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漢を目指す受とそれを必死で止める攻

『ボビーになってきます。2週間で帰ってきます。何も言わずにいなくなってゴメン』
いつも通りネギのささった買い物袋を提げ、合いカギを使い、上機嫌で部屋の扉を開けた俺を待っていたのは
誰もいない片づけられた部屋と一枚の簡単な書き置きだった。
「…は?」
俺の頭の中をあらゆるクエスチョンマークが埋め尽くす。
いやいやいやまてまてまてまて待ってくれ
ボビーになる?誰が?お前が?お前は生粋の日本人だろう?いやその前に人は他人になれるのか?2週間てなんだ?それって国籍変更の申請期間?というかこの部屋は?てかなんでお前いないの?なんでキレイなの??
しばらく呆然と立ちすくむ。どさりと買い物袋が崩れ落ちる音がした。その音で思考停止だった頭が再びフル回転し始める。そしてやっと、理解した。
「あ…のや、ろーーーーー!!!!!」
魂の限り雄たけびをあげると、ベランダに出て紐で縛られたチラシや雑誌をチェックする。あるだろうか。あった。
『君もボビーになろう!2週間の筋肉強化合宿!見違える体!!鍛えられた肉体美!!! 日時…場所…』
「畜生!」
急いで携帯を出して、アイツに連絡する。
俺に何も言わず、書き置きだけ残して消えたんだ。携帯なんて出ないだろうという気持ちはあったが、それでもかけずにはいられない。
『本物の漢(おとこ)ってやつになりたいんだ』
そういって、白く細い腕を自嘲気味にあげてみせたアイツが脳裏をよぎる。
『あぁ、そうだな。お前は漢ってやつを知らなさすぎるもんなぁ』
冗談交じりにそう返したのを覚えている。いや、しかしまさか、だからといって、こんなことになるとは。
「出ろよ…出ろよ…」
電源は切ってはいないようだ。プルルルルという電子音が耳に響く。繰り返す無機質な音を聞きながら、説得の台詞を必死に練った。
いいか、良く聞け。俺はお前のそのホワイトアスパラのような白さが好きなんだ。いや、ちがう。抱いた時の物質的な硬さが、いや駄目だ。
もやしのような…いやむしろこの表現は逆効果だ。思いつく台詞は全て酷い。まるで悪者。
俺が言いたいのはこんな事じゃない。こんな事じゃないんだ。
「…はい」
アイツの声が電話越しに聞こえた。まさか出るとは思わなかった分、不意をつかれて今まで頭に渦巻いていた台詞が全て吹っ飛ぶ。しかし時間は待ってくれない。
ごくりと唾を飲み込む。伝えられるだろうか。いや、伝えなければ。俺は、お前が、好きなんだ。
「あのな…」