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恋人を庇って銃で撃たれる

強盗犯に撃たれた傷口をガーゼで押さえられ、人工呼吸器をつけられ手術室へと運ばれる谷澤は寧ろ穏やかな表情で、ただ眠っているだけの様に見えた。
アレを瀕死の状態と言うのならば、横で座っている津嶋はなんと評すれば良いのだろう。
その顔はまるで死人のように蒼白で、廊下の蛍光灯が、手術中のランプの照り返しが、彼の頬に赤味があるのだと、生きた健全な人なのだと錯覚させる。
だが、その頬は確実に人の色とは言いがたいのだ。

「津嶋。もう帰れ。んで、寝ろ」
「いやだ。例え、それが命令だとしても、帰らない」
「お前、顔も白いし目もどっかいっちまってるぞ。谷澤が起きた時に、お前がそんな状態だったら……――」
「起きないかも知れない……あいつみたいに。だろう?」
「…………」

手術室のランプが赤い光を放っている。
病院の廊下は、外ではもう夜明けを迎えているはずだというのに、酷く余所余所しい人工的な暗さを保ったままだ。
どこまでも続くような、薄暗い、廊下。永遠に夜明けの来ない、薄暗い廊下。
時が過ぎ、そのときに最も嫌な結末を迎えるのであらば、いっその事時が止まってしまえば良い、とそう思っている心のうちを全て見透かすような、薄暗い廊下。
赤いランプと蛍光灯に照らされて、漸く人なのだと認識できる男を、仕事仲間を、友人を、俺は見下ろす。

「何で……俺じゃねぇんだ……!」
搾り出すような言葉は、前にも聞いた事のある言葉。
だからこそ、あの時の事を知る俺にとって、あの時も、今も、何も出来なかった、何も出来ない俺の心が痛み、悲鳴を上げる。


15年前と同じ状況だった。
津嶋は15年前、愛した人を目の前で……それも、本来撃たれるべきであった自分を庇い、そして死なせてしまったという傷を心に負っている。
以来、一匹狼で過ごして来たのだ。誰も傍に寄せないようにして。幼馴染だった俺さえも諦めるような頑固さで。
そこに谷澤がやってきた。若さ故の無鉄砲さと鈍感さで、まとわり付いて、せっかく津嶋も心を開いて…冗談だとしてもこの俺に、津嶋の馬鹿が、恋人とそろいのものを持つなら何が良いか、と聞いてきたばかりだったというのに。
犯人が津嶋に向けた銃口の前へと、手術室の向こうで寝ているであろう馬鹿は立ちはだかったのだ。


今ここで、谷澤も喪えば、津嶋は……――


死人のような顔でただ祈り続ける津嶋を見つめながら、俺は、手術室のランプが消える瞬間を恐れていた。


――――――


「……だからすみませんて」
「だからもくそもあるかてめぇ!」
「だって先輩絶対あそこで死ぬつもりにみえ……いたっ!」
「誰が死ぬつもりだって、あぁ!?」
「だ、だって前、何時でも死んで良いって……」
「あの時はあの時!今は今!いまさらてめぇを残して死ねるかよ!」
「えっ、って事は先輩!」
「だまれ。怪我に響くぞ」

……心配した俺がバカだった。
谷澤が目覚めた時からずっと、二人はあんな調子で喧嘩ばかりしている。
あぁ畜生。
色んな意味で満腹だから、次はどっちも撃たれないように互いをフォローしやがれってんだ。