触手×人間

「ただいま」
「受けさんお帰りなさい!……あっ、プリンの匂いがする!おみやげ?ボクにおみやげ?」
「違う。……ってお前、なにテラスに貼りついてんの」
「あのね、今日は星が綺麗なんだよ。でもガラスで偏光してよく見えないから、ボク、ベランダ出たいな」
「却下。つーか、お前は当分の間、昼夜問わずベランダに出るの禁止な」
「ええええっ、なんで!?受けさん酷いや!」
「当たり前だ。また昨日みたいにベランダ伝いで侵入してお隣さんを襲われたらかなわん」
「だっ…だから、あれは侵入したんじゃないんだよぅ。ただ単に、日向ぼっこしてて
 陽の光があんまり暖かいからついウトウトして、寝ぼけて隣まで伸びちゃって」
「そこでお隣さんの首を絞めただろうが」
「だって目が合っちゃったんだよ。それであのまま引っ込んだら、受けさんちに
 ボクがいることバレちゃうじゃないか。だから一旦、絞め落としちゃえーって」
「その言い方、反省してないな」
「違うよ!反省してるよ、すごく反省してるよ!」
「ほう。じゃあ、反省の弁をとくと聞かせて貰おうか」
「えっとえっと……絞めて落とすんじゃなくて、いつも受けさんにするみたいに、
 ジュルジュルでヌルヌルして気持ちよくして気絶して貰えば、良かったです」
「お前その手だか足だか一本切り落とすぞ」
「うわあっ!ごめんなさい間違えましたごめんなさい。ヌラヌラのジュラジュラは受けさんにしかしません!」
「いや、そうじゃなくてだな…」
「本当だよ、受けさんにしかしないよ。僕は受けさんが大好きだから。本当だよ!」
「あー……。話がずれてる。だから、今はお隣さんの話なんだって。聞け」
「うん、聞く」
「さっきお隣さんにエレベータで会ったんだけどさ、疲れがたまってるみたいだから、
 次の休みに健康診断に行くって言ってたんだぜ。完全にお前が原因だよ。どう思う?」
「えーと、健康診断は、良いことじゃないかなぁ」
「何がどういいんだよ」
「お隣さんは、いっつも朝早くから夜遅くまで働いてるから」
「まあな。あの人単身赴任らしいし、健康には気をつけて欲しいよな」
「うんうん」
「で、だ。そんな風にいつも忙しく働いてる人の、たまの休暇を、昨日お前は寝ぼけて潰した」
「う……」
「ゆっくりリフレッシュしてた人を、ベランダで驚かした挙句に、首を絞めて気絶させて逃げた」
「うう……」
「とにかく。当分の間は部屋の中で大人しくしてろ。バレるバレない以前に、これは罰だ」
「うううう……受けさん怖いよぅ……ボク、涙が溢れて拭いきれないよ」
「拭う手なんて何本もあるだろ。お前、目ん玉は一個しか無いんだから充分じゃねーか」
「そんなことないよ。眼球はいくつでも出せるし、飛ばせるよ。あっ見る?受けさん、眼球見る?」
「また話がずれてる。今回のことをきちんと、心から反省しろ。このプリンやらんぞ」
「嘘、なんで?それ、ボクにおみやげじゃないの?」
「これはさっきお隣さんに貰ったの。『昨日ベランダで倒れてる所を見つけてくれたお礼です』って」
「二個あるよ」
「あー……お隣さんは俺んとこ、まあ、二人暮らしだと思ってるからな」
「じゃあ一個は受けさんで、一個はボクの分?」
「そういう事になるけど、反省するまでお前は食うな」
「……。お隣さん、いい人だね。優しい人だね」
「そうだな」
「…………ごめんなさい。ベランダにはずっと出ません。ボク、ガラス戸越しで我慢する」
「ずっと出るなとは言わないけどさ。……まあ、当分な」


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最終更新:2009年12月26日 13:07