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長い冬の終わり

「暖かくなってきましたね」
 そう、柊さんが言うので、俺は手を息で温めながら反論した。
「そうですか? 昨日なんかもう少しで雪になるらしかったですよ」
 柊さんは目の前の木をなでながら俺に言った。
「この木が花を咲かす準備をしていますから」
 そう言われて目を向けると、その木には小さいけれどつぼみがふくらみはじめていた。
「人間より樹木の方が敏感なので、毎年感心してしまうんです。そうだ。
母からふきのとうが送られてきたんです。食べませんか?」
「俺、山菜の味ってよくわからないんです。ただの苦い野菜にしか思えなくて」
「てんぷらにするとおいしいですよ。作りますからきますか?」
 そう言われて、俺は彼の家に行った。

「はい、どうぞ」
 目の前に出されたてんぷらは、揚げたてでとてもおいしそうに見えた。
「昔、食べたっていうのはいつ頃ですか? 子供の頃ですか?」
「そうですね。苦くてそれ以来口にしていないから」
「じゃあ、是非食べてみてください。僕も大人になってからこの味の良さが
わかったので。だまされたと思って」
「はあ……」
 恐る恐る口に運ぶと、それはサクッと音をたてながら少し苦い味と共に口の中を通り抜けた。
「……おいしい……かも」
「でしょう? 味覚がかわるんです。これが春らしい味っていうんですよ」

「それで、もうそろそろお返事をお聞きしてもいい頃かと思っているんです」
 来た……と思った。俺は冬になりはじめの頃に彼から告白をされていた。
「別に断れるのは仕方がないと思っているんです。こういった性癖ですから
びっくりされるのも無理はないですし。ただ、うぬぼれかもしれませんが、
僕が言った後もこうしてあなたは来てくれますし、一緒にて不快感というか、
拒否感を感じたことがない。だから少しは好意を持ってくれていると思うんです。
でも、無駄な期待もしたくないので」
「はあ……」
 自分が断れば、彼はもうここに来ないようにと言うだろう。それがわかっているから
ずっと返事をしないまま、今に至っているのだ。
「……柊さんの事は嫌いじゃないですし、好きだと思います。でも、それは柊さんが俺に
向けてくれるものと同じかどうかが俺にはわからないので」
「僕に性的な興味はもてないということですか?」
「……よくわかりません」
 てんぷらを箸でつつきながら、彼は言った。
「試してみませんか?」
「え?」
「ふきのとうと同じで、食べてみれば意外といけるかもしれないし」
「え? あの?」
 目の前に彼の顔があって、俺はそのまま唇を奪われた。少し苦いたばこの味とさっきのてんぷらの味がした。
「どうですか? 抵抗ありますか?」
「……いえ」
 不思議と違和感がなかった。彼は笑った。
「それなら良かった」

 春がもうそこまで来ていた。