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「廃嫡訴状」(2009/10/25 (日) 21:01:20) の最新版変更点
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廃嫡訴状
原告 [甲野太郎]
被告 [甲野一郎]
訴的及申立
被告を廃嫡す
請求の原因
被告は明治二十九年生れの被告長男にして其法定の推定家督相続人なるが被告は左の理由により其廃嫡を請求す
一
原告は家に巨萬の富を積まずと雖も人に一文の借財もなく無産階級に属する「ブリキ」職人としては毎日第一流の生活を営むものなり
二
被告は所謂大杉一派に属する危険人物にして之を以て寧ろ名誉と心得、日本特有の家族制度の如きは更に之を尊信せす、従て又其家名の重んずべく家督相続の有り難きを知らず、反て常に之を嘲笑し軽視す
三
被告は又職としてブリキ工にてあり乍ら其身分を忘れて、初めは文学今は又労働運動に熱中し之を天職と心得人職を等閑に付す
四
被告は自ら進んで其廃嫡を希望し被告を狂人視する親族一同も悉く之に賛成し所轄警察も亦之を原告に慫慂せり、加之被告の廃嫡により原告の法定推定家督相続人となるべき被告と最も親善の間柄なる原告の次男たる被告の実弟も亦之に同意したれば被告の廃嫡により損害を蒙り不平を唱ふる者恐らく天下に一人だもなし
五
被告が原告の法定の推定家督相続人たる間は直接間接に原告の得意及収入を減少し、心配及苦労を増大するが故に原告に取つては被告を此儘にして置く事は結局衛生上にも大害あり
六
被告が廃嫡となるときは直ちに分家の上自働自活すべき協議纏まり居るを以て、本訴の認容せらるる上は一朝事あるときと雖も[甲野太郎]長男[一郎]として新聞記事等に顕るる虞れなければ、被告の為め原告家は其家名を汚さるる事なく被告も亦自働自活の結果止むを得ず漸次穏健保守の徳を樹つるに至るべし
大正八年十一月二十一日 右 原告代理人 山崎今朝彌
東京地方裁判所 御中
<[ ]内仮名>
<山崎今朝弥著、弁護士大安売に収録>