもやっぱり緊張は解れない。全然眠れそうに無い。
こんな時は……そう、こんな時こそギルティだ。
そう言えば最近エディ使ってなかったし、慣らしておくか。

とりあえずPS2の電源を入れて、ひろしコンボ辺りから練習を始めた。

「好き」

聖は真っ直ぐ俺の目を見て言った。

「ひ、聖……お前…」
「あたし緒土が好きなの。だから、だから……だか、だ、フォォォォアアアアアアアアアアアア!!!!」
「なにィィィィィィーッッ!?」

聖の皮膚をビリビリと破って中から郁瀬が現れた。

「てめーはエイリアンか!?」
「やらないか」

そのまま飛びかってくる。

「だ、だれか助けてくれぇぇぇぇぇ!!!!」
「今日は安全日だから大丈夫ですよ兄貴ィィィィ!!」
「てめー意味知ってて言ってんのか!!」

・・・

『フォォォォアアアアアアアアアアアア!!!!』

「…………」

『フォォォォアアアアアアアアアアアア!!!!』

「…………」

『フォォォォアアアアアアアアアアアア!!!!』

「これは一体……」

目を覚ますと部屋には奇怪な叫び声が響き渡っていた。
どうやら何者かの手によって目覚ましの音声が変更されてしまったらしい。

『フォォォォアアア』「黙れ!」

目覚し時計を殴って止める。こんな不快な夢を見たのは初めてだ。

「もうこんな時間か…」

12時を回っていた。音声と一緒にタイマーも変更してしまったのだろうか。
そろそろ準備しないと間に合わない。

「……何着ていこう…」

松瀬 緒土、高校1年。この世に生を受けて十数年。外出するのに着る服を悩むなんて初めてのことだった。
クローゼットの前で呆然と立ち尽くす。ろくな服が無い。
どれもこれもユ○クロで安売りされていたものばかり。(別にユ○クロが悪いって訳じゃないけど)
でもギルティやるためには極力無駄な出費は抑えないといけない。服なんぞに何千円も払ってられるか。
その信念に忠実に動いた結果がコレだ。自分の、絵に書いたような典型的なオタクっぷりに嫌気が刺す。

「どうすっかな……」

ぼりぼりと頭を掻く。ここは慎重に選択しなければいけない。腕を組んで考える。
……俺の今までの経験から言うと、こういうのは適当に黒い服でも着ていけばいい。
人には大抵似合う色ってのがあるが、黒は割と誰にでも馴染む。地味で目立たないし。
他の服の色とのバランスもあまり考えずに済む。黒の他には青い服なんかもオススメだ。
どっかの本で読んだが、ヒトって動物は何故か知らんが青を好む。これは全世界共通らしい。

「よし、そろそろ行くか…」

顔を洗い、軽く昼食を食べて外に出る。

「さみぃ……」

考えたらもうすぐ12月。冬だ。ギル校へ続く並木の葉もすっかり落ちてしまっている。
冬は好きだし、寒いのも好きだけどギルヲタにとっては辛い季節到来である。
ゲーセン行っても、手が冷たくて思うようにレバーが動かせなかったりするんだ。
そんなことを考えながら俺は聖の家を目指して歩き出した。

「ここか…?」

住所は合っている。あまりにも平凡な洋風の一軒家だった。
玄関まで歩を進める。表札にも『江辻』の文字が見られる。

「緊張するな…」

震える人差し指でチャイムを押す。

『ぴんぽーん』

無反応。いないのか?まさか嵌められたとか?

『ぴんぽーん』

無反応。

『ぴんぽーんぴんぽんぴんぽぴんぽぴんぽん……』

「うるさぁぁあーーーい!!!!」

玄関を勢いよく開けて聖が出てきた。

「うわっ!?なんだ…居るじゃねぇか」
「居るに決まってるでしょ!」
「全然出てこねぇから居ないのかと思って」
「こっちだって慌てるっつーの……ほら、さっさと入って」

聖は男勝りな性格だけど料理が滅茶苦茶上手かったり、面倒見が良かったりと結構家庭的な面もある。
やはり部屋も綺麗に整頓されている。部屋のテレビの前には既にギルティがセットされていた。
PS2からは2本のコントローラーが伸びている。
家庭用なんて普段は1人でしかやらないから、その光景はちょっと新鮮だった。
机にはいかにも女の子らしい色とりどりの小物が載っていた。
部屋はなんとも言えない良い匂いで満たされている。

(…ってこれじゃ変態みたいじゃねぇか…)

頭を振る。なんか顔が火照ってきた。

「適当に座って」

(緊張するな…)

テレビの前に座る。

「あれ、コタツ入らないの?寒くない?」

聖はコタツの中にすっぽり入って肩から上だけを出している。胸の下には黄色いクッションが置いてある。

「狭いだろ!」
「大丈夫だって」

たしかに結構デカイ。各辺に2人くらい入れそうだ。
聖から見て右の辺からコタツに入る。

「そこでいいの?首痛くなんない?」

だからって聖の後ろ陣取るのは無理だろう。体勢を見る限り、たぶん思いっきり脚伸ばしてるだろうし。

「隣来れば?結構余裕あるわよ」

んなことできるかボケ……

「ここでいい」
「あ、クッション使う?」
「いや、いい!」

何か変な汗まで出てきた。落ち着け…落ち着け俺。何でいまさら聖に緊張しなきゃいけないんだ。

「そう?いらないなら別にいいけど…」

俺に差し出した黄色のクッションを胸の下に滑り込ませる聖。2段重ねだ。

「こうしてると何か落ち着くのよね~」

クッションを抱き締めながらこっちを見てくる。

「………」
「ん?なに?」
「い、いや……なんでもない……それより早くギルティやろうぜ」

やばい。なんか知らんが今のはやばかった。聖の顔を見たら一瞬呼吸が止まった。
聖が電源を入れる。金髪が流れるように動く。

(あ~まずいですよ?まずいですよ?これは)

テンパってきた。

(落ち着け…ギルティに集中して気を紛らわせるんだ…)

「ああっ!くそっ!」

さっきからコンボ精度が極端に落ちている。クロコンもひろコンもミスが目立つ。
挙句の果てはドリル青すら失敗する始末。何やってんだ俺は。

「キャラ替えてみる?」
「あ、ああ……悪いな。ちょっと替えてみる」

とにかく気を落ち着けないと……っつーかなんで俺はこんなに緊張してんだ?
女の部屋とは言え、相手は聖だ。知り合ってからもう何ヶ月も経ってる。

(何で今更?いや…だからこそ―――?)

隣にチラッと目をやる。聖が肩に掛かった髪を後ろへ流す姿が目に入った。
白い首筋が金色の髪の隙間から覗く。

 な ん で そ こ で そ ん な 動 作 を す る ん で す か 

心臓がドキドキしてくる。

やばいこいつ美形過ぎだ反則だそうだ野球とかだったら即退場を言い渡されるに決まってるそんで判定に監督までブチ切れてアウトだセーフだと審判と言い争って監督も退場させられるんだ何がアウトでなにがセーフなのかは俺達のような控えメンバーが知るところではな

混乱中………
混乱中……
混乱中…

リカバリモード起動。

……

failed.

―――『ヘヴンオアへール! デュエルワン! レッツロック!』

「ぬああー!!もう駄目だぁーー!!」
「な、なに!?どうしたの!?」
「聖!!」

聖の両肩を掴み、顔を自分の方に向かせる。

「な…な!?え!?」

俺のただならぬ気迫に気圧されたのか、聖にも動揺が広がる。頬が俄かに赤味を帯びた。

「な、なに…緒土、どうしたの…?」

慌てふためく聖。視線が右へ左へ泳ぐ。
照れたような、困ったような顔がかわいい。

「今気付いたんだ!俺はお前が好きだ!!」
「えっ―――」

聖の動きが止まる。それから数秒の間が空いて聖は言った。

「……実はあたしも―――」

―――それから数時間後。

「ちょっと疲れちゃった。休憩しよ」
「あ、ああ……そうだな…」

結局この数時間に及んだ対戦成績は以下の通りとなった

ヴェノム:3勝7敗、エディ:7勝5敗

なんだこれは。エディの方が戦績輝かしい。
……まぁ当然か。試合中に悶々と不埒な妄想を爆発させていて勝てるわけが無い。

「なんかお菓子でも持ってくるから。適当に漫画でも読んでくつろいでて」

そう言い残して聖は部屋を出て行った。

「適当にって言われてもなぁ…」

特にやることも無かったので、言われた通り本棚に向かった。漫画ばっかりだ。適当に1冊手に取る。

(ジョジョ!?)

よく見ると全巻ある。

(ありえねぇ…)

でもロボカイの駄目駄目を見る限り、右もこれを読んでいるはず。
つまりギルティが好きならジョジョが好きでも何の不思議も無い。
でもフツー女がこれを読むか…?こんなグロい絵を…。
お世辞にも万人受けするよう絵とは言いがたい。事実、話もろくに読まずに絵だけを見て否定する人間もいる。

(まぁいいや)

42巻を手に取った。その時、

「おまたせー。あれ?ジョジョ読んでんの?」

聖が帰ってきた。手に持っている皿にはクッキーが乗っている。
しかしそんな事よりも俺には滅茶苦茶気になることがあった。

「あ、あ、あ、足元のそれは何だ?」
「え?」
「ニャー」
「あ…ついて来ちゃったんだ」

帰ってきた聖の足元には猫がいた。聖の脚に体をすり寄せている。

「なぁに?」

聖が甘い声で猫に話し掛ける。

「よいしょっと」

猫を抱き上げる聖。いまだかつてこれほどに調和した存在がこの世にあっただろうか。
"鬼に金棒"…いや、"エディに昇竜"とでも言おうか。
それはまるで絵画の中から抜け出してきたかのような光景だった。
猫は聖の腕の中でゴロゴロと気持ち良さそうにのどを鳴らしている。

「お前猫なんて飼ってたのか…」
「緒土は猫大丈夫?」

だ、大丈夫もクソも…

「その完璧なプロポーション、黄金色の目とビロード状のブルーグレーの毛並みのコントラスト!!
 紛れも無いブリティッシュ・ブルー!!!!」

気のせいか緒土の目が血走っている。鼻息も荒い。

「く、詳しいわね…」
「俺の趣味は猫を追い掛け回すことなんだぁッ!!」

どっかで聞いたことあるような、一風変わった趣味だった。

「ちょ、ちょっと抱かせてくれ!」
「えっ!?あ、ああ…猫ね。いいわよ」

猫を手渡す。猫を追い掛け回すのが趣味と豪語するだけあって、緒土は手慣れた様子で抱きかかえた。
猫の方も目を細めて気持ちよさそうにしている。
一方の緒土も完全に顔がとろけてしまっている。締まりの無い顔で猫の喉を優しく撫でている。
どうやら相当の猫好きらしい。

「なんか意外ね……あんたが愛猫家なんて」
「なぁ、この猫なんて名前なんだ?」
「ストレイ・キャット」
「………」

それからも緒土はずっとストレイキャットと戯れていた。
前足を2本持って立ち上がらせてみたり、肉球をぷにぷに押したり、
「お手!」とか言って手を差し出したり(ストレイキャットは無反応だったが)とにかく至極ご満悦の様子だった。

・・・

「そろそろクッキー食べよ」

猫を降ろして聖の持ってきたクッキーを摘む。

さくさくさく…

俺は甘いものは苦手だ。ジュースとかそう言った類は嫌いだし、チョコレートとかも好きじゃない。
だがこれは何だ。口に運ぶとほんのりとした甘い香りが鼻腔を満たす。
クッキーの焼けた香ばしい匂いとバニラエッセンスの甘美な風味が見事にマッチしている。
甘すぎず…かといって味が薄いわけでもない。

「うまい…」
「ほんと!?」
「ああ…マジでうまい。俺は甘いモノは嫌いなんだけどな…これはいけるぞ」
「これ、あたしが作ったのよ」
「マジか!?」

どう?驚いた?と言わんばかりに胸を張っている。
初めて気付いたが、こいつ長身でスタイルいいのに胸だけは貧しい。

「お前菓子職人になれるぞ。俺が保証する」
「緒土に保証されてもねぇ…」

そんな他愛の無い話をしているうちに楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。

・・・

「悪かったな。あんまり役に立てなくて」
「ううん。緒土も結構強くなってきてるよ。あたしが保証する」

聖のその一言で大分救われた気がした。俺だってちゃんと上達しているんだ。

「今日は付き合ってくれてありがと」
「ああ、俺も楽しかった」

こうして俺は帰路についた。見上げると夜空に星が瞬いていた。
聖の家を出るまでは、まだ夕方ぐらいの気分だったのに…。
聖と過ごした時間は本当にあっという間に過ぎてしまった。

   ―――今気付いたんだ!俺はお前が好きだ!!―――

それにしても、妄想とは言えあんな心にも無いことを言うなんて……。
―――心にも無いこと?本当にそうなのか?俺は本当に聖が好きなんじゃ―――?

(……でも高嶺の花だよなぁ…)

一方の俺はギルティは弱いし―――

やめよう…鬱になるだけだ。そんなことよりも今は明後日のテストに備えなければ。
負けは許されない。絶対に勝たなきゃいけないんだ。