為解誤解・弁護士の天職

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為解誤解・弁護士の天職 為解誤解           山崎今朝彌 ■大正三年頃、変ンナ男ガ私ヲ東京法律所ニ訪問シタ。弁護士総評ヲスルニ付テ意見ヲ伺ヒ度イト云フノデアツタ。色々ノ事ヲ聞キ集メテ知ツテハ居、小生意気ノ事ハ云フタガ、事務所ノ当擦リヤ意見ガマシイ事ヲ云フタカラ、ヨイ加減ニ追ヒ返シタ。其後或弁護士番附ニ、雨降リニ洋服ヲ着タリ、傘ヲ差シタリ下駄ヲ穿ク奇人、ト私ヲ悪口シテアルト聞イタ、アアアノ男ダナト私ハ思フタ。 ■今年三月頃、永田素水ト云フ人ガ私ヲ平民法律所ニ訪ネ、数百名ノ弁護士ニ元帥ヨリ少尉ノ階級ト短評トヲ付シタ表ノ原稿ヲ示シ意見ヲ求メタ。アノ男ハ此男ダツタナト思フテ聞イタラ、ソーダツタ。 ■其時、永田君ニ従ヘバ、東京法律事務所ハ非常ニ評判ガ悪カツタ。其原因ハ、東京監獄ニ出張所ヲ出シタ事、事務員ヤ勧誘状ヲ以テ事件ヲ渉猟ル事、均一販売即チ安売ヲスル事等デアツタ。私ハ今ハ既ニ東京法律ノ為メニ敢テ弁解ノ義務ヲ感ジナイガ、若シ識者ノ一人ダモ斯カル誤解ヲナスモノアラバ、何時カ一言弁解シテ見タイト私カニ思フタ。 ■其後永田君カラ、デアロウ、東都著名弁護士一覧表ガ届イタ、閑ニ任カセテ読メバ見ル程、真面目ニ出来タモノデ、驚キ入ツテ敬服シタ、真ニ表紙書通、一見直チニ斯界ノ面目躍如タリ、凝視自カラ諸士ノ性状瞭然タリ矣。思フニ永田君ハ確乎タル一見識ヲ有スル達士デアル。ト同時ニ私ハ弁護士ノ天職、ニ付テ一言ヲ禁ジ得ナクナツテ来タ。(一頁ヘ続ク) 弁護士の天職(五頁依続)           山崎今朝彌  東京法律事務所が東京監獄に出張所を出したり、新聞記事や興信所内報を見て手紙や人を出したり均一制度を設けて安売を初めたりしたのは皆私の仕事である。之れが為めに非難を受くべき筈のものなら其非難は私一人で受くべきものである。併し私は決して悪い事をしたとは思はぬ。従つて私は東京法律事務所に対して、気の毒だとも済まぬとも思はぬ。昔者、葬儀屋が死亡広告を見て御用聞きに来れば、寄つて集かつて打つたものだ。今者、相当の家で不幸のあつた時、広告取や葬儀屋が来なければ非常の侮辱を感ずる。今に事件当事者より弁護士に呼出が懸る陽気にならないものでもない。  私の一番嫌いは喧嘩である。若し好きな様に見える事があれば、其れは嫌いの故である。私は遠慮が過ぎる位気が弱い。私は陰でも未だ曽て友人を呼捨てにした事がない。口は勿論筆に於ても先輩には、さん、と云ふ字を用ひ、君、と呼んだ事はない。今より十年も前既に秋山弁護士が、故鳩山博士を捉へて、オイ鳩山君サー出廷ろふよ、と云ふて背を叩いたのを見て、其の偉ひに驚嘆した事が、私の一つ話になつてる、位の男ではあるが、此問題に関しては、私は先輩と友人を一束にして来ても喧嘩をして見度いと思ふ。  火事があるポンプが来る。人が死ぬ棺桶が来る。喧嘩がある弁護士が来る。世も斯様に進歩したら、人間も嘸便利であろうと思ふ。私は努めて刑事弁護を断わるが、ストライキ及び爆発物に関する無料弁護は営業科目に加へて居る。従つて此等の記事が新聞に出ると必らず、忘れざる限り、葉書を出す。私に時と金とが充分にあつたなら、数種の新聞を購り揃へ、毎朝欠かさず之れを読んで、同情すべき事件者に一々権利伸張の勧誘葉書を奮発し、気強く感じて喜ぶ顔を想像して見度い。我々弁護士の正に為すべき天職は外には無い。       ■ ■ ■ ■ ■人はいざ知らず、自分では此雑誌も段々整ふて来る様な気がする。雑誌はいざ知らず、自分の心は段々落付いて来る。本号は殆んど本号以後の編輯振りの其前例を示すもので、先づ大体八頁を原則とし、初頁上二段は私が刃渡りや梯子乗りを試み、下段は斯んな類を集め、次頁三頁六頁は私の好いた寄書投書のない時に、手製の判決批評で埋める。四頁五頁は法曹界たると人間界たるとを問はず人物事業の批評、知人の紹介、逸話奇談等で持切り度いと思ふ。七八頁は内外の広告を満載し度く、若し夫れ欄外文学に至つては、正に是れ本誌の誇る独特にして、二七のノドは売文社の堺君が、三六のノドは平民医学の高木君が、其他は山崎が受持つ事とし、満艦飾、錦上、花、有誌以来のレコードを破り、ウンザリする程各自の広告や気焔を載せんとぞ思ふ。 ■私の知人に、一生本を読みに生れて来た山田嘉吉先生がある。大学教授の一大敵国能く豈弁を好む若宮卯之助君がある。経済学者の魔屈淵叢たる売文社の一連がある。併し交友十年二十年の今日では、其云ふ所説く所書く処大概は推測も出来決論も解り、敢て驚異の目を見張つて耳を傾ける様な事が無くなつた。総て其人本位の雑誌が、二三号にして直ぐに厭になるは全く此理に外ならぬ。十年此方人の説を聞いた事のない私、神武以来本を買つた事の無い私には、偏に読者諸君の寄稿を歓迎するの智慧がある。斯くして初めより品切れであるべき筈の此雑誌が永遠に種の尽きざるは蓋し偶然ではない。 <以上は、山崎今朝弥氏が著作者である。> <旧仮名遣いはそのままとし、踊り字は修正し、旧漢字は適宜新漢字に修正した。> <底本は、『平民法律』第6年5号1、5頁。大正6年(1917年)6月。>

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