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「メガネを外すとイケメン」の法則

眼鏡を外した彼は、いつもならレンズの向こうにある瞳を細め、眉間に皺を寄せながら俺を見た。
「やっぱり眼鏡がないとよく見えない」
ふうとため息を零し、目を伏せて笑う。
俺を射抜いた瞳は俺ではなく床を見ている。
それに少しだけムッとするが、顔に出さない様にしながらこっそり観察を続ける。
普段なら分からない睫毛の長さだとか、綺麗な瞳の色だとかが白日の元に晒されているのは、何だか見てはいけないものを見てしまったような気分にさせた。
「アンタやっぱり眼鏡じゃなくてコンタクトにすればいいのに」
呟いた俺の言葉に、彼は目を閉じて苦く笑った。
ああ、これは地雷だったのかもしれない、と後悔したが、言ってしまった言葉は取り消せない。
「私はコンタクトが苦手なんだ。何より、眼鏡を付けていないと不安で仕方ない」
閉じた目が開かれて、俺ではない何処かを見た。
零れた言葉に嘘はないのだろうが、その奥にある本音を俺は知っている。
彼の想い人が言った言葉が今でも彼を縛っているのだ。
「…ねえセンセ、俺は眼鏡付けてない方がイケメンだと思うよ」
それも嘘はないけれど、本音は少し違う。
「眼鏡を外した位でそうそう変わるものかね」
「いや、センセはいつも眼鏡を外さないから知らないんだ。眼鏡付けたセンセはちょっと取っつきにくいよ」
「そんなに似合わないかね?」
「ううん。似合ってるけど、眼鏡無い方が何倍も格好良い」
「大人をからかうものじゃない」
ふふ、と今度は楽しげに目を細め、胸ポケットに入れていた眼鏡を取り出す彼。
その手を取って、パチクリと目を瞬かせる彼の顔に近づいた。
鼻と鼻が触れ合う位に寄せた目は俺を映していて、眼鏡と言う壁を失くした彼はやはり何倍も良いと思う。
「何より、眼鏡ない方がキスしやすい」
ちゅ、とわざと音を立てたバードキス。
持っていた眼鏡を床に落とした彼の顔は真っ赤で、やっぱり眼鏡を付けない彼は普段より何十倍も良い。
パクパクと口を開ける彼の足元にしゃがみ込み、一呼吸して立ち上がる。
「な、なにを」
「俺の好み覚えておいてねセンセ。眼鏡無い方が好きだよ」
唇に手を当てて慌てる彼の瞼にもう一度口付けて、その場から逃げだした。
背後から追いかける音は聞こえない。
それに半分ほっとして、でも半分追いかけてきたらいいのにとも思う。
でも、これで彼は彼の想い人の言葉なんかより俺の言葉に縛られやしないかなと、ワクワクした。
明日もまた、眼鏡を外した彼が見られるだろうという期待をしながら、こっそり持ち出した彼の眼鏡に口付けた。