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水着

「大丈夫か……?」
気ぜわしげな声が意識を浮上させた。
無意識に付け根を擦っていたのを見咎められたらしい。
俺は慌てて膝から手のひらを離した。
この時期の雨はどうしたってしくしくと古傷を刺激する。
「いや、何でもない。少し冷えたかな」
「毛布でも取ってこよう」
言い終わらぬうちにリビングを出ていったアイツに、俺は胸の内で毒つく。
必要ならば自分で取りに行ける。俺にだって脚はある、……作り物ではあるけれど。
田舎の漁師町に育った子供らのすることなど決まっていた。
毎日毎日。飽きもせず海に飛び込み、これでもかというほど陽に焼け遊んだ。
15の誕生日にも変わらず海に出掛け、
『俺達成長しねーな』
なんて笑い合っていた。

けれども。

岩場の影の見掛けぬ船に。
馬鹿だった俺はアイツが止めるのも聞かずに近付いて。
今思えば密漁船だったのだろう、気が付けばひとつの足を失っていた。
逃げる船のスクリューに巻き込まれたのだと。
殴ってでも止めれば良かったのだと。
アイツは眼を真っ赤にして、アイツの親父さんに殴られたのだろうボコボコになった顔で泣いていた。

あれから暫く経って、酒も煙草も覚えた歳になっても。
アイツは俺の隣に居る。隣に居ようとする。
罪悪感か贖罪か。
真っ黒だった肌が白くなり、健康的に張っていた肩が丸くなっても。
「でも、もう」
終わりにしなければ。
この雨の季節が過ぎたら。
水着の季節になったら。
言わなければ。
「……さよなら」
「何かいったか?」
「いや、何でもないよ」
海のなかで笑う、お前が好きだったんだ。