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食事当番

「おまえ食事当番やる気ないの?」
酢豚とカレーと水菜サラダと豚汁が並んだテーブルを見ながら恋人が言う。
「今日だって一日家にいたんだろ?」
俺は売れない役者をしている。
同じ劇団で知り合った恋人は早々に自分に見切りつけてサラリーマンになった。
金がない俺を見かねて、同棲を提案してくれたのは三ヶ月前。
最初の一ヶ月は新婚生活、二ヶ月目はお互いの粗が見えてきて、今は譲歩ラインをさぐっている状態だ。
「百歩譲ってカレーと水菜と豚汁はいいけど、なんでそこに酢豚なの」
「酢豚が好きだって言ってたじゃん」
「好きだからってコレはないだろ」
「じゃあいいよ。酢豚は食べなくて。そしたら百歩譲ってくれるんだろ」
今キレてテーブルをひっくりかえしたら気持ちいいだろうななどと思いながら、
文句をなんとか押さえ込む。
好きだって言ってたから作ったのに。出来たてじゃないと嫌だっていうから
直前に肉を揚げたのに。うまくできなかった時の事も考えて、作り置きのカレーも用意して。
豚汁は豚肉が余ったから使い切っただけだろ。この間、食材を捨てたらすごい怒ったくせに。
うちの冷凍庫は小さいんだよ。
こんな小さなすれ違いがここ最近続いてた。
好きだけど。好きなだけじゃ生活って出来ない。仕事も恋も現実に直面すると結構辛い。

次に喧嘩したらダメかもしれないと思いはじめた頃、その日は思ったより早くやってきた。
目の前には、CMでおなじみのソイジョイが置いてあった。
何? もしかしてコレが食事? まさか。まさかだよな。
「今日はそっちが食事当番だろ。飯は?」
「そこに置いてあるだろ」
頭の中で何かが切れた。もう限界だ。明日には俺はここを出て行こう。
ポケットの中の鍵をテーブルに置こうとしたその時、
「おまえ太っただろ」
耳の痛い一言が俺の動きをとめた。
「オーディションがあるんだろ? 毎回カロリーの高いもんばっか作りやがって」
ソファで雑誌を読みながら奴は言う。
「なんでわかったの? みんな気がつかないのに」
「俺がわからないわけないだろ。アホか」
そりゃそうだ。俺の体の肉のつき方はこいつが一番よくわかるだろう。
「おまえ自分が売れてないってわかってんのか? 金なんかいくら貯金してたって安心出来るかよ。
それなのに、おまえは平気で物は捨てるし、食費はかけるし。無駄金は使うな。
いつ売れるかわかんないんだから」
あれ? なんだ。意外と俺のこと考えてくれてたんだ。
「まだ俺イケると思う?」
「あきらめようと思ってたのか?」
「ちょっと……」
「やれるとこまで頑張れば」
「……うん」
少し嬉しい。いや、だいぶ、嬉しい……か? それならこちらも多少は譲歩してやるかと、
ぶつぶついってる奴の前でソイジョイを食べていた。
ふと、疑問が頭に浮かぶ。
「ダイエットが必要なの俺だけじゃん。なんで自分の分作らなかったの?」
「ダイエットしてるお前の前で食えるわけない。なら、つきあうしかないだろ」

なんだ、結構ラブがあるじゃん。