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スターの恋

「おい、ドア開けろ!部屋に入れろよ!ていうか服!!服返せよ!!」
都内某高級マンション一室の廊下。
扉のドアを外からガチャガチャやりながら、声を殺しつつ必死に叫ぶ不審な男が居た。
彼の名は工藤雅也。今や歌にドラマにバフラエティーにと、多方面で人気を誇るアイドルであり
その名を知らぬ者は居ないといって過言ではないだろう。
しかし今の彼には大スターの面影は微塵も見られない。というのも彼は今現在、世にも奇妙な格好をしていたからだ。
乱れた髪に上半身裸、下半身パンツ一丁で靴下着用。そして何よりも目立つのは顔から胸にかけてこびりついた、精液。
「おまえっ!手でしてやるだけだって、約束しただろ…!卑怯だぞ…!」小声でドアに向かい怒る雅也は涙声だった。

まあ思えば最初から罠だったのだ。
雅也もデビュー当初は五万といた若手アイドルのうちの1人だった。
多少人より秀でた才能はあったとはいえ、郡を抜くには権力者と寝る事が一番の早道。
雅也はそういった行為を毛嫌いしながらも、仕事のためならどっこいせ、と手で扱いてやる位は数度あった。
その延長線上と言えようか。スーパースターと呼ばれ随分と仕事を選べる立場になっても
好条件を飲んでもらう為にと、未だ「手コキ」で優位を勝ち得たりする時が年に2、3度あったのだ。
しかし、誰の手垢もつかずスターに昇りつめたその身体に、邪な目をしたオッサン達が興味を示さない訳が無い。
この夜も雅也は「手でするだけ」と言われプロデューサーの部屋まで出張した。
しかし事が始まって数分すると突然、プロデューサーは雅也を押さえつけ顔面にどばっと白ジャム発射。
息もつかせぬ勢いで服を脱がされ破かれ、ガツーンと廊下へ放り出され、何とこう言われたのだ。
「最後までさせてくれるなら部屋にいれてあげても良いよ、嫌ならそのまま帰りなさい。」

これには雅也も顔面蒼白である。自業自得とはいえパンツ一丁でスペルマだらけで外をほっつき歩くアイドルなんてありえない。
それにこんな半狂乱な事をするオヤジに誰がバージンをくれてやれよう。
それにこんな変態に任せたらどんなプレイがこの先待っているか解ったもんじゃない。
「もういいよ…!誰がお前なんかに頼るか!」意固地になって扉に捨て台詞を吐くも、雅也は内心気が気ではなかった。
というのもこのマンション、著名人御用達のマンションなのだ。
つまり深夜といえども追っかけ女の子や記者なんかも出入りしている為こんな姿でウロウロして
写真でも撮られてしまったらもうアイドルとして、いや、スターとして一環の終わりである。
『と、とにかく水道!汚い!水道!』雅也が下の階の車洗浄用水道にBダッシュを決めようととしたその時だった。

「キャー!!享一さん!」「今日も遅かったんですね!」「佐山さん、握手してくださあああい」
曲がり道の向こうで、女数人の声が上がった。
「またお前らか。何でお前ら追っかけにはすぐに住所がバレちまうんだろうなあ?」直後に響くちょっとシブくて通る男の声。
瞬間にして雅也は顔は血の気を失った。
曲がり角の向こうにいるのは恐らく、佐山享一。将来日本の映画界を背負って立つと言われている若きスター役者だ。
雅也と享一は仕事が一緒になった事がない為、直接の面識は一切なかったが、世間様からは「アイドル界と俳優界の二大スター」と言われているので
お互い意識しあう関係ではあった。「プロデューサーと享一は同じマンションに住んでいるから偶然逢うかもね」とマネージャーが
言っていたのを今になって思い出した。
その偶然の出会いがまさかこんな姿でだなんて、あまりにも酷すぎる。惨め過ぎる。
大量の取り巻きを引き連れる享一がこの場に来て自分を見たらなんて言うだろう。変なアダ名つけられたらどうしよう。
いや、それどころの話じゃない。ミーハーでおしゃべりな追っかけ達にこの姿を見られてしまっては、雅也のスター生命はもう間違いなくお陀仏だろう。
エレベーターから繋がる角を曲がれば即見つかるしかない運命。逃げ道など有る筈も無い、短い一本の廊下。
迫る靴音と声に、軽い貧血を起こしたように雅也はヘナヘナとその場に座り込む。
『さよなら…おれ…のモテモテ人生 ●| ̄|_ 』
『ああ、せめて笑ってくれ。そしたら俺はアイドルからお笑い芸人になれる・・・そう、岸部●郎のように・・・』
他人事の様にボゲっと考えていると、急に目の前が真っ暗になった。
いや、目の前に何かがかぶさってきた。ひと回り体格の良い享一が覆い被さるように雅也の体をすっぽり抱きすくめていたのだ。
追っかけてきた少女達の目からは多分雅也の頭の先っちょ部分しかしか見えないだろう。

要は享一からすれば何とかしてこの非常時を隠してやりたかったのだ。
しかし突然の行動すぎて、若干頭のゆるい雅也の方は全く付いていけてなかった。それでも続けるしかない享一は
「雅子。…ごめんな、俺が悪かったんだ。ファンは追い払う。だからもう出て行かないでくれ。」と叫ぶと
余計な事を言いかねない雅也の開きっ放しの口にブチューっと唇を重ねた。

『おい!!キスされたぞ、初対面の男にキスされたぞ!あれ?でも不快感がないな。もしかして忘れてるだけで
 俺、こいつの恋人だったんじゃ?え、もしかして実は俺女で雅子って名で記憶喪失??!!』
短期間で色々な事が起こりすぎて完全に錯乱してしまった雅也は放置プレイに、追っかけファン相手に続く享一の迫真の演技。
「帰れよ、お前ら。人の恋愛邪魔しておもしろいのか?え?クズども!!」
ファンにとっては恋人女性(?)の発覚、キスシーン、そして「クズ」発言のトリプルパンチは相当キツかったのだろう。
ワアアアアンモウコネエヨ!!!と泣き叫び少女達は一斉に目の前から散ってった。

結局「おまえ、超クサい」と言われ享一宅で風呂と服を借りるついでに、お泊り会と洒落込んだ雅也は
翌朝のスポーツ紙の一面に踊る「佐山享一熱愛発覚、名前は『雅子』」というとんでもない誤報に大爆笑する事になる。
さらに大爆笑なのは、半年後あながちこの記事が間違ってない結果になってしまう事なのだが、この時2人はまだそれを知らない。