新米弁護士の失敗


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新米弁護士の失敗
 早速此手紙を持て卜部弁護士に其新米さんは誰かと訪ねると、当時の音羽耕逸君と判かる。依て作間弁護士に事実かと聞けば事件は違ふが、失敗は事実だ、今でこそ昔話しの失敗談で笑ふが、当時は厳然たる大真面目で脇の下から汗が出た、流石は先輩たる卜部弁護士の智慧で丁度本人が出廷して居たを幸ひ、辞任の上更に補佐人となり、漸く義務だけは果して来たと白状した。処が今は時めく東京市会議員の作間君には、音羽君時代の新米期にヨリ以上の失敗談がある。
 流石は高木事務所のお仕込、第一に刑事上告審で鍛へ上げた音羽君、初めて民事上告審の法廷に立つた。上告状及上告理由第三点迄は地方弁護士が既に上告代理人として提出してある、音羽君は第四点より第八点迄の上告理由を追加した。呼上る、陳述が初まる、音羽君グツと反つて、第四点と遣り出すと裁判長『一寸と、一定の申立は』サー音羽君判らない、今迄の上告には無かつた事だ、ヘー。イーヤ一定の申立は。ヘー。音羽君は伏向く、目は益々細くなる、並居る弁護士はクスクス笑ふ、裁判長が、原判決破毀を求むるのですかと水を向けて呉れたのに活路を得て、ヘー。先づ安心と此度は一声高く又第四点とやり出す、裁判長『第一点から第三点迄はどう仕ます』サー又判らない。ヘー。イヤどう仕ます。ヘー。どうしますか。愈々困つた音羽君当意即妙、一寸事務所へ電話を掛けて見ませうかとやると判事は、今そんな事をして居ては困ります、取消しますか。適切り又水を向けて呉れたと喜んだ音羽君早速ヘー。帰つて話した時の高木さんの顔の怖かつた事、今でも目に付くとは双方尤の話だ。
 猪股弁護士の研究室新築披露会で此話が出ると河鰭名合の二君を初め我も我もと同様の失敗談が出た。処が阿保弁護士の失敗は此逆で当夜の秀逸を極めた。民事上告を卒業した新米の同君が刑事上告弁論に出て、開廷の宣告あるや直ちに立つて『原判決を破毀す訴訟費用は被告・・・・・・』でフト考へ付いた、俺は抑々被告の弁護人である、訴訟費用を被告の負担とする申立は為すにも及ぶまい、と迷ふてると裁判長、一定の申立は良いでせう。
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
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