※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

敵同士

振り下ろされた剣を盾で弾き、白鎧の隙を逃さず自身の剣を突き刺した。
 鎧の隙間をぬって確かな手ごたえを感じ、無意識に唇をなめる。
 ――とった。
 剣を引き抜いた反動で相手がバランスを崩したところに再度剣を振り上げる。
 相手の首筋を狙って振り下ろそうとした瞬間、白兜がするりと抜け落ちた。
 まさにいま殺さんとする男の顔が眼前にさらされた瞬間、俺は背筋が凍りついた。
「なぜお前が……!」
 重力に任せて落ちようとする剣を止め、俺は愕然と立ち尽くした。
 勝利を目前に控えた同胞の雄叫びが、急速に遠ざかる。
 だがいまにも薄れ行く彼の息だけは不思議と耳に届いた。
「きみ、だったのか……さすがに良い腕だな」
 ごぼり、と血を吐き倒れこむ彼を俺はあわてて受け止めた。
「なぜ、なぜお前が……」
「わたしの生まれ故郷を、見捨てるわけにはいかない」
「しかしお前は、もう未練はないといったではないか!」
 笑おうとしたのだろうか。彼は少し喉を鳴らすと盛大に咳き込んだ。
 同時にたくさんの血を吐き、俺の黒鎧を赤黒く染めた。
「殺して、くれ。きみの手で。……わたしに、祖国に命を捧げる名誉の死を」
「いやだ! 国を捨てるといってくれただろう!
 なぜだ……なぜその鎧を纏って俺の前に立つのだ」
 ゆっくり首をふって、か細い声で謝罪を口にする。俺はそんな言葉がききたいわけじゃない。
 抱きかかえた腕の中で、彼が苦しげに顔を歪める。
 容赦なく突き刺した剣は確実に彼の命を蝕んでいて、流れる血潮を止める術もない。
 ただひたすら拒否の意思を示す俺と、俺の腕の中で静かになっていく命。
 視界の隅にたくさんの死神が見えて、力いっぱい慟哭して。
 後に待つのは虚無の闇だった。