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恋と尊敬の狭間で自己犠牲

「――この戦いが終わったら、二人だけで遠くへ旅にでよう」
そう言ってくちづけをくれたあの夜を、僕は忘れない。


立ちはだかる高位悪魔は次々と魔物を召喚し、攻撃を加えることもままならない。
魔神の待ち構える祭壇まであと一歩だというのに、儀式の間に通じる扉にさえ近づけない。
体力自慢のウォルフの顔には疲労の色が浮かび、治癒巫女レナも巫力が尽きかけているようだ。
それでも、なおも果敢に武器を振り上げるアレン様に引きずられるように、誰もが微塵も絶望を感じず、声を張り上げ足を踏み締める。
血と汗でぬめる掌をローブにこすりつけ、僕は龍の腕から作られた杖を握りしめた。
ここを突破すればいよいよ魔神と相対することになる。
世界を滅ぼす諸悪の根源たる魔神を封じることこそ、勇者アレン様の願い。
その考えに共感し、またアレン様の人柄に惹かれて、僕らはここまで共に旅を続けてきた。
アレン様は、こんなところで終わるような方じゃない。
僕の思いに呼応して、杖の指が掴んでいる宝玉が歪んだ虹色に光る。
禁術に手を出し、国を追われた僕に手を差し延べてくれたアレン様。
抱くことさえ許されない思いを胸に宿してしまった僕を察して、抱きしめてくれた優しい勇者様。
このお方のために道を拓くことが、僕の使命。
「ウォルフ!僕を投げられるか?!」
ウォルフは当然とばかり頷いてから、僕の言わんとすることに気付いて渋い顔をした。
だが、彼の腕に無理やりよじ登ったら諦めたようだ。異変に気付いたアレン様が振り返る頃には、僕は空中高く放り投げられていた。
「ザザ?!」
「アレン様、僕が奴を仕留めます!だからどうか、魔神を、世界を!」
「やめろザザ、その術を使うな!ザザぁ――!!」
約束を守れなくてごめんなさい。
そう口にする間もなく、手の中で杖が高らかに吠えた。

禁術の封印が解けたのは本当は事故だったけど、それが僕に宿ったのは運命の必然だったんだ。

悪魔の魂をえぐり取った魔法の刃が僕の身体を吹き飛ばすのを感じながら、僕は唐突にそんなことを理解した。
振り向いた僕が最後に見たのは、泣き出しそうな子供みたいな顔のアレン様だった。