新聞紙法違反大審院判例


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○新聞紙法違反被告事件(大正十一年(れ)第九十九号同年四月四日第一刑事部判決 破毀自判)
【上告人】被告人
【第一審】呉区裁判所 【第二審】広島地方裁判所
   ○判示事項
新聞紙ノ記事カ安寧秩序ヲ紊スヘキヤ否ヲ区別スルニ付テノ標準-安寧秩序ヲ紊スヘキ事項-之ヲ紊スヘキ程度ニ至ラサル事項
   ○判決要旨
一 新聞紙ニ掲載シタル事項カ安寧秩序ヲ紊スヘキヤ否ハ主トシテ其ノ当時ニ於ケル社会観念ヲ標準トシテ客観的ニ之ヲ決スヘキモノトス
二 国法ヲ無視シ国家ノ権力ヲ否定シ国民ノ道義心ヲ壊乱シ人ノ生命身体財産自由ニ危害ヲ加フヘキコトヲ以テ威嚇又ハ煽動シ暴力其ノ他不法ノ手段ヲ用ヰ又ハ急激ニ社会ノ組織ヲ変更シ其ノ他一般ニ国家ノ生存発達ヲ阻害シ公共ノ平和ヲ撹乱スル虞アル掲載事項ハ安寧秩序ヲ紊スヘキモノトシテ新聞紙法第四十一条ノ罪ヲ構成ス
三 単ニ現行制度ノ不備社会組織ノ欠陥ヲ指摘シテ攻撃スルニ止リ不法ノ手段ニ因リ又ハ急激ニ之ヲ変更センコトヲ試ミルモノニ非サルトキハ其ノ掲載事項ハ現ニ社会状態ノ安定ヲ破壊スル虞ナキ限リ未タ以テ安寧秩序ヲ紊スモノト謂フヲ得ス
【参照】新聞紙法第四十一条 安寧秩序ヲ紊シ又ハ風俗ヲ害スル事項ヲ新聞紙ニ掲載シタルトキハ発行人、編輯人ヲ六月以下ノ禁錮又ハ二百円以下ノ罰金ニ処ス
   ○事実
第一審及第二審ニ於テ新聞紙ノ記事ヲ以テ安寧秩序ヲ紊スヘキ事項ト認メ新聞紙法第四十一条ヲ通用シ有罪ノ言渡ヲ為シタルモノニシテ記事ノ概要ハ下文ノ判決理由ニ摘示スル所ノ如シ
   ○上告理由
弁護人山崎今朝彌上告趣意書ニ縷縷陳述スル所アレトモ要スルニ第一原判決カ安寧秩序紊乱トシテ判示シタル被告等署名発行ノ本件記事ハ自由?死?ト題シ第一段ニ現代社会ノ幸福ハ所謂「ブルジヨアジー」ノミ享クル所ニシテ無産者ハ毫モ顧ラレサル事ヲ論シ其ノ例トシテ言論ノ自由ハ憲法ニ於テハ保障セラルル所ナルモ事実ニ於テハ保証金ナキ「プロレタリア」ハ一新聞ヲモ発行スルヲ得サル事ヲ挙ケ第二段ニ社会運動者カ常ニ不法ノ圧迫干渉ヲ受クル事総テノ法律規則カ特権階級ニ有利ニシテ無産者ノ保護ニ欠クル所アル事罰則ノ適用モ亦「ブルジヨアジー」ニハ比較的寛大ナルコトヲ説キ末段ニ於テ現在ノ特権階級ハ跋扈跳梁専恣横暴ヲ極ムルカ故我等ハ全力ヲ尽シテ無産者ノ為暁鐘ヲ撞カントスルモノナリトノ趣旨ヲ述ヘタルニ過キスシテ事実ヲ事実トシテ掲ケ些ノ膨張ナク又虚飾ナク文詞用語モ亦頗ル冷静ニシテ平凡奇矯ニ失セス激越ニ渉ラス十数年来萬人ノ文章演説ニ上リ都鄙到ル処ニ行ハレタル常套ノ論議ナルヲ以テ毫末モ社会ノ平静ヲ紊リ共同ノ生活ヲ乱スモノニ非ス原審カ之ヲ安寧秩序ノ紊乱ナリトシ新聞紙法第四十一条ニ問擬シタルハ違法ニシテ被告ノ所為ハ罪トナラサルヲ以テ原判決ハ破毀ヲ免レス
   ○判決理由
帝国憲法ハ言論ニ関スル臣民ノ絶対的自由ヲ認メス唯法律ノ範囲内ニ於テ其ノ自由ヲ保障スルニ過キサルヲ以テ帝国臣民ハ学術ノ研究社会政策其ノ他何等ノ名義ヲ以テスルヲ問ハス常ニ必ス法律ノ範囲内ニ於テ言論ヲ為スコトヲ要シ其ノ範囲外ニ於テ言論ノ自由ヲ享有スルコトヲ得サルハ勿論ナリ然リ而シテ新聞紙法ハ安寧秩序ヲ紊ルヘキ事項ヲ新聞紙ニ掲載スルコトヲ禁シ其ノ第四十一条ニ於テ刑罰ノ制裁ヲ付スルヲ以テ新聞紙ニ掲載シタル言論カ安寧秩序ヲ害スルトキハ発行人編輯人ハ同条ニ定ムル刑罰ノ制裁ニ服従スヘク言論カ安寧秩序ヲ害スルヤ否ハ主トシテ其ノ当時ニ於ケル社会観念ヲ標準トシテ客観的ニ之ヲ決スヘキモノニシテ其ノ判断ハ社会状態ノ推移ニ依リ自ラ異ナラサルヲ得スト雖国法ヲ無視シ国家ノ権力ヲ否定シ国民ノ道義心ヲ壊乱シ人ノ生命身体財産自由ニ危害ヲ加フヘキコトヲ以テ威嚇又ハ煽動シ暴力其ノ他不法ノ手段ヲ用ヰ又ハ急激ニ社会組織ヲ変更シ其ノ他一般ニ国家ノ生存発達ヲ阻害シ公共ノ平和ヲ撹乱スルノ虞アル言論ハ安寧秩序ヲ害スルモノトシテ新聞紙法第四十一条ノ制裁ヲ当行スヘキモノト解セサルヘカラス然レトモ新聞紙ニ掲ケタル記事カ単ニ現行制度ノ不備社会組織ノ欠陥ヲ指摘シテ之ヲ攻撃スルニ止リ何等不法ノ手段ヲ用ヰ又ハ急激ニ之ヲ変更センコトヲ試ミルモノニ非サルトキハ縦令其ノ記事カ社会ノ現状ニ不満ヲ懐キ而モ其ノ前提ニ判断ノ誤謬アリ事実ノ膨張アリテ其ノ措辞亦多少矯激ニ渉ルモノアリトスルモ現時社会状態ノ安定ヲ破壊スル虞ナキ限リ未タ以テ安寧秩序ヲ紊ルモノト謂フコトヲ得ス従テ此ノ種ノ言論ハ現行ノ新聞紙法上言論自由ノ埒外ニ逸シタルモノトシテ同法第四十一条ノ規定ヲ適用処断スルコトヲ得サルモノトス而シテ原審カ本件被告ニ於テ其ノ発行人兼編輯人タリ又ハ記事ノ署名人タル新聞紙民権新聞ニ掲載シタリト認メタル記事ハ要スルニ現代ニ於ケル法律制度カ有産者ニ利ニシテ無産者ハ殆ト其ノ保護ニ浴セス刑罰ノ適用モ亦有産者ニ寛ニシテ無産者ニ厳ナルノミナラス社会ノ現状モ亦特権階級独リ其ノ勢力ヲ擅ニスルモノナリシトシテ現代ニ於ケル法制並ニ其ノ適用ヲ難シ所謂特権階級ヲ呪詛シタルモノナルコトハ疑ヲ容ルルノ余地ナク其ノ罰則ノ適用例ハ「ブルジヨアジー」ニハ寛大ニ「プロレタリア」ニハ峻厳苛酷ヲ極ムト謂ヒ特権階級ハ跋扈跳梁専恣横暴ヲ極ムト称スルハ詭激ニ失シ論旨ノ穏当ナラサルニ拘ラス尚社会ノ現状ニ対スル批評ノ範囲ヲ脱セサルモノトス而シテ該記事ハ「我等ハ全力ヲ発揮シテ無産者ノ為民衆ノ為暁鐘ヲ撞カントスルモノナリ」トノ結論ヲ掲ケ民衆ノ覚醒ヲ促カシ暗ニ自己ノ利益ヲ保護スルノ策ヲ構スヘキコトヲ諷シタルニ過キスシテ現社会ニ対シ不穏ノ挙ニ出ツヘキコトヲ以テ挑発又ハ煽動シタルモノニ非サルヲ以テ其ノ記事ハ未タ以テ社会ノ安寧秩序ヲ紊ルノ程度ニ達セサルモノトス故ニ本件被告ノ行為ニ付テハ刑事訴訟法第二百二十四条ニ依リ無罪ヲ言渡スヲ相当トス然ラハ原判決カ事茲ニ出テス之ヲ新聞紙法第四十一条ニ問擬処断シタルハ擬律ノ錯誤アル違法ノ裁判ニシテ論旨ハ理由アリ原判決ハ破毀ヲ免レス
(以上、『大審院刑事判例集』1巻205~209頁)
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