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花嫁の父

今日、娘が嫁いだ。
妻を早くに亡くし、親子二人だけで過してきた家はとうとう私だけの家となってしまった。

小学校の時は真っ暗な家にいたくないと泣きながら会社に来た。
中学校になると部活があると言いながらも、私より早く帰って出迎えてくれた。
高校に入ったときは夕食の支度までして私の帰りを待っていてくれた。
大学は家から通える場所、と主張し、いつまでここにいる気だと笑いながら話した。

長いようで、あっという間だった。
白いドレスを見に纏った娘は美しく、妻の若い頃を彷彿させた。
目を瞑れば幸せになるから、と笑いながら泣いた娘の姿が浮かんでくる。

夫となる男はきっと娘を支えてくれる。
私はここで彼女たちの家庭を見守るだけだ。
もうするべきことはない。
正直、全力疾走でここまで来たことがたたってか、疲れがどっと来た。

このまま、妻の所に行くのも悪くはない。
ソファーに崩れ、意識を深いところまで落とそうとした。

「忠義さん?」

誰もいないこの家の中。私以外の声がした。
目を開けると、そこには見覚えのある青年が立っていた。

「君は……」

娘の夫の弟。確か大学生だと言っていた気がする。
一応、私の義理の息子ということになるだろうか。
何故彼がこんな所にいるのかわからず、不躾ながらジッと見ていた。

「呼び鈴を押しても反応がなかったので。勝手に入ってすいません」
「いや、大丈夫だよ。けど、どうしたんだい?」

彼との面識は数えるほどしかない。娘に何かを頼まれて来たのだとしたら、早く帰してやらないと可哀想だ。
が、彼の言葉は予想を反していた。

「忠義さんに会いに来たんです」

私に?

「兄さんと義姉さんが結婚するまで待ってました。初めて会ったときから、ずっと。
忠義さんが一人になるのを怖がっていたのがわかったから」

妻が先立ってから、私は一人を恐れた。
娘がいなくなったら。考えるだけで目の前が真っ暗になった。
今、その状況がまさに起こっている。

「だから来たんです。忠義さんのそばにいなきゃって。俺がいなきゃ駄目なんだ」
「どうして、君が……」
「同じ、だからかな」

『同じ』
彼もまた、誰かが離れ、自分一人取り残されたのだろう。それがなんなのか。聞かなくてもわかる。

「俺たちは同じなんです。だから、一緒にいましょう」

私は肯定も否定もせず、ただ彼を見つめていた。