無責任広告

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 新聞雑誌を利用して人から金を取り集める新聞雑誌記者なる商売人の話しに依れば、弁護士は総体として出しつ振りの良い人間であるそうだ。私等は何とか理屈を付け滅多に出した覚はないが、彼等の相場では出しつ振りの良い人間であるそうだ。処が本年は、平民法律と云ふ雑誌を自分で出してるからと云ふ口実で皆撃退し一銭も出した事がない。其れに又私の処に居た、片腕家の弁護士阿部法学士が私の好きになつた代議士三木弁護士の処へ栄転してから、三木君の処では寄り付く浪人に飯は出すが金は決して出さない(無いとも云ふ)と云ふ話を聞て、其主義を其儘愉入して私も記者浪人書生は凡て之れを家族と一視同仁し玄米と菜食の優待はするが金は一切出さぬと宣言して以来二度と再び食ひに来た者はない。そこで先方でも考へたのか此度は『平民法律誌上新年名刺交換会』を開催して新年広告を取るから『平民法律』を貸して呉れと提案した。人の金で義理が出来る訳故私は之れを快諾したから一寸廿人位広告取が参るかもしれぬ此段御注進申します。但し私の用紙へ私が書いて私の判を押した新年広告取許可証を持参しない者は偽物と御承知を願ふ。又広告申込の判に対して電車賃等の前貸へ抵当権を設定するのですから料金は私の方で集めます、前払其人揃は無効と御承知を願ふ。料金は一円均一で其以上は其人に呉れたものと看倣す。又此広告は有難くもないから決して御礼も言はぬ。此辺特に御断りします。一体私は広告が好き故商売になる広告は人にも勧めるが無意義な祝発刊祝発展謹賀新年等の広告は、人の為る事にも不賛成だ。これを読んで驚いた広告取りが逃げ出せば又私の勝である。山崎今朝彌謹告。
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>
最終更新:2009年10月25日 20:35
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