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天才×秀才

 いつも、何の気負いもなくあいつは踏み越えていくんだ。
 俺の一歩先を軽やかに。
 凡人の俺は、そんなあいつの背中ばかり見ている。
 悔しいけれど、どこかそんなあいつに憧れていた。

 そう、俺はきっと、あいつに、夢を見ているんだ。

 同じ学年、良く似た嗜好、共通の友人。重なり合う要因はいくつもある。最初はお互い友人を通してしかその存在を知らなかった。
 歩み寄ったのは一体、どちらからだったか。俺にしては、単に目につくライバルへの対抗心だった筈だが。
 いわば才能の違い。努力では埋められない格のようなものを見せ付けられて、ややもすれば劣等感に苛まれることが多かった。

「そんな風に自分を過小評価するの、お前の悪い癖だよ」
 俺の眉間の皺を伸ばすように、あいつの指先が額を擽る。
「僕なんかより、きっとお前の方が何倍も分かってるんだから」
 柔らかい微笑みを浮かべて。あいつは俺をいつも、甘やかすように。俺の欲しい言葉を何で、やすやすと並べてしまえるのだろう。
「僕はそんなお前が、羨ましいんだ」
 そんな風に、優しく微笑まないでくれ。

 たった数年の間、一緒に机を並べているだけ。何度かその存在を知る機会があっただけ。俺の前を走るあいつに追いすがるけれど、二人の距離は離れるばかり。
 なのに。
「どうして……」
 俺は呟く。とうとう最後の弱音を吐いてしまう。
「あんたは、俺なんか気にするんだ?」
 俺が一歩踏み出すなら、あいつはその三歩先を行く。そのくせ、思い出したように振り返り、俺を手招きする。
「何故って……そうだね。お前なら、いつか僕の隣に並んでくれるだろう?」
 孤高なあいつは、そう言って俺を、初めて急かして見せた。

 そうだね、きっと。肩を並べてみたいんだ。同じ空間に居るだけでなく、存在ごと、あいつに近づきたい。だから気持ちは逸るし、縮まない距離にいらいらして。
 そんな眉間の縦皺を、あいつはちゃんと分かってるから、優しく指先を伸ばし、からかうように額を小突いて。
 近寄りたいのは俺だけでなく、あいつも同じで。先頭を切って走るから、誰よりも鮮烈な向かい風を一身に受けているのだろう。
 たまに振り返り、俺を急かすのは、たぶんそんな風を共に分かち合いたいと思っているから。

 その日、俺は初めてあいつに手を伸ばした。俺の孤独なヒーローの、その温もりを確かめるために。あいつは笑って指を絡ませる。優しく、引き寄せられるままに抱きしめあう。
 二人なら向かい風も、少しは和らぐだろうか。そんな胸のうちを知っているかのように、あいつの腕は力強く俺を抱いて、離さなかった。