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ずっとお慕いしていました

今日も良い天気だ。
そんな国民的アニメの主題歌のようなことを考えながら、喪男は公園を歩いていた。
理学療法士である彼の職場は公園の横にあり、昼飯はいつも噴水の前にあるベンチで食べるようにしていたためである。
本当は病院内の休憩室でも食事はできるのだが、女性スタッフといまいちなじめないでいる喪男にはその部屋を利用する勇気が無かった。
「うーい、きょうもごくろうさんっと」
大きな独り言を言い、いつものベンチに腰掛け手製の弁当を取り出す。
平日昼間の公園というものは大体いつもいるメンバーが決まっていて、何とはなしに顔見知りになっていた。
公園内の美術館職員は外のレストランに向かっているし、ホームレスは皺だらけの新聞を読んでいる。
文庫本を読みながらもくもくとパンと缶コーヒーを片手で持ち替えつつ有意義な時を過ごしていると、不意に頭上から影が差した。
不審に思い、喪男が顔を上げると、人懐っこそうな青年が至近距離で彼を見つめていた。
そして、青年は満面の笑みで口を開いた。

「ずっとお慕いしてました」

「は?」
あまりの展開に喪男は間抜けな声をあげる。
一方青年のほうも口を押さえて目を丸くしこう告げた。
「俺、今、何か言いました?」
「はぁ、ずっとお慕いしてましたとか何とか…」
すわ精神薄弱か統合失調症かと疑わしげに青年を見やると、自分の行動に困惑しているらしい彼とばちりと目が合った。
その瞬間喪男の脳裏に風景のようなものが無数に浮かび、こちらに向かい手を伸ばす少女が見えた瞬間体が動いて目の前の青年を抱きしめていた。青年も抵抗することなく喪男の膝の上に座り首に手を回す。

「私もだ、そなたのことをずっと想っていた」

そして、迷うことなく初対面の野郎同士は昼日中の公園でキスをしたのであった。

偶然、その場には清掃の業者とホームレスしかおらず大きな騒ぎにはならずに済んだのが不幸中の幸いか、などと現実逃避をしてみてもこのあまりにも非日常でインモラルな状況に、喪男も青年もげっそりしてしまった。
年長者として、やはり現状を解決するべきだろうと喪男はぬるいコーヒーを一気に流し込んでから口を開いた。
「えーと、前世ってあるもんなんだなあ」
「これは信じるっきゃないっすね」
接触が鍵だったのか何か知らないが、この不愉快な現象の原因ははっきりと二人の脳内に浮かんでいた。
「私が従者で、君が主人一家の娘だったってわけか」
「オランダ商人の娘と島原藩の通詞崩れの悲恋って、俺日本史取ってないからあんまり詳しくわかんねー、です」
二人の脳内に浮かんだ情景をつきあわせていくと、三文安いお話が浮かび上がってきた。
時は江戸。
オランダから出島にやってきたある商人は特例として家族を引き連れていた。
滞在期間中、藩から派遣された通詞がオランダ人一家の世話をすることになったが、この通詞と娘はお互い惹かれ合ってしまう。
日本人同士なら脱走でも心中でも出来たのだが、生まれ変わり思想の無い敬虔なキリスト教徒の娘に心中を理解することは出来なかったし、もとより脱走は不可能だった。
お互い父親のため、お家と藩のためとごまかしながら想いを伝え合うことなく、一家はオランダに帰国してしまう。

「それで、来世で会いましょうと」
「はた迷惑も良いとこっスよね、生まれ変わり信じてないなら止めとけよって話ッスよ」
「これがそれなりの男と女だったら少女マンガかSFなんだがなあ。
やっぱりいくら通詞に生まれ変わりを説かれても信じ切れなかったから、こんな野郎同士という中途半端な事態に陥ったのかもしれないな」
うっかり目でもあわせたらそれこそ猥褻物陳列罪を犯しそうな勢いなので、ベンチの端と端に座った喪男と青年は同時に深いため息を吐いた。
何らかの接触を行うと自動的にいちゃいちゃしてしまうとか何の罰ゲームだ。
こうやって全力で目を逸らして離れて会話しても、寄り添いたくなるなんて。

「じゃあ、俺もうこの公園近寄りませんから、サヨナラ」
「本当に済まないな、二度と会わないことを祈るよ」
いかにも冴えない男とキスしたり愛を確かめ合ったりしたことは、多感な年頃であろう青年には耐えられないことであったに違いない。
一定の回答が得られた以上用は無いとばかりに、青年は勢い良くベンチから立ち上がると一目散に走っていってしまった。
「なんだったんだ一体…、お、もうこんな時間か」
午後の始業の時間がすでに迫っていることに気付いた喪男は、今のは事故だ、夢だ、と自己暗示をかけながら職場へ戻っていった。

この後、運命のいたずらかはたまた前世の呪いか二人は幾度と無く再会し、あっという間に肉体関係まで出来てしまうことになるとは誰が予測出来たであろうか。

オマケ
「だって、体が勝手に動くんだぜー、どうしよーもねーじゃん、俺もう諦めたよー」
「諦めるのは早いと思うんだが…、私はどうしようもない人間だから良いんだが、君は所謂リア充じゃないか。
いっそ外人の彼女でも作って遠くに逃げろ」
「別にー、アンタいっつもそういうけど、おれはあんたのことどうしようもない奴だとは思ってねーし」