3.23・忌避の申請・忌避申請の決定・上申書・山崎氏の忌避申請却下されて抗告・大審院の決定書(大正十一年(な)第二号)


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忌避の申請
          申請人(被告弁護士) 山崎今朝彌
          被申請人(裁判長判事) 牧野菊之助
          同判事 西郷陽
          同判事 遠藤武治
 右当事者間の東京控訴院に於ける懲戒裁判所大正十一年(よ)第一号弁護士懲戒被告事件に付き、申請人は弁護士法第三十四条判事懲戒法第十一条刑事訴訟法第四十一条第四十二条民事訴訟法第三十五条第三十六条に依り左の申請を為す
      主文
 被申請人を忌避す
      理由
 被申請人は東京控訴院に於ける懲戒裁判所の本件係判事にして其職務に従事中、曩きに大正十一年四月十九日申請人に対し懲戒裁判を開始すへきや否やを決定するに当り、弁護士法第三十四条判事懲戒法第十七条に基き其決定書主文に於て「弁護士山崎今朝彌に対し懲戒裁判を開始す」と決定し、其理由に於て『被告山崎今朝彌は東京地方裁判所所属弁護士にして其業務に従事中、曩きに広島地方裁判所に於て新聞紙法違反被告事件に付有罪の第二審判決を受けたる被告人小川孫六同丹悦太の選任に因り該事件に於ける上告審の弁護人と為り、大正十一年二月二十日上告趣意書を大審院に提出したるか、其論旨中第一点前段に於て「第二審裁判所が有罪と認定したる事実に係る新聞紙の記事は文詞用語頗る冷静平凡奇矯に失せす激越に渉らす、十数年来萬人の文章演説に上り都鄙各所に行はれたる常套の議論なれば、毫末も社会の平静を紊り共同の生活を乱すものにあらず」との旨を云ひ、更に第二段に於て「若之をしも強ひて安寧秩序を破壊するものなりとせば、日毎日常の新聞雑誌は悉く秩序紊乱となり之を不問に付する全国の司法官は、原審に関与したる判事山浦武四郎外二名を除くの外皆偉大なる低能児の化石なりと謂はざるを得ず、天下豈此の如き理あらんや然らば原審か之を安寧秩序を紊乱するものとし新聞紙法の罰条に問擬したるは不法も甚しく真に呆きれて物か言へすと云はざるを得す」との語句を羅列したるものなり。右の事実は大審院検事局裁判所書記松原武一郎作成に係る、被告今朝彌の上告趣意書謄本及検事三浦栄五郎作成に係る山崎今朝彌の聴取書に徴し之を認定するに充分なり』
 と弁護士法第三十四条判事懲戒法第二十条に基き、懲戒すへき所為及証拠を開示し、更に其第二段に於て
 「前示第二段の論旨は前段の趣意を述ふるに付何等必要ならず、且当該被告事件の上告趣意書として甚しく不謹慎なる言辞を弄したるものと被認其行為は弁護士の体面を汚すべきものにして東京弁護士会々則第三十九条に違背す」との語句を羅列したるものなり。
 右の事実は本件懲戒裁判開始決定書に徴し之を認定するに充分なり
 前示第二段の判旨は前段の開示を為すに付何等必要ならず、且当該懲戒裁判の開始決定書として甚しく不謹慎なる有罰の予断を弄したるものと被認其行為は疑ひもなく明かに偏頗なる裁判を為すことを疑ふに足るべき情況あるも、毫も判事の体面を汚さざるものにして、判事懲戒法第十七条並に第二十条の権限を超越し刑事訴訟法第四十一条後段の場合に該当するを以て、今後将来の為めと一は唯々諾々たる他の被告の到底企及し能はざる所なるとの為め、不本意ながら止むを得ず本申請に及びたる次第に有之候。
 追て申請人は判示羅列の語句が頗る常套を越へ多少矯激に走りたる傾きは之れ有りとするも、畢竟は之れ皆慨世の余憤遂に反省を促す警世の文字となりたるに過ぎざれば、寧ろ其為め弁護士の地位を向上せしむる憂ひこそあれ、毫も其の体面を汚すべきものにあらずと信し候、されど強ひて無罰を希望するものに無之候へば、五月十一日の口頭弁論期日には出廷も仕らず、本案に付ては一言の弁解も仕らず、只一日も早く和気靄々裡に裁判の決定せられんことを希望するものに有之候。
 大正十一年五月一日      右山崎今朝彌
東京控訴院に於ける懲戒裁判所 御中



忌避申請の決定
          申請人 山崎今朝彌
 右に対する東京控訴院に於ける懲戒裁判所大正十一年(よ)第一号弁護士懲戒被告事件に付き右申請人より忌避の申請を為したるに付き決定すること左の如し
      主文
 忌避の申請は是を却下す
      理由
 申請の要旨は東京控訴院に於ける懲戒裁判所裁判長判事牧野菊之助判事西郷陽判事遠藤武治は大正十一年四月十九日申請人に対し懲戒裁判開始決定を為し其理由に於て被告山崎今朝彌は東京地方裁判所々属弁護士にして其業務に従事中小川孫六外一名新聞紙法違反被告事件の弁護人として大正十一年二月廿日上告趣意書を大審院に提出したるか其論旨中第一点前段に於て「第二審裁判所の有罪と認定したる事実に係る新聞紙の記事は文詞用語冷静平凡奇矯に失せす激越に渉らず十数年来萬人の文章演説に上り都鄙各所に行はれたる常套の論議なれば毫末も社会の平静を紊り共同の生活を乱すものにあらず」との旨を云ひ更に第二段に於て「若し之をしも強ひて安寧秩序を破壊するものなりとせば日毎日常の新聞雑誌は悉く秩序紊乱となり之を不問に付する全国の司法官は原審に関与したる判事山浦武四郎外二名を除くの外皆偉大なる低能児の化石なりと謂はざるを得ず天下豈此の如き理あらんや然らば原審か之を安寧秩序を紊乱するものとし新聞紙法の罰条に問擬したるは不法も甚しく真に呆きれて物か言へずと言はざるを得ず」との語句を羅列したるものなり右事実は之を認定するに充分にして前示第二段の論旨は前段の趣旨を述ふるに付何等必要ならず且当該被告事件の上告趣意書として甚だしく不謹慎なる言辞を弄したるものと被認其行為は弁護士の体面を汚すべきものにして東京弁護士会々則第三十九条に違背するものと説明したり此理由中後段の説明は前段の開示に必要ならず且つ有罪の予断を有するものと認められ明に偏頗なる裁判を為すことを疑ふに足るべき情況あるものなるを以て弁護士法第三十四条判事懲戒法第十一条刑事訴訟法第四十一条第四十二条民事訴訟法第三十五条第三十六条に依り当該三判事に対し忌避の申請を為すと云ふにあり
 仍つて案するに、申請人に対する懲戒裁判開始決定の末段には其主張の如き章句ありと雖這は弁護士法第三十四条判事懲戒法第廿条に依り懲戒すべき所為を開示するの必要上叙述したるものにして何等有罰の予断を懐き偏頗なる裁判を為すことを疑ふに足るべき情況無きを以て本件申請は其理由なきものとし主文の如く決定す
 大正十一年五月六日      東京控訴院に於ける懲戒裁判所
                裁判長判事 立石謙輔
                判事 尾佐竹猛
                判事 名児耶梅三郎
 右謄本也
 大正十一年五月六日      東京控訴院に於ける懲戒裁判所
                裁判所書記 澤路茂樹



上申書
拝啓 明後十一日は拙者の大安吉日に付き例の大正拾壱年(よ)第一号事件御進行被下度希望仕候。従つて曩きの忌避申請は此儘抛棄するが当然に候も斯くては折角の問題を永久不解に置く事と相成り惜みても尚余りある事と存候へば、今回は是非貴所に於て、一歩を譲り、他の方法を以て事件御進行相成度其際は仮令係判事に変動無之候共、男子の面目に懸け絶対に異議苦情申立申間敷、後日の為め一書上申依て如件
 大正十一年五月九日      上申人 山崎今朝彌
東京控訴院内の懲戒裁判所 御中



山崎氏の忌避申請却下されて抗告
<山崎が忌避却下に対し抗告した旨の記事(法律新聞)。著作権の観点から公開しない。>

      抗告申立書
 抗告人に対する、東京控訴院に於ける懲戒裁判所大正十一年(よ)第一号弁護士懲戒事件に付、曩きに抗告人より忌避の申請を為したる処、今回却下の決定ありたるを以て茲に即時抗告す。
      一定の申立
 原決定を破棄す。
 抗告人の本件忌避申請は誠に理由あり。
      抗告の理由
 一、抗告人の忌避申請理由は
 「懲戒裁判開始決定には如何なる所為が問題なるか、其所為ありたる事は如何なる証拠に依て之れを認めたるかを開示して裁判を開く旨を宣言すれば足るものにして、其所為が如何なる理由により如何なる条項に違背するものなるかを断定論決すべきものにあらず。然るに本件係判事は、抗告人は斯く斯くの所為を為し、其事実は斯く斯くの証拠により之れを認む、依て懲戒裁判を開始すと宣言決定したる外、尚進んで右抗告人の為したる行為は弁護士の体面を汚すべきもの(即ち汚したるもの)にして、東京弁護士会の会則に違反するものなりとの裁判を附加せられたり。這は説明を要する迄もなく文字自体に明かなる如く、抗告人の所為を既に弁護士の体面を汚したるものにして、弁護士会々則違反なれば当然有罰なりと断定し、只其罰の量定のみを裁判に付したるものなり。然らば此儘此判事が此裁判を為すに於ては、一応どうしても有罰の判決を為すものと観念往生せざるべからず。故に此場合は係判事が有罰の予断を有するもの換言すれば偏頗の裁判を為すことあるを疑ふに足るべき情況ある場合なりとして、其係判事全部を忌避すと云ふにあり。」之に対する
 二、原決定の忌避却下理由は
「仍て案ずるに、申請人に対する懲戒裁判開始決定の末段には、其主張の如き章句ありと雖も、這は懲戒すべき所為を開示するの必要上叙述したるものにして、何等有罰の予断を懐き偏頗なる裁判を為すことを疑ふに足るべき情況無きを以て、本件申請は其理由なしと云ふにあり」て、
 三、抗告人の不服申立理由は
 (一)原決定が、懲戒裁判開始決定には懲戒すべき所為が何故懲戒裁判に付せざるべからざるかの理由を付せざる可らず、而して問題の章句は右の理由を付する必要上叙述したるものなれば、法律上許され予想されたる事実を採て以て其事実を為したる判事を忌避するを得ずと解したるは不服なり。
 (二)原決定に所謂「何等有罰の予断を懐き、偏頗なる裁判を為すことを疑ふに足るべき情況なし」とは問題の章句其れ自体有罰を意味せざるが故に申請理由なしとの義か、又は有罰の予断には相違なきも有罰の予断は必ずしも偏頗なる裁判即ち有罰の裁判を為すものにあらざるが故に忌避の理由なしとの意か不明なるも、何れにするも偉大なる誤解なり。
と云ふの二点なり。
 依つて以下少しく之れを説明せん。其稍々冗長に渉るは簡潔に懲りたる抗告人の萬止むを得ざる処、とは云ふものの本件の如く事理明白なる案件に付ては、抗告人は又多くの論点を発見し能はざるべしと信ず。
      (一)
 治罪法でも刑訴法でも、予審終結決定をした判事は其後の裁判に干与することが出来ない。蓋し一旦有罪の決定をした者は自然有罪の予断を懐き、偏頗の裁判を為す虞れがあるからである。然るに懲戒裁判開始決定をした判事は昔しから其後の裁判に干与する。(との事である)蓋し法律に之れを禁止していないからである。法律はなぜ之れを禁止しないか、其訳は開始決定は予審終結決定と異り有罪の予断裁判をなすものでないからであると解する外はない。宜なる哉、懲戒法第二十条には、開始決定には只懲戒すべき所為及び証拠のみを開示すべしとあつて、治罪法や刑訴法の判決の処にある如く理由を付せとはない。即ち知る、懲戒裁判開始決定は予審終結決定と違ひ、予審決定では理由を付して有罪の決定をし、其代り其判事は公判に関与することが出来ないが、開始決定では有罪の理由を付することが出来ず、只如何なる所為が問題となつて裁判に付せらるべきかを開示し得るのみで、従つて其の判事は後の裁判に干与することが出来る。又懲戒法第二十七条に依れば、其の判事が其後予審調をなし、免訴の理由なきときに口頭弁論を開くと云ふ決定は出来るが、其時でも尚有罰の理由を付することは出来ないとしてある。早い話が本件の開始決定の問題になつた部分の章句全部を削り、之に代ふるに「仍て主文の如く決定す」としたら如何。思ふに其れでは決定書にならぬとか不完全のものだとか云ふものは一人もあるまい。否之こそ完全無欠、一点非難すべき所のない立派な決定書となるではないか。何を苦んでかあの不必要なる章句を必要なりとする必要あらんや。
 問題の章句が、懲戒すべき所為を開示するに何等必要ならざるは寔に明白に過ぐ。問題は只必要ならざる文字と雖、之を附加して差支無きや否やにあり。一般論としては必要ならざる章句の附加も、時に或は必要なることあり。遠く例を海外に求むるを要せず。既に最近問題中の我輩の問題の章句の如き、真に前段の上告趣旨を述ぶるに付き、何等必要あらずと雖、其の本案事件の破毀無罪となつたは、蓋し其の之れありたるが為め也。然共其為め弁護士風情が裁判所に対し、同僚に対する如き不謹慎の言辞を弄したりとの責任を免るる事を得ざるは当然也。本件係争不必要の章句も亦之れと同じく、其の之れを附加したる事により、必ずしも其の決定書が無効となり又は其当該判事が、判事の体面を汚したるものと云ふ可きに非ずと雖、其の為め其の章句が保持する本来の責任即ち有罰の予断を懐きたる責任を免るる事を得ない。
      (二)
 本件懲戒裁判開始決定書中の「前示第二段の論旨は、前段の趣旨を述ぶるに付き何等必要ならず、且つ当該被告事件の上告趣意書として甚しく不謹慎なる言辞を弄したるものと被認」との章句は、必ずしも有罰の予断をなしたるものに非ず。何となれば不必要なる章句を加へて語意を強くし、又は不謹慎なる言辞を使用することは必ずしも弁護士の体面を汚す可きものに非ずと信ずれば也。然共其れに引続く「其行為は弁護士の体面を汚す可きものにして、東京弁護士会々則第三十九条に違背するもの也。」との一節は、如何に牽強附会するも之れを以て、其の行為は弁護士の体面を汚す可きものにして、東京弁護士会々則第三十九条に違背するものなりと予断したるものに非ずと論ずるを得ず、原決定もまさか之れには非ざる可し。
 有罰の予断者が無罰の裁判を為す事は不法でない。有り得ざる事でも無い。併し普通は一旦有罰の予断をしたが最後、其の人の裁判は有罰たらざるを得ない。先入主の心理が其処にある。之れ人情である。然らば本件本案の係判事は何れも個人としては別に期する処あり。前非を悟り決定の趣旨に反し、抗告人を無罰に処する形跡歴然たるものありと仮定するも、之れ皆決定書に顕はれざる意思なるが故に、之れを採つて以て決定書に厳然として存する有罰の予断に反し、係判事が有罰の予断を懐かずと論断するは当を得ない。殊に況や被告人は概して神経過敏になるものなるに於てをや。
 以上論ずるが如く、原決定には徹頭徹尾理由が無い。本件忌避申請には誠に誠に理由がある。併し原裁判所としては却下の裁判も無理は無い。其処は人情である。抗告人はどうか憤慨して見たいと努力したが、どうも憤慨出来なかつた。併し大審院は又別であらねばならぬ。又別であらふと思ふ。天地開闢以来忌避申請の立つた試しは無いと聞くが、本件は又別で必ず立つべきものと信ずる。若し夫れ抗告人の知らざる法律の大精神や単行法又は布令布達の如きもののあるありて、原判決を正当とせらるるなら、理由に之れを詳解説示して貰ひ度い。さすれば抗告人の喜は原決定破棄の喜に過ぐるものがあると思ふ。
 大正十一年五月十日      抗告申立人 山崎今朝彌
                      戦々兢々
大審院に於ける懲戒裁判所 御中



大審院の決定書(大正十一年(な)第二号)
          東京市芝区新桜田町十九番地
          東京地方裁判所所属弁護士
          山崎今朝彌
 右に対する東京控訴院に於ける懲戒裁判所大正十一年(よ)第一号弁護士懲戒被告事件に付抗告人の為したる忌避申請を却下したる同裁判所の決定に対し抗告人は抗告を為したり依て検事の意見を聴き決定すること左の如し
      主文
 本件抗告は之を棄却す
      抗告理由
 抗告の要旨は懲戒裁判開始決定には懲戒すべき所為及証拠を開示すれば足り其の他を掲ぐるの要なきことは判事懲戒法第二十条の規定に依り明白にして刑事訴訟法の規定に於て判決若は予審終結決定に其の理由を付すべきことを命じたると其の趣を異にせり其の結果として懲戒裁判開始決定を為したる判事は爾後の懲戒裁判に干与することを得るも前審の判決又は予審終結決定を為したる判事は爾後同一事件の判決に干与することを得ざるの区別を生ず。是れ前者は事件に付何等の裁判を為したるに非ざるも後者は一旦事件に付裁判を為したるが為爾後偏頗の裁判を為すの虞あるに由るものとす。然るに本件懲戒被告の開始決定には前掲法条所定事項の外「其の所為は弁護士の体面を汚すものにして東京弁護士会、会則第三十九条に違背するものなり」との裁判を附加せり。是れ明に被告の有罪を予断したるものにして単に刑の量定のみを後の裁判に附したるものと謂はざるを得ず。而して斯かる予断を為したる判事は通常被告に不利なる裁判を附すべしとの疑念を生せしむるは当然にして原裁判所か右章句を以て懲戒すべき所為を開示するの必要上叙述したるものにして何等有罰の予断を懐き偏頗なる裁判を為すことを疑ふに足るべき情況無しとし忌避申請を理由なしとして却下したるは不当なりと云ふに在り。案ずるに判事懲戒法第二十条は開始決定には懲戒すべき所為及証拠を開示すべしと規定し法律上の理由は必ずしも之を付することを命せざること洵に所論の如しと雖、同条に所謂懲戒すべき所為とは懲戒裁判所か自ら懲戒すべきものと為したる所為を謂ふものなること同法第十七条及同法第十八条の規定の趣意に徴して明瞭なるが故に開始決定に其の所為の懲戒すべきものなることの法律上の理由を説示すると否とは被告の利害に影響を及すものに非ずして其理由を明示するも固より不法に非ず。而して懲戒裁判所の懲戒裁判に先つ開始決定は一種の準備手続に外ならずして開始決定に干与したる判事は爾後の懲戒裁判に付職務の執行より除斥せらるるものに非ざること判事懲戒法の規定上自ら明かなり。従て右決定を為したる判事に爾後偏頗なる裁判を為すことを疑ふに足るべき特殊の事情なき限は、単に法律上の理由を附したる一事を以て直に忌避の原因ありと為すべきものに非ざるや論を俟たず。記録を査するに懲戒裁判所判事は只其の開始決定に抗告人の所為の懲戒すべきものなることの理由を附加したる外、他に何等偏頗の裁判を為すの虞れありと認むべき事蹟存することなきが故に原裁判所が叙上同一趣旨の理由の下に本件忌避の申請を却下したるは相当にして抗告は其理由なし。仍而主文の如く決定す。
 大正十一年五月廿七日      大審院に於ける懲戒裁判所
                 裁判長判事 遠藤忠次
                 判事 堀栄一
                 判事 難波元雄
                 判事 鬼澤蔵之助
                 判事 田中祐橘
 右謄本なり
 大正十一年五月廿七日      大審院に於ける懲戒裁判所
                 裁判所書記 北川銓総
<山崎今朝弥著、山崎伯爵創作集に収録>
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