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誇り

「何をする!」
荒っぽくベッドに突き飛ばされ、僕は怒鳴った。
「何をするって、あなたを抱くんですよ、鳳家のおぼっちゃま」
ネクタイを緩めながら、奴は言った。
「さっき、食べるためなら何でもすると言ったでしょう?約束は守っていただかなくては
困ります」
抱く?男の僕を男の奴が?
混乱する僕に構わず、奴は僕の上に覆いかぶさろうとした。
四つんばいになって慌てて逃れようとする僕を、奴は体を使って背中から押し潰すように
押さえつけた。
ベッドカバーと僕の体の間に押し込むように手を入れて、さっき着たばかりの風呂上りに
用意されていた新しいスラックスのベルトを外しにかかる。
「やめろ!やめろよ!!」
「大丈夫、痛くはしませんよ」
「やめろっつってんだろ!東山!!」
かつての学友であり、元・父の秘書、そして、父の死後に会社を乗っ取り、僕を無一文で
路頭に彷徨わせた張本人の名を、僕は呼んだ。
「まだ、立場がわかってないようだな?」
耳元で、奴は口調を変えて囁いた。
「お前は俺に買われた身なんだぞ? 快適な温度の部屋と、快適な湯温の風呂、新しい
上等な服、最上級の食事と交換に、お前は俺に生殺与奪の権利を売り渡したんだろうが」
「確かに、何でもすると言ったけど....」
段ボールの上に座っても染み渡るコンクリートの冷たさ、一週間着続けの服、ホームレス
と一緒に並んで得た炊き出しの食事、それらから逃れられるのなら、何だってできると思
ったけれど。
「僕にだってプライドがあるんだ!こんなこと我慢できない!」
「プライド?」
くくっと、奴は喉の奥で笑った。ゾッとするような響きだった。
僕のしていたベルトを抜き取ると奴は、僕の両腕を後ろにねじ上げベルトで縛り上げた。
僕の自由を奪うと、奴は体を離した。立場の差を僕に見せ付けるために、わざと立ち上
がり、僕を見下ろして言った。

プライドにはな、「自尊心」と「矜持」があるんだよ。
違いがわかるか?
自尊心には根拠は要らないんだ。甘やかされて育った坊ちゃんが、自分にはそれだけの
価値があると勝手に思いこんで持つことができるもの、それが自尊心。
矜持ってのはな、それを持つのに根拠が必要なんだよ。自分が過去にどれだけの努力
をしてきたか、どれだけのことを果たしてきたか、その積み重ねによって培われた自信と
いう根拠が。
お前のプライドはどうだ?お前は何をしてきた?
ただ、親の庇護の元ぬくぬくと暮してきただけじゃないか。学生の本分である学業もろく
にせず、スポーツに励むわけでもなく、ただ、偉そうに親の金をばら撒いて生きてきただ
けじゃないか。俺が、大学時代、何回お前のレポートを書かされたか覚えているか?31
回だよ。挙句、卒論まで書かせてくれたな。
お前は何も成してこなかった。何の努力もしてこなかった。
そんなお前の傲慢な自尊心を、お前を買った俺が何故配慮してやらなきゃいけないんだ?


酷薄な笑みを浮かべ、奴は近づいてきた。
スラックスと下着を一気に引き下ろし、背中にのしかかり、僕の耳元に囁いた。

「そんなプライド、ずたずたに引き裂いてやるよ、おぼっちゃま」