自から不良老年となつて


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自から不良老年となつて
           弁護士 山崎今朝彌
      一
 不良老年の最も得意とする所は昔から若死をした者のない事であらう。此の特徴は、不良老年が概ね食ふに困らない、心配のない、楽天家である事も慥かに其一原因ではあらうが、若死したのでは到底不良老年になれないことも、恐らく一つの原因として与つて力があらう。
 不良少年は多く貧乏人の群から輩出する。新聞に出る家長が大概良家の子女であることに依つても、如何に上流社会の低能児が不良少年となる事は困難の事であるかといふ事が判かる。之れに反して不良老年は極まつて有産有閑の階級から生れる。七十で撫切をした、八十で子供を生んだ、老衰して政権獲得運動をした、授爵運動が効を奏した、出娑婆つた、お節介だといふ事は到底貧乏人の話ではない。
 不良少年は多く困るから、苦しいから、虐げられるから出て来る。だから可憐い所があり同情する所がある。が不良老年は全く我儘から、気紛れから、入らざる世話から、金から閑から起る。だから憎むべきであり排すべきである。不良老年の最も善良なる事は只黙つて引つ込んでる事である。
 併し却つて憐むべき稚気満々たる左の種類は寧ろ憎まずして可なり。一体僕にコンナ問題を課したは、僕を不良老年と認めたからであらう、不良老年振りの発揮も罪がなからう。
      二
 国民新聞四月二十六日所報、日本社会主義同盟、著作家組合、露西亜研究会が四月十五日私かに市内某所に密会して決議したといふ決議・・・・
      決議
 雑誌『解放』並に『読売新聞』通信記者、日本社会主義同盟執行委員、著作家組合常任幹事、露西亜研究会幹事、柯公大庭景秋君が、軍事探偵の嫌疑で労農露国の警視庁に捕へられ昨年五月以来投獄されてるといふ、依て吾々は左の方法で同君救出の運動を起し極力其目的の貫徹を期す。
 一、日本共産党に交渉して適当の措置を講ぜしむること
 二、新聞社を連合せしめてヨツフエに抗議を提出せしむること
 三、日本政府を鞭撻して強硬なる外交手段を採らしむること
 四、各団体一致して労農露国を警告すること

 吾々は大庭君を信用し日本共産党を信用する。吾々は露国の信用する日本共産党が大庭君を信用することを信用する。吾吾は大庭君を露国より救出するは日本共産党の力を籍るのが最も有効であり最も確実である事を信ずる。吾々は大庭君の生命身体を安全に取戻すことは日本共産党の義務であり責任であり光栄である事を信ずる。日本共産党のビユーローは速かに機宜の措置を執り、大庭君を生還せしめ、之れを殺させたと云ひ触らす一派の宣伝を一掃せん事を熱望す。(四月廿七日付日本共産党宛)

 日本の新聞記者も平和の使命があるといふ、其使命を帯びた大庭柯公君が露国で投獄され生死の程も不明であるといふ、之れを見殺しにするのが抑々社会の木鐸たる所以であらうか、之れが即ち日本新聞の威力と体面とを維持する所以であらうか、其れとも新聞社といふものは使用職工に対する時にのみ団結して権威と兇暴とを示すべきものであらうか。勿論新聞にも商売敵があり、一致団結が頗る困難といふことも知つて居る。併し貴紙が断じて熱心に行へば、他社は止むなく之れに賛成する。吾々は貴社が此際率先して各新聞社の連盟を図り、其エン大なるペン力を以て、速かに大庭君を露国より奪還せられんことを希望する。(四月二十七日付読売新聞社宛)

 大庭君の問題は日本の一国より見れば、只一人の問題に相違ありません、しかし大庭君より見れば全部に関する問題であります、一般に臣民保護の任にある日本政府は断じて其の前後策を講ずべきではありませんか。幸ひヨツフエが来ています、政府は速かに露国を承認して交換的に正当政府より大庭君を請出すべきであります、然らずんば国際公法を楯に報復的にヨツフエを担保に取るべきであります。右建議す。(四月二十八日付外務大臣宛)

 右に対する回答と露国に致せる警告書とは都合上、六月創刊の『問題の雑誌』に載る。

      三
 東京毎日新聞四月二十九日所報、東京実業連合会、東京市民同盟会、東京弁護士協会、日本弁護士会合同のメーデイびら。(大正十二年四月吉日付)
      市民諸君
 メーデーが来ました、五月一日が来ました、五月一日はメーデーであります、メーデーは労働者の祝祭日であります、戦闘日であります、全世界の労働者はこの日一日仕事を休んで示威運動をいたします。其メーデーが愈々やつてきました。
      市民諸君
 此の日都下数萬の労働者は、午前中芝公園に集り、メーデー演説中検束乱闘し、萬歳の声と共に×××を歌ひ、午后一時から示威運動に移り、宮城と警視庁との真中を一直線に、混乱奮戦、争闘暴行絶え間なく、小川町を右に左に昌平橋より上野まで、骨を抜き牛旁抜き、打つ蹴るなぐるに、泣く吐くさけぶ、其処でカスカに萬歳を三唱して解散いたします。
      市民諸君
 労働者は自ら物を造り、世界を造り、之れを文化し想化する唯一の階級であります。吾々は之を尊敬し之れに感謝しなくてはなりません。メーデーは吾々にとつては、感謝の日歓迎の日でなくてはなりません。
      市民諸君
 メーデーには、労働者に一人の例外もなく悉く示威運動に参加して貰ひませう。沿道の各戸は一斉に赤旗を掲げて行列を歓迎しませう。見物の人々は、手に手に小旗を打ち振り萬歳を浴びせて行進を声援しませう。
      市民諸君
 五月一日のメーデーには、吾々は一致して力限り、声限り、メーデー萬歳、労働者萬歳を叫びませう。

 之れに動かされてか、取締のペテンと兇暴に憤激してか、当日電車の中から行列に向つて赤旗を振り萬歳を叫んで敬意を表した不良老年と不良壮年とがあつた、不良老年は年甲斐あつてか、生気地がなくてか、停留場と停留場との間、電車の疾走中のみを、小川町辺から桜田本郷町迄、往つたり来たり数回、セキカチーフを出したり引つ込めたり。不良壮年の一隊は多勢と元気に任かせて、馬場先門前徐行電車の中から盛んに赤旗を振り廻し萬歳を絶叫した。電車は忽ち止められ身体はすぐ警視庁に検束。平澤計七君は拘留十五日他は悉く殴きつ放しとなつた。裁判はあつても理由はない、言渡はあつても正式裁判の申立は取上げない、面会も出来なければ話も出来ない。ソコデ左の請求書を言渡を受けた日比谷警察署へ出すことにし、其旨を通告した。
      正式裁判請求書
 私のメーデー赤旗事件で(或は他の理由にしてあるかも知れぬ)日比谷警察署が、五月二日(或は一日付か若くは三日付になつてるかも知れぬ)拘留十五日(マサカ拘留日数は変へまいと思ふ)の即決言渡をしたから、正式裁判を請求する。
 (言渡から三日過ぎれば当然出られるから金は積まない)
 大正十二年五月四日
          芝区新桜田町十九番地
          平澤計七 印
          (但民法事務管理の規定により他人が無断代筆捺印するものなり)
東京区裁判所 御中

 恰度今日の朝刊に、今夜自由法曹団が今回のメーデー暴虐取締に関し、当局を徹底的に糺弾する為の臨時会を開くといふ記事が出た。すると警視庁から平澤君を出すから正式裁判を申立ててくれるなとの電話があつた、間もなく平澤君は出て来た。
 過激運動取締法や陪審法などはどうでもよい、天下の悪法行政検束法と違警罪即決例とを廃せ。之れある間、取締寛大の名は何時もペテンだ。警官の残虐暴行は当然の権利だ、天下の悪法暴力検束法と警察裁判法を廃せ。其れまでは何人も不服申立の全権を予め他人に委かせて置け。(十二、五、四)
<以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。>
<旧仮名遣いはそのままとし、踊り字は修正した。旧漢字は適宜新漢字に直した。>
<底本は、『解放』(大鐙閣)第5巻6号159頁(大正12年(1923年)6月1日発行)>
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