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追伸 好きでした


「前略 お元気ですか」

そんな一文から始まる手紙が俺に届いたのはGWを目前に控えた週末のこと。
細いペン字は書いた人間通りに角ばって、ちょっと左上がりの癖がある。
2年ぶりに見る字は相変わらず綺麗だ。

「君はどう過ごしていますか。堕落などしていませんか。
僕が居なくても大丈夫と言ったのは君のほうですが、以来何の連絡もしなかった僕は少々意地が悪いのではないかと最近思うようになりました。
元気でなくとも良いのです。君が君であれば良いと思っています。」

薄墨で引いたような色の文字に、同じく淡々とした文章が続く。
大学進学を機に離れた幼馴染は相も変わらず年相応のことを言いはしない。
きっと俺と違って変わりもせず、変わりものでいるのだろう。
ぼんやりとだけ思い出せる、メタルフレームの似合うあいつの横顔を思い出しながら便箋を捲る。

「先日、君が好きだと言っていた曲を聴きました。
失恋した者は南をめざし光を得ろ、と歌う曲に倣って君は南の大学へ進んだのではないかと疑っています。
卒業の半年前にふらりと一週間放浪した君を、その表情を、僕は憶えています。
僕が好きな本を君に話したことがありますね。
憶えていずとも結構です。ただ僕はその本を胸に北へ行く決意をしました。
北へ向かうことに何の意味があったのか、僕は未だ知れずにいます。
君は南で光を見付けましたか。」

それだけで手紙は終わった。
北の国立大へ余裕で合格したあいつが言うことは、今日も小難しい。
ギリギリで南の私立大に引っかかった程度の俺には訳が分からない。
あいつの字はあいつと同じで細くて、俺のごつごつした指よりも小さい。
俺が絶望した一週間は、あいつへの恋心で始まって、それを断つことで終わった。
本が好きだったあいつはいつも何か文庫本を持っていた。
題名を聞いたこともあったけれど、俺はそれを覚えていることはできなくて、けれどそんな俺を責めない言葉に救われる。
本当は救ってほしいんじゃなくて、愛してほしい。
俺の光は北に行ったのだと、告げれたなら幸せになれるんだろうか。
そもそも、この手紙は一体なんなのか。
あいつのことだから、大した意味など無いと眼鏡の奥の瞳を細めて笑うだけなのか。

手紙を畳んで仕舞おうと、封筒を開いたとき、それは目に入った。
内側に常より薄く細い文字が7つ、几帳面なあいつにしては珍しくずれて記されている。
手が止まり、心臓が止まったかと思ったくらいの時間。
光は遠ざかる、時間は進む、俺は立ち止まったまま、あいつに恋をしたまま。
踏み出すための一歩も、友達に戻る一歩も、果てもないほど遠い。
遠い遠い恋の決断を、一秒後に俺は下す。