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阿蘇山×富士山

「お前はいいよな」
「なんだよ藪から棒に」
ベッドの中の富士はその端正な面立ちにいぶかしげな表情を浮かべ、傍らに身を横たえる阿蘇の投遣りにも聞こえる言葉に答える。
「日本一とかフジヤマとか、いろんな人に褒めそやされてさ」
「下らんさ、そんなもん」
「ふ~じはに~っぽんい~ち~の~やま~ってか、ハ!」
「変な歌歌うんじゃねえよ。第一それは俺の知らんところで誰かが勝手に作ったもんだ」
阿蘇の右手が富士の滑らかな山肌にそっと触れる」
「お前はさ、本当に美しいよ。同じ山の俺から見ても」
掌に伝わる富士のどこかひんやりとした、雪のような冷たさ。それは近づきがたさと汚れ無き様をその冷たさに合わせ含んでいるようで。

「本当に、きれいだ」
阿蘇の武骨な指が富士の脇腹をかるく弄る。
「まあこの傷はご愛嬌といったところかな」
日に焼けた武骨な指先が触れる富士の大沢崩れの痕。
「外見の話はよせ」
「それに引き換え俺ときたら」
阿蘇の顔に残る大きな傷跡が微かに歪む。彼の顔と身体に刻み付けられた遠い日の大噴火の印。
「よせと言っているだろう!」
阿蘇の腕を振り払うように、冷ややかなそしてどこか孤独な美貌を湛える彼は身を起こす。
「俺たちは同じ山なのにさ」
拗ねた口調が阿蘇の口から漏れる。冷めた口調で富士はそれに応える。
「同じ山、か」
「ああ、同じ山だ」
「同じ火山か」
「ああ、同じ火山だ」
富士のしなやかな指先が阿蘇の身体の傷跡に触れる。掌では覆い隠せぬその傷。
「俺もいつかはお前のようになれるかな」
阿蘇は訝りの視線を富士に向ける。
「俺みたいにって、どういうことだ」
「火山としてってことだよ」

富士の冷たい掌に阿蘇の体温が伝わる。二つの山の熱が、その傷とその傷を覆う掌の間で一つに融け始める。
「俺はお前が羨ましい」
「何をだ。何を羨むことがある」
ああそうだ。完全な美をその身に纏うお前がいったい何を羨むことがある。
「俺はこの身を吹き飛ばしたい。爆発させて全てを灰燼に帰してしまいたい。例えその結果世界がどうなろうとも」
「大噴火したいってことか」
「そうだ」
阿蘇の顔にふっと、どこか愉快げな笑みが浮かぶ。
「富士にそんなことされたら皆困るだろうな」
「ああ」
「空は灰に覆われ、世界はちょっとした天変地異だ」
「ああそうだな」
応える富士の顔にも柔らかな笑みが浮かぶ。
「破滅願望ってやつか」
「餓鬼みたいか」
「まあ、そうだな」

傷を覆う富士の手の甲を阿蘇は武骨な両掌で包む。繊細で滑らかな素肌の感触を彼は両掌の中に覚える。
「俺のような二目と見られぬ姿になりたいとは、奇特な奴だよお前は」
「そんなことはない。お前は立派な火山だ」
富士は端正な眼差しで阿蘇を見つめる。
「火山らしい、火山だ」
「お前だって、そうだろう」
阿蘇は傷の過る唇に微笑を浮かべる。
「そうなのかな」
「そうさ」
大きな傷の過る唇が、薄く形のいい唇に軽く触れる。
「噴火したいか」
「ああ」
「俺のようになってもか」
「ああ」
「どうなっても知らんぞ」
「ああ、それでいい」
傷と掌の間にあった熱が、二つの山の身体に広がり、燃える。