親の言いなり攻めとそんな攻めに対して何も言わない受け

仕方がない、とすら君は言わぬ。
志半ばに帰郷し、親の決めた女と一緒になる君はただ、諾々と従っている。
長兄が急逝し、継ぐはずもなかった家業を継がねばならぬ身になった君は、
どんなにか口惜しい思いをしていることだろう。
東京での君の活躍は、前途洋々たるものと聞いていた。
君の才能を惜しんで上京を勧めたのは僕だったから、
僕は我が事のように嬉しかったものだ。
勘当同然に出て行った君だから、おおっぴらには喜べはしなかったが。

その僕は今、やはり密かに喜んでいる。
生涯、君の兄をたすけることに仕えるはずが、君をたすけることになった。
我らが生業を君と一緒にやる。一生、君に付き従う。
夢とも思った秘めた望みが、いまうつつのものとなる。

僕は、君を僕のものとする。
絵の道を断腸の思いであきらめる君に、
好きでもない女と祝言を挙げる君に、
この暗い田舎に潰れて埋もれていこうとする君に、
もはや僕は何も言わぬ。
君の妻となる女は知らぬ。君がどんな閨を過ごすのかも知らぬ。
生涯、君に最も近い場所で一番長い時を過ごすのは、僕だ。



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最終更新:2009年03月28日 19:05