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うだつのあがらない中年男×才気鋭い孤独な少年

「ねえ、いつまでそうしてんの」
少年の声音はいつになく甘かったが、男はびくりと身をすくめた。
「誘ったの俺なんだからそんな顔しないでよ」
自分の下で挑発的に晒される少年の白い喉に目を吸い寄せられながら、男は動けない。

リストラされて自棄酒し、帰宅途中の裏通りで恐喝ついでのタコ殴りに遭っていた男を助けたのが少年だった。
そのまま何事もなかったかのように立ち去ろうとする少年を礼がしたいと引き止めた。
「じゃあ今晩泊めて」
少年の事情に立ち入る権利もなければ大人としての威厳も今の男にはない。逡巡しながらも了承すると少年は苦笑いした。
「ダメ」
「えっ?」
「ダメだよあんた、赤の他人を簡単に家に入れたりしたら」
それとあんたは気付いてないのね、と少年は続けた。
「さっきのチンピラなんかより俺の方がずうっと悪い人なの」

結局少年は男とせんべい布団を分けあい、男が目覚める前に出て行った。
それから時折少年はフラリとやってくる。最近は夕飯を囲むようになった。
たがいに踏み込まず、寂しさをうまい具合にいじくりまわしていた。
今日だっていつものように食事をし、後片付けをし、風呂を済ませてプロ野球を……

「怒るよ」
走馬灯のような一か月間の回想を破ったのは当然少年だった。
右腕を引かれて布団に簡単に転がされ、うっすら脂肪のついた腹に跨がられて息を詰める。
自分を助けた時に見せた目を見張るような動きを思い、戯れに指した将棋の馬鹿強さを思い出し、少年が万馬券で得た金額が頭を巡る。
この少年に勝るものなど自分にあるのだろうか。
「おい、落ち着けって」
男は体をまさぐり始めた両手を掴んで途方にくれた。据膳食わぬはなんとやらと言うが、しかしこれは……。
「掘ったりしないから安心してよ」
楽しげに少年は顔を寄せてきた。
「嫌?」
「いや…まだそういうことは……」
間近で少年の目が輝くのを見て、男は自分の失言に気付いた。
「『まだ』?」
いたずらっぽい囁きが顔を撫でる。
「まだお互い名前も知らねえんだぞ!?」
顔を背け、男はやぶれかぶれにわめいた。
「そうだね、名前呼びながらするの気持ち良さそうだ」
少年は晴れ晴れと笑った。
男は深いため息をつき、起き上がるとあぐらをかいて少年の腰を引き寄せた。
「どうしようもない悪党だな……」
「一番最初に言ったじゃない」
二人の微笑んだ唇は、間もなく名前を告げあうのだろう。