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割烹着が似合う攻め

「おっはよー」
 朝っぱらからやたらテンションの高い声に起こされて不機嫌なところへ、はた迷惑な声の主の現れた姿にぎょっとした。
「…なんだ、それ」
「タクちゃんほんまお寝坊さんやなぁ。そんなんやとお仕事大変やん」
「いやだから」
「あ、この割烹着? 俺が東京出てきたときにオカンがくれたんよ」
 似合てるやろ、とくるりと回って見せる。
 顔はいいくせに妙に庶民的なせいか、似合ってはいる、と思う。
「…お前、料理できたのか」
「できるわぁ! 俺のたこ焼きは天下一品やったやろ!」
「ああ……そうだったか」
 そういえば、先日目の前の奴が押し掛けてきて作っていったたこ焼きは美味しかった。
 天下一品かどうかはともかく。
「タクちゃん、朝ごはんできてるで。俺桃子ちゃん起こしてくるわー」
「あ、ああ……」
 二階の子供部屋に上がっていく長身を見送ってから、顔を洗いに洗面所に向かった。
 冷たい水で顔を洗うと眠気も吹き飛び、漂ってくる焼き魚の匂いにいくらか心を弾ませながらダイニングに向かう。
 テーブルの上には、3人分の茶碗や焼き魚を載せた皿が並んでいる。
 そういえば昨日そんなものを買ったな、と3人での買い物を思い出しながら箸を並べる。
 朝食の見た目は悪くない。
 小葱の散った豆腐の味噌汁はほこほこと美味しそうな湯気を立てているし、皿のアジの開きもちょうどいい具合に脂が乗っていて、焼き加減も申し分なさそうに見える。
 なんだか少し照れくさい。
 こんなふうに朝食を作ってもらったのは妻が死んで以来だ、とふと思い出して、慌てて頭を振った。
「わぁ、お魚ー」
「そやねん、残したらあかんで?」
「残さないもん。桃子、ちゃんと食べるもん!」
「桃子ちゃんはええ子やなぁ」
 二階から降りてきた2人が、賑やかにはしゃいでいる。
「あれ、タクちゃんまだ食べてなかったん?」
「あ、ああ……」
「俺のこと待ってくれたん!?」
「え、あ…」
「嬉しいわぁ!」
 ぎゅ、と抱きしめられる。
 こんな愛情表現は少し苦手だ。
 距離を置かなければと思っているのに、心の枷を振りきってしまいたくなる。
「は、離せ……それより、食べないと遅れる」
「あ、そうやな…」
 慌てて離れ、少しうなだれるさまは大型犬のようで、なんだか微笑ましい。
「お前が作ってくれたんだ、ありがたくいただくよ」
 ぎこちなく微笑んで腰をおろし、味噌汁の椀を取り上げた。
 味噌の香りを吸い込んでから、口に含む。
「………!!!!!」
 とたん、吐き出した。



「あのときは、まさかお前があんなに料理が下手だとは思わなかったな」
「……なに、今さら?」
「あんな不味い味噌汁飲んだのは初めてだ」
「…そやから、もうたこ焼き以外作ってへんやん」
「ああ。けど、コーヒーくらいはもう少し上手く淹れられるようになれ」
「……努力します」
「…………不味いコーヒー飲まされるのは嫌だからな。俺も手伝う」
「!!!!」