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アイス

「この手紙を読む頃には、もう僕はこの世にいないと思う」

冒頭からいきなりこんな調子で始まったあいつの手紙には、
俺と別れてからも俺のことが好きだったとか、
3年前に俺に隠れてホストの彼氏と付き合いだしたのは
身寄りがなくて学資の調達に困っている俺が
教授の推薦でイギリス留学するのに必要な金を
俺の代わりに用立てようとしたからだとか、
金さえ手に入れば俺のところに戻ってくるつもりだったとか、
これまで俺が知らなかったあいつの苦悩がいろいろ書いてあった。

バカヤロウ! なんでそんな大事なこと黙ってるんだよ!
それを知っていれば俺はお前の浮気を知ったときに
殴り倒して罵ったりはしなかったんだ!
お前が俺と一緒に暮らせないことに絶望して
教授が引き留めるのを断って大学を中退したり、
その後闇金融の取り立て屋という
極道まがいの仕事に就こうなんて思わなかったのに!

お前だけだったなぁ、俺を見て
「君を見てると、すごく気持ちが落ち着く。
 まるで君に守られているみたいな気がする」
なんて優しいことを言ってくれたのは。
他の奴は俺の顔を見ただけでみんな怖気づいて
俺に声をかけようともしなかったっけ。
おかげで仕事で延滞金の回収をするときには重宝がられているが、
それ以外はほとんど仕事が回ってこないんだぞ!
「お前がいると客がビビッて金を借りようとしない」ってな。

まるでこの状況は、いつだったかお前が貸してくれた
尾崎紅葉の「金色夜叉」のストーリーそのものじゃないか。
俺は取立て先に出向くときのスーツ姿のまま、
手紙を握ってあいつの住んでるアパートに向かって走り出した。
最近しつこく俺に付きまとっている
オカマショーパブのNo.1ダンサーが俺の後ろでなにか叫んでたが、
そんなの気にしてる余裕なんてなかった。

俺が悪かったよ。
「金に目がくらんであいつの愛人になったんだろう!」とか言って
嘲った俺が謝るから、どうか死ぬのだけは勘弁してくれ。
こんな大事なことを隠したままお前が死んだら、
俺はもう2度と立ち直れない。

──「アイス」とは何も関連性がないって?
そういえば尾崎紅葉先生はその著書の中で「美人の高利貸」のことを、
氷菓子になぞらえて「美人クリイム」(クリイムはアイスクリーム)と
表現してましたねぇ。お粗末。