トミタケ2


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第一章「INTERCEPT」

―――航空国防軍、全地球安全保障指令本部隷下、トーカイ広域防空司令部

「Ⅲ種防空警戒態勢、カカミガハラ基地、第801防空迎撃中隊にスクランブル発進要請」

「ナルミタニア第12管区上空にアンノウン捕捉。SIF応答ありません。国籍、機種ともに不明。」

「帝都ナヤゴに近い。緊急即応体制。付近住民に対して防空非常事態警報発令。」

「カカミガハラ基地から迎撃機、上がりました。ハクレイ4機編隊、MRM(中距離ミサイル)、BVR(視程外)兵装です。」

―――ナルミタニア上空
26000フィート

基地から発進して間もないステルス長距離迎撃戦闘機、TIF-63B「みょんみょん」は巡航速度で高空を駆け抜けていく。

胴体下ウエポンベイに「クランベリー」中距離空対空ミサイルを四発と、吸気口横サブウエポンベイに「フレイバー」短距離空対空ミサイル二発を搭載している。

「ハクレイ3、FCR、AA―STT(対空単一目標トラッキング)モードセット」

グラスコクピット化され、計器が全てデジタルディスプレイに置き換えられた機内はこざっぱりとしている。

「ハクレイ4、マスターアーミング。MRM、クランベリー。シーカクーリング。パッシブシーカアンケージ。」

「ハクレイリーダー、オール・エアクラフト、ターゲット、レーダ・ロックオン。」

「こちらAWACS、ハクレイ全機、武器の使用を許可する。」

「AWACS了解、オールウエポンズフリー、システムグリーン」

パイロットはHOTAS操縦桿に取り付けられた赤いボタンに親指を添えた。

「FOX3!ミサイルロンチ」

そうコールすると同時に赤いボタンが押し込まれた。

STA-2.MR-AAM.C-berry.
LAUNCHING-ENGAGE

HUDとMFDは発射指令が実行された旨を映し出す。

胴体下部ウエポンベイが開かれると同時に兵装ステーションの懸架装置からミサイルが射出された。

放たれたミサイルはロケットモーターに炎を灯し、白煙を引きながら猛烈な加速で飛び去る。

幾秒もしないまま時速四千キロを超え、標的の方角に吸い込まれていく。

標的位置はミサイルを発射した戦闘機から逐次指令誘導によってアップリンクされる。

ミサイルは目標を"追う"ものではない。コンピュータからの飛行経路予測情報によって"先回り"する。

映画や漫画のように容易く避けられるようなものではない、正確性と攻撃力を併せ持つ恐ろしい兵器だ。

標的まで十数キロに近づいたクランベリーミサイルは先端部のアクティヴ・レーダ・シーカを作動させた。

この完全自律誘導により、発射した戦闘機からの指令誘導を必要としなくなる。

「ヤバいよ!RWRが鳴ってる!」

飛行船のコクピットでMFDを睨んでいたドーラン一味の男が叫ぶ。

ユーババは拳を机に叩きつけるとMFDを見た。

「クランベリーミサイル!こいつぁ避け辛いよ!」

「…まさかいきなり撃ってくるなんて事が…!」

「航空国防軍の差し金…やっぱりあのカナメとか言う子には何かあるようだね…兎に角チャフ撒きな!急降下しつつ増速!」

終端誘導段階のミサイルは着弾まで数秒程しか無い。

飛行船はミサイルのレーダー電波を攪乱する為にチャフを機体尾部から散布しながらガスタービンエンジンを甲高く唸らせ、急降下を始めた。降下率にして、毎秒百二十メートル。

「きゃあっ!」

飛行船キャビンに捕らえられたカナメたちは驚く。床が、飛行船が傾いている。

「…ッ!」

カナメは何かを察した。朧気で、得体の知れない何か。殺気。この場所に危機が迫っている。

次の瞬間だった。

鼓膜を裂きそうな、衝撃音。

クランベリーミサイルの至近距離での炸裂。

ミサイルが飛行船を掠める瞬間を四象限パルスドップラーレーダが連続波のドップラー変移を捉え、起爆信号を発した。

起爆の瞬間、ミサイルの弾頭セクションに格納されたコンポジット爆薬が炸裂、爆速九千メートルを超える衝撃波を作り出す。

指向性爆風破片効果威力弾頭。極超音速の衝撃波と弾体の破片が標的を切り刻む、まさにカマイタチ。

大型爆撃機すらも撃墜する程度の能力を持つ。

その破壊力は飛行船の右側後部を吹き飛ばすのに十二分だった。

「やばい!やばい!右エンジンをやられた!失速する!」

「うわおあああ。姿勢を立て直すんだ!」

ドーランとその一味は狼狽する。爆風に引き裂かれた後部からは不活化ガスが大量に漏洩し、飛行船は浮力を大幅に失った。

「最大回転突っ込め!」

残された左エンジンの回転数を最大まで上げるものの、高度計は反時計回りのまま。

間違いなく、墜落する。黒煙を曳きながら飛行船はストール状態に陥った。

高度がみるみるうちに下がる。豆粒のようだった建物の姿は既にはっきりと捉えられる。

「ねぇ、なにあれ…ちょっと!落ちてくるんじゃないの!」

「わ、煙だ!避難だ避難!とにかく逃げろ!」

町中で訝しげに飛行船を見上げていた人々がパニック寸前の状態で大騒ぎしている。

そしてビル群の屋上を掠めた時だった。突然、建物の避雷針が飛行船の下部を引き裂いた。

そのまま道路を挟んで向かい側のスーパー「シャンハイうじゅん」の屋上駐車場に接触、凄まじい衝撃と共に不時着する。

巨大な飛行船は自身を引きずりながら停めてあった乗用車を弾き飛ばし、屋上床面を大破させて停止した。




第二章「47th CHROMOSOME」

―――火星オリンパス地方

僅かの乗客を乗せ、火星の大地を三両編成の特急列車「夕凪」が駆け抜けていく。

都市間の距離が遠い火星ではエネルギー効率の高い鉄道は旅客、貨物共に重宝されている。

―――[2号車]特等車内

豪奢な装備が施された車内には二人の女性の姿があった。

『地球の東方資本主義人民帝国、帝都ナヤゴ市で墜落したテロ組織ドーランのものと思われる飛行船は、スーパーマーケット「しゃんはいウジュン」のナルミタニア支店を直撃し…』

小型モニターにははるか彼方、地球の民間ニュースが映し出されている。

左上の時刻表示が八分程遅れているのは通信距離の都合だ。

「物騒、だなんてレベルじゃないわね。在地球のウチの軍が叩き落としたとはいえ、ね。」

重厚な緋色の座席に掛けているキロハは呟く。

『スーパーは定休日だった為、人的被害は皆無との事ですが、航空国防軍、全地球安保指本部の発表によりますと有事即応法に基づき、戦闘機の誘導ミサイルによる迎撃行動を実施したとの…』

「そうね、あと、"彼<カナメ>女"があっちに行ってたとはねー。」

キロハの隣に座った女性が応答した。

ローツェン・ハウ・ハネフ少尉。キロハと同い年の二十二歳で航空国防軍NISA所属のパイロットだ。

キロハと同じく黒い服に身を包んでいる。違うのはワンピースではなくブラウスとスカートのセパレートである事だ。

両目は僅かに藍を湛えた黒、髪型はセミロングで肩程までであるのがキロハと対照的である。

朗らかな印象の彼女はキロハが幼い頃からの友人である。

二人は初等学校の頃から通学路の上を掠め飛ぶ国防軍、当時の国連軍の航空機に憧れを抱いていた。

頭上を駆け抜ける超音速の最新鋭戦闘機。自由自在な機動を可能にする攻撃型ヘリコプター。

空飛ぶ科学の結晶に魅せられた二人の就職先はその頃には既に決まっていた。

訓練の厳しさも案じていた程では無く、シミュレータと向かい合っているうちに航空免許も取れていた。

キロハとハネフは同じ部署だが最近のステーション爆発事故からドーランのテロまで一連の対応に追われ、少し久しぶりの対面となった。

『…拉致されていたと見られる女性数名は飛行船キャビンから救出され、数名が軽傷であるとの事で…』

モニター画面の中ではキャスターが喋り続けている。

「…データ、見た?」

画面に視線を向けたままキロハはハネフに尋ねる。

「え」

「この飛行船撃墜時の『空間位相データ』」

「…ああ、あれね…予想通り。」

「飛行船をロックオンしたミサイル、命中直前に誘導装置が標的を失探。誘導方位角が不自然にズレた。」

「何らかのエネルギー反応、いえ、チカラによってミサイルの誘導に何らかの妨害を与えたと…」

「撃墜に使用されたクランベリーミサイルは光波妨害、電波妨害に対する強力な防護機能が備えられている。通常のジャミングで回避できるようなミサイルじゃあないわ。」

妨害に対する妨害能力。電子戦とはいたちごっこの戦いでもある。

「じゃあ、全く別の、得体の知れない妨害手段をミサイルに対して用いたって事になるのよねえ…」

そう言うとキロハはモニターのニュース画面に視線を再び向けた。

そこには飛行船のキャビンから救助されるカナメの姿が映し出されていた。

「で、ハネフの方はどうなの?連中の調査とか」

キロハは横目でハネフの顔を見ると訪ねた。

「教会とか魔法使いとかのアレねー。…あーここで話してもいいものかしら」

「そのためにこのガラガラの列車にしたのよ。特等料金ぶんゆっくり話しなさいな。」

「そうねー、特定機密指定受けてるわけでも無いしー…教会は相変わらず謎よ。」

「謎?」

「えぇー。ただ国防軍よりはずっと進んだ"魔術"を研究してるらしいわ。」

軍が魔法を研究し、いくらかの魔術師を生み出したのには訳がある。

最新の戦術戦闘システムとしての"魔術"だ。従来の兵器システムや武器システムとは全く違う、新機軸のシステムとして研究がされていた。

「軍の魔術は、教会とかの魔術とは違うのよね?」

「えぇ。教会は昔ながらのアナログな方法よ。魔道書だとか、よくわからない儀式っぽいモノとか。」

「へぇ…軍の魔術はやたらデジタルなイメージがあるけど」

「本来の魔法や魔術自体、扱える人は限られるわ。生まれもっての才能というか、ね。軍が戦闘用のシステムとして採用するのにそんな不確定な要素が多すぎちゃ話しにならない。」

「確かに予算すら下りないわね。」

兵器に限らずあらゆるシステムに必要な要素にRASISがある。

ここでは割愛するが、何時、何処で、誰が、何をどうしようと普遍的な効果を発揮できるものでなければ使いものにならない。

もちろん適切な運用があっての事だが、特殊な人間だけが扱える専用の武器で敵を倒すなどという様では運用上の制約が大きすぎるということだ。

システムとは常に普遍的でなければならない。

「そこで開発されたのが、電子式自動詠唱管制システム。これを用いて魔法の発動をコンピュータ制御によって実行できる。」

「誰にでもできる"魔法"?」

「…えぇ、でも発動機構がまるで違う。教会の連中のそれは…何て言うか、空間自体への強力な干渉能力を持ってる。後付けで付加する軍の魔法とは違う、根本的なところから"魔法使い"である教会の連中には歯が立たないわ…」

「ん…教会の魔法の原理的ってどんなの?…軍の魔法との違いも教えてほしいわ。」

「…遺伝子工学なんかは、お詳しい方ー?」

「ある程度は…専門的な事まではわからないけど」

「まー私もそんなもんよ。…これ、見てくれる?」

ハネフは手持ちの携帯端末を取り出すと空中に三次元画像を投影した。

DNAの塩基配列、それが纏められた染色体の図面だった。

「これ、ヒトの染色体…じゃないみたいね。一つ多いわ。何かしら、この染色体。」

人間の染色体は四十六本、画面に映し出されているのは四十七本だった。

「ヒトで合ってるわよ。正確にはヒトじゃないんだけどね。」
「どういう事?」

「…教会の魔法使いよ」

「まさか、え?本当に?」

キロハの目つきが一瞬鋭くなった。得体の知れない敵の情報である。誰であろうと彼女の立場なら興味を持つものだ。

「あなたとウルユス達がこの間一戦交えた時に飛び散った血液をサンプリングしたのよ。組成分析に時間がかかったけどね。」

ハネフも合わせるように目尻を尖らせる。

「ふぅん…」

「…ここ、見てくれる?四十七本目の先端部分。」

「マーキングしてあるわね?テロメアの一種?」

細胞は分裂を繰り返すうちに遺伝情報が劣化する。劣化したDNAのまま分裂を繰り返せば不完全な細胞、癌細胞の発生を招く。

それを防ぐためにテロメアが一定回数以上の細胞分裂を防いでいる。命の時限装置のようなものだ。

「テロメアのようでまた違うものよ。コンピュータに例えるならNAND型EEPROM(フラッシュメモリー)のアドレスレジスタに相当するものがこの染色体先端部にあって、ビット数換算で約二キロビット分の情報量を持ってる」

「記憶領域…それが意味するものって?」

「…あの魔法使いの彼女ね、死なないのよ。あなたがアレで彼女を吹き飛ばした後にも軍の偵察機が彼女の姿を確認しているわ。」

ハネフは頭上の荷物棚に置かれているキロハのレイヴァテインを納めたケースを親指で指しながら言った。

「その報告書見たわ…確かに私は彼女を、あのナナとか言う魔法使いを消し飛ばしたはずなのに、ね」

キロハは溜め息混じりに話す。あの時の事を思い出していた。ウルユスと一緒にあの魔法使いを撃った、あの日。

「それもその筈よ。…この染色体の情報記録エリアにはその細胞自身が体の何処で何を構成しているかが記録されている。そしてその細胞が破壊や損傷を受ければ、周りの細胞が高速で分裂してその部分を"穴埋め"しちゃう」

「細胞分裂ってそんなに高速にできたかしら?無理にやると不完全なコピーにもなりかねないんじゃない?」

「この子は遺伝子自体にチェックディジットが存在してエラーがあればすぐに破棄される。それを司るのもこの第四十七染色体なのよ。だからこそ、超高速な細胞分裂を実現できる。」

「よくできたシステムねぇ…。どれだけ生きるつもりなのかしら」

「あと、第四十七染色体にはまた別に特殊な機能があるのよ。これが一番重要なんだけどね。」

「魔法使いを魔法使いたらしめているもの?」

「えぇ…強力なエーテル量子エネルギー演算転換システム、クラフトロン機構。そしてそれこそ教会の魔法が持つ大きな力の源でもある。」

「連中の魔法がマナと言われるより高次のエネルギー概念を使っているのは聞いた事あるわ。」

「それよ、そのマナを取り出してエーテル変換するのに必要な加粒子放射とそれを制御する演算を第四十七染色体が行っている…それがクラフトロン機構」

「細胞自体が魔法を発動するのに必要なエネルギー源とその制御回路を兼ねているわけね…生きる量子コンピュータってところかしら」

「ええ、詠唱を行えばクラフトロン粒子が放射されて即座に演算を実行、最大で戦術核分裂弾頭に匹敵するエネルギーを操れるわ」

クラフトロン粒子、荷電粒子の一種とも言われる粒子。マナの源。

「細胞と言うハードウェアで魔法というソフトウェアを実行させているようなものよ。」

「お陰様で基地が幾つ吹き飛んだ事やら…」

「軍の魔法もクラフトロン粒子の変わりに電子や反陽子を使ってるけど、所詮はただの原子核反応の応用に過ぎない。」

基本的に軍の魔法というのは航空機や艦船に搭載された加速器を用いてオペレーターの電子詠唱によって運用している粒子エネルギー兵器の一種に過ぎない。

装置は巨大で、大電力も使用する事から運用は限られ、未だ実用レベルに至らなかったのが実状だ。

「…でも、もうそれももうすぐ過去の話。」

「えぇ…ほら、もう見えた。あれが」

キロハは車窓を指す。

「あれが、百五十テラ電子ボルト級、超高エネルギーバリオン衝突型クラフトロン円環加速器システム『ニーベルング・リング』」

列車の車窓からは巨大な円環加速器を望む事ができた。直径三キロの巨大な環。

環を囲むように高さが一キロ程もある七本の直線加速器が尖塔のように、天を突き刺すかのように等間隔に並んでいる。

「世界で初めて人工的にクラフトロンの生成に成功した加速器よ。ご覧の通り、超巨大だけどね。まぁ巨大なぶん、極大出力を確保できるわ。あの魔法使いどもに勝てる、おそらく、唯一の兵器よ」

乗客は彼女ら二人だけ。夕暮れ時の線路を列車は走り去っていく。




第三章「NEW YORK」

 

「こーんぶーだしきいてるよー」

キロハは湯船で壁に身を任せ、気持ちよさそうに歌っている。

「何の歌よそれ。」

洗い場で身体を流していたハネフが怪訝な表情に笑いを含ませながら訪ねる。

「あぁ、地球の古い歌。物置を歌った民謡よ。」

キロハは何時に無く上機嫌な様子だったがハネフは物置と昆布出汁に何の関係があるのかがわからない。百人乗っても大丈夫なのだろうか。

ここは『ニーベルング・リング』を管理している独立行政法人『BECT』の管制センターの大浴場である。

二人は軍からの出張で暫くは此処での職務となるのだったが、ついでに保養もして来いとの達しだった。

大浴場の壁面にはオリンパス山の絵が大きく描かれている。

「久しぶりよこんな旅行気分」

「ほんとよ。温泉なんて今年初めてかしら…」

明日にはシステムの作動実験が控えている。こうしている間にも各部の調整が進んでいるはずだ。

キロハは大浴場の壁面に掛けられた大型のアナログ時計をふと見上げた。

二十時五十分。主送電系統と放射シンクロトロンの最終確認と動作試験を終え、予定では十分後には管制用スーパーコンピュータ『鉈De此処』のシステムがブートアップする筈だ。

仮にも魔術を科学的に発動させるだけのシステムである。その演算処理は膨大な量に及ぶ事は容易に想像がつく。

 


『ニーベルング・リング』は大きく三つのシステムに構成されている。

七基の瓦斯冷却重水核分裂原子炉で構成され、毎時一千六百万キロワットの大電力を供給可能な「主送電系統」

魔法を発動させるのに必要なクラフトロン粒子を発生させる「バリオン衝突加速器」

そして、クラフトロン粒子からマナを生成、エーテル変換に必要な"魔法陣"を作り出す「電子式自動詠唱管制システム」

 


これら三つのシステムにもさらに幾多のシステムが連なって『ニーベルング・リング』を構成している。

恐らく人類史上最も複雑で、巨大で、高価で、そして革新的な機械だった。

キロハは思った。明日からまた暫く、忙しくなる。次にこうして大浴場で歌えるのは何時になるのだろうかと。

「ねぇ」

ふとハネフが話しかけてきた。

「ん」

「…軍がここまで魔法の研究に資金や人材を投じる理由って何なのかしらね…あの教会の魔法使いに対抗するためだけでは無いような気がするのよ。」

「世界を統治する、力だからよ」

「・・・え」

柔らかな湯気と浴場独特の反響の中、キロハは浴槽の中で呟くように答えた。

「その昔、地球では核の力が戦争を抑止し、平和を保っていたと言うわ。」

「互いに核を突き付けて脅し合う事で戦争を防ぐ…相互確証破壊思想、だったかしら?」

「正直、私はそれが理想だと信じたわ。世界を破壊しうる力が、規範となって世界の均衡を保った。平和ってね、裏を見れば管理された恐怖でしかない。それ故に脆弱なものなのよ。何時しか地球は非対称戦と非正規戦が跋扈するテロの時代へと移り変わった。そんな世界で核の力は脅しにはならない。敵と言う存在が、国家と言う明確なものじゃなくて、もっと小さな単位にまで拡散、縮小してしまったのよ。」

何時からか戦争の敵は国家では無くなった。思想、概念、宗教、知識。戦争の意味は絶えず変わり続けた。

「抑止力としての効果を失った核はタダの大量破壊兵器として使われるだけ…存在意義が脆弱であるが故に。そして、それが自らの、人間の存在すらも危うくした。今、国家や人間を護るものなんてない。暴走した核の力に何時消し飛ばされるか。お互いを抑える力が存在しない世界。だからこそ、新しい手段で核を、戦争を抑止する必要がある。それは核を超越する存在である必要があった。…禁忌と言われた原子の力すらも超える力、それが魔法だったのよ。」

「強大な力は、扱いを誤れば大変な事になる。私たちに必要なのはその覚悟なのかもしれない。でも、そうやって人間が魔法を手に入れたって、結局は同じ事になるんじゃないかしらね…」

「ええ、例えそうだとしても私たちは今、この世界を護る必要があると思うわ。だって、そういう職業じゃない。それに、国防軍が魔法の研究に躍起になっている理由がそれよ。魔法の技術を囲い込み、いち早く実用化する。そうすれば国防軍が世界を護る事が出来る、そういう話よ…ま、結局は脅しの道具で世界を脅そうとしてるだけなんでしょうけれどね。」

キロハが苦笑いを浮かべた表情をハネフに向けた。

「まあ兎に角、今自分が出来る事をやるだけ、ね。」

気付けば二人は大浴場の高い天井に向かって立ち上る真っ白な湯気を眺めていた。

 

―――同時刻

―――BECT
ニーベルング・リングCCR・中央管制室

「主系統起動電源電圧、二次試験終了。電圧確保問題無し。」

全周が数キロもある巨大加速器の制御室はさほど広いわけでもなく、情報表示ディスプレイ
やキーボードが青白く輝いていた。

「了解、『鉈De此処』の起動を開始。IO投入。BIOSイニシャライズスタート。」

―――電算機室

数百平米はあろうかという室内に並べられた蒼い筐体の羅列。
大型の十九インチラックには演算モジュールが整然と並べられていた。

スーパーコンピュータ『鉈De此処』の電源ランプに一斉に明かりが灯る。

同時に代替フロン冷媒の液体冷却装置の甲高い音が室内に反響する。


―――中央管制室

NATA DE COCO
VERSION 7.05

(c)Border Enginieering Survice,Inc.All reserved.

SYSTEM LOADING...

システムのステータス表示が管制室の画面に刻まれていく。

「読み込み中です。起動完了まで約三十分。」

オペレータの一人が一息つこうと傍らのコーヒーカップに手を伸ばした。

その時。起動ロゴが表示されていたコンソールの画面が突然、暗転。

オペレータがシステムの異常を察するよりも早く、画面には赤色で刻まれた文字が躍った。

FATAL-SYSTEM-ERROR
00x0
CTRL FAIL---***
>REFUSED

オペレータは目を疑った。いや、疑いたかった。

全ての外部コントロールが拒絶されている事を示すエラー表示。

「システムダウン!?」

「そんな阿呆な…再起動実施。」

オペレータの一人はシステムにリセットをかけようとする。

「システムリセット準備、再起動よーい、」

赤と黄色の毒々しい配色のキースイッチに鍵を挿し込む。

「システムリセット」

その声と同時に鍵が回された。

即座にコンピュータの電源装置がリセットされ、再起動に入る。

はずだった。

画面の表示は同じまま。電源が、落ちない。

「どうなってる!?電源操作拒絶!?」

不可思議な状況に戸惑いながらオペレータは何度も電源の操作をする。

>REFUSED
>REFUSED
>REFUSED
>REFUSED
>REFUSED

画面の表示は変わらない。

流石におかしいとオペレータの一人が離れた場所の電算室に向かおうと席を立とうとした時だった。

画面の表示が一瞬乱れたかと思うと、放送用スピーカーから状況にまるで似つかわしくない、

少女の声が響いた。

「こんにちわー。」

その声を聞いた者は一様に呆気に取られた。それは入浴中だったキロハとハネフも同じだった。

「…この声…まさか!」

キロハは浴槽から飛び出すと聞き覚えのあるその声の主の名を口にした。

「ナナ…あの、魔法使い!?馬鹿な…」

 


―――ナナとコスモスの眼下には巨大な、ニーベルング・リング。

月明かりに照らし出され、不気味に広がる巨大な輪と七本の尖塔。

二人は上空からそれを見下ろしている。

ナナは自らの声を管制センターの放送ネットに割り込ませていた。

魔法によって声を電子変換し、回路に干渉させている。

「こんなに大きなキカイ、ホントに作っちゃうなんてね。感服と同時に飽きれちゃうよ。」

ナナはその声を聞く者の返答など求めていなかった。

「アナタたちに、私たちに出来ない事をやってもらったの。アナタたちが、私たちにの力を求めようとしてたから。ご苦労様。」

もっとも仮に返答が許されたとて、それ以前に話を飲み込める人間など居ない。

「私たちの魔法にだって限界があるの。貴方たちのキカイはそれを超越したエネルギーを生み出せちゃう。凄いね科学って。だから、もらっちゃうの、私たちがね。」

ナナはそう言うと接続をぷつりと切った。




第四章「STAND ALONE INSANITY」

 

大浴場から慌てて飛び出してきたキロハはその長い黒髪も完全に乾かぬまま大深度地下に建設された管制室に駆けていく。

普段身に着けているピエゾドレスのパワーアシストも無い状態では、走れば普通に疲れる。

キロハのワンピースは一見すると少女趣味でフリルに彩られたゴシック風のものだが最新の技術を用いた圧電繊維装甲服と呼ばれるものだった。

外部からの圧力を直接電気エネルギーに変換可能なピエゾ素子。それを繊維状にして編み込む事で生地にし、極めて軽量で柔軟性に富む装甲服の製造を可能にしている。

また、バッテリーからの給電により生体機能強化も可能で、俗に言うパワーアシストスーツとしての側面も持っていた。

元々軍人の割に体力があるとは言えないキロハやハネフは重宝していたが今は着込んでいる時間は無い。

普通のバスローブを纏ったまま大浴場から走る。息を切らしたキロハの後をハネフも疲れながら追っている。

「ふぅ、ひぃ、一体どうなってるの」

キロハは息を整えながらオペレーターに尋ねた。

「…教会の連中らしき者にシステムを乗っ取られたようで…」

「ハッキングだっていうの!?」

「今は何とも…」

追いついてきたハネフはコンソールに手を付くと口を開いた。

「はぁ、ッ、ここをハッキングなんて…無理よ!」

「…普通じゃあね。ここのシステムは全て外部回線からは隔絶されたスタンド・アローンだから。」

キロハもここの設備については事前に詳細は聞かされていた。

「…ここの各施設や装置間のイントラネットは全経路にて暗号化が施されているわ。」

「なのに、見る限り全システムが操作不能になってる。正面ホールのセキュリティから電源供給を行う原子炉までね。」

「この馬鹿でかい装置が丸ごと敵の手の内に落ちたってわけ…か…」

その時だった。ディスプレイが状況の変化を伝えた。

MAIN ACCELERATOR ENGAGEMENT...

警告音が鳴り響く。それを見たキロハは右手で左手の掌の上に映し出した空間投影キーボードを操作した。

彼女の左眼の紅い人工眼球は通常の視力に暗視能力や状況表示能力を与えているだけではない。

情報表示ディスプレイとしての役割も果たしている。

視神経に送信される視覚画像に多数の文字情報や複雑な図形情報をオーバーレイ表示させる事ができる。

現時点でハッキング状態にあるニーベルング・リングに対して何らかの操作を実行する事は出来ない。

しかし、その稼動状況だけはモニタリングする事が出来た。

事故発生時のテレメトリ情報喪失を防ぐためにパッシヴセンサー類は独立した系統を持っている。

このネットワーク経路自体はアンロック状態であるため権限さえあれば情報を取得できた。

キロハは認証を通過すると状況確認用のテレメトリデータを取得する。

その時、既に加速器のエネルギー分布の数値がみるみる上昇していた。

「…ちょっと、ヤバイわ。…加速器が運転を始めてる。もう粒子の入射が開始されてる!」

「「何ですって!?」」

傍らに居たハネフとオペレータは素っ頓狂な声を上げた。

無理も無いと言えばそうであったが、事実加速器は運転を始めていた。

魔法を発動させるのに必要なクラフトロン粒子を発生させる為に、バリオン粒子が数百万電子ボルトまで加速されていく。

円環加速器の直下に設置された電源となる七機の大型原子炉は最大出力のまま、変圧器を変換装置を介して加速器に電力を送り続けている。

やがて、極限までエネルギーを与えられた粒子エネルギーは空間干渉を起こし、クラフトロン粒子を発生させ始めた。

その様子を、ナナとコスモスは上空から見守っていた。

「さあ、見せてもらおっかな。ニンゲンが作った、科学の力ってのをね。」

ナナはそう呟くと右手の指を鳴らした。

その瞬間、ニーベルング・リングの周りに建てられた七本の尖塔の先端から、眩い光が煌いた。

その光はニーベルング・リングの上空に巨大な魔方陣を描く。

電子詠唱管制システムによって、一般の魔法使いでは扱えないような強大なマナのエネルギーを扱える。

魔方陣の描画から発動に必要な詠唱までを全てコンピュータが電子的に完全にエミュレイトする。

そしてそれは――

 


「出力系セイフティアンロック!!!詠唱システム作動開始確認!停止不能です!」

管制室でオペレータが叫ぶ。

「緊急停止操作、全モード実行できません…!」

その時だった。

空中に描かれた巨大な魔方陣からは稲妻のように、複数の光の筋が上空に立ち上った。

それは一筋に束ねられ、空を貫く。夜空は昼間のように明るく照らし出される。

その光の筋は上空でぐにゃりと曲がったかと思うと、光軸を北西の遙か彼方の地上へと向けた。

 

一面の平原だったその場所は、その光に包まれると同時に地響きを上げると同時に浅い場所から順に地面が抉られていった。

何時かの何処かで行われた核融合爆弾実験など遙かに凌駕する、人類が自らに向けて造った暴力。

上空には巨大なきのこ雲が立ち上り、その衝撃波を彼方まで伝える。

爆発という生易しいものでは済まされないそのエネルギーは地上に巨大なクレーターだけを残し、そこにあったはずの平原は見る影も無かった。

 

「・・・ッ!!衝撃波来ます!!総員対衝撃姿勢!」

オペレータの一人のその声が管制室に響き、全員が即座に目の前のコンソールに身を固定した時だった。

強烈な地震。地下防護区画であるため、衝撃波は幾分緩衝できるものの、強烈な揺れが室内を襲う。

「ナニ、これッ!」

「攻撃魔法!?」

「…電子詠唱には…戦略攻撃用魔法データがインプットされてる!」

キロハは揺れに翻弄されながらも紅い左目に映し出されるテレメトリ情報の一文を読み取った。

「ナニそれ!!!」

「マナのエネルギーを強烈な熱エネルギーとして取り出すのよ!摂氏数十億度程度のね!そうすると周辺の構成原子が一気にプラズマ化してとんでもない衝撃波エネルギーを生み出すのよ!」

「放射能出ないなんて環境に優しいわね!!!」

二人が悪態をついているうちに揺れは次第に収まっていった。

「…被害状況の確認を」

「はい、ここから45キロ先のティンクル平原が半径7キロに渡って完全に消失しています…」

「…BECT関連の各施設、及び近辺の物的、人的被害は共にゼロに近いかと。」

「そう…」

キロハは上空の無人偵察機からの映像を目の当たりにすると言葉を失った。

隕石でも衝突したかのような、クレータ痕。

「ニーベルング・リングは冷却とコンデンサ再充電を開始しています・・・再起動まで約一時間です。次は一体何をされるか…。」

ニーベルング・リングは膨大なマナを扱い、強力な魔法を生み出す事が出来る。それ故に排熱や消費電力も恐ろしい量となっていた。

一度魔法を発動してしまえば、最低でも一時間は冷却と高エネルギーコンデンサーへの再充電が必要だった。

「偵察機からの画像によれば、ニーベルング・リング付近の上空に二名の魔法使いが居る事が確認されています。恐らくそこからシステムを操っているものかと…」

「なんとか迎撃しないとね…でもこんな辺鄙な場所、最寄の基地から迎撃機上げても間に合わないわ…」

「クルセイダー基地は?あそこから迎撃戦闘機飛ばせば二十分で…」

「…そこ、少し前に吹き飛んだじゃない?」

「…あ。」

思い返せばあの二人の魔法使いに対して国防軍が蒙った被害は余りにも甚大すぎた。

「でもまあ、大丈夫。あたしの戦闘ヘリ、一応持ってきてるから。」

キロハはにやりとハネフに笑って見せた。

そして何時の間にかバスローブからいつもの黒いピエゾドレスに着替えていた。

「…なんで!?」

「護身用にね」

「また随分と大仰な護身用品だことね…」

「さて、ちょっと行ってくるわよ」

キロハは敬礼するように右手を自分の額の前で軽く振った。

「気をつけてね?相手が相手だから…」

キロハは心配げに呟くハネフの首にいきなり手を回した。

「!」

そのままキロハは自分の唇をハネフの額に触れさせた。

「ちょ、あ」

ハネフの額にはキロハの唇と口元のピアスの感触。

「…ええ、そう簡単に死にゃしないわ」

「…」

唇を離し、真っ赤になったハネフの顔を一瞥して微笑むと、キロハは格納庫に向かって走り出した。

 


 


第五章「GRAY STORM」

 

管制室から格納庫までの距離はそこそこにあった。キロハはエレベータを使い、上層階へと向かう。

ニーベルング・リングの管制システムはハッキングを受けているものの、現時点でセキュリティを含めた館内設備は通常状態のままのようだった

エレベータを降りるとすぐに、キロハは自身のヘリコプターが格納されている地下格納庫に辿り着いた。

手にした非接触式IDカードをセンサーに翳すと小さな電子音と共に防護扉が開かれた。

そこにはメインローターを折りたたまれた、大型の攻撃ヘリコプターが一機鎮座していた。

F/AH-138P「グレイストーム」攻撃ヘリコプター。

地球で早明浦重工業と河城アヴィエイションが開発したものであり、基本設計は古いものの大出力ターボシャフトエンジンに、フライ・バイ・ラ
イト技術による高機動性と強靭な複合装甲を兼ね備え、強力な攻撃力を持つ。

そして、要となるのが統合戦術電子光学戦システム「J/ALQ-1601(v)3」と集中意思決定システム「Superのびたくん」によって構成される通称ス
イーツと呼ばれるシステム。これによって同時に複数の目標に対する攻撃能力が飛躍的に向上しているのだ。

スイーツとはSWEETS、Stand-off Weapon Extended Tactical Systemの頭文字読みであり、長距離兵器拡張戦術システムという意味である

左右の小型ウイングに搭載された8発の対戦車ミサイル「マカロン」と4発のパッシヴ型対空ミサイル「クランベリー」。そして胴体中心線下に
備えられた連装式三十ミリ機関砲。

それが、あの魔法使いと対峙する為の武器だった。

 


キロハはコクピットに体を収めるとキャノピーを閉じると、目の前のMFDモニターの脇のボタンを操作した。

周囲に甲高い音が響き渡る。

知識のある者が聞けばそれが補助動力装置、APUの起動音である事を知れただろう。

APUは接続されたシャフトとギアボックスを介してメインエンジンに回転を伝える。

云わばスタータのようなものだ。コンプレッサーの回転数が一定に達したその時。

「コンタクト」

キロハはパネルを手際よく操作していく。

ターボシャフトエンジンのタービンに燃料が噴射され、猛烈なジェット独特の音を響かせる。

エンジンが起動すると電子機器に電力が供給され、コンピュータが起動する。

S.W.E.E.T.S. FIRE CTRL SYS LOADING...

MFDモニターのバックライトに明かりが灯り、ステータス情報が刻まれていく。

「さあ…行きましょうか。」

キロハはコレクティブピッチレバーを上げるとエンジンの出力を上げた。

エンジンの回転数が上がり、グレイストームは格納庫の中で空中にゆっくりと舞い上がる。

メインローターから生み出される強烈な旋風は当たりに置かれていた機材を吹き飛ばす。

ヘリコプターを格納庫内で始動させるなど、常識外れもいいところだったが、そんな事を気にしている余裕は無かった。

 


キロハは兵装の電源であり、かつ安全装置であるマスターアームを投入すると、MFDモニターパネルから機関砲を選択する。

30MM-GUN
1500 ROUNDS----

弾倉には千五百発の機関砲弾がフルで装填されていた。照準は、この格納庫の、機体搬入用の巨大な正面扉。

先ほどのニーベルング・リングによる強烈な衝撃波程度ではびくともしなかった。

鈍重で巨大な扉は開け放つのに一々時間がかかる。余裕が無いなら、吹き飛ばすまでだった。

そしてキロハは操縦桿の最終セイフティを解くと、発射トリガーを人差し指で引ききった。

連装機関砲が咆哮を上げる。ベルト給弾されていく弾は次々と発射され、光の筋となって扉に吸い込まれていく。

みるみるうちに扉が蜂の巣となり、その穴からは光が差し込んでくる。

そして止めに、対戦車ミサイルを、扉に向けて放つ。

MFDモニターパネルでは対戦車ミサイルの発射が選択され、キロハは操縦桿を操作した。

「マカロン」対戦車ミサイルは大型の対戦車タンデムHEAT弾頭を搭載したミサイルである。

小型ウイングから放たれたミサイルは一瞬で着弾すると同時に、扉を爆風で包むと丸めたティッシュのように弾き飛ばした。

その最中、キロハはサイクリックレバーを前に倒すとホバリング状態だった機体を前進させる。

 

そして、爆風の中から巨大なローターを回転させながら、グレイストームが現われた。

「なによあれ!!!」

ナナが驚く。爆発音がしたと思ったら、そこからヘリコプターが現われたのだ。

「さあ、地面に叩き落してあげるわ!!」

キロハはグレイストームを駆り、魔法使いに向かって弾幕を浴びせ始めた。




第---章「BORDER」

 


同時刻

―――ニーベルング・リング北西450キロ

―――国防軍、中央総合技術研究センター


「内海さーん。」

その声に内海と呼ばれた男が振り向いた。

「家城、どうした。」

内海次郎、恰幅の良いこの中年男性はエンジニアとして此処で働いている。

「はあ、はあ、ニーベルング・リングのハッキング事件で話が。」

息を切らしている方の男は内海よりも幾らか若い。

名は、家城和也。内海の後輩のエンジニアだった。

「まだあっちからはテレメトリしか受信できてないようだが。あと、地学研究所の地震計が振り切ったらしい。」

「やはりニーベルング・リングが攻撃魔法を、発動したものと確認されました。」

「やっぱりな。で、なんだ、話って。」

「ええ、魔法使い二名がニーベルング・リングに対してハッキング中なのは聞いてますよね?」

「ああ」

「どうもおかしかったんです。あそこの暗号化システムは基本的に量子暗号化されてる。量子コンピュータを用いたとしてもそう簡単に突破できるものじゃあない。」

「じゃあ今どうやってシステムを乗っ取ってるんだ?」

「ええ、…トロイです。」

家城のその言葉に内海は目を大きく見開いて驚いた。

「…トロイ!?トロイだと!!あそこの…システムにか!」

「ええ…あっちの『鉈de此処』のシステムのバックアップデータがたまたま此処にありましてね…ファームウエアをデバッギングモードで実行した所、デコード用プロトコル関連のモジュールの一つが不可解な動きをしてたもんだから…」

「そこに何かあったのか!?」

「ビンゴでしたよ。高速衛星ネット用のステータス確認用通信ポートから復号化用キーを逐次デジタル圧縮してバースト送信してたんです。」

「つまり鍵を垂れ流してたわけだな…」

「はい、そしてその暗号化の鍵が解かれた衛星ネットに乗せて遠隔操作プログラムが送信され、ニーベルング・リングの上空に居る魔法使いがあそこのシステムを乗っ取ったと…。魔法使いも電子情報通信を自らの意思通りに操る事ができるんでしょうなあ。」

「電子を操る魔法、か…それで一切の操作を受け付けなくなるものか!?」

「ファームウエアのBIOSをクラックして、インターフェイス割込用のハードウエアリソースに偽装エントリーしてしまえば管制室からの操作は一切できない状態になる事が確認されてます…」

「なんてことだ…しかしあれだ、システムにそんな細工をするなんて、ソフトの製造段階でしかできないぞ?」

「ええ、そうなんです。『鉈de此処』のシステムは靈鳥路電機(れいうじでんき)のソフトウエア開発事業本部が設計したものですが、モジュールによっては下請けに出しているものもありまして、末端まで全て含めると百数十社が開発に関わってる事になります。」

大規模なソフトウェア開発は納期短縮の為、受注したメーカーは子会社などに下請けに出すという事は決して稀ではない。

「そして問題の通信プロトコル関連のモジュールを開発した会社を洗い出しまして。」

「ああ。」

「出てきたのが、ボーダーエンジニアリングサービスという会社です。」

「ボーダーエンジニアリング…聞いたこと無いな。」

「昔は八雲電算って社名でしてね、ソフトウェア開発関連の中堅企業なんですけど、…どうやらあの魔法使いを束ねてる『教会』が出資してたようなんです。」

「なに。魔法使いがソフトウェア開発とは…恐ろしい時代だな。」

「税務省の記録を辿っていったら判明したんですよ。ニーベルング・リングの管理組織であるBECTが次世代エネルギー技術研究の名目で建設が進められていた頃から『教会』の連中は目をつけていたんでしょうね。」

「そうか…ワクチンソフトはできそうか?」

「極めて困難です。現地に攻撃ヘリの『グレイストーム』が一機、魔法使いの迎撃に上がってますから、今はそれ頼みですよ。失敗すれば違う方法を模索する事になります。」

「…違う方法ってなんだ?」

「ニーベルング・リングを、あの地から完全に消し去るんです。」

「…まさか!?」

「ええ、国防軍が最近開発した、超攻撃型空中機動母艦『ラピュータ』そして、それに搭載される超戦略多脚機動兵器『アウールの動く城』を投入する事になります。」

「神の火を持つ、『ラピュータ』か…」

「『ラピュータ』が持つ大出力陰陽子砲『ジャン・ダ・ラリン』ならば、魔法使いもろともニーベルング・リングを消し去る事ができます。」

「…できれば…使わずに済む事を願いたいな…」

 


To be こんってぬぁあぁぁぁーーーー

 

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AFTERがき
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色んな要素を詰め込みすぎた感がぬぐえないけどまあいいや。
兵器の解説を大幅に削減しました。うん。がんばったよ。うん。

あとキャラが多くてよくわかんなかったからハチワンとか全然出てないね。

うん。ごめんね。メンバー固まっちゃってるね。ヒラ色々とごめんね。

てか魔法って小説内で特に定義されてなかったから勝手に定義しちゃったんだぜ!!
だって俺、きのこさん(だっけ?)の小説読んでないんですものハッハッハー!!」

魔法?うーん。よし!!!俺のスーパー妄想ターイム炸裂!!!

…間違ってても、許してくれよう!!文句は受け付けませんぜ!!寛容なこころが、だいじです。

まあ、遺伝子やら核やら、NHKっぽい内容なのはオレサマ風ってことで一つ。
受信料払ってるんだから得た知識は使わないともったいないでしょう。

ああ、あとこの章の内海さんと家城さんはレギュラーじゃないんで。

てかあれだよ、遅れてごめんなさいね。うん。忙しかったんだよ。
ね?しょうがないよね?

素晴らしい遅延ぷりだったね。一ヶ月以上っておいおいおい。

逆に潔いくらいの遅延っぷり。いやほんとお待たせして御免遊ばせ。うじゃん。

でもWiki作ったし、十二分に勤めを果たしまくりんぐだよね。うん。俺(E)。うじょん。

それではみなさん、しーゆーあげぇーん。

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