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君と会うのはいつも真夜中

草木も眠る何とやら、テレビの画面の向こうはやたらと騒がしい。
疲れた目に決して優しくない派手な色合いのセットの中で、あいつは一際大声を上げては周りの共演者にはたかれていた。

「俺、芸人になって、ゴールデンで冠持つのが夢なんだ」
高3の秋、図書館でせっせと勉強する俺の隣で、至って真面目な顔であいつはそう言った。
「東京行ってさ、休みなんてないくらいガンガン売れて、毎日テレビ出てさ、」
その夢物語には俺も登場するらしい。ある日一緒にコンビを組もうと誘われた。
「バカ言ってんなよ、俺は家継がなきゃいけないんだっつってんじゃん」

ひいじいちゃんの代から続いている医院を継ぐ事が、生まれた時から俺ら姉弟に決められた将来だった。
元々両親と反りの会わなかった年の離れた姉貴は、俺が小学生の時に外国人と結婚してそっちに移ってしまい、俺はそれから両親の期待を一身に受ける事になった。
幸い勉強も家業も嫌いじゃなかったから、親に勧められるまま大学受験をし、今は研修医として大学病院に勤めている。
夜勤の合間、休憩中に何となしに点けたテレビにあいつの姿を見つけたのは2ヶ月ほど前のことだった。

決してお笑いが嫌いだから、誘いを断ったのではなかった。
病院の息子と言ってもうちはそこまで躾が厳しかった訳ではなく、寧ろ家族揃ってテレビのお笑い番組を見るのが好きだった。
高校生の時も、あいつと一緒にバカばっかりやって、担任のマネをしたり2年の文化祭では漫才の真似事をしたりもした。身内ネタばっかりだったからかそこそこウケた。
見ている人が笑ってくれた、ということが気持ちよかった。
あいつはその時の気持ちよさが忘れられなかった。だからそれで食っていく道を選んだ。
その後の道が決まっていた俺にとって、それは一つの「思い出作り」でしかなかった。
あいつと俺は、考え方が全く違った。
卒業してからは何となく連絡が減っていき、成人する頃にはついに途絶えた。

全国ネットではないし、深夜の30分程の番組で、大勢芸人がいる中の1人。
だがあいつは、着々と夢に近付いているのだと思った。
古い小さなブラウン管に映る、あいつの表情は輝いていた。

もし、俺が医者の息子じゃなかったら、今あいつの隣にいるのは俺だったんだろうか。
姉貴が家を継いでいたら。俺がド文系の人間だったら。
そう考えかけて、やめた。
有り得ない話をして何になる。
あいつはあいつで夢に向かって邁進している。俺は俺で充分やりがいを感じている。
それでいいんだ。

白衣の胸ポケットでPHSが震える。お呼び出しだ。
まだまだ荒削りな感の否めないあいつの姿を眺めて、ゴールデンで姿を見るのはしばらく先だろうと思いながらテレビを消した。
直後暗くなった画面に映った自分を見て、どこか清々しい顔をしているのに気が付いた。