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普段コンタクトの奴が珍しく眼鏡

「兄ちゃん…おかえり」
「おや、眼鏡なんだ?」
「コンタクト切らしちゃってて」

兄貴は荷物を解いているところだった。
分厚い本や、大学の意味のわからない講義テキストを、
小学時代から使っている古びた学習デスクの上に並べてる。
そんな重いもん、東京に置いてきてゆっくりすればいいのに。

使い捨てコンタクトを切らしたというのは嘘だった。
ただ、俺の持ってるのはギラギラのド緑の色したやつだし
くそ真面目の兄貴はそれが大っ嫌いでぐちぐち怒るから、
アレが帰省してる一週間は眼鏡っこぶろうというわけだ。ピアスも一個に減らした。

「…今日は先輩とメシ食う約束してっからまたすぐ行かなきゃなんねんだ。
 また帰ってからな」
「えぇ~?久々に兄ちゃんカレー作ってやろうと思ってたのになんだよぉ。
 ってそんな格好で行くの? 外寒いでしょうが。ほらこれしていきな」
「いらねーよ…んなマフラー俺のかっこにも合わねーだろ」
「暖かければいいじゃない。早く帰っておいでね」
「過保護ヤロー」


結局、兄貴がひとりで家にいるってわかってるのに、
深夜になってもドリンクバーで粘っていた。

「先輩、なんで今日そんなに嬉しそうなの?」
「そんなことねえよ」
「ねえねえ、なんかあったの?」

先輩の前だと俺は変に浮ついたテンションになる。
女の子みたいで、自分でもキメェけど、なっちゃうものはしょうがない。
先輩はお洒落だしカッコイイし話も面白いから、遊ぼうといわれると嬉しいし、
一緒にいるとずっと帰りたくない気分になってしまう。
先輩が嬉しそうだと俺も嬉しいな。
それに、気づいてる。今日はいつもと違う雰囲気なこと。
グレイアッシュのカッコイイ目で俺のことチラチラ見てる。

「いやぁ、面白いこと思い出してよぉ」
「なに?」
「なんでもねぇ」

なんの期待というわけでもないけど、胸がドキドキ高鳴ってた。
浮かれてた。
だけど、俺の心の奥底は、嫌なうずきもしていた。

「つか今日お前眼鏡じゃん」
「…カラコンなくしてさ。ってか、え?今さら?」
「似合ってる。ずっとそれでもいいんじゃね? 黒い目もあどけなくてカワイーよ」

愛おしそうに言われると嬉しいけど、でもだんだん心がモヤモヤしてくる。
このモヤモヤは…。

「高校時代のスグル思い出すわ。
 こうして見ると、やっぱあいつと兄弟なんだなぁ」

ハイやっぱりきました。ですよねー。
こういう流れですよねー。ここから先ずっと兄貴の話題になるんだよねー。
高校時代ぜんぜん相手にされてなかったくせに。
チャラいし馬鹿だし乱暴だし、一番兄貴が嫌いなタイプじゃん。
もう名前すら忘れられてんじゃねぇの。

「あいつ今度いつ帰ってくんの?」
「いつだろ? 大学忙しいって言ってた」
「国立だもんなぁ。しかも特待だろ?すげーよなぁ。
 家計支えてるし俺には真似できねーよ。あいつは俺らとは違って…」

ああ、聞きたくないな。
いつも図太い先輩の自虐。