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妖怪

電車を来るのを待っているため、自動販売機の近くにある汚いベンチに座って
俺は「萌える妖怪」という本を読んでいた。勿論カバーだけは外国の何だか有名な
哲学の本のカバーに変えている。何たって美しい俺が「萌える妖怪」なんて読んで
いるなんてこの状況に相応しくない。こう、目が隠れる程に前髪が長い美少年が
憂い表情で読書っていう素晴らしい組み合わせに人間どもはこちらをちらちらと
見て通り過ぎていく。そうそう、もっと俺の美しさを見ろ。感嘆しろ。そして敗北しな!
そんなこと微塵も考えてません、な潔癖そうな顔で「萌える妖怪」を読み続ける。何しろ最近の
人間達の流行りはオタクらしい。俺が妖怪だなんてバレないようにきちんと最新の
情報を仕入れないとなあと思い、この本を購入した。これの他にも、やたらと目が
大きくて頬を染めた少女が表紙の漫画が大量に置いてあったが、あちらは多分上級者用だ。
何かそんな気がする。なので自分に馴染みが深い妖怪のものを選んでみたのだ。
読み始めてみるとこれがなかなか難しい。セーラー服の上だけ着て下はブルマを
穿いているのっぺらぼう、おんぶを上目遣いでねだるツインテールの妹系・子泣き爺などが
載っているのだが、どうやらこれが「萌え」というやつらしい。しかし、先程の子泣き爺は
妹系とあったが性別は男だと思う。それに煽りの「おんぶする程に重くなる私の愛…
受け止めてくれますか?」というのがかなり謎だ。萌えってやつは、人間のふりをするよりずっと難しい。
「ねえ」
そんなことを考えて込んでいると誰かから声を掛けられた。また俺の美しさに惹かれた
人間だろう。今度から俺の恋人は姿見です、という看板を背負おうかと思う。
いや、ちょっとそれじゃ俺の繊細で儚げなイメージがぶち壊しに……。
「ねえ君、聞いているの?」
いつの間にかいつもの俺美しいワールドに入り込みそうになるのを男の声が遮る。
……男!?何で男に声掛けられるんだよ。俺の美しさは性別さえ超えるのか。
「ああ、すみません。僕、本の世界に夢中になっていて」
消え入りそうな声は今日も完璧に儚げ!一人称も僕!最高!ビバ俺!
「随分とその本を熱心に読んでいるけれど、好きなのかい?」
にこにこと優しげに微笑みながらそう言った人物は、俺の顔を覗き込んだ。
いや、あの……。か、顔近くないか……?
「ええ、お気に入りの本です。何度も読み返しています」
「そうなの」
微笑につられてこちらも笑顔で返せば、男の着ている黒いスーツが目に入る。左腕の部分だけが
生地を間違えたかのように白くて、それはある職業を意味していた。
やばい、こいつ祓い屋だ!
「僕、ちょっと行くところがあるので失礼しますね」
焦りながら本を鞄に戻して立ち上がろうとすると、そのまま男に上から両手で強く肩を押され、
ガタリと激しい音を立てながら俺はベンチに逆戻りすることになった。
「ちょ、てめえ何するんだよ!?ああ!?」
いつもの口調が、焦りで素に戻ってしまった。それにも澄ました顔のままで見詰める男は、
俺の額を覆っているかなり長い前髪をかきあげた。まずいまずいまずい!
「あれ、君レアな三つ目じゃないか」
「三つ目じゃないっつーの!」
「え?もしかして」
反射で返せば、更にまずいことになった。マフラーと揃いで着けていると思わせている
手袋を男に無理矢理取られ、手の甲を見られる。そこには両方とも目が一つずつあった。
見られたことに思わず苦い顔になる。
「三つ目だけでもレアなのに、まだ二つも隠していたんだねえ。これは国からの懸賞金も
 凄いことになりそうだ」
男の言葉に、びくりと身を竦める。
「なあ、俺のこと祓うのか……?まだあの世には逝きたくない。別に人間に迷惑かけてな…」
「黙れよ」
唐突に乱暴になった男の言葉に固まっていると、打って変わって優しげな口調で言われた。
「君のこと気に入ったから、祓わないであげても良いよ?」
「ほ、本当に?」
男の気まぐれに俺は必死になる。
「でも、僕の言う事を絶対に何でも聞かなきゃ駄目」
「それぐらいだったら当然やる……!だから、祓わないでくれ……。ちゃんと何でもやるから、何でも!」
言い募る俺を鼻で笑うと、男は顔を近づけ、俺の額の目をそのまま舌でねっとりと舐めた。
「…っひ…っ…」
「よしよし、良い子だね。……何でも、だよ?」
男はとても綺麗に笑った。