※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

花火

岡田が、花火大会に誘ってくれた。
「あれ、俺なの?誰か女の子誘えばいいのに」
内心嬉しかったが、同時に不思議に思った。
岡田はバイト先の女の子やらゼミの後輩やらにもてまくり、よりどりみどりのはずだ。
「んー、いいのいいの。……どう?行く?無理?行けるよな?」
自分でそう豪語していたくせに、今日は俺を強引に誘う。
「……はいはい、行くよ、人が多いの苦手なんだけどな。早めに帰ろうな」

小さな地方都市である我が市の、この夏唯一の大イベント。
当然結構な人出だろうと思っていたが、これは想像以上だった。
これでも余裕を見て、始まる30分前には会場の駅に着いたのだ。
だけど、駅から河川敷までの道が、すでに人の波に逆らえない状態。
「……これじゃ、屋台でビールって無理かな?」
「無理じゃないかな、並ぶのも厳しい」
「ッ……はぐれそうだ、加野、手ぇつなぐ?」
「どこのラブラブカップルかよって」
手ぐらいつなげば良かったのだ。せめて肩なりと掴んでいれば。
……俺としては、とても無理だったけど。
気がつけば、案の定というか、いつの間にか岡田を見失っていた。
開始時間まであと5分。見回してもわからない。
(そうだ、携帯)
時間がない、とあわててポケットから携帯を取り出し、かけようとした途端に着信がくる。

──加野?どこ?
「岡田?俺、たこ焼き屋の前あたり、お前は?
──たこ焼き屋?わからないな……俺は500円くじの前なんだけど。
見回すが、そういう屋台は見あたらない。
「他に近くの店は?もう始まっちゃうよ」
──イカ焼きとわた菓子、なんかピコピコ光るおもちゃの店……あ、始まった。
パッと周囲が明るくなって、一発目の大きな花火が空に咲く。
「岡田、わからないな、もう。このまま花火見て、終わったらまた電話する」
──ばっか、お前、それじゃなんのために一緒に来たかわからないじゃん。
「いいよ、俺、こんなに近くに花火見たの初めてだから。綺麗だな……」
屋台の明かりが少々邪魔だったけど、遠くから眺めるだけじゃない間近の花火は、
腹に響くドーンという重低音や、パパパとはぜる火薬の音が効果音となって、感動的だった。
「来て良かったよ、本当、綺麗だ、言われなきゃ来なかったから岡田に感謝だな」
携帯から聞こえてきたのは、低い小さなつぶやき。
──俺は、喜ぶ加野の顔が見られなくてつまらんね。
「え、何?」
──俺は加野と一緒に花火が見たかったの。好きな奴と花火大会、これ常識でしょ。
ひときわ大きな花火が上がって、その音と同時に心臓が止まるかと思った。
「岡田、何言ってる……」
──加野、好きだ、ずっと好きでした。
「岡田!こんな所で!いっぱい人がいるのに!」
──電話だから、誰が相手かなんてわからないよ。それに、皆、花火見てる。
うろたえる俺に、少し笑いを含んだ声が指摘する。
──加野のことが好きなんだって、ずっと、言いたかった。
「……ウソだ、お前、女の子にもてるって、女の子好きって、ずっと言ってたじゃん……」
──ちょっと、意地になってた。加野にだけわざと言ってたんだよ。なんでかな。
周りの人は、綺麗な浴衣を着た女の子も、仲良さそうな家族連れも、みんな、
次々と上がる花火に夢中で、岡田の言うとおり誰も俺なんか見ていない。
俺だけが、携帯を壊れるほど握りしめて、真夏の夜に震えてうつむいている。
今言っても、きっと、花火の音にかき消されて誰にも聞こえないんだろう。
──加野?言ってくれよ、俺にも。
「岡田……ずるい……俺が、ずっと岡田を好きなんだよ」