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普段コンタクトの奴が珍しく眼鏡

このところ忙しかったせいか、その人と久しぶりに顔を合わせたのはその日のお昼休みだった。
コンビニのハンバーグ弁当に集中していた俺が隣に気配を感じて視線を向けると
吉田さんが穏やかな微笑みを浮かべて会釈した。
「隣いいかな?」ということらしい。俺が頷くと、吉田さんはゆっくりと腰を下ろす。
手に持っているのは湯気の立つ湯のみと、コンビニ弁当
いつもは手作りなのに珍しいなぁとぼんやり考えていると、それ以上の違和感に漸く思い至った。
「あれ、今日は眼鏡ですか?」
我ながらなんと鈍い、吉田さんの眼元が見慣れぬ銀縁のフレームで覆われているではないか
「ああコレ?実はずっとコンタクトだったんだけどね。昨日眼鏡に戻してみたんだよ」
「眼鏡よりコンタクトの方が楽じゃないっスか?」と俺が尋ねると、吉田さんは困ったように言った。
「僕はどうもそそっかしくてね、よくコンタクトのまま寝ようとしちゃうんだよ」
そこで言葉を切ると、吉田さんは軽くため息をついた。どこか具合でも悪いんだろうか?そう言えば
手に持っている弁当もあまり減っていない。
「…今までは、そう…僕がそのまま寝ようとするたびに注意してくれる人がいてね。その人のおかげで
僕はコンタクトをはずし忘れることもなかったんだ。口うるさく思ったこともあるけど、こうしてみる
と有難かったんだな」
吉田さんの言葉を俺はただ黙って聞いていた。その人は誰なんですか?とか今は何処にいるんですか?
とか、聴きたいことはいくつもあってけど何か聞いちゃいけない雰囲気に思えた。
「その人に、つい先日言われたよ。『お前コンタクトは止めて眼鏡にしろよ、もう毎晩コンタクトはずせって
言ってやれないからな』ってね。まさか最後の最後にそんな心配をされるとは思わなかった。」
そう言ったっきり、吉田さんは黙って窓の方に視線を向けてしまった。勝手に言いたいことを言って黙って
しまうなんて先輩とはいえそれは無いんじゃないかと、多少不満に思いながらも俺は吉田さんに目を向ける。
見慣れた吉田さんの優しげな顔にはやっぱり眼鏡が見慣れない異物のようで、表情が分かりにくいのが
俺には酷く不満だった。


目許が一瞬光って見えたのはきっとレンズの反射とかであって、別に涙が浮かんでいるわけじゃない
いつも穏やかで感情を荒げたことも無い吉田さんが、俺なんかの前で涙を見せるわけが無い
俺は視線を弁当に戻してハンバーグに集中しようとした。
けれど浮かんでくるのは
吉田さんがまた元通り笑ってくれるなら俺が誰かの代わりに「コンタクトを外さなきゃ駄目ですよ」って
毎晩でも口うるさく言ってあげるのに…なんて考えても仕方のないことばかりだった。