還月 朔2


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1ですよ。
まぁ本編にはあまり関係ないけども、一応読んどこう?

──────


よく晴れた空の下。

呆然とする輪廻の視界の中で、

ソウスケの体が、また宙を舞う。

──訂正。本人の意思などお構いなしに、投げ飛ばされる。

「97投目・・・。」

睦月が呟いた。



§18 「resolution antinomy」



話は前日夕刻まで遡る───

襲撃してきた魔術師達が去った後、
ソウスケは意外と冷静だった。
目の前で睦月や輪廻、カナメまでもが敵に立ち向かう中、
黒装束の人物に、ただひたすら捕らえられていたソウスケ。
結果、睦月と輪廻は満身創痍。
カナメは気を失い、部屋で眠ったままだ。
あれほどの魔力をかき消すのは、余程身体に負担がかかるのだろう。
周りから、ソウスケは自分の無力さを嘆き、酷く落ち込むのではないかと懸念されたが、その予想に反し、なんと
「二度とあんな悔しい思いはしたくない」
と、翌日彼は改めてアスに鍛えてくれるよう直訴したのだ。
しかし、教会から明確に狙われるようになった今、アスもハチワンも暇ではない。
だからと言って、睦月や輪廻は負傷しているし、白と桜花は周囲のトラップの確認に行って貰っている。帰って来しだい会議を始めるので、恐らくその後も手は空いていないだろう。
ではどうするべきか。
結論を出しあぐねていたアスのもとに、意外な人物が現れ、ソウスケの指南役を買って出た。
ウルユスである。
彼はアス達と協力関係になった後、簡易的な連絡手段として、有料のメールアドレスを取得した。
それを渡しに来た時に、話を聞いたのだ。
ウルユス曰く、
「メールは異次元間の連絡手段にはなり得ないが、緊急の連絡以外なら、非常に都合が良い。とある研究施設の手伝いがあるのでな、ほぼ毎日この次元には来ている。気軽に送ってもらって構わない。」
だそうだ。
アスにアドレスを渡すなりソウスケとノエルを連れ、颯爽と外へ出たウルユスは、彼なりの特訓をソウスケに指示した。
『とりあえず殴りに来い。満足するまで相手してやる。こちらは攻撃を捌くくらいで、魔力は使わないし、そちらに攻撃も加えない。武器は持ってもいいが、初めの内は素手でやった方が変な癖を付けずに済むだろうな。・・・さぁ、遠慮なく。』
そんな端的に説明されてパッパと動ける人間などいるわけがなく、居心地の悪い空気の中、少し考えたソウスケは、一言。
「つまるところ何だ。殴りかかればいいと?」
問われたウルユスは無言で頷き、かかって来やすいよう、軽く構える。
ノエルは二人の邪魔にならないよう、屋敷の大きな出窓の下まで離れた。
ソウスケはポケットからごそごそと匕首を取り出し、一旦鞘から抜くも、
やっぱいいや
と言わんばかりに、再び鞘にしまい、ポケットに戻した。
トントンと、靴の履き心地を確かめると、
うだうだ考えるのもめんどくさいので、何も考えず、
ウルユス目掛け駆けだしていった。

────数秒後、彼はわけも分からず宙に投げ出されるという不条理な体験をすることになる。
幼年期の たかいたかーい で誤って放り投げられて以来。久しぶりに。

ぐしゃりと、
ソウスケが地面に落ちた。
「ぃっつーぁあ・・・」
足から落ちたためそこまで被害はないが、盛大に尻餅をついたので地味に痛い。広く痛い。
ってか投げ飛ばすのは攻撃じゃないのか。
理不尽だと思いながらも、半ば開き直って立ち上がったソウスケは、それでも闇雲に走り出す。
さっきみたいに躱されて、掴んで投げられないよう、少し警戒しながら。
しかし───


キィ・・
ノエルの頭上の出窓が開き、
そこから睦月が顔を覗かせた。
山なりに動く、睦月の視線。
その視線の先で、美しく放り投げられ、
落下する、人。


───ぐしゃり。
まぁそうですよね。
えぇわかってましたとも。
思う存分、蒙古斑を濃くする作業に没頭してやりますよ☆コンチクショウ。

もうヤケだった。



それから投げ飛ばされ続けること三時間。
ウルユスが投げる時に絶妙な回転を加え、必ず足から落ちることに気付いたソウスケは、結構な確率で着地できるようになっていた。
その度に投げる高さや距離がほんの少しずつ大きくなっていっているのだが、そこには気付いていないようだ。
いつの間にかギャラリーに輪廻も加わり、お昼前までの暇つぶしのショーみたいな光景になっていた。


───ようやく時間は冒頭に戻り。

97回目の空中ダイブから着地したソウスケは、地面に手を突きながらも間髪入れずに走り出す。
まっすぐに。
三時間投げ飛ばされ続けた疲労を感じさせないスピードで。
「ほぅ・・・」
ウルユスが感嘆の息を漏らす。
意地か、根性か、何にせよ見上げたものだ。
しかも、過去97投で体験した失策を、ちゃんと学び、新たな作戦に出ようとしている。
まず、27投目くらいから邪魔になって脱いでいた上着のシャツを、41投目くらいで編み出した“とりあえず暗幕っぽく”の魂胆でウルユスに投げつける。
一瞬視界の大半が布に覆われたであろうタイミングで、足音で距離を測られるのを避けるため、71投目くらいから実験を重ねている、意表を突く“まさかの横っ飛び”で、ウルユスに与えられる情報を極力抑える。
その後、一瞬でもウルユスの予期しない方向に入れたなら、更に完璧な死角に円を描くように回り込む、56投目にしてやっとこさ編み出された、唯一まともに思える作戦なのに、そもそもウルユスがソウスケを目で追おうとしないので実感の湧かない“無関心のデス・エッジ”で、とりあえず背面側の適当な角度に移動。
最後は「腕を伸ばすから掴まれる」という、元も子もない理論から殴ることを放棄したソウスケの、相手が攻撃してこない保証の元に編み出された82投目からのマイブーム“がむしゃらタックル”にてウルユスに攻撃を仕掛ける!
投げつけた上着でウルユスの片手は塞がっている。
片手だけで、肩から突っ込んでくる人間を投げることなどできようか!いやできまい!!
「もらったぁあああ!」
ソウスケは勝ちを確信した!
「悪くはないのだが、」
そんなソウスケのタックルを、
「惜しいかな。」
僅かに身体を傾けるだけでウルユスは躱し、
「っんなくそ・・っ!!」
さらに大雑把さを増した咄嗟の中段蹴りを、
「ほら、もう掴める。」
片手でいなし、
「やべ・・っ!」
シャツを掴んだままの手で、足にいたずらなベクトルを与え、
「・・っこいしょっと。」

  ぽーぃ


 ぐしゃぁ

着地失敗

地べたでノビるソウスケ。
「ぢぐしょう・・・強すぎだあんなん・・・」
最早立ち上がる気力も残っておらず、訓練始まって以来初めて不満を口にした。
「私は性質上、あまり遠距離戦を考慮する必要がない。となれば、近接戦闘の訓練に力を入れるのは当然だろう?」
ウルユスがパッパと手を払いながら応える。
「・・・どーりで。」
パッと見は頭脳戦担当のもやしみたいな形(なり)してんのにコイツは・・・。
一気にソウスケのやる気が削がれた。
いつもの面倒臭がりのできあがりである。
「お二方ご苦労さん」
建物の中からハチワンがひらひらと手を振りながら出てきた。
「コテンパンにされたみたいだな。」
「うっせ―・・。」
「98球完投ノーヒットノーラン・・」
「睦月もこんな時だけ発言すんなっ!!」
「それに比べて、ソウスケさんはたった二投で降板って感じですねー。」
「そうなのか?、まったく情けないなソウスケはハハハハ」
「いぢめかっこわるい!!」
しかし立ち上がるだけの気力はない。
「ハハハ、まぁ良い。何かしら得るものはあっただろ。ソウスケ、風呂浴びてこい。そろそろ会議だ。」
「会議?」
ソウスケが上体を起こす。
「あぁ、カナメはまだ目覚めんが、白と桜花が帰ってきた。まずは状況を把握せんとな。」
「・・・ヘいヘい。」
ソウスケはゆっくりと立ち上がると、
「ありがとうございました。・・・また、時間があったら頼む。」
と、礼を言い、屋敷の中に入っていった。
「いつでもどうぞ。」
追って聞こえる声に、後ろ手で応えながら。




──────
2へ続く




2ですよ。
ここからが本題かな(´・ω・`)

──────


ソウスケがシャワーを浴び、髪は半乾きだが妥協して部屋に顔を出すと、
壁一面が特大ディスプレイな部屋の真ん中にはやや大きめの円卓が用意されており、カナメを除いた全員が揃っていた。
「これで全員だな。」
「あぁ、みんな席に着いてくれ。」
アスを始めに、皆思い思いの席に座っていく。
「俺は立ってていいか?」
ハチワンに問う。
「なんだソウスケ、疲れてるんじゃないのか?」
「あぁ、お陰で座ると打ち身が痛いのなんのて。」
「はは、いいだろう。ただしちゃんと参加しろよ。」
「ういうい。」
ふと横を見るとウルユスも座る気がないらしい。
壁にもたれて腕を組んだまま、会議が始まるのを待っている。
横のノエルはウルユスの服の裾を掴んだまま、同じく立ち聞きする構えのようだ。
「さて、まずは状況を把握しよう。」
そんな二人を気にすることなく、アスが切り出す。
「まずは白と桜花、周辺の見回りの報告を。」
「はい、館周辺に仕掛けられた全ての罠、センサー、カメラ、共に異常なしでした。途中発見した真新しい痕跡から、魔術師達の侵入経路は割り出しましたが、その経路上の全ての装置は作動することなく通過されたようです。」
桜花が述べる。
それがあまりにも淡々としていたので、何か引っ掛かる要因の正体を見落とすところだった。
「ちょ、ちょっと待て、それはなんだ、つまり仕掛けられていたトラップやらなんやらは」
「全て不発、ということだ。ジャミングでもされたか、時を止めるような魔法が存在するのかわからんが、“罠の範囲内を通っているのに作動しない”というのは、相手が罠の存在を察知でき、対抗し得る手段を持っているということに他ならない。」
一瞬の沈黙が流れた。
発達した科学に縋ってきたこの文明が、いきなり謎の存在によって、とても軽薄で揺らぎあるものに思えたからだ。
「その時のカメラの映像、出せるか。」
沈黙を割ったのは、ウルユスの声。
「あぁ。桜花、ルート上のカメラのIDは。」
「K-07・13・19、F-05・11・17、A-03・09です。」
「外周から一直線。特に迂回もせず直進してきたのか、奴ら。」
「そのようだな。」
応えながらアスは機械を操作する。
「相手の侵入開始時間がわからんので、襲撃を受ける直前から逆倍速再生するぞ。」
アスの指がキーを叩く。
壁一面をモニター分割表示にし、A・F・Kブロックの映像が、時に逆らうように映し出される。
────しかし、
「・・・・・何も映ってないな。」
「あぁ・・。再生速度を落として、PCでモーションサーチしてみよう。」
【サーチ中】
「ふむ・・・」
ウルユスが少し考えているような素振りを見せる。
【完了 検出件数268件】
例外的な動きの検出された場面がサムネイルで表示され、該当場所が赤くマーキングされている。
その全てが、虫や小型動物の動きを感知したものだった。
「どれもはずれ・・か。」
「・・・違う・・。」
一瞬の落胆を、か細く否定する声が響いた。
「時間が同じ・・・変・・。」
声の主は睦月だった。
「ふむ、なるほど。」
「?、どういうことだ?」
「74・75・78件目、撮影してるカメラが違い、検出対象も虫や鼠とバラバラ。共通点はないはずなのに検出終了時刻だけは全く一緒。1/100秒のずれもない。」
「ぁー、確かに不自然ではありますね。偶然で片付けるのがためらわれるくらいの。」
「再生してみよう。」
アスがキーを叩くと、3つの映像が同時に動きはじめる。
コオロギらしき虫、ややメタボリックな鼠、その鼠を別角度から捉えたもの。
何の変哲もない映像に、突然その時は訪れた。
「・・!。これは・・・!?」
皆、驚きを隠せない。
それは、あり得ないことだった。
何の予兆もなく、全く同じタイミングで虫や鼠が突然虚空に消えたのだ。
闇に紛れただの、見間違いだのという次元ではない。
まるでチャンネルが切り替わるかのように、鼠や虫のいなくなった林だけが映し出されている。
「どういうことだ・・・?」
「恐らくだが、複製された模造空間か平行世界に繋いでいるんだろう。もしくは電気信号だけを上書きして、そう見えるように振る舞っているか。」
「そんなことができるのか?」
「可能ではある。余程器用じゃない限り、ここまで広い範囲を一斉に術下に押さえるのは難しいだろうがな。」
そう言ってウルユスは、懐からボールペンを取り出し、それを分解すると、ソウスケに胴体部分の筒を手渡した。
「?」
「覗いてみるといい。」
ソウスケは言われるがままにボールペンを覗き込む。
「うぇ!?」
情けない声が漏れるのも無理はない。
ボールペンの中には西洋建築と、広い庭先が広がっていたのだ。
「・・・最近のボールペンってのは凄いんだな・・・。」
 パチン
ウルユスの指が鳴ると共に、その風景は消え、それもただのボールペンに戻ってしまった。
「センサーや罠であれば、情報の上書きはカメラ以上に容易い。電気信号の流れを察知できるとしたら、突破できない罠は落とし穴とネズミ捕りくらいだろうな。」
「あとホウ酸団子くらいですかね。」
「奴らの存在を察知する方法はないのか?」
「非常に脆い結界を張っておくかだな。抜け穴を作ろうとすると自壊するくらい脆ければ、割らずに入ることは不可能。もし結界をパスできたとしても、結界内部には罠やカメラが手付かずで散らばっている。電子機器を術下に押さえるより早く、警報が鳴るだろう。」
「結界を割らなければ電子機器を術下に押さえられなくて、しかし割っちまうとこちらに気付かれるってことか。」
「それだけ脆い簡素な結界なら、維持するのもそれほど苦じゃないですね。」
全員の顔が少し明るくなった。
「だが、」
それを制止する声が響く。
「それは侵入者の存在を察知できるだけだ。“そんな結界など気にすることなく割り、カメラなど気にせず、罠だけ止め、圧倒的な力で正面から攻め入られたら、為す術なくねじ伏せられる”のは目に見えている。生憎、私やノエルは顔が割れているのでな、何らかの方法で対処しに掛かられたら、昨日と同じ構図のできあがりだ。」
どころか怪我人が増えていて不利なくらいである。
「じゃぁ・・・じゃあどうすればいいんだ?、誰か加勢に来て貰うとかできないのかよ?」
「キロハは火星。しかも仕事がある。永久のところから誰か引っ張れたら早いんだが、あちらも忙しいようでな、難しいそうだ。」
「そうか・・・。」
ソウスケは肩を落とした。
「代わりと言ってはなんだが、」
ウルユスは指で矩形を描き、ディスプレイを呼び出すと、メーラーから一つ、受信ファイルを表示させた。
「情報だけ永久から貰ってきた。目を通しておいてくれ。」
ウルユスはファイルのアイコンをドラッグすると、先程までモーションチェックしていたパソコンの画面でドロップする。
【転送完了】
画面に受信したファイルが表示される。
「これは・・あの二人の・・?」
「教会内のデータベースから昔拾ったものだそうだ。」
コスモスとナナの情報だった。
顔写真から、大まかな魔術の系統、登録されている魔導具の名称、素行の良し悪しまで。
必要な情報と不必要な情報が混ざってはいるものの、何らかのヒントになりそうなデータだ。
「あの忍者みたいな奴のはないのか?」
「人物の特定ができなかったそうだ。そも、当時のデータベースに名前があるのかも怪しいらしい。」
「そうか・・・」
ソウスケは俯きながら、強く拳を握り締める。
ソウスケの自由を奪った、性別不詳の隠者。
ソウスケ自身にとっては今回一番の障害であり、
また、強くなりたい想いを一層強めた人物でもある。
次こそは、
次こそは────



────────────
3に続く。


3ですよ。
後編のはじまりはじまりー

──────


会議は昼飯を期に終了し、その後は見回りに再び出たり、大きな機械類を切り刻みに行くだの、パソコンで色々探りを入れる等々、皆おおむね日々の日課に戻った。
例外はウルユスとノエルに捕まった睦月くらいであろうか。
科学と魔法の共存した戦い方をする彼女は、次元を切り裂くという性質を持つが故、ナナへのメタとしてはかなりの有力馬である。
が、似たような性質を持った人物はそうそういないため、独学・我流・がむしゃらで、伸びしろはあるのに伸び悩んでいるのも事実であった。
次元間移動のエキスパートと話せる機会はそうそう無い。
この機会が惜しいのか、過去にないくらい自分のことを語り、多くを吸収しようとする睦月が、そこにはいた。
そんな、睦月が他人と会話しているという、竹の花並みに珍しい光景をクオと眺めていたソウスケは、疲れからか唐突に眠気に支配され、大あくびと共に自室のベッドにダイブ。
そのまますぐ眠りに落ちていった。


目を覚ましたのは、日が沈んでからのことだ。
クオに起こされて、
「カナメさんが起きましたよ」と。


広間に行くと、全員がそこにおり、アスとカナメが何か話していた。
そしてすぐに、カナメがこちらに気付く。
「ぁ、ソウスケさん」
「カナメ、身体は大丈夫なのか?」
「はい、ちょっと疲れちゃっただけなので、心配しないでください。昔から風邪とかあまりひかないんですよー。」
「そう・・か、良かった。あんまり無理すんなよ。」
「ありがとうございます♪」
少し安心した。元気そうだ。
「では私は失礼するよ。」
アスが言う。
「ぁ、はい、ありがとうございました。」
カナメの礼に手で応えながら、アスはハチワンと共に、部屋から出て行った。
「何話してたんだ?」
「よくわからないんですけど、私を守るために地球に呼んだんだって。元の世界に必ず帰してれるって話してくれました。」
「元の世界?」
「・・私、この世界の人間じゃないみたいです。確かに、よく似てるけど、私のいた世界はこんなに科学は発達していなかったと思います。まず火星に進出してませんもん。」
「そう・・・なのか。」
少し、事態を呑み込むのに時間がかかった。
「ぁ、でも魔術はもっとポピュラーだったんですよ?私はなんでかほとんど使えなくなっちゃったんですけど、中学校に魔導学っていう授業があったくらい。」
きっと、時代的にはあまり差異がないのだろう。
こちらの科学より魔導が発達したというだけで、魔術が使えるのが当たり前の世界。
そんな世界から、彼女は迷い込んだのだ。
家族とも離れ離れになったまま、それでも寂しそうな素振りを見せず、明るく振る舞う姿が、ソウスケの心に棘を刺す。
「っ・・ウルユスに頼んですぐに帰してもらえないのか?」
「アスさんもそれを考えたみたいで、ノエルちゃんに見て貰ったんですけど、なんか・・切れちゃってるみたいです。元の世界との“縁”が・・。無限にある異次元の、どれが私の帰るべき場所なのか、辿れなくなってるって言ってました。」
「・・そうか・・・。」
「ぁ、でも、まだ帰る方法があるはずだって。それを絶対見付けるって、約束してくれたんです。だから、大丈夫です。私、この世界好きですし。」
健気に微笑むカナメの姿が、そこにはあった。
普段はちょっと天然で、あどけない少女なのに、その実どんな時でも微笑みを絶やさない強さを秘めている。
それに比べて自分はなんて弱いのだろう。
何か、何かできないのか。
この少女のために。
この少女を無理に微笑ませないために。
「カナメ・・」
「はい・・?」
「俺、絶対守るから。カナメのこと。強くなって、絶対、守るから・・。」
それは、誓いだった。
弱い自分を変えるための。
少女の居場所を守るための。
「ソウスケさん・・。」
カナメは少し悲しそうに微笑むと、微かに目を伏せた。
嬉しさと、切なさが混じる。
無音の時間が、ただ過ぎる。
そんな、二人を包む静寂を切り裂いたのは、
ウルユスの告げた、
忌むべき事態。
「ノエル、アスに伝えてくれ。来客だ。真上からな。私は先に表に行く。」
「は、はいっ」
ノエルは駆け出す。
「ウルユス、来客ってのは・・・」
ソウスケは嫌な予感がした。
「昨日の魔術師達、だろうな。総員、臨戦態勢になった方が良いと思うぞ。」
予感的中。
「・・・。」
カナメは何か思ったように口を噤む。
そんなカナメの周りをバタバタと走り抜け、表に向かう、仲間達。
(私は、私は・・・!!)
カナメは部屋に独り、自らの肩を抱いた。


ウルユスは外に出るなり、空を仰ぐ。
そこには炎の翼を纏う少女と、簡易結界を階段状にして降りてくる少女。
そして、落ちてくる黒装束が一人。
ダンッ!
葛葉が着地。
残りの二人も、後を追うように降りてくる。
外にはハチワン・アス・カナメ・クオを除く全員が揃っていた。
「やぁ、また逢ったな。」
ウルユスが口を開く。
「あの結界をまさか“補強”してから穴を空けるとは。ご丁寧なことで。」
ナナが答える。
「役割は果たせてましたよ。結界に穴を空ければ割れてしまって気付かれる。そんな脆い結界も、無理やり強固なものにしてしまえば、小さな穴にも耐えられる。けれど、その“補強”に気付ける人間がいるならば、やはり侵入者の感知はできる・・。だからお出迎えされたわけですし。」
「罠もカメラも気にしなくて良い“空”からやってくるのは予想できていたからな。・・・しかし───」
ウルユスはノエルに合図する。
「ここから先へは進ませんよ。」
直後、
『烈陣‐クルーエルブラスト‐!!』
跳び上がったノエルの右手から放たれた業風が、三人の魔術師を襲う。
「くっ・・!!」
コスモスは後ろに跳びながら無名塔でガード。
他の二人も何とかして躱したようだ。
あたりを包む土煙。
「視界が・・っ、まずい・・」
分散させるための一撃だったのだろう。
バラバラになれば、数の差から各個撃破される。
とりあえずナナのもとへ行かなければ。
コスモスは土煙の中、ナナの気を目指して走る。
が、
「・・コズミック・スラッシャー」
煙の中から突如現れた睦月の斬撃がコスモスを襲う。
「なっ・・・!!」
咄嗟に跳んで回避。
しかし睦月は止まらない。
「デジョン・スラッシャー・・」
身動きの取れない空中で、切り開かれた空間に、土煙と共に吸い込まれる。
「終わり・・」
「甘い!!炎帝の炎翼‐ヴォルケーノ・エンペスト‐!!」
コスモスの背に煌翼が広がった。
無名塔を触媒にした高位魔術の簡易詠唱(ショートカット)。
リスクは高いが、気にしてはいられない。
大きく羽ばたくと、睦月に向かって切りかかる。
「っ・・・」
睦月は後ろに跳んで、これを回避。
「煉獄の烈火‐フレイム・インフェルノ‐!」
そこに追撃が来る。
AT斬馬刀は防御には適してしない。刀身が無いに等しいからだ。
しかしそれ故、最大の強みもある。
「・・デイジョン・スラッシャー」
何より、速い。
大きく切り裂かれた空間に炎が吸い込まれていく。
「さっきといい今といい、無名塔覚醒せずに次元斬とかできていいもの!?というかソレ、無名塔ですらないじゃん!!」
コスモスは不満を口にする。
「うるさい・・・」
睦月は再び構えた。


「どうするべきでしょうか。」
葛葉は一人、土煙の中に佇む。
とりあえず魔術師のどちらかと合流するか、土煙を逆手に取って隠密行動に移行するか。
「あの・・先ほどは、突然すみません・・・。」
後ろから声がした。
そこにいたのは、たった今我々を分断し、厄介な土煙を発生させた少女。
───ぃゃ、先ほどまでは感じなかった威圧感を帯びながら、気配もなく訪れた“強敵”だ。
「お相手・・願えますか?」
その少女の無垢な笑顔に、
 葛葉はぞっとした。


ナナは不可侵結界を張って攻撃に備える。
ただの土煙にしては密度が高く、また収まる様子もない。
恐らくはあの“禁眼”が、風に細工をしているのであろう。
「無影月華!!」
死角から輪廻の鎌“月々”がナナを襲う。
「くっ・・これしき・・っ!!」
即座に展開した結界が、それを退けた。
「瞬時に月々を弾くとは・・やりますね・・。」
輪廻は思わず賞賛する。
「そういう貴女も、その程度ではないのでしょう・・?」
ナナもそれに応える。
あの鎌は何か嫌な予感がする。
早く、コスモスと合流しなければ。
(やはり、これを使うか・・)
ナナが自らの無名塔───七色の魔法石を取り出す最中、輪廻の後ろに男の影が現れた。
「輪廻、君は睦月の援護に行ってくれ。」
やや背の高いその影は、真っ直ぐにこちらを見据えてくる。
「貴方ですか・・・」
ナナは顔をしかめる。余程相手にしたくないのであろう。
「先日の礼がまだだったな。」
男はあくまで冷静に応える。
「では、ここは頼みます。ウルユスさん。」
輪廻はそう言い残すと、土煙に消えた。



──────
4に続く



4ですよ。
後編の中巻的位置。

──────


「・・・先日は、どうも。」
ナナは魔宝石を、手元で遊ばせる。
「あぁ、あの時は物騒な別れですまなかったな。今回はもう少しまともな別れ方をしたいところだ。」
ウルユスは特に何をするでもなく、ただ立ち尽くす。
「そうですね、風穴を空けられる経験はもうたくさんです。・・穿つ側は、もう馴れましたけど。」
言い終わると同時に、ナナが魔法石を上に投げた。
それを合図にウルユスが駆け出す。
ナナは魔法石による即時展開で結界を何重にも張り、ウルユスの接近を阻止、
しようとするのだが。
「なっ・・!!?」
彼は何の障害も感じた様子はなく、そのまま一直線に距離を詰めると、掌でナナの腹部に強烈な一撃。
「ぐぅ・・っ!!」
突き飛ばされたナナはなんとか空中で体勢を立て直し、着地。
「けほっ・・!・・ぁ・・はぁ・・、なんて・・・でたらめな・・」
結界を突き破って来たのではない。
結界に彼が近づくだけで、そこに穴が空くのだ。
「でたらめとは心外だな。単純な話だろう?“私に魔術や魔法は効かない”。・・・この上ないくらい、わかりやすいと思うのだが。」
ウルユスは両手を広げて見せた。
「・・言ってくれますね・・。」
よく見れば、この土煙ですら、彼に近付くと消えていっている。
常時展開のキャンセル型球状結界、半径は1.5mほどだろうか。
ナナはそれぞれの魔法石を頂点に、七芒星を描く。
「主に祝福されし七槍よ、今再び一つに寄りて、全てを穿つ光となれ!!」
ウルユスは身構えた様子もない。
「七煌の閃槍‐ゲイアサイル・オブ・セプテット‐!!」
それは幾重もの魔力を纏いながらも圧縮された、正真正銘“全属性”の“貫通弾”。
七色の魔石から放たれた光の旋律は、凄まじい速度でウルユスを目指す。
全ては彼の結界を、しいては彼自身を、貫くために。
────しかし、
「・・・無駄だと言った筈だが。」
ウルユスの無情な一言と共に、魔力の槍は、虚空へ消えた。
「っ!!まだまだっ!!」
ナナは魔法石を意のままに繰り、無数の魔力の弾丸を作り出す。
「ほう、その数の球を制御するか。魔石の助けがあるとはいえ、流石だな。」
ウルユスはただ感心する。
「悠長なこと言っている場合じゃ」
ナナは右手を大きく振り上げ、
「ないと思いますよ!!」
それを振り下ろすと同時に、無数の弾丸がウルユスに襲いかかる。
「では苦言でも呈そうか。」
数多の弾丸は、やはりウルユスに辿り着く前に、虚空に消えていく。
が、ナナの狙いはそこではない。
弾丸に紛れ接近し、
一撃を見舞うこと。
「はぁっ!!!」
捨て身で近付いた末の渾身の掌底は、
「・・1、相手の力量を計れていない。」
ちゃんと狙ったはずなのに、
「2、先の先まで考えられていない。」
その“相手”は私の背後に立っていて、
「3、先入観に捕らわれすぎている。」
私の肩両に、手を乗せている。
「が、まぁ、及第点はあげよう。」
「っ!!」
翻ったナナを逃がすことなく掴んだウルユスは、そのまま軽々と投げ飛ばした。
「めでたきかな、本日の記念すべき99投目は君のものだ。」
「くぅ・・」
ナナはなんとか着地するが、
次の一手を繰り出すだけの気力はなく。
心はただ絶望に呑まれていた。
───きっと、あぁきっとこの人は、私よりもずっと強い人達と戦っていて、
それに悉く勝って、ここにいるのだと。
だから、まるで風景を眺めるかのような目で私を見て、
何の障害とも思っていない───
「は・・ははは・・・」
あぁなんだ、そういうことか。
「何かおかしかったか。」
ウルユスが問う。
「ぃ、ぃぇ、ふふ・・・」
彼であれば、コスモスや葛葉であっても完封できたであろう。
では、そんな逸材の戦力が

“何故私のところに来たのか”

私はあまり火力として認識されていない筈であるし、自分でもそれは認めている。
ならば“何故”。
答えは単純だ。
「私とコスモスを合流させないこと・・ですね。貴方の狙いは。」
ナナが告げる。
「だから、貴方が来た。コスモス単体の火力よりも、私とコスモスのシナジーを恐れたから。ぃゃ、それだけじゃない!!もしかしたら・・・」
ナナが不敵な笑みを漏らす。
「もしかしたら、貴方の身をも脅かす、脅威になり得るから・・・?」
ウルユスは黙ったまま、興味深そうにナナを見つめる。
「───の名の下に、無名塔…顕現!」
そんなウルユスをよそに、ナナは煌めく太刀を振るい、虹色に輝く穴を空間に穿つ。
「あなたの目論見もここまでです。この邪魔な砂煙も、最早無意味ですよ。」
言うなりナナは穴をくぐり、ウルユスの前から消えた。


「せぃっ!!」
輪廻の月々が弧を描く。
コスモスはそれを身を屈め躱す。
「・・コズミックスラッシャー」
そこに睦月が追撃を仕掛け、
「・・こん・・のぉ!!」
それを無名塔で弾きながら距離を取った時に、
コスモスの横に、虹色に光る穴が現れた。
「ナナ!?」
「コスモス、無事?」
ナナが出てくると穴は消え、いつしか、白銀の刃は魔法石に戻っていた。
「来てしまいましたか・・」
輪廻が呟く。
「攻防が揃った・・・やりにくく・・なる・・・。」
睦月がそれに応えた。
しかし二人は、改めて武器を構える。
「・・・でも、」
「はい。やらないと、ですね。」
二人は揃って跳ぶと、同時に攻撃を仕掛ける。
「無影月華!!」
「コズミックスラッシャー・・」
しかしその刃は、
「幻想の檻‐ケージ・オブ・ファンンタジア‐!」
「くぅ・・・っ」
「・・っ」
ナナの結界に悉く弾かれた。
その隙を狙ってコスモスが唱える。
「ほうき星のごとき 彗星の光の奔流を抱く
最古なる永劫の炎よ その煉獄を我に魅せよ!」
睦月と輪廻は咄嗟に距離を取る。
「煉獄の烈火‐フレイム・インフェルノ‐!」
放たれた炎の奔流は、
「デジョンスラッシャー・・」
もう何度目だろうか、余すことなく次元の切れ目に飲み込まれていく。
「あーもぅ!!今度は簡易詠唱(ショートカット)してないんだからちゃんと食らってよ!燃え尽きようよ!?」
無理な注文である。
「何の前準備もなく空間を斬るんだ、あの娘・・。」
ナナは少し感心している。
「そう!だからどの魔術も吸い込まれちゃって、戦いにくいったらありゃしなくって!」
コスモスはご立腹だ。
「とりあえず、時間が惜しいから全力でいこう!早くしないとあの白い男が来るよ。」
ナナは何かノリノリである。
「?、ゎ、わかった!」
コスモスはナナから魔法石を受け取ると、それを起動する。
そしてもう一つ。
「じゃぁ、遊びは終わりってことで。」
輪廻と睦月を見据えたのは、“魔眼”だった。


「この感覚・・、“赤眼”・・ですね。魔眼の娘かな・・?」
ノエルが呟く。
「恐らく、それで間違いないでしょう。・・・感じ取れるのですか、赤眼を。」
葛葉がそれに応える。
「ぁ、はい・・、私も赤眼なので・・」
「共鳴・・とでも呼ぶべきでしょうか。違う世界の者でもわかるのですね。」
ノエルは一瞬、悲しげな顔をした。
「たくさん・・世界を見てきたんです。ウルユス様と一緒に・・・。そのどの世界でも、赤眼は・・人々の注目の的でした。」
葛葉は黙ったまま、話を聞く。
「すごく・・珍しいじゃないですか、赤眼って。だからよく“希赤眼”って呼ばれてて・・。これを、ある世界では“奇跡眼”に通じるって、信仰の対象になったり、何かしらの恩恵に預かろうと、大事にされるんです。でも、別の世界では“忌赤眼”って恐れられてて、畏怖の対象なんです。監禁されるか、・・・刈り取られるか、です。」
ノエルの表情は暗い。あまり思い出したくないことを思い出したせいだろうか。
「当然と言えば当然・・・なんです。普通じゃないのは確かですし・・・。“異端”か“特別”かってだけですから・・。」
超常の存在は、どちらにせよ平穏に生きてはいられない。
本人が望もうが望まなかろうが、周りの注目を集めることになるのだ。
「・・・貴女の世界はどうだったんですか?」
仮面の下から、葛葉が訊ねる。
「ぇ・・?」
「貴女の元々いた、出身の世界ではどうだったんですか?“奇跡眼”か、“忌赤眼”か。」
ノエルは少し困ったような顔をして。
「・・・わからないんです。私の記憶は、私の世界が・・その・・・滅んでしまった直後からしか始まってなくて・・・・・。調べようもなくて・・。」
「滅んだ・・・?、一体何が・・」
世界が滅ぶ、という規模の話が、葛葉には理解できなかった。
「何が起きたのかもわからないんですけど、でも・・・」
ノエルは口ごもる。
「・・・・・でも?」
葛葉が訊き直すと、ノエルはゆっくりと顔を上げ、悲しげに微笑みながら言った。
「・・・あの世界を滅ぼしたのは、きっと私なんです。それはたぶん・・・私の知ってる唯一確かなこと・・・です・・・」


──────
5に続く



5ですよ。
後編の下巻的位置。

──────


それは、先ほどまでのは本当にただの戯れだったと思わせるほど、
圧倒的だった。
「煉獄の烈火‐フレイム・インフェルノ‐!!」
放たれた焔は、睦月と輪廻に容赦なく牙を剥く。
「デジョンスラッ───」
「───遅いよ」
睦月の剣が空間を切り裂くよりも早く、コスモスが睦月に袈裟で斬り掛かる。
如何にAT斬馬刀の切っ先が速くとも、振ることを予見された末の攻撃に対しては、
あまりにも、遅い。
「・・・っ!」
睦月は咄嗟にAT斬馬刀を逆手に持ち替え、高く跳ぶと、空中からそのまま反撃する。
「・・コズミックスラッシャー」
落下速度を加えた一閃。
(避けられる筈は・・ない・・!)
 ザンッ!!
振り下ろされた剣は、
「まだまだだよ。」
ただ空を斬るばかりで。
いつの間にか背後に立ったコスモスは、無名塔を振りかぶる、
刹那。
「無影月華!!」
輪廻の鎌が、無名塔より早く、コスモスに狙いを定めていた。
が、
「雷迅の閃光‐ライトニング・ディバイダー‐!!」
「あああぁぁああ!!」
それすら見切っていたように、コスモスは雷槌を放ち、
二人はそれを避けられるはずもなく、
その場に倒れ伏した。


その様子を、砂煙の隙間から覗くカメラの映像を介し見ていたアスとハチワン、クオ、カナメは、ただコスモスの戦いに圧倒されていた。
まるで舞うかの如く剣を振り、
時に獣のように跳ね、
それを彩る光を放つ。
そんな芸術的な強さが、
ただただ恐ろしい。
カナメは画面から目を背けるように振り返ると、監視室から出て行った。


「ありゃ、ちょっと遅かったね」
コスモスが、砂煙の中から現れた男二人に言う。
その足元には、満身創痍の輪廻と睦月。
「・・・やはり、勝てなかったか・・。」
ウルユスが答えた。
「輪廻っ!睦月っ!!」
ソウスケが呼び掛ける。
「大丈夫だよ、殺してないから。今回は、そっちが襲いかかってきたんだからね?」
コスモスは少し不満げに言う。
「あくまでも、カナメさんには“協力”して欲しいのであって、“強要”しているわけではない、ということです。まぁ、お望みとあらば・・」
「一人ずつ殺していって、無理やり協力してもらっても、私は構わないんだけどねー。」
コスモスは不敵に笑う。
本来おかしいのだ。
『敵味方関わらず全滅』
が常な筈の“天上の焔魔”が、
昨日・今日と一人の死人も出していないのは。
「お前達は・・カナメを連れて何をしようとしているんだ?」
ソウスケが問う。
「それは答えられません。上層部の用意した適当な綺麗事でよければ述べますが、聞きたいですか?」
ナナが淡々と返す。
「ナナ、ぶっちゃけすぎ・・・」
「所詮、私達に聞かされた理由や目的も、誰かの恣意や思惑によって“編集”されたものなんだろうから、あまりそういうのは考えなくていいのよ。」
「まぁ・・そうだけどぉ・・。」
「いいの。教会は“絶対”。それだけが私達のルールなんだから。」
「それは・・そうだね。間違いない。」
二人の意見が纏まった。
「というわけで」
「カナメさんを渡していただきます。」
二人はまっすぐにこちらを見据えた。
「・・・嫌だ。」
ソウスケは答える。
「カナメはやっと居場所を手に入れたんだ。連邦やNISAを転々として、やっと安心して仲間と呼べる人達を手に入れたんだ。」
きつく握った拳が痛い。
「NISAの基地を襲ったのも教会の魔術師だって聞いた。そんな危ない奴らに───」
匕首を抜き、
「───カナメは絶対渡さない。」
右手に構えた。
ナナはため息を漏らす。
確か彼は、昨日の戦いの最中、コスモスが誤って殺さないように、葛葉に捕まえておいてもらった民間人だ。
魔術師でも、剣士でも、軍人でもない。
自分より強い人間が二人倒されている状況で、何の勝算があって刃を向けてくるのやら。
ただ無謀なだけか、それとも義理やエゴか、単に馬鹿なのか。
なんにせよ理解できないが、
「ふふ・・・・」
嫌いでは、ない。
愚直なまでの誠意に、コスモスに似た輝きを感じる。
「さぁ始めようか、コスモス。」
ナナは魔法石をコスモスに渡した。
それを起動したナナは、ウルユスを一瞥する。
「ナナ、いくよ!」
コスモスは無名塔を構え、駆け出していった。


少女のナイフが閃く。
それを苦無で弾くも、もう片方のナイフが的確に隙を突いてくる。
「・・・。」
それを手甲で逸らすと、即座に苦無を数本投げる。
ノエルはそれを雑作もなく避けると、瞬時に魔法陣を展開。
「颶風旋刃‐ウインドミルレイジ‐!!」
巨大な風の刃が葛葉に向けて放たれた。
常識外れな速度のそれを、しかし葛葉も難なく躱す。
外野から見ればそれは、紛れもなく戦闘であろう。
しかし当の本人達は、そう思っていない。
じゃれ合いである。
未知なる相手を試すように、ジャブを打ち続ける作業。
両者の互いに対する評価は一致していた。
“速すぎる”
“当たらない”
“気配がない”
なるべく相手の情報を集めたいお互いとしては、長引く戦いは好都合だった。
「何か・・見せていただけませんか・・?。魔術とか魔法とか・・・」
「生憎と、秘密主義でして。それよりも、貴女の赤眼の方が気になるところです。」
応える葛葉は、先ほどから魔術らしきものを使った様子がない。
魔術師なのかどうかでさえ怪しいほどである。
一方ノエルは、ウルユスと深雪によって洗練された、身軽さを追求した完成形のようなもの。
もはや“作品”に近い秩序と美しさを持つその戦闘スタイル故に、生憎と超威力の大爆発のような、ガードを強要するほどの魔術は備えていない。
手数では負けないのだが。
ノエルは少し距離を取ると、一端攻撃を中断する。
「んー・・・、でしたら。」
そして、ナイフから帯状の術式を紡ぎ出す。
「ちょっと・・激しくいきますね・・?」
少し困ったような顔をしながらも、彼女は微笑んだ。
幾千の、小さな風の刃を綴りながら。
葛葉は両手に苦無を構える。
「・・どうぞ。」
仮面の下から、覚悟を決めた声が響く。
ノエルは申し訳なさそうにお辞儀をすると、術式を起動させた。
「颯篠‐レイヴンテンペスト‐!!」


「この前のお返しだよっ!」
コスモスは高く跳ぶと、ウルユスの真上から無名塔を振り下ろす。
「それはどうも。」
 ガギンッ!!
無名塔はウルユスより1mほど上のところで謎の障壁に阻まれ、鈍く鳴った。
「まだまだ!!」
コスモスは片手で焔球を作ると、それを結界に叩き込む。
「ほぅ。」
しかしそれは他の魔術と同様に、虚空に消えた。
「くっ・・それなら!!!」
コスモスは少し距離を取ると、魔眼を更に焔(あか)く染める。
「コスモス・カーラネミ・シヴァ・アルタシスの名の下に、無名塔――顕現!!」
大剣から変化した双剣を構え、天上の焔魔はウルユスに斬り掛かる。
「良い判断だ。」
敵ながら感心する。
大剣のままでは、前回みたく無名塔とのリンクが切れて、無名塔の本来の質量にコスモスが耐えられない。
火星より重力の大きい地球では尚更だ。
しかし、双剣ではそんなことはない。
となれば必然的に
 キィンッ!!!
物理的な結界が現れる。
「こんなもの!!」
コスモスは両手の剣で凄まじい連撃を繰り出す。
手応えがあるものなら、それを突き破ればいい。
こんな結界など、すぐに───
「・・・?」
何か、結界を斬る刃から、不思議な感触が伝わってくる。
硬い壁や結界を切りつけているのとは違う、
まるで誰かと切り結んでいるかのような・・・。
「コスモス・・?」
ナナが呼び掛ける。
いつの間にか、コスモスは結界を斬りつけるのをやめていた。
ウルユスまで僅か1.5m。
コスモスは黙ったまま手を前に伸ばし、結界に触れる。
「・・・!!」
それは、単なる物理防壁や、不可侵結界とは全く異なるものだった。
「これは・・・“鏡”・・?」
コスモスが呟く。
「御名答。」
ウルユスが応えた。
「加えられた衝撃を複製し、逆方向に加えることで、結果的に全て相殺される“魔法”を宿した魔導具『天満鏡』だ。生憎と魔導具自体の姿は見せてあげられないが、鏡の球体を想像して貰えば、かなり近いイメージが掴めるだろう。」
ソウスケには何の話なのか全くわからない。
コスモスの動きに圧倒されたまま動けずにいたソウスケは、最早完璧に置いてけぼりである。
「“鏡”の理で物理は“相殺”・・・魔術や魔法の無効は別のロジックなんだろうけど・・・・。」
ナナが呟く。
二人揃っても何も変わらない。
僅か直径3mほどの、不落の籠城。
城主が標的ではなく、また誰も匿っていないのが唯一の救いか。
「・・・だから・・?」
コスモスが声を漏らす。
「だから、なんだっていうのさ!!!」
突如翻ったコスモスは、急激に高めた魔力を拳に乗せ、全力で地面を砕く。
「そんなのがあったって!!」
それを高く跳んで回避するウルユスを追うように、コスモスも跳ぶ。
「絶対!!」
いつしか無名塔は炎を纏い、空中で焔翼を広げた少女は、鏡面結界にこれまで以上のスピードで連撃を浴びせる。
「絶対絶対絶対!!!」
コスモスは更に高く飛び上がり、両手に炎を掲げ、吼える。
「私は、負けない!!!!」
月を抱いた焔翼と、赤眼が煌めいた。
「業火葬‐クリメイト・カタストロフィ‐!!」
放たれた炎は男の逃げ場を無くさんと、広く降り注ぐ。
「いけない・・!!!」
ナナは自身の周りに結界を展開すると、即座に地に伏したままの輪廻と睦月も結界で保護にかかる。
しかし、
「へ・・・!?」
「───!!」
ソウスケのすぐ真上まで炎が迫っていることに、気付いた時には遅かった。





──────
6に続く。




6ですよ。
今話の最終巻。

──────

たまたま、
全員の反応が遅れていたのだ。

ウルユスはまだ着地すらしておらず、

ナナは輪廻と睦月に気がいっていた。

コスモスは激情でウルユス以外眼中にない。

焔を目の前にしたソウスケの頭に、様々な感情が駆け巡る。

迫り来る業炎に、容赦などなく。


「ゃば・・・死ん───」


「やめてぇぇぇええええ!!!」


ソウスケが炎に呑まれる直前、
辺りに響いたのは、カナメの叫び。
いつの間にかソウスケの前にはカナメがいて、
その片腕で炎を消し去り、ソウスケを守っていた。
「カナメ・・・?」
ソウスケが驚いたように名前を口にする。
「ソウスケさん・・・大丈夫ですか・・?」
カナメは体の向きは変えず、首だけ少し振り返り、身を案じてくる。
「あ・・あぁ、なんともないよ。助かった。ありがとう。」
そう応えると、カナメは少し微笑み。
「ふふ、こちらこそありがとうございます。さっきの言葉・・嬉しかったです・・。」
「さっきの・・?」
あぁ、思えばまた柄にもなく、カナメは渡さないとか格好付けた気がする。
・・って、いつから近くにいたのやら。
「ぁ、あぁ・・あれはその・・・なんだ。仲間、だからな・・。」
ちょっと照れながらも返すと、カナメはクスりと笑った。
その笑みには、どこか翳があって。
「カナメ・・?」
呼び掛けた少女は、悲しげに微笑むと、
「・・・ごめんなさい。」
「・・ぇ・・・?」
ソウスケを一人残し、炎を手で消し去りながら歩きだした。


 ガガガガガガガガガガ!!
幾千の風の刃が、四方八方から絶え間なく襲いかかる。
 ガガガガガガガガガガ!!
それを、どれも紙一重ながら悉く躱す。
 ガガガガガガガガガガ!!
地面を抉り続ける風の刃。
一つ一つは威力もなく、弾くのも訳ないが、数と速さだけがこの上ない脅威だった。
 ガガガガガガ・・・。
不意に、刃が止んだ。
(終わった・・・のか・・?)
張り詰めていた警戒を解く。
───その一瞬が狙いだった。
「っ!!?」
ほんの少し、気を緩めた葛葉の目に、煌めくナイフが映る。
「くっ・・!」
葛葉は咄嗟にノエルの両腕を掴み、ナイフを止めると、そのまま放さない。
ノエルは、葛葉の体格からは想像できないほどの力で両手を塞がれた。
「決着・・・着きましたね。」
ノエルが囁く。
「えぇ、私の勝ちです。」
葛葉が応える。
「・・・ぃぇ、」
 ガガガガガガガ....!!
葛葉の足元に、風の刃が降り注ぐ。
「・・・・・まだ、残っていたのですか。」
葛葉が訊ねると、ノエルは申し訳なさそうに微笑んだ。
「あと・・・1/5くらいしかないですけど・・後ろに・・・。」
やられた。
捕まえたと思ったら、逆に捕まえられていたのだ。
両手を塞いだ瞬間に勝ちを確信してしまった。
葛葉は手を放すと、後ろを振り返りながら言う。
「私の負けですね。」
ノエルは再びお辞儀をした。
「お手合わせ・・ありがとうございました。」
結局、何の特殊能力も、技も、仮面の下すらも見ることはできなかったが、それでも貴重な時間だったと、自分は満足している。
とりあえずウルユスに合流して、報告はその後。
ノエルは両手のナイフを合わせると、二本のナイフは光を纏いながら形を変え、一丁の銃に。
その銃もそのままどこかへ消え、丸腰になったノエルは、ぱんぱんと服をはたいて砂埃を落とす。
「あの、そろそろ終わるみたいなので・・、先・・・行ってますね・・?」
一人、砂煙に歩みを向ける。
「・・・待ってください。」
葛葉が呼び止める。
「・・はい・・・?」
ノエルが振り返る。
「・・勝者への褒美に、こんなものですが、差し上げます。」
葛葉の投げたモノを、ノエルが受け止める。
苦無だった。
「ぁ、ありがとうございます・・。」
屈託無く微笑む少女は、それをハンカチに包むと、ポーチに入れ、再び歩き出す。
葛葉は一瞬佇んでから、後を追うように歩き始めた。


燃え盛る炎の中を、一人の少女が歩く。
揺れるおさげは火の粉と踊り、炎と月明かりの紡ぎ出す幻想的な光が、少女を包んだ。
ソウスケは、その後を追ったり、何か声を掛け、止めねばいけない気がするのに、足は動かず、声は出てこない。
カナメの背中が、それらをどこか拒否しているように見えたからだ。
しかしソウスケは約束したのだ。
強くなると。
強くなって、カナメを守ると。
守られてばっかりだが、その言葉は偽りなんかじゃない。
本気の誓いだった。
本当に、カナメを守りたいと思ったのだ。
なのに、今も自分は動けない。
ウルユスは輪廻と睦月の傍で、ただありのままを眺めていた。
「魔術師さん。」
ナナとコスモスの前に来たカナメが、語りかける。
「カナメさん、私たちの話を・・・」
ナナが話を切り出そうとするも、
カナメは首を横に振り、それを遮った。
ほんの少しだけ、静寂が流れ。
カナメは、はっきりと、二人の魔術師に告げた。




「私、あなた達に付いて行きます。


・・・だから、この人達には、もう手を出さないで───。」




───少女の決意は、固く。

  「待て・・」

止める声は、届かない。

  「待てよ・・・」

いつしか砂煙は止み。

  「待てって!おい!!」

現れた葛葉と合流した二人の魔術師に連れられ、

  「連れて行くな!!カナメ!」

虹色に煌めく穴を潜り、

  「カナメぇぇぇぇええ!!」




皆の前から、姿を消した。









──────
とぅびこん
第19話に続く。
──────




















【fragment──】

















───火星に向かうロケットの中に響く、
彼女の微かな泣き声も

また、

自室で空を見上げ、
無力に打ちひしがれる彼には
届かない─────
















【────fin.】
ツールボックス

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