※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

刑事

車内はまるでコントのように沈黙でぱんぱんだった。

辺りは暗く、車内も暗い。柔らかい黒い闇が、眠気を誘っているような気もする。
僕は缶紅茶をすすった。ぬるい。
「……キタさん」
「おう」
運転席の西がやったらめったら澄んだ声で呼びかけてきた。
涼しげーな本人の容貌にぴったり過ぎるいい声だと密かに僕は思っている。
「………」
西の気配が急に緊張しだした。何だ?めずらしいな、と思い促す気持ちで顔を見る。
西は数メートル先のマンションの玄関を、じっと見つめていた。
絵になるなあーとうっかり思ってしまうが、まあいいだろう。絵に描いたように誠実な刑事の横顔をぼんやり見る。
「…気づかれてますかね?」
「ああ、まあな」
僕たちはつまり牽制に過ぎない。あいつらはどうせ黒だ。
「ホントですか」
西が少しショックを受けたような声を出した。
「最初から分かってたことだろ?」
僕は意識して慰める調子を作った。あいつらは黒で、上で糸を引いてる奴らはびみょーにやばい連中で、僕たちのしていることは無意味に近い。
だからって、
「別にいいだろ」
わざと軽く言う。西の頬がひくりとひきつった。
「気、気にしないってことですか?」
ホントに真剣なんだなあ、ちょっと感動しちまうよ。
「しねえよ、馬鹿」
「ホントに?」
「よくあることだろ」
「よくあるんですか…?」
途方に暮れたような、声。どうしたんだ、いつになく深刻な気配をさせて。
「よくあるんですか?」
「あるある。いちいち動揺、してらんねえよ、な?」
ぽん、と肩に手を置いてやる。
…その手をあったかい手で捕まれた。おい?
「少しは動揺して下さい」
西くん、なんすか、そのいやにまじめな目のひかりは。
僕はズッと音をたてて紅茶をすすった。理由は分からないが顔に血が集まってきて、今が夜でよかったなー全く、と思った。